銀騎士と……   作:ダルジャン

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銀騎士とあか その1:『あかの館』

 

こつりこつりと、ローマの町を歩く黒い影。

その周りでは、『魂』が入れ替わったことによる狂乱が起こっていた。

人の魂の入った亀が、叫ぶ。いっそ泣き出しそうな声で。

あの影の本来の力は精神を入れ替え、さらなる生物へと進化させることだ、と。

地球上の生物の歴史を、全て変えてしまう、おぞましい所業。

 

「……やはり、許されないことですよね、これは」

幻想郷の閻魔、四季映姫がそう呟くと同時に、鏡に映っていたその光景は消える。

代わりに映し出されるのは、つい先日、妖精を追い回していたチャリオッツの姿だ。

弾幕ルールに従わず、ただ、守るべきものにだけ固執していた。

「これは些細ではあっても、暴走なんですよね」

はぁ、とため息を吐き、彼女は頭を抱え独りごちる。

「彼は……想いが強すぎて、脆すぎる」

映姫は考える。精神の具現であるスタンド。その活動には絶対のルールがある。

それ即ち、己の半身、スタンド使いの意志により動く、ということ。

自律型スタンドであっても、その活動は本体の意志に従う。

本体の意志に逆らった行動をする場合、スタンドは暴走しているということである。

今、シルバーチャリオッツは非常に稀な事情により、

擬似的に自律型スタンドと化している。

加えて、彼の自我は未熟であり、それ故に一つ思い込むとそれ以外目に入らない。

いわば、非常に暴走しやすい状態になっているのだ。

「今の所は問題ありませんが……もし、この件が本当なら」

かさり、と手元にある一枚の書類を握り締める。

こんこん、と執務室のドアがノックされた。

「入りなさい」

「失礼します」

姿を現したのは、黒ずくめの格好をした一人の男性だった。

その後ろから、小町が連れ立ってきている。

「失礼します。映姫様。私とリゾットをお呼びだと聴きましたが」

顔にいくらか冷や汗を浮かべながら、小町が尋ねる。

さてはまた後ろ暗いところがあるな、とちらりと思いながら、二人に告げる。

「ええ。……二人とも、実は早急にやってもらいたい任務があるのです。

 一つは、白玉楼への言伝を頼みたいのです」

「白玉楼……冥界、ですね」

リゾットと呼ばれた男が、確認のために問いかける。

「はい、冥界にある屋敷です。それから、もう一つは……」

二つの任務と言伝を聞くと、二人は連れ立って部屋を出た。

小町の距離を操る能力があれば、恐らく短時間で辿り着けるだろう。

それでも、映姫は嫌な予感が拭えないままだ。

強く握り締めたため脂汗が滲んだ書類。

それには、別の地獄で裁きを受けていた魂がいなくなったこと、

その魂が幻想郷のとある場所で見つかった、という報告が記されていた。

 

「あーあー、全く騒ぐだけ騒いで……」

その少し前の白玉楼。妖夢は、ぐちぐちと文句を言いながら庭を掃いていた。

昨夜、どこぞの白黒魔女と紅白巫女が冥界まで涼みにやってきてて、

酒を酌み交わしてどんちゃん騒ぎをし、うっかり弾幕ごっこに発展したりした後、

へべれけになって帰っていったのだ。

今は、その弾幕ごっこで荒れ果てた庭の後片付けをしているところである。

シルバーチャリオッツも、箒を持って少し離れた所を掃いていた。

「冥界に現世の人間がほいほい遊びに来るなってアレほど言ってるのに……ん?」

愚痴をこぼしていた妖夢は、ふと庭に落ちていた品に気づいた。

「何これ……本?」

拾い上げ、ぱんぱんと汚れをはたく。

表紙は何処かエキゾチックな模様が入っており、

幻想郷のものではなさそうだという印象を受けた。

ぱらぱらと中を捲ってみるが、ミミズののたくったような字でさっぱり読めない。

遠目からその行動を見ていたチャリオッツは、何事かと寄ってきた。

「ああ、チャリオッツ。これ、読めます?」

妖夢に差し出された本の中身に目を通す。

所々、見覚えがあるような気がする。この文字は、記憶にはある。

けれど自分は読めない。この手の文字はいつも『彼』が読んでくれていたから。

砂塵の舞う国で、よく見かけた文字と、その意味を教えてくれた『彼』。

思い出せば、ちりり、と胸が痛む。

「って、読めた所でどうしようもないですよねえ。

 うーん、多分あの魔女の忘れ物でしょうか、あ、でも外の本ってことは」

「紅魔館の魔女の本じゃあないかしら」

「う、うわっ! 幽々子様! 驚かさないでくださいよ!」

いつの間にか後ろに立っていた主に、びっくりして飛びのく。

「あー、妖夢。これ紅魔館までちょっと返してきなさいよ」

事も無げに幽々子は言い放つ。

「えー? 何でですかー」

「このまま持ってたら魔理沙の泥棒の片棒をかつぐみたいでいやじゃない。

 ちょっとチャリオッツ連れて散歩代わりに行ってきなさいよ」

扇でぺしぺしと頭を叩く。

「はぁ……、はいはい、分かりました分かりました。

 それじゃあ、ちょっと行ってきます。行きましょ、チャリオッツ」

「はぁい、行ってらっしゃあい」

幽々子は、それをにこにこと笑いながら見送った。

二人の背を見送った後で、部屋に戻る。

うるさいのいなくなったし、さてもう一眠り、と呟きながら。

 

散歩代わり、とはいうものの紅魔館までは結構な距離がある。

「そういえば、チャリオッツはこっちの方へ来るのは初めてでしたね」

妖夢はなんとはなしにそう呟く。

今まで、シルバーチャリオッツを連れて何度か人里へは訪れた。

最初は不気味がられたものの、今では子供たちによく懐かれている。

西洋風の姿をした彼が物珍しいからだろう。

チャリオッツも、子供の相手をするのはそんなに嫌いではないようだ。

特に幼い少女相手には、何処か優しげな目をしている。

今はどんな顔をしてるんだろう、と思って彼を見上げて、む?と首を傾げた。

「……チャリオッツ? どうかしたんですか?」

シルバーチャリオッツは、右の首筋の辺りをがりがりと掻いていた。

「虫にでも刺されたんですか? 帰り際に、人里で薬を買いましょうか。

 ってあれ? あなたに薬効くんですかね?」

うむむ、と眉をひそめながら、妖夢は歩いていく。

シルバーチャリオッツは、首筋に違和感を感じながらも、それに続く。

じくじくと、その部分が熱を持ったかのような感覚があった。

「あー。そういえば、紅魔館ってどんなとこか言ってませんでしたよね。

 えーっと、紅魔館は吸血鬼が住む館です」

何の気はなしに、妖夢はそう告げた。

がしゃん、と音を立てて彼の動きが止まる。

吸血鬼の住む館、そう聞いた途端、体が震えた。右の首筋が、酷く痛む。

咄嗟に、妖夢の手を握り締める。

「あれ、もしかして吸血鬼が怖いんですか?

 大丈夫ですよ私よりも幼い女の子の姿をしてますから。

 それに、いざとなったら私が守ってあげますよ!」

怖がってる彼が珍しくて、ついおかしくなって彼女は笑って胸を張る。

それが、怖いのだ。守られるのが、怖いのだ。

彼のそんな思いが伝わることはない。

「ほらほら、早く行ってとっとと帰りましょう、チャリオッツ!」

ぐいぐいと彼の手を引いて、彼女は進む。

その手の力強さに思う。怖いことなどないか、と。

もし怖いものが待つのであれば、自分が、彼女を守ればいい。

今度こそ、守るのだ、と。

 

「ごめんくださーい」

場面は再び白玉楼。小町は間延びした声をあげる。

「……っかしいなあ、留守のはずはないんだけど。

 いつもなら庭師が出てくるはずなんだがなあ……」

ぼりぼりと頭を掻いて怪訝そうにしていると。

「ふぁあーい……」

ようやく、奥から眠たげな声が返ってきた。

のそのそと、あくびをしながら幽々子が玄関へ顔を出す。

見慣れた女性死神以外の男性死神の姿を見て、少し慌てた様子だ。

「あら、嫌だ。殿方がいるなら先に言ってちょうだいな」

寝乱れた胸元を整えながらオホホと笑う。

「始めまして。分け合って死神をしているリゾット・ネェロだ。

 それで、今日は閻魔様から言伝を預かってきている」

「言伝……?」

「ああ。ここで世話になっているスタンドのことだ」

その言葉に、寝ぼけていた幽々子の顔がキリ、としまる。

「シルバーチャリオッツのこと? まさか、彼の半身がこちらへ?」

「いや、そうじゃあない」

男はふるふると首を横に振った。

「あいつを、決して紅魔館へやるな、って言伝さ。

 何しろ、あいつの因縁の相手が二人もあそこにいるらしくってね」

「紅魔館へ?」

普段からあまりよくない幽々子の顔色が、サーっと白くなる。

異変に気がついたらしいリゾットが問う。

「まさか、とは思うが、シルバーチャリオッツとやらは今ここにいなくて、

 なおかつ紅魔館へ行っている、というのではないだろうな」

びくり、と幽々子が身を震わせる。

「そ、その、まさかなのよ……」

「ええええ?!」

小町が驚きのあまり素っ頓狂な声をあげた。

「非常にまずいようだな。小町、すぐそいつらを追おう。

 お前の能力があれば追いつけるだろう」

「あ、そ、そうだね!」

小町とリゾットは、慌てて階段を降りて行く。

「映姫様に連絡を……」

「いや、そんな暇はない気がする」

小町の言葉をリゾットは遮る。

「嫌な予感がするんだ……俺のこういう勘は無駄に当たる」

「分かった、とにかく、急ごう!」

 

「ほら見えてきました。あれが紅魔館です」

湖の側を歩いていた妖夢は、その館を指し示した。

日本風の建物が多い幻想郷からはひどく浮いた西洋風の佇まいだ。

その言葉を、シルバーチャリオッツは半分聞き流していた。

意図して聞いていないのではない。先ほどから、ずっと右の首筋が痛むのだ。

この痛みを伝える術もないし、痛む理由も分からない。

そんな状況でおかしな行動をして、彼女を不安がらせたくない。

だからその痛みに耐えねばならない。故に彼女の言葉を聞く余裕がない。

「あら? 冥界の幽霊さんじゃないですかー今日はどんな用ですか?」

門まで辿り着くと、緑の服と帽子をまとった赤い髪の女性が話しかけてきた。

その帽子に星のマークがあるのを見て、シルバーチャリオッツの気が僅かに和らぐ。

星のマークは、彼にどこか安心を与える感じがあった。

「こんにちは。えっと、どこぞの魔女が落としていった本なんだけど、

 多分ここのじゃないかって思って届けに」

「あーはいはい、分かりましたー」

妖夢と門番が話している間、シルバーチャリオッツは館を見た。

ヨーロッパ風の建築。真っ赤な屋根が印象的だ。

一番目を引くのは大きな時計のはまった時計塔だろうか。

窓が少ないのは、日光を苦手とする吸血鬼がいるからか。

そう考えながら、数少ない窓の内一つに、目をやった瞬間。

びくん、と震えて右手にサーベルを具現させた。

「え、ど、どうしたんですかチャリオッツ?」

「うわわ、びっくりした。変わったもの連れてますねえ」

チャリオッツがいきなり剣を出したのに驚く妖夢。

門番――彼女の名は、紅美鈴という――は、改めてシルバーチャリオッツを見る。

「うーん、この気は『波紋』に似てるなあ」

「はもん?」

聞きなれない言葉に妖夢は首を傾げる。

「えーっと、外の世界の気の使い方の一つです。

 吸血鬼やゾンビを倒すためや、怪我の治療に使うみたいですよ」

「そんな力があるのか……そういえば、気は生命のエネルギー。

 そして、シルバーチャリオッツは生命エネルギーの像。似てるのかもしれませんね」

一人でうんうんと納得しかけたが、また訝しげな顔になる。

「でも、なんでいきなり剣を出したんでしょう?」

「結構腕が立つみたいですし、強者の気でも見えたとか?」

最近は主の妹もよく館をうろついているし、と美鈴は言う。

「あ、まあとにかく中に入ってくださいよ。私こっから離れられないんで、

 直接本は届けてください。場所は中で咲夜さんにでも聞いてくださいねー」

「了解。さ、物騒なものはしまってください、いきますよ、チャリオッツ」

妖夢の言葉に、チャリオッツは慌ててその後を追う。

しかし、一瞬足を止め、先ほど何かが見えた窓を見、また歩き出す。

彼の視線が絶えた後で、その窓の部分にぼうっと人影が浮かんだ。

紫色の髪をした少年の亡霊が、彼を見下ろす。

「アレ……どっかで見たような……?」

少年の亡霊は悩む。

「うーん、思い出せないなあ。そもそも、ボクはなんでこの館に……?」

生前の記憶無くした彼は、それを取り戻す手がかりを求め、

再び館の中を徘徊し始めることにした……。

 

「あら? 冥府の庭師さんが何の用かしら」

館の中を歩いていた妖夢とチャリオッツは、一人の女性に遭遇した。

紅魔館のメイド、十六夜咲夜である。

「こんばんは。こちらの魔女さんに届け物に来ました」

手元にある本を彼女に見せると、眉をしかめた。

「ああ……、これ、あいつの本ですね」

嫌なことでも思い出したのか、ため息をついた。

「あいつ?」

「お嬢様の客人でしてね。地獄から運命いじくって連れてきたとか」

そう言うと横に立っていたシルバーチャリオッツに目をやる。

「そいつみたいな不思議な使い魔? みたいなもんを連れてるんです」

「へえー……」

「手が塞がってるから、本持ってついてきてください」

成る程、彼女の手には紅茶の入った盆が握られている。

「はーい。ほら、行きましょチャリオッツ……チャリオッツ?」

呼びかけられて、彼ははっとする。

意識の大半を首筋の痛みに持っていかれかけていた。

「ここの妖気にでもあてられましたか? 早く終わらせて帰りましょう」

そう言って妖夢がどんどん先へ進むものだから、彼は後を追わざるを得ない。

もしここでこの痛みから逃げて、守れなくなったら、後悔してしまうから。

 

 

「ああそうそう、足元とか上とか注意してくださいね。

 フラン様の新しいおもちゃが落ちてたり落ちてきたりするかもしれませんから」

「どういうこと?」

「そっちもお嬢様が運命をいじくって連れてきたんですよ。

 何でも、死んでも死んでも死という真実に到達しない、って言ってましたね。

 壊れてもすぐ館のどこかに再生するんです。いいおもちゃですよ」

少女二人はそんな会話を交わしながら歩く。

シルバーチャリオッツは右手に剣を持ち、左手で首を抑えながらその後を追う。

その首に浮かんだ矢の形のアザにの周辺には、小さなヒビが入っている。

ヒビの中からは、コールタールのように真っ黒なオーラがうっすら滲み出ている。

だが、それに気がつくものは誰もいない。

この館に入ってからの身の痛みにシルバーチャリオッツは困惑していた。

これは肉体的な痛みではない。精神的な痛みだ。

ここに近づくたびに濃くなる気配。ずっと以前に感じたことがある。

出来るなら、二度と感じたくないの気配であった。

そんなはずはない、と自身に言い聞かせる。

あいつらは死んだはずだ、きっと、必ず、絶対。

死ぬところをその目で見たわけではないけれど、もういないはずだ。

だって、そうでなければ、自分は、彼は、何のために、戦って。

ぐるぐると思考が落ち込んでいくたび、ヒビが少しずつ深くなっていく。

そのことに、誰も気がつくことはない。

ただただ、長い廊下を歩いていく。

 

 

「ここが図書館よ」

がちゃり、と咲夜が古びた扉を開く。古びた本の独特の匂いが鼻をついた。

「えーっと、それで持ち主はどこに?」

「こちらに椅子とテーブルがありますから、恐らくそこですわ」

咲夜と妖夢は並んで歩く。その後をシルバーチャリオッツが追う。

嫌な気配が濃くなるばかり。そんなはずがないのに、と必死に言い聞かせる。

 

――ああそうだ、気のせいだ、気のせいのはずだ――

 

――そのはず、なのに、あの、黄金色、は――

 

シルバーチャリオッツの動きが止まる。

「あら? 冥界の庭師? どうしたのこんなところへ」

「どこぞの白黒魔女が盗んだ本を届けに」

「まあそれはご丁寧に。ほら、あんたも礼を言いなさいよ。

 あれってあんたの本でしょ? 外の世界の宗教の本だっけ」

紫の髪をした少女が、向かいに座っていた男に声をかける。

妙な持ち方で本を読んでいた男が、顔を上げた。

それとほぼ同時に、どさり、と音がする。

ボロボロになった男が何処からともなく落ちてきた。

赤みがかった髪には緑の斑模様。

上半身にまとっているのは、服なのか網なのか良く分からない代物である

「いたたた……くそ、何故俺がこんな目に」

「ひっ!」

死んでいるかと思った男がいきなり起き上がって、妖夢は思わずのけぞる。

「あんたねえ、もう少しフランとの付き合い方を考えなさいよ」

紫の髪の少女――名をパチュリー・ノーレッジ――は呆れたように彼に告げる。

黄金の髪の男は、名をDIO。神の名を持つ吸血鬼。

赤みがかった髪の男は、名をディアボロ。悪魔の名を持つギャングのボス(元)。

二人は、『彼』を知っていた。だから、呼んでしまった、その名前を。

「「シルバー……チャリオッツ?」」

「え、あなたたち、チャリオッツのことを知って……」

シルバーチャリオッツの思考が一気に悲鳴を上げる。

 

――何故ここにいる。何故ここにいる。何故ここにいる――

 

――『彼』を殺した奴、『彼』を殺した奴、守りたいものを壊した奴ら――

 

――ああ、ああああ、ああああああああ!!――

 

――守らなきゃ、守らなきゃ、守らなきゃ、守らなきゃ!!――

 

「チャリオッツ? どうしたんですか、チャリオッツ、チャリオッツ!」

妖夢は彼が身を震わせ出したのに気づいて、必死で彼の名前を呼んだ。

肩のアザの周りが大きくひび割れ、そこからどろりとした黒い何かが噴出した。

それは彼の身を覆い尽くしていく。

 

――守る、守る、守る、守る、守る――

 

青い右目は狂気に染まりながら、それでも妖夢を見据える。

守るべきものが、そこにある。討つべき敵が、そこにいる。

この力では足りない、このままでは、守れない。

だから彼は、己の身を変えていく。その身に残っていた『矢』の力を使って。

 

――変わらねば、変えねば、何も守れない!!――

 

「しまった、遅かったのか!?」

「ああもう、何が起きてるんだい!」

ようやく追いついてきたリゾットと小町もその情景に焦ったような声を上げる。

「ま、まずい! これは、あの時の!!」

その現象の正体に気づいたらしいディアボロは逃げようとする。

だが、体から力が抜けていく。それは彼にだけ起きた現象ではない。

「何これ、体の力が……」

皆がゆっくりと地に伏し、目蓋を閉じていく。

「これは……あなた、が……?」

シルバーチャリオッツに……あるいは、彼で『あった』何かに問いかけながら、

妖夢もゆっくりと目蓋を閉じた。

身を黒く染めた彼に、その言葉は届かない。

彼は、ゆっくりと歩き出し始める。

ただ、『守る』のだと。そのために『かえる』のだ、と。

その姿は、それは、不器用で一途な想いが成れの果て。

それは、不器用なたった一つの誓いを果たせなかったが故の、変貌。

名を、『チャリオッツレクイエム』

 

銀騎士とあか その1『あくまとかみのすむ館』

 

 

 


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