レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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7・吸魂鬼(ディメンター)

しばらくして、列車が急に速度を落とし始めた。

まだ着かないはずだと、ハーマイオニーが時計を見て言う。

窓の外は真っ暗で、風が強く雨も激しく、まるで台風のようだ。

やがて、汽車は完全に止まった。

 

突然明かりが消え、室内は真っ暗になってしまった。

「一体何が起こったんだ?」

「イタッ!」

「今の私の脚だったのよ!」

ロンがハーマイオニーの脚にぶつかったらしい。

ロンが曇った窓ガラスを拭き、外の様子をうかがう。

「なんかあっちで動いてる。誰か乗り込んでくるみたいだ」

 

その時、誰かが客室に入ってきた。

どうやらネビルという名前の男の子で、ハリー達の知り合いらしいけど、顔はよく見えない。

真っ暗なせいで、今、何がどうなっているのか、さっぱりわからない。

「そうだ、梟達に聞いてみよう!梟は暗いところでも、目がよく見える」

 

「レイ、梟に聞くって、どうやって?」

ロンが言った。

「そうか、その手があった」

ハリーの声がした。

「レイ。もしかして『鳥語聞き』なの?」

ハーマイオニーが言った。

「うん、そうだよ。とにかく、聞いてみる」

 

私は、キラキラ光る4つの目を見て尋ねた。

「ヒキャク、ヘドウィグ、どう? 何か見える?」

【よ~わからんけど、向こうから女の子が来よる】

【あれはジニーよ】

ヘドウィグが言ったと同時に、ジニーが入ってきた。

 

「ジニー、大丈夫?」

「その声は、レイ?」

「入って、ここに座れよ…」

「ここじゃないよ! ここには僕がいるんだ!」

「アイタッ!」

暗いから大混乱だ。

しかも9月なのに、なんだか寒気がしてきた。

なんだかものすごく嫌な予感がする。

父さんを起こさないとヤバイ。

 

「起きて! 起きて下さい、父さ・・じゃなかった、ルーピン先生!!」

かなり乱暴に揺さぶると、やっと父さんは目を覚ました。

 

「静かに!」

寝起きでかすれ気味だったけど、父さんの声は不思議とよく響く。

みんながピタッと動きを止めた。

そして、父さんは手のひらに灯りの炎を持って立ち上がり、鋭い目つきで辺りを警戒した。

「動かないで」

 

その時、客室のドアがスーッと開いた。

 

寒気が激しくなり、一気に全身にザワザワと鳥肌が立った。

手足の先から凍りついていくような気がした。

 

そこに立っていたのは、黒い長いマントを着た影のようなモノ。

マントから伸びる手は蝋のように白くて、かさぶただらけだ。

これって、まさか吸魂鬼(ディメンター)!?

 

吸魂鬼は、ガラガラと空気を吸い込むような音をたてながら、客室内をぐるりと見渡した。

ハリーが突然、硬直して席から転がり落ちる。

「「「は、ハリー!!?」」」

私、ロン、ハーマイオニーの声が重なった。

 

父さんが杖を取り出し、倒れたハリーを跨いで、吸魂鬼に向かう。

そして、鋭く言い放った。

「シリウス・ブラックをマントの下に匿っている者は誰もいない。去れ」

けど、吸魂鬼は動かなかったので、父さんは杖を吸魂鬼に向け、呪文を唱えた。

 

「Expecto patronum!」

杖から発射された銀色の物体が吸魂鬼を攻撃する。

やがて、吸魂鬼はスーッといなくなった。

 

間もなくハリーが目を覚ました。

父さんが、トランクから巨大な板チョコを取り出して割り始めた。

そして一番大きな欠片をハリーに渡し、私を含めた客室内のみんなにもチョコレートを配る。

 

父さんは今起こったことをみんなに説明した。

やっぱり、今のはアズカバンの看守、吸魂鬼だった。

きっと、逃げたシリウス・ブラックを追ってきたんだ。

 

父さんはハリーにチョコを食べるように言って、運転手と話す為に客室を出た。

とりあえず、私はもらったチョコをかじると、体が温まってきた。

 

しばらくして、父さんが戻ってきたけど、私以外誰もチョコを食べていなかった。

見かねた父さんが、ふっと笑う。

「おやおや、チョコレートに毒なんか入れてないよ……」

 

父さんのセリフに、思わず私は笑った。

「ふふっ、ハリー、食べないんだったら、私がチョコもらうよ?」

すると、ロンからツッコミが来た。

「おいおい。レイはさっき食べてただろ?」

「あ、バレた?」

私がペロッと舌を出すと、客室が爆笑に包まれた。

 

「イッチ年生は、こっちだ!」

汽車を降りると、巨大な男が1年生を誘導していた。

ホグワーツの森番、ルビウス・ハグリッドだ。

父さんの昔のアルバムで、写真を見たことがある。

 

私達は湖とは逆の馬車道へと向かう。

そこには、100台ぐらいの馬車が止まっていたんだけど、引いている馬を見てゾッとした。

それはただの馬じゃなくて、ツヤのある巨大な翼を持ち、真っ黒い骨と皮だけのような姿だった。

目は白く濁り、どこを見ているのかわからない。

 

「レイ、馬車がどうかしたの?」

ハーマイオニーに尋ねられ、我に返る。

え、ハーマイオニーには、あの変な馬みたいな生物が見えないの?

 

すると、父さんが一緒に乗ろうと声をかけてきた。

父さんと私が乗り込むと、馬車の扉が自動で閉まり、動き出した。

 

父さんがホグワーツ急行に乗っていたのは、やはりシリウス・ブラック対策だったらしい。

ちなみにあのトランクには、ロンドンで仕入れた教材などが入っているそうだ。

 

「伶、大丈夫だったかい? ダンブルドアは、ホグワーツの警備の為に吸魂鬼を受け入れた。だから、万が一に備え、チョコレートを準備していた。さすがに、吸魂鬼が列車に乗り込んで来たのは、予想外だったが」

「大丈夫、私は寒気がしただけ。でも、ハリーが心配だよ。倒れてたし」

「伶、いつの間に、ハリーと仲良くなったんだい?」

「漏れ鍋で一緒だったんだ。ハリーって、本当にジェームズさんにそっくりだね」

すると、父さんは昔を懐かしむように、ゆっくりうなずいた。

 

「ホグワーツに着いたら、まずダンブルドア先生に吸魂鬼の件を報告をしなければ。あと、組み分けの説明もあるから、伶も一緒に来なさい」

「うん、わかった。ところで、この馬車を引いているのは何?」

「セストラルだ。そうか……伶なら、見えても不思議じゃないね」

 

セストラルは人が亡くなる瞬間を見て、かつその死を実感した者にしか見えないらしい。

私は3年前、お祖母ちゃんが胃ガンで亡くなる時に立ち会っていたから見えたのか。

 

「伶、見てごらん。あれがホグワーツだよ」

父さんが指差す方向に、巨大な建物が見えてきた。

テンションが上がってきたけど、それに水を差すように、門には吸魂鬼が立っていた。

 

ふと父さんがポケットから何かを取り出した。

「そうだ、伶。君にこれを渡しておこう」

渡されたのは古びた鍵だった。

「僕の部屋の合鍵だ。失くさないように気をつけて。用があったら、遠慮なく訪ねてくるといい」


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