レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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5・3人組登場

漏れ鍋に戻ると、トムがグラスを磨きながら迎える。

「キサラギ様。荷物は部屋に運んでおります。早いですが、夕食にしましょう」

そう言って、トムはローストビーフを出してくれた。

こんがり焼けた肉が、とてもおいしい。

 

食事をしていると裏庭の方から、私と同じぐらいの歳の少年が店内へ入ってきた。

身長は私よりも少し低いようだ。

クシャクシャの黒髪に丸メガネ、そして緑の目、この顔はまさか!?

「おや、ポッター様。お帰りなさいませ。夕食はローストビーフですよ」

トムが少年に挨拶をして、夕食の準備をする。

 

やっぱり、ハリー・ポッターで間違いない。

父さんの学生時代のアルバムにあった、ジェームズ・ポッターさんの写真にそっくりだ。

 

「ねえ、よかったら、一緒に食べない?」

声を掛けると、彼はぎこちなく私を見た。

「私は如月伶。あ、苗字は『如月』だよ。日本の魔法学校から、今度ホグワーツの3年生に編入するんだ。伶って呼んでね」

 

私が自己紹介すると、やっとハリー・ポッターの表情が柔らかくなった。

「ハリー・ポッターだよ。ハリーでいいよ。君も3年生になるんだね。よろしく」

 

それから、私とハリーはいろんな話をした。

ハリーの寮はグリフィンドールだってこと。

クィディッチでシーカーをやっていること。

マグルの親戚に育てられていること。

ご両親の悪口を言われて頭にきて、親戚のおばさんを風船のように膨らませてしまったこと。

その事件がきっかけで、家出したこと。

 

私も日本の学校やクィディッチのことを話した。

ハリーとは初対面だったけど、話が弾んですっかり仲良くなった。

 

翌朝、早く目が覚めた私は、買った教科書をパラパラ眺めていた。

文章はもちろん英語だらけだ。

それを見て、いよいよホグワーツに編入する実感が湧いてきた。

授業の科目や進度は、青龍学院とだいたい同じだ。

けど、英語と陰陽道・呪術の授業がない……。

って、ここはイギリスだから当たり前か。

見た感じ、魔法薬学だけはかなり進んでいるようだけど、魔法薬は得意だから平気だ。

 

あと、ハリーはヘドウィグという真っ白な梟を飼っていて、私は彼女とも仲良くなった。

むしろ、うちのヒキャクの方がヘドウィグを気に入ったらしい。

ハリーは、私が鳥語聞きと知って驚いていたけど、ハリーの方がよっぽどスゴかった。

パーセルマウスなんて、レア過ぎる!!

 

それからの私は、連日ハリーとダイアゴン横丁を歩いてまわった。

気になったのは、超高級競技用箒ファイアボルトだ。

10秒で時速240kmまで加速っていうのが、スゴい。

日本のマグルの超特急・新幹線と、ほぼ同じ速さだ!

一度でいいから、乗ってみたい。

けど、「価格はお問い合わせ下さい」って、一体いくら出せば買えるんだろう?

 

 

新学期が近づくにつれ、横丁はたくさん買い物客が来るようになっていった。

どうやら、ハリーはその中に、親友2人がいないか探していたようだったけど、見つからないみたいだった。

 

そして、新学期まであと1日となった日。

ついにハリーは2人を、フローリアン・フォーテスキューのアイスクリーム店で見つけた。

 

燃えるような赤毛のひょろ長い少年と、小麦色に日焼けした前歯がちょっと大きい栗毛の少女。

ハリーがやっと会えたと嬉しそうに2人に駆け寄り、私を紹介してくれた。

 

赤毛の彼はロナルド・ウィーズリー、通称ロン。

お父さんがイギリス魔法省に務めているらしく、ハリーが親戚のおばさんを膨らませて家出したことは聞いたらしい。

 

栗毛の彼女はハーマイオニー・グレンジャー。

学年トップの秀才らしい。

両親はマグルで、歯科医なんだとか。

 

2人とも3年生で、グリフィンドールだそうだ。

 

私が自己紹介すると、ハーマイオニーが早速質問してきた。

「ところで、レイ。日本人は、みんな黒髪だって聞くけど、あなたは鳶色なのね?」

「父さんがイギリス人で、死んだ母さんが日本人なんだ。髪の色は父さん譲りだよ。ついでに言うと、2人ともホグワーツのグリフィンドール出身で、ハリーのご両親と同級生だったんだ」

「へえっ、じゃあ、レイのパパとママって、僕らの先輩なんだ!」

ロンが嬉しそうに言った。

 

それから私達は、アイスクリームを食べながら、ロンの新しい杖を見せてもらったり、ホグワーツでの授業について聞いたりした。

それにしても、ここのチョコチップアイス、めちゃウマだなあ。

 

授業といえば、今年ハーマイオニーは、選択教科を全部(数占い・魔法生物飼育学・占い学・古代ルーン文字・マグル学)をとるつもりらしい。

フローリシュ・アンド・ブロッツ書店のはち切れそうな紙袋が3つもあったよ。

「これから1年、食べたり眠ったりする予定はあるの?」なんて、ハリーが心配するのも無理はない。

 

ふと、ハーマイオニーの紙袋に、怪物本がスペロテープでぐるぐる巻きされて入っているのが見えた。

本は、テープを外そうとジタバタもがいている。

そこで、私はヒキャク直伝「怪物本を大人しくさせる方法」を3人に伝授した。

 

早速、ハーマイオニーは恐る恐る、自分の怪物本を取り上げて背表紙を撫でる。

すると、本はあっさり大人しくなった。

 

ていうか、書店の店長さん……。

私が本を撫でて大人しくなったのを見てたのに、何で何もしてなかったの?

そりゃ、暴れまくる数百冊の本を1つ1つ捕まえ、背表紙を撫でるのは大変だろうけどさ。

 

「わあ、レイ! あなたってすごいわ! ありがとう!」

ハーマイオニーは、私に勢い良くガバッと抱きついてきた。

うう、喜んでくれるのはいいけど、苦しい……欧米人スキンシップ過剰だ……。

なんてしばらく思っていたら、やっとハーマイオニーが離してくれた。

 

そして私達は、ハーマイオニーが梟が欲しいということで、見に行くことになった。

 

ペットショップの店内はいろんな動物の臭いがして、しかも壁一面のゲージから、ガーガー、キャンキャン、シューシューと鳴き声が響いていた。

 

梟を買うついでに、ロンの鼠の具合が良くないので診てもらう。

ロンはポケットから鼠を出し、店員に差し出した。

鼠のスキャバーズはかなり痩せていて、髭もダランと垂れていた。

店の鼠と比べてもヨボヨボで、しかも前足の指が1本欠けていた。

店員は、しばらくスキャバーズを診てから、ロンに「ネズミ栄養ドリンク」をすすめようとした。

 

その時、私の顔をチラッと見たスキャバーズが、キィィッ!! と悲鳴を上げて飛び上がった。

ありゃりゃ、私嫌われたのかな。

 

次の瞬間!

オレンジ色の毛玉が、シャーシャーっと音をたてて、スキャバーズ目がけて飛びかかってきた。

 

「コラッ! クルックシャンクス、ダメッ!」

店員は叫んだけど、オレンジの毛玉はスキャバーズを追いかけて店を出て行った。

ロンとハリーがその後を追いかける。

しばらくして、スキャバーズは見つかったみたいだけど、ロンもハリーも疲れた顔をしていた。

ところが、ハーマイオニーは、このオレンジの毛玉……じゃなかった、猫を気に入ったらしい。

なんとこの猫(クルックシャンクスという名前だそうだ)を飼うことにした。

これには、ロンが猛反発していたけど、もう買っちゃったものは仕方ない。

それにしても、クルックシャンクスって、舌を噛みそうな名前だ。

 

そして私達は漏れ鍋に戻る。

メガネをかけた頭の薄い中年魔法使いが、新聞を読みながらカウンターに座っていた。

彼はハリーと知り合いらしく、2人はブラックのことについて話をしていた。

ブラックは残念ながら、まだ捕まってないようだった。

 

「ところで、レイ・キサラギは君かい?」

中年の魔法使いが、私に気づいたみたいだ。

「はい。私です」

「私はアーサー・ウィーズリー。そこいるロンの父親だ。ホグワーツに編入する君を、キングズクロス駅に案内するように頼まれた」

言われてみれば、確かにロンに似ている。

 

「如月伶です。よろしくお願いします、ミスター・ウィーズリー」

私は、ロンのお父さんと笑顔で握手をした。

 

その時、山のような荷物を抱え、赤毛の集団が店内へ入ってきた。

体格の良い中年の優しそうなおばさん。

イタズラっぽい目をした双子。

メガネをかけた生真面目そうな若い魔法使い。

ハリーを見て、真っ赤になった女の子。

みんなロンの家族だった。

 

中年女性が、ロンのお母さんのモリーさん。

双子はロンのお兄さん、フレッドとジョージ。

メガネの人もロンのお兄さんで、パーシー。

で、女の子がロンの妹のジニー。

 

家族多いなあ、とか思っていたら、実はロンにはあと2人お兄さんがいるらしい。

 

夕食はハリー、ハーマイオニー、ロン、ウィーズリー家のみんなと一緒に食べた。

ジニーは時々ハリーをチラチラ見て恥ずかしそうにしていて、食事の間全然喋らなかった。

アーサーおじさんや双子は、私に日本の魔法学校のことをいろいろ尋ねた。

けど「侍」や「忍者」なんて、今時いないよ!

 

その夜は、ハーマイオニーとジニーと一緒の部屋で寝ることになった。

2人から、授業のことや、ホグワーツに住んでいるゴーストのことを、教えてもらった。

ジニーは人見知りするタイプだと思っていたら、実はそうでもないようだ。

なかなかお喋りで、話上手だったよ。

 

「ハリーのことが好きなの。でも本人の前に来ると、緊張して上手に話せなくて、困ってるの」

って、ジニーは言っていた。

 

明日はいよいよホグワーツ。

けど、シリウス・ブラックが捕まっていないことだけが気がかりだ。

 


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