レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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42・禍福はあざなえる縄の如し

「やめて!」

突然、ハリーがペティグリューをかばうように飛び出した。

父さんもシリウスも、固まった。

 

「ハリー、何で止めるんだ!? こいつは、自分の命惜しさに友達を裏切った最低最悪な奴なのに、君はこいつを許すって言うの?」

 

「レイ。僕は許すんじゃないよ」

じゃあ、何で止めたんだ?

 

「吸魂鬼に引き渡すんだ。こいつはアズカバンに行けばいい」

 

ハリーの言葉に文字通り「命拾い」したペティグリューは、両腕でハリーの膝を抱く。

 

「ハリーから手を離せ」

私は杖を構えて、ペティグリューに突きつける。

 

ハリーはペティグリューに言った。

「お前の為に止めたんじゃない。僕の父さんは、親友がお前のような者のせいで、殺人者になるのを望まないと思っただけだ。それから、レイ、」

ハリーは私を見た。

 

「これは君の為でもある。あんな奴のせいで、君のお父さんを殺人犯にしたくない」

 

父さんを見たら、ハッとした顔になっていた。

 

ハーマイオニーが、私の肩にそっと手を置く。

「レイ。もし先生が彼を殺せば、あなたは『人殺しの娘』になるわ。理由はどうであれ、人殺しは人殺しよ。そうしたらあなたは、きっと辛い思いをするわ」

 

そんなこと言われたら、もう私は何も言えなくなる。

 

冷静に考えれば、ハリーが一番正しかった。

ペティグリューは、アズカバンに行くべきだなんだ。

そこで一生、自分が犯した罪の重さに苦しめばいい。

 

そうして、私達は校舎に戻ることになった。

ペティグリューを魔法省に突き出せば、シリウスの無実は証明され、シリウスは名誉を回復できる。

一方、ペティグリューは、アズカバンに送られることになるんだ。

 

父さんがペティグリューをしばり上げる。

もちろん「もし変身したら、やはり殺す」と釘を刺すことは忘れなかった。

 

私はもう一度ロンの脚に手をかざして、薬師如来の真言を唱えた。

 

「伶、君も顔をひどく怪我してるね。Episkey!」

父さんがクルックシャンクスに引っかかれた顔の傷に杖を当てると、傷がスッと消えた。

 

ふと、私はスネイプが気になった。

「さて、彼はどうしよう?……気付けの呪文をかけた方がいいかな?」

スネイプは、気絶して床にのびたままになっている。

 

「無理に目を覚まさせる必要はないだろう。我々が安全に城に戻るまで、このままにしておこう」

父さんはクールに言った。

 

何だか父さんの言葉に「今、スネイプが目を覚ますと厄介だ」ってニュアンスが感じられるけど……気のせい、だよね?

 

父さんはホイホイっと杖を振って意識のないスネイプの体を宙に浮かせた。

そして、落ちていた透明マントを拾い上げてローブのポケットにしまった。

 

ペティグリューは逃げられないように、左手を父さん、右手をロンにつながれた。

 

私達は暴れ柳に向かって暗いトンネルを進んでいく。

先頭はクルックシャンクス。

それから、父さん、ペティグリュー、ロン。

その後ろに私、スネイプの杖を使ってスネイプを宙吊りにしたシリウス。

最後がハリーとハーマイオニーだ。

 

途中、何度もスネイプの頭がゴツンゴツンと天井にぶつかっていた。

「シリウス。スネイプの頭、気をつけてよ。頭ぶつけて気を失ってるんだから、ケガがひどくなったらどうすんの?」

 

「ああ、レイ。ついうっかりしていた。どうも使い慣れない杖だとコントロールが定まらなくてな。どうやら私は杖に嫌われたようだな」

 

シリウスはヘラヘラ言い訳をしていたけど、たぶんワザとだ。

正しくは「杖がシリウスを嫌っている」じゃなくて、「シリウスが杖の主(スネイプ)を嫌っている」でしょうが。

そうして私達は、ついに暴れ柳の下まで戻ってきた。

空は雲に覆われて真っ暗だ。

 

「ちょっとでも変な真似をしてみろ、ピーター」

父さんは、ペティグリューに再び釘を刺す。

 

それにしても、あのシリウス・ブラックが無実だったとは!

しかも、本当に12人のマグルを吹っ飛ばしたのは、死んだはずのピーター・ペティグリューだなんてね。

こりゃあ、明日の日刊預言者新聞の一面トップ間違いなしだよ!

 

このまま上手くいけば、ハリーとシリウスは、一緒に暮らせるかもしれない。

ハリーは、同居している親戚の人達と上手くいってないようだから、そうなったらいいね。

 

そう思っていた矢先だった。

急に雲が切れ、月の光が差し込んできた。

父さんの手が急に震えだし、杖を取り落とした。

 

「マズイ。父さん、薬飲んでなかったんだ!!」

「どうしましょう……あの薬を飲んでないわ!」

私とハーマイオニーは同時に叫んだ。

 

変身が始まってしまった!!!

父さんは唸り声をあげ、狼に変わっていく。

 

シリウスが「逃げろ!」と叫ぶ。

けど、ハリーは、父さんとペティグリューに縄でつながったままのロンを助けようとした。

ハリーは縄を解こうとしていたけど、うまくいかない。

 

「私に任せて逃げろ」

シリウスがもがくハリーを急かす。

 

その間も、父さんの体は大きくなっていく。

ビリビリとローブが裂け、全身をムクムクと深い毛が覆っていく。

 

やがて変身が完了した狼は、私達に牙を剥いて襲いかかってきた。

しかし、シリウスが犬に変身して止めに入ったため、間一髪、私達は咬まれずに済んだ。

 

変身して理性を失った父さんは、犬になったシリウスに追い払われ、禁じられた森へと駆け出して行ってしまった。

 

けど、あろうことか、そのすきにペティグリューが父さんが落とした杖で、ロンに攻撃してきた。

私はペティグリューを押さえ込もうとしたけど、奴は私が痛めている左腕を嫌と言うほど叩く。

 

痛っ!!

私はたまらず、手を離してしまった。

 

ハリーがペティグリューが持っていた杖を取り上げようと、武装解除術を放つが、間に合わない。

ペティグリューは杖を捨てて鼠に姿を変え、ロープをするりと抜けて駆け出した。

 

「シリウス、あいつが逃げた!」

ハリーに言われ、人間に戻ったシリウスが鼠の後を追った。

 

しばらくして、湖の方からキャンキャンという犬の鳴き声が聞こえてきた。

シリウスの身に何か起きたのか?

まさかペティグリューにやられたのか?

それとも父さんに襲われた?

いや、狼になった父さんは森へ行ってしまったから、方向が違うよね?

 

とにかく、私、ハリー、ハーマイオニーは、犬の鳴き声がした湖の方へ走った。

 

湖に近づくにつれ、辺りの温度が急に冷たくなってきた。

まるで、その空間だけ冬が来たみたいだ。

吐き出す息が白い。

 

シリウスは湖のほとりにいた。

彼は人の姿で頭を守るように両手で抱え込み、地面にうずくまっていた。

シリウスが使っていたスネイプの杖が、地面に落ちていた。

 

湖の周囲から、こっちに向かって数百体もの吸魂鬼の大群が迫ってきていた。


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