レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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41・悪あがき

「やあ、ピーター、しばらくだったね」

背筋が凍るような笑顔で、父さんが声を掛けた。

 

「シ、シリウス、リ、リーマス、懐かしの友よ」

キーキーと耳障りな声でペティグリューは答えた。

 

「ジェームズとリリーが死んだ夜、何が起きたのか、お喋りしていたんだがね、ピーター。君はキーキーわめいていたから、細部を聞き逃したかもしれない」

 

父さんの穏やかな口調が、逆に恐ろし過ぎる。

今、父さんは、完全に本気でキレている。

娘の私にはわかる!!!

 

ペティグリューはおびえきっていて、くどくど言い訳と命乞いをした。

しかし、今の父さん達にそんなものは通用しない。

 

ペティグリューの目は逃げ道を探して、キョロキョロとせわしなく動いていた。

 

「はっきり言ってピーター、何故無実の者が12年も鼠に身をやつして過ごしていたのか、理解に苦しむ」

 

父さんの言う通りだ。

無実だったなら、正々堂々としていればいいのに。

 

するとペティグリューは必死で言い訳した。

闇の陣営の有力者であるシリウス・ブラックを自分がアズカバン送りにしたことで、ヴォルデモートの支持者から報復されるのが怖かったのだと。

 

そこへ、ハーマイオニーがおずおずと尋ねた。

 

スキャバーズ、じゃなかったペティグリューは、3年間ハリーの側で過ごしていたのに、どうしてハリーに手を出さなかったのかと。

 

ペティグリューはそれを聞き、助かったと喜ぶ。

しかしシリウスが、ハーマイオニーの疑問に答えを出した。

 

「ヴォルデモートは12年も隠れたまま、半死半生だと言われている。アルバス・ダンブルドアの目と鼻の先で、しかも全く力を失った残骸のような魔法使いなんぞの為に、人殺しなどするお前か? そもそも魔法使いの家族に潜り込んで飼ってもらったのは、情報を聞く為だろう? かつてのご主人様が復活し、またその下に戻っても安全だという事態にお前は備えた」

 

それを聞き、ペティグリューは、金魚のように口をパクパクさせた。

シリウス・ブラックの言ったことは、全部当たっているんだ。

ぐうの音も出ないとは、まさにこのことだな。

 

「あの、ブラックさん……シリウス? お聞きしてもいいでしょうか?」

ハーマイオニーが丁寧に声をかけるものだから、シリウスがびっくりして彼女を見たよ。

 

「ど、どうやってアズカバンから脱獄したのでしょう? もし闇の魔術を使ってないのなら」

 

ペティグリューがキーキーと声をあげた。

「ありがとう、その通り! それこそ私が言いたい、」

「黙れ。ハーマイオニーは、シリウスさんに質問したんだ。あなたの出る幕はない」

私はペティグリューの言葉を冷たくさえぎった。

 

シリウスは少し考えてから答えた。

「私が正気を失わなかったのは、自分が無実だと知っていたからだ」

 

吸魂鬼は幸福な気持ちを吸い取る。

だけど、自分が無実だと思う気持ちは、吸魂鬼の餌にはならなかったらしい。

確かに、自分が無実だと知っていることは、別に幸せな感情ってわけじゃないからね。

 

それでも、どうしても吸魂鬼に耐えられなくなった時は、シリウスは犬に変身してやり過ごしたそうだ。

犬の感情は人間ほど複雑ではなく、また吸魂鬼は目が見えないので、この方法は上手く行ったらしい。

 

「信じてくれ。信じてくれ、ハリー。私は決してジェームズやリリーを裏切ったことはない」

シリウスとハリーは互いをじっと見つめあい、ハリーは深くうなずいた。

ついにハリーは、彼を信じることに決めたようだ。

 

額に脂汗をいっぱいに浮かべたペティグリューは、床に膝をついた。

 

シリウスは言った。

「一緒にこいつを殺るか?」

「ああ、そうしよう」

父さんは答えた。

 

父さんとシリウスは、袖まくりをして杖を構えた。

 

「やめてくれ、やめて……」

今度はペティグリューは、ロンに助けを求めた。

「頼む、殺させないでくれ、私は君の鼠だった、良いペットだった」

「自分のベッドにお前を寝かせてたなんて!」

しかし、ロンは力一杯ペティグリューに叫ぶ。

 

「人間の時より鼠の方が様になるのは、ピーター、あまり自慢にならない」

元ご主人に拒絶されてヒイヒイあえぐペティグリューに、シリウスの厳しい言葉が放たれた。

 

すると今度は、ペティグリューは、ハーマイオニーのローブの裾をつかんで助けを求める。

けど、彼女はペティグリューの手からローブを引き抜き、壁際に逃げる。

 

「レイ!」

次にペティグリューがすがりついたのは私だった。

父さんは、冷たく凍りつくような目でペティグリューを見た。

 

「頼むレイ! リーマスとシリウスを止めてくれ!! 娘の君の頼みなら、リーマスだって聞くはずだ」

ペティグリューは震えながら上目遣いで私を見る。

 

「レイ、お願いだ。アズサだって……君のお母さんだって、リーマスが人殺しになることは望んでない!」

 

有り得ない。

何で、ここで死んだ母さんの名前を出すんだよ?

 

「気安く父さんと母さんの名前を呼ぶな。汚らわしい裏切り者のくせに」

私は冷たく淡々と言葉を突き刺す。

 

「私の母さんは、何よりも家族や仲間の命を大事にする人だったと聞いている」

実際、母さんは自分の弟をかばって死んでいった。

 

「父さんはもちろん、母さんだって、もしあなたの裏切りを知れば、間違いなくあなたを殺すに決まっている。父さん同様、死んだ母さんも、あなたをきっと絶対に許さない。当然、私もあなたを絶対に許さない」

ペティグリューは、身を小さく縮めた。

 

「私には、父さんとシリウスさんを止める権利も理由も無い。2人があなたを殺すのなら、私はただそれを見届けるまでだ」

 

私は本当に心からそう思った。

裏切り者のコイツに情けなどいらない。

 

「おやおや。伶には、我々を止める気は無いようだ」

父さんが朗らかに言い放つ。

ただし、目は一切笑っていない。

 

「ハリー、君はお父さんに生き写しだ……」

ペティグリューは、今度はハリーに命乞いを始めた。

 

「ハリーに話しかけるとはどういう神経だ!」

シリウスの怒鳴り声が飛ぶ。

 

「ハリーに顔向けできるのか? この子の前で、ジェームズのことを話すなんて、どの面下げてできる?」

 

シリウスの言葉が耳に入っているのかいないのか、まだペティグリューはハリーにすがりつこうとした。

 

彼はみじめに震えながら、自分は裏切りたくて裏切ったんじゃない、ヴォルデモートに逆らえなかったと、逆らえば自分が殺されたんだと、言い訳を繰り返す。

 

往生際の悪いペティグリューに、シリウスは怒りを込めて言った。

「友を裏切るくらいなら死ぬべきだった。我々も君の為にそうしただろう」

 

「お前は気づくべきだった。ヴォルデモートがお前を殺さなければ、我々が殺すと。ピーター、さらばだ」

シリウスの隣で父さんが杖を上げ、冷たく告げた。

 

それは死刑宣告だった。

 

ハーマイオニーが両手で目を覆い、壁を向く。

逆に、私は目をカッと見開いて、父さんとシリウスの杖先をじっと見つめた。

全て見届けなければならない、そう思った。


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