レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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40・真相

「では、証拠を見せる時が来たようだ」

ブラックはロンに鼠を渡すように迫る。

鼠がキーキーとわめいた。

 

「ええっと、ブラック、さん? どうして、ずっとアズカバンにいたあなたが、スキャバーズの正体が『ピーター・ペティグリュー』だと言い切れるんですか?」

「レイ、いい質問だ。これを見て欲しい」

私が尋ねると、ブラックは新聞の切り抜きを取り出した。

 

日付は去年の7月。

まだ私と父さんが日本にいた頃のものだった。

ブラックは、この新聞をアズカバンに視察に来たファッジ大臣からもらったそうだ。

 

◆魔法省官僚大当たり◆

魔法省・マグル製品不正使用取締局長、アーサー・ウィーズリーが、今年の「日刊予言者新聞・ガリオンくじグランプリ」を当てた…………

 

そこには、ロンの一家の写真が載っていた。

写真のロンの肩には、前足の指が1本欠けた鼠、スキャバーズが写っている。

 

そしてブラックが、スキャバーズの正体がピーター・ペティグリューであると断定した根拠こそ、鼠の前足の指が1本欠けていることだった。

 

「何と単純明快なことだ。何と小賢しい……あいつは自分で指を切ったのか?」

「変身する直前にな」

あきれ返る父さんに、ブラックが付け足す。

 

ピーター・ペティグリューの遺体の中で唯一まともに残っていたのは「指」だったそうだ。

ブラックの話では、ペティグリューは自分が「死んだ」と見せかける為、指を切り落として置いて行ったということらしい。

 

「奴を追い詰めた時、奴は通行人全員に聞こえるよう叫んだ。私がジェームズとリリーを裏切ったんだと。それから、私が奴に呪いを掛けるよりも先に、奴は隠し持っていた杖で道路を吹き飛ばし、自分の周囲半径5、6m以内の人間を皆殺しにした。そして素早く、鼠だらけの下水道に逃げ込んだ」

 

ということは、もしシリウス・ブラックの証言が本当なら、ブラックは誰も殺してないっていうわけ?

爆発を引き起こして、周囲のマグル達を殺したのは、ピーター・ペティグリューだったってこと?

 

父さんがスキャバーズを見てから口を開いた。

「私の想像だが、シリウスが脱獄したと聞いてから、その鼠は痩せ衰えてきたのだろう」

 

ロンはクルックシャンクスを指差す。

「こいつは、その狂った猫が怖いんだ!」

 

「ロン、ちょっと待って! 君の鼠は、ハーマイオニーがクルックシャンクスを飼う前から、具合が悪かったはずだよ?」

 

「伶、それは本当かい?」

父さんの目が光る。

 

私は、父さんに軽くうなずいてから説明する。

 

「去年の夏、ロンはスキャバーズの具合が悪いって、ダイアゴン横丁のペットショップで診てもらったんだ。ハーマイオニーは、その時、店にいたクルックシャンクスを気に入って、飼うことにしたんだよ」

 

ロンが恨みがましく私を見た。

でも、これは、私がハーマイオニーとロンに初めて出会った日の出来事だから、ハッキリと覚えている。

 

「この猫は狂ってはいない。むしろ非常に賢い」

ブラックが骸骨のような手で、クルックシャンクスを撫でながら言った。

 

クルックシャンクスは鼠の正体に気づき、ブラックの元へ連れて行こうとしたらしい。

しかし、それができず、クルックシャンクスは、寮の合言葉のメモを盗んできたという。

 

あれ、合言葉のメモって、まさかネビルの?

クルックシャンクスが盗んだってことは、メモがなくなったのは、彼の不注意じゃなかったんだ!

あーあ、ネビルはお祖母さんに吼えメールまでもらったのに。

 

さて、ペティグリューは自分の身が危険だと知ると、シーツに血痕を残した。

自分がクルックシャンクスに襲われたと見せかけ、姿を隠すためにね。

 

私には、シリウス・ブラックの話は筋が通っているように思えた。

しかし、ハリーはまだ納得できていないようだった。

 

「こいつは自分が僕の両親を殺したと言ったんだ!」

ブラックの話を聞いても、ハリーはまだ彼が両親を裏切ったと疑っていた。

 

「私が殺したも同然だ」

ハリーに懺悔(ざんげ)するように半ば涙声で、ブラックは説明を続けた。

 

ブラックは最後の最後で、秘密の守人をペティグリューに変えた。

そして、事件は起きてしまったのだ。

 

「話はもう充分だ」

ピシャリと言い放ったのは、父さんだった。

 

「ロン、その鼠を寄越しなさい」

父さんの声には、有無を言わせない響きがあった。

ついにロンは観念し、鼠を父さんに渡す。

 

「伶、シリウスに杖を」

父さんに言われ、私は杖をブラックに渡す。

 

ブラックが父さんを見て言った。

「一緒にするか?」

「そうしよう」

そして2人は杖をスキャバーズに向けた。

 

「3つ数えたらだ。1、2、3!」

 

2人の杖先から青白い光線が発射された。

光線が鼠に当たると、辺りが真っ白になるような閃光が走る。

次の瞬間、鼠の姿はなかった。

その代わりに立っていたのは、私よりもかなり背が低い小柄な男。

 

ピーター・ペティグリュー。

 

私は父さんの昔のアルバムで、彼の写真を見たことがあった。

アルバムの写真ではふっくらしていたけど、今ここにいる男はやつれてしなびている。

しかし、小さい目と尖った鼻に昔の面影があった。

 

彼は死んだはずだった。

シリウス・ブラックに、殺されたはずだった。

 

その男が今、私の目の前にいる。

幽霊じゃなくて、生身の人間として。

 

つまり、父さんとシリウス・ブラックの話は正しかったということなんだ。

ペティグリューは死んではいなかった。

鼠の姿になって、コソコソ隠れて生きてきたんだ。


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