イーロップの店内は薄暗く、宝石のようにキラキラと梟の目が光っていた。
「うわ、ここ相変わらず暗いよね。何か出てきそう」
店内を見渡しながら、トンクスが言う。
「もっとも、まさかこんなところには、ブラックは潜んでおるまいて。だが、油断大敵!」
マッド・アイの魔法の義眼はグルグルと動いていた。
【いらっしゃいませー!】
元気な声が聞こえたので、一瞬、店員が挨拶したのかと思った。
けど、店員は奥のカウンターで大いびきで爆睡中だ。
じゃあ、あの子か。
放し飼いの茶色い梟が、止まり木の上から、丸い黄色い目で私を見ている。
「やあ。さっき挨拶してくれたのは、君だね?」
私が梟に話しかけると、思った通りの反応がきた。
【何でわかると!?つーか、まさかアンタ……】
梟は目をキョロキョロさせたので、私はニヤリと笑って尋ねる。
「ここには、シリウス・ブラックは来てないよね?」
【ブラックっち、脱獄囚のか? 大丈夫。うちには来とらんし、ダイアゴンでも見とらんけん】
「マッド・アイ、トンクス。この子が言うには、ダイアゴンでは、ブラックは見てないって」
「レイは梟と話せるの!?」
驚くトンクスに、マッド・アイが答える。
「ああ、この娘は『鳥語聞き』だからな」
「鳥語聞き」とは、鳥の言葉を理解する能力だ。
蛇語使いのパーセルマウス程ではないけど、ちょっと珍しい。
けど、母さんの実家の如月家は、この力を持つ人が多い家系なんだ。
例えば、悟叔父さんがそうだったりする。
そういえば、ダンブルドアも鳥語聞きだと聞いたことがあるなぁ。
噂によると、不死鳥を使い魔にしてるんだとか。
ホグワーツに行ったら、その不死鳥に会えるのかな?
【アンタ。やっぱ鳥語聞きやん! 俺、配達の速さと正確さには自信があるばい。俺を飼わんか?】
最初の梟が言うと、そこから梟達の猛烈なPR合戦が始まった。
【えーっ、俺にしなよ。長距離飛ぶのは得意だぜぃ】
【あたしを飼ってよ~】
【いえいえ、ぜひワタクシを!】
【僕をぜひ!】
【鳥語聞き様、わたくしめをぜひぜひお願いします!】
すると、居眠りしていた店員がついに目を覚まし、あくびを噛み殺しながら立ち上がる。
「ふぁあ。さっきから何だウルサイなぁ? ホーホーって・・あ、いらっしゃいませ!」
店員はやっと私達に気づき、慌ててカウンターから出てきた。
「で、レイ。どれするのだ?」
マッド・アイが尋ねる。
「最初に話しかけてきた子かな。ほら、黄色い目の茶色い羽の」
なんだか、この子とは気が合いそうだ。
最初に話しかけてきた梟は、フワリと飛び上がると、店の奥のカウンターに止まる。
【ありがとうございます! オレ、頑張るけん!】
そう言って、カウンターの上で羽をパタパタさせた。
こうして、私はその梟を飼うことになった。
名前は「ヒキャク」に決めた。
運び屋=飛脚っていう、単純な理由だったけど、本人(本鳥?)は、気に入ったみたいだった。
梟を買ったら、あとは教科書だけだ。
選択教科は、魔法生物学とマグル学にしていた。
私達はヒキャクの入った籠をぶら下げ、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店へ向かう。
書店の店先を見て驚いた。
大きな檻が置かれていて、中で数百冊の本が取っ組み合いをしていたんだから。
周りには、破れた本のページが散らばっている。
しかも緑の表紙には金文字で「怪物的な怪物の本」と書いてあった。
「まさか……これ魔法生物飼育学の教科書だよね?」
トンクスがリストを見て、声を上げた。
すると、店長がすっ飛んできた。
「お客様もホグワーツですか……」
まるでこの世の終わりみたいな声だった。
そして店長は、ため息混じりに檻へ手を突っ込む。
「イタッ!!」
本が、店長の手をガブりと噛み付いた。
それを見たマッド・アイが、警戒モードで杖を構えた。
その時、籠の中でヒキャクが羽毛を逆立てて叫んだ。
【背表紙を撫(な)でれ! そしたら、大人しくなるけん!】
え、撫でる?……そんな馬鹿な?
ためらう私に、ヒキャクはツッコミ気味に叫ぶ。
【早よ撫でんかいっ!】
私は、店長の手に噛み付いた本に手を伸ばし、勇気を出して背表紙をそろ~っと撫でた。
本はフルルっと軽く身震いをして、あっさり大人しくなった。
その後、他の本も買って、レジでお金を払う。
レジを待っている間、目に付いたのは、ギルデロイ・ロックハートのコーナー。
青い瞳と輝く金髪の魔法使いのポスターがベタベタ貼ってある。
ハンサムだけど、キザっぽい笑顔がなんだか胡散臭いぞ。
◆店頭在庫限り大特価!!◆
[トロールとのとろい旅]
[雪男とゆっくり一年]
[狼男との大いなる山歩き]
[自伝 私はマジックだ]
在庫処分セールをやっているみたいで、本は元の値段の半額以下で叩き売りされていた。
しかも、天井スレスレまで山積みにされている。
これ、地震が来たら大変だなぁ……なんて、思っていたら。
ドン! ズサズサズサズサーっ!
「うわぁ~っ!!」
トンクスがつまづいて、本の雪崩を起こしたらしい。
彼女は店員にめちゃくちゃ睨まれて「ごめなさい、ごめなさい」と何度も謝っていた。
ま、マッド・アイが、あきれ顔で杖を一振りして、崩れた本をあっさり片付けてくれたんだけど。
こうして買い物が終わった私は、マッド・アイとトンクスにお礼を言って別れた。