レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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4・使い魔

イーロップの店内は薄暗く、宝石のようにキラキラと梟の目が光っていた。

「うわ、ここ相変わらず暗いよね。何か出てきそう」

店内を見渡しながら、トンクスが言う。

「もっとも、まさかこんなところには、ブラックは潜んでおるまいて。だが、油断大敵!」

マッド・アイの魔法の義眼はグルグルと動いていた。

 

【いらっしゃいませー!】

元気な声が聞こえたので、一瞬、店員が挨拶したのかと思った。

けど、店員は奥のカウンターで大いびきで爆睡中だ。

 

じゃあ、あの子か。

放し飼いの茶色い梟が、止まり木の上から、丸い黄色い目で私を見ている。

「やあ。さっき挨拶してくれたのは、君だね?」

私が梟に話しかけると、思った通りの反応がきた。

 

【何でわかると!?つーか、まさかアンタ……】

梟は目をキョロキョロさせたので、私はニヤリと笑って尋ねる。

 

「ここには、シリウス・ブラックは来てないよね?」

【ブラックっち、脱獄囚のか? 大丈夫。うちには来とらんし、ダイアゴンでも見とらんけん】

「マッド・アイ、トンクス。この子が言うには、ダイアゴンでは、ブラックは見てないって」

 

「レイは梟と話せるの!?」

驚くトンクスに、マッド・アイが答える。

「ああ、この娘は『鳥語聞き』だからな」

 

「鳥語聞き」とは、鳥の言葉を理解する能力だ。

蛇語使いのパーセルマウス程ではないけど、ちょっと珍しい。

けど、母さんの実家の如月家は、この力を持つ人が多い家系なんだ。

例えば、悟叔父さんがそうだったりする。

 

そういえば、ダンブルドアも鳥語聞きだと聞いたことがあるなぁ。

噂によると、不死鳥を使い魔にしてるんだとか。

ホグワーツに行ったら、その不死鳥に会えるのかな?

 

【アンタ。やっぱ鳥語聞きやん! 俺、配達の速さと正確さには自信があるばい。俺を飼わんか?】

最初の梟が言うと、そこから梟達の猛烈なPR合戦が始まった。

 

【えーっ、俺にしなよ。長距離飛ぶのは得意だぜぃ】

【あたしを飼ってよ~】

【いえいえ、ぜひワタクシを!】

【僕をぜひ!】

【鳥語聞き様、わたくしめをぜひぜひお願いします!】

 

すると、居眠りしていた店員がついに目を覚まし、あくびを噛み殺しながら立ち上がる。

「ふぁあ。さっきから何だウルサイなぁ? ホーホーって・・あ、いらっしゃいませ!」

店員はやっと私達に気づき、慌ててカウンターから出てきた。

 

「で、レイ。どれするのだ?」

マッド・アイが尋ねる。

「最初に話しかけてきた子かな。ほら、黄色い目の茶色い羽の」

なんだか、この子とは気が合いそうだ。

 

最初に話しかけてきた梟は、フワリと飛び上がると、店の奥のカウンターに止まる。

【ありがとうございます! オレ、頑張るけん!】

そう言って、カウンターの上で羽をパタパタさせた。

 

こうして、私はその梟を飼うことになった。

名前は「ヒキャク」に決めた。

運び屋=飛脚っていう、単純な理由だったけど、本人(本鳥?)は、気に入ったみたいだった。

 

梟を買ったら、あとは教科書だけだ。

選択教科は、魔法生物学とマグル学にしていた。

私達はヒキャクの入った籠をぶら下げ、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店へ向かう。

 

書店の店先を見て驚いた。

大きな檻が置かれていて、中で数百冊の本が取っ組み合いをしていたんだから。

周りには、破れた本のページが散らばっている。

しかも緑の表紙には金文字で「怪物的な怪物の本」と書いてあった。

「まさか……これ魔法生物飼育学の教科書だよね?」

トンクスがリストを見て、声を上げた。

 

すると、店長がすっ飛んできた。

「お客様もホグワーツですか……」

まるでこの世の終わりみたいな声だった。

そして店長は、ため息混じりに檻へ手を突っ込む。

「イタッ!!」

本が、店長の手をガブりと噛み付いた。

それを見たマッド・アイが、警戒モードで杖を構えた。

 

その時、籠の中でヒキャクが羽毛を逆立てて叫んだ。

【背表紙を撫(な)でれ! そしたら、大人しくなるけん!】

え、撫でる?……そんな馬鹿な?

ためらう私に、ヒキャクはツッコミ気味に叫ぶ。

【早よ撫でんかいっ!】

 

私は、店長の手に噛み付いた本に手を伸ばし、勇気を出して背表紙をそろ~っと撫でた。

本はフルルっと軽く身震いをして、あっさり大人しくなった。

 

その後、他の本も買って、レジでお金を払う。

レジを待っている間、目に付いたのは、ギルデロイ・ロックハートのコーナー。

青い瞳と輝く金髪の魔法使いのポスターがベタベタ貼ってある。

ハンサムだけど、キザっぽい笑顔がなんだか胡散臭いぞ。

 

◆店頭在庫限り大特価!!◆

[トロールとのとろい旅]

[雪男とゆっくり一年]

[狼男との大いなる山歩き]

[自伝 私はマジックだ]

 

在庫処分セールをやっているみたいで、本は元の値段の半額以下で叩き売りされていた。

しかも、天井スレスレまで山積みにされている。

これ、地震が来たら大変だなぁ……なんて、思っていたら。

 

ドン! ズサズサズサズサーっ!

「うわぁ~っ!!」

トンクスがつまづいて、本の雪崩を起こしたらしい。

彼女は店員にめちゃくちゃ睨まれて「ごめなさい、ごめなさい」と何度も謝っていた。

ま、マッド・アイが、あきれ顔で杖を一振りして、崩れた本をあっさり片付けてくれたんだけど。

 

こうして買い物が終わった私は、マッド・アイとトンクスにお礼を言って別れた。


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