レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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39 招かれざる客

父さんは話を続ける。

「私の正体を知った3人は、私から離れるどころか、3人とも私のために『アニメーガス』になってくれた」

 

ん、ブラック達がアニメーガスになったのは、父さんの為ってこと?

 

「でも、それが何故あなたを救うことになったの?」

ハーマイオニーの言うとおりだ。

私もアニメーガスになることが、変身した父さんを救うことと、どうつながるのかがわからない。

 

すると父さんは、3人が変身した父さんと一緒に過ごせるようになるためだと答えた。

人狼は人間を襲うが、動物の姿なら襲われることはないと考えたらしい。

 

アニメーガスになった3人と父さんは、満月の夜、叫びの屋敷を抜け出して、遊びまわるようになった。

その冒険の成果こそ「忍びの地図」だった。

 

今から思えば、それは非常に危険なことだった。

満月の夜に人狼が出歩くなんて、危ないにも程がある。

 

また、父さんは、友達を違法アニメーガスにしたことに、時々罪の意識を感じていたらしい。

でも、満月の夜の冒険の楽しさに、それを都合良く忘れたそうだ。

 

「そして、私は今でも当時と変わっていない。この1年、私はシリウスがアニメーガスだと、ダンブルドアに告げるべきか迷い、ためらう自分と戦ってきた。伶になら話せるかと思ったが、やはり言えなかった」

 

そういえば、前に「伶、聞いて欲しい。あの犬は、」とか言いかけてたな。

 

父さんがダンブルドア校長にアニメーガスの件を話せなかったのは、自分が校長の信頼を裏切っていたことを認めたくなかったかららしい。

 

「私はシリウスが学校に侵入するのに、ヴォルデモートに学んだ闇の魔術を使用したに違いないと思いたかった。アニメーガスであることは、それと無関係だと自分に言い聞かせた。ある意味スネイプが正しかったわけだ」

 

ブラックが「スネイプ」と聞き、父さんを見た。

「スネイプに何の関係が?」

「シリウス、スネイプがここにいる。あいつもここで教えているんだ」

 

父さんの言葉に私が補足を入れる。

「ちなみに担当は魔法薬学。父さんの脱狼薬は毎回、スネイプが煎じていた」

ブラックは「スネイプ」と聞いて、心底嫌そうな顔をした。

きっとブラックはスネイプが大嫌いなんだろう。

スネイプは父さんとホグワーツの同期だから、ブラックもスネイプと同期になるんだな。

 

「ところで、リーマス。噂によると君は確か、日本で暮らしていたはずではなかったのか?」

 

ブラックの問いに父さんが答える。

「そうだ。私はここに来る前、日本の青龍学院魔法学校で英語を教えていた。去年の夏、そこへダンブルドア先生が来られてホグワーツに誘ってくださった。そして、伶と一緒にホグワーツに行くことになった」

 

父さんは話を続ける。

「この1年、彼はダンブルドアに、私は信用できないと言い続けていた。それは……」

原因は、学生時代にブラックがスネイプに仕掛けた悪戯だった。

 

スネイプは月に1度、夜に姿を消す父さんを不審に思い、いろいろ嗅ぎ回ったらしい。

そんな彼を良く思わなかったブラックは、暴れ柳の止め方をスネイプに教えた。

そして満月の夜、スネイプにそこへ行くように、そそのかした。

それを知ったハリーのお父さんと、うちの母さんが、スネイプを引き戻したそうだ。

 

だけど、スネイプは、変身した父さんの姿を見てしまったのだという。

スネイプは父さんの「持病」を知ってしまった。

もちろん、ダンブルドア校長は口止めしたけどね。

 

余談だけど、事件後、激怒した母さんは、ブラックを本気で殴り飛ばしたそうだ。

ブラックの顎の骨にヒビが入ったんだとか。

そういえば母さん、空手初段だったんだっけ。

 

ハリーが少し考えてから、父さんに言った。

「スネイプは、あなたもその悪ふざけに関わっていたと思ったわけですね?」

 

「その通り」

氷点下の重低音ボイスが聞こえた。

なんと、そのスネイプ本人が現れたんだ!!

思わぬ人物の登場に、みんな驚きを隠せなかった。

 

スネイプは、透明マントを持っていた。

そして彼は反対の手で、杖を父さんにピタリと向けていた。

 

スネイプは透明マントを投げ捨て、ハリーに言う。

「ポッター、なかなか役に立ったよ。感謝する」

彼は暴れ柳の下でマントを見つけたようだ。

 

そして今度は私を見て言う。

「ところで、キサラギ。お前は何故こんなところにいる? 先程、玄関ホールで我輩に会った時、寮に戻ろうとしていたのではなかったのか?」

 

え、私には、スネイプと会った覚えはないんだけど?

 

スネイプは、困惑顔の私をスルーして話を続ける。

彼は父さんの部屋に今日の分の脱狼薬を届けに行ったけど、父さんはいなかった。

スネイプは机の上に残された「忍びの地図」を見て、ここに来たのだ。

 

「我輩は校長に繰り返し進言した。君が旧友のブラックを手引きして城に入れていると。ルーピン、これが良い証拠だ。図々しくもこの古巣を隠れ家に使うとは、さすがの我輩も夢にも思いつかなかったが」

嫌味ったらしくスネイプは言った。

 

「誤解だ。説明させて欲しい」

父さんは頼んだけど、スネイプは無視して続ける。

「今夜また2人、アズカバン行きが出る。ダンブルドアがどう思うか、見物ですな。ダンブルドアは君が無害だと信じきっていた。わかるだろうね、ルーピン。『飼い馴らされた人狼さん』」

 

「『飼いならされた人狼』って!! 何ですか、その言い方はっ!?」

私はカチンときて、思わず懐の杖へ手を伸ばす。

 

「伶、落ち着きなさい」

父さんは私の腕をそっと押さえて止め、スネイプに言う。

 

「愚かな。学生時代の恨みで、無実の者をまたアズカバンに送り返すというのか?」

 

しかし、スネイプは父さんの言葉に聞く耳を持たず、杖を振るった。

バーン!と音がして、スネイプの杖から細いロープが飛び出す。

ロープに縛り上げられ、父さんは床に倒れた。

 

「《何てことを!!?》」

私は思わず日本語で叫び、父さんに駆け寄った。

 

一方、ブラックはスネイプにつかみかかろうとした。

けど、スネイプはブラックの眉間に杖を突きつける。

「やれるものならやるがいい。我輩にきっかけさえくれれば、確実に仕留めてやる」

 

ハーマイオニーがおずおずと言う。

「スネイプ先生、あの、彼らの言い分を聞いてあげても、害はないのでは、あ、ありませんか?」

 

「ミス・グレンジャー。君は停学処分を待つ身だ。君も、ポッターも、キサラギも、ウィーズリーも、許容ラインを超えた。しかも指名手配中の殺人鬼や人狼と一緒とは」

 

ハーマイオニーは食い下がる。

「でも、もし『誤解』だったら……」

 

「黙れ、この馬鹿娘! わかりもしないことに口を出すな!」

スネイプの怒鳴り声が響いた。

 

「先生こそ、わかりもしないことに口を出さないで下さい!」

 

私はスネイプに負けじと声を上げ、一気に早口でまくしたてた。

「あなたが、一体どこまで話を聞いていたかは知りませんが、こちらの言い分も聞かず、思い込みで判断するのはやめてください!」

 

「キサラギ、自分の父親は常に正しいと思っているのかね? それこそ『思い込み』ではないのかね?」

 

そしてスネイプは、相変わらずブラックに杖を突きつけたまま言った。

「復讐は蜜より甘い。貴様を捕まえるのが我輩であったらと、どんなに願ったことか」

 

ブラックはスネイプをにらみながら、ロンの鼠を連れて行くなら、一緒に城までついて行くと言った。

しかし、スネイプは、暴れ柳の下で戻ったらすぐに吸魂鬼を呼んでやると、あざ笑う。

 

ブラックは「鼠を見ろ」と言ったが、スネイプは耳を貸さなかった。

 

「来い、全員だ」

スネイプは、父さんをしばっているロープの端を手にした。

 

しかし、ハリーがドアの前に飛び出し、スネイプの行く手をさえぎった。

スネイプは「どけ」と言ったが、もちろんハリーはどかない。

 

「ルーピン先生が僕を殺すチャンスは、この1年に何百回もあった。僕は先生と2人きりで何度も吸魂鬼防衛術の訓練を受けた……」

「人狼がどんな考え方をするか、我輩に推し量れとでもいうのか。どけ、ポッター」

 

ハリーとスネイプの押し問答が続く。

そしてスネイプが、ついにハリーへ杖を上げた。

私はとっさにスネイプに杖を向け、叫んだ。

「「「「Expelliarmus」」」」

 

実は、武装解除呪文を唱えたのは、私だけじゃなかったんだ。

ハリー、ロン、ハーマイオニーもだった。

 

4人がかりの武装解除術をくらったスネイプは、 ドスンと壁にぶつかって頭を強打し、完全にノックアウトされていた。

 

「ああ、やっちゃった」

私はピシリと平手で額を打つ。

 

ブラックはハリーに、こんなことを君がすべきじゃなかったと言った。

そして、ハーマイオニーはオロオロと「先生を攻撃してしまった」とうろたえた。

 

とりあえず、私はスネイプに近づき様子をみる。

 

息はちゃんとしてる。

首に手を当てて脈をみたけど、乱れてはいない。

ただし、頭にコブができて血が出ているので「Episkey!」と唱えて処置し、杖を振って氷嚢(ひょうのう)を出して頭にのせた。

 

続いて意識レベルの確認だ。

「もしも~し? 大丈夫ですか?」

声をかけたら反応はなかったけど、スネイプの手の甲を軽くつねると、少し顔をしかめた。

それから杖明かりをつけ、目をこじ開けて光を当て、左右の瞳孔の形と大きさを確認する。

OK、正常だ。

 

「うん、ただの脳震盪(のうしんとう)だね。大丈夫、放っておこう」

 

私の言葉を聞いて、ハーマイオニーはホッとした。

ハリーとロンは、私がスネイプに処置する様子をあっけに取られて見ていた。

 

「レイ、何でそんなに手当に慣れてるんだい?」

ロンが尋ねる。

 

「応急処置は日本にいた時に習ったんだ。特にクィディッチには頭の怪我がつきものだからさ」

私はにっこり笑った。

 

そうこうしているうちに、ブラックが父さんのロープを解いてくれたようだ。

「では、証拠を見せる時が来たようだ」

そう言うと、ブラックはロンに鼠を渡すように迫る。

鼠がキーキーわめいた。


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