レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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37・叫びの屋敷

 

暴れ柳の下には長い長いトンネルが続いていた。

私、ハリー、ハーマイオニーの3人の杖明かりで照らしても、先は見えない。

 

ハリーとハーマイオニーはとにかく、このトンネルがどこに続くのか知っている私でさえ先行き不安だ。

ロンは大丈夫なんだろうか?

 

やがてトンネルは登り坂になり、ついには荒れ果てたホコリっぽいガランとした部屋に出た。

剥がれかけの壁紙、汚れた床……叫びの屋敷だ。

 

天井の上で何かが動く音がした。

ってことは、ロンと犬は2階だろうか?

 

足音を立てないように、私達は慎重に階段を登る。

 

「「「Nox!」」」

3人同時に杖明かりを消すと、ハリーが先頭に立ち、ドアを開けた。

 

部屋の奥で、クルックシャンクスとロンが床に座っていた。

 

「「「ロン、大丈夫!?」」」

私達が駆け寄ると、ロンの脚はありえない角度に曲がっている。

 

「Ferula! Episkey!」

私は、転がっていた棒を添え木にして折れた脚に包帯で巻いて固定し、治癒呪文をかけた。

 

それでもロンの顔は苦しそうだったので、ロンの折れた脚に右手をかざして唱える。

「おん ころころ せんだり まとうぎ そわか」

 

少しだけロンの表情が和らいだ。

「痛みはどう?」

「ちょっと楽になった。けど、レイ。今のは?」

「薬師如来の真言。病気やケガの痛みを和らげて、回復を早める効果があるんだ」

 

「ところで、ロン。犬はどこだい?」

ハリーが尋ねる。

 

「犬じゃない。ハリー、あいつが犬なんだ……あいつは『動物もどき(アニメーガス)』なんだ」

ロンは、私達の後ろを見て言った。

すると、バタンと後ろでドアが閉まる音がした。

 

振り返ると、痩せこけた長身の男が立っていた。

腰まである黒く長い髪は、毛先がぐちゃぐちゃにもつれ、からまっている。

骸骨のような顔の中で、目だけは不気味にギラギラしていた。

指名手配中の脱獄囚、シリウス・ブラックだ!

 

「Expelliarmus!」

ブラックが素早く、私、ハリー、ハーマイオニーの杖を奪った。

 

ブラックがハリーにジリジリと近づいていく。

このままハリーは殺されてしまうのだろうか?

 

ブラックが口を開いた。

「ハリー、君なら友を助けに来ると思った」

 

その言葉を聞き、頭に血が上ったハリーが、ブラックに飛びかかろうとした。

私達は慌ててハリーの肩を右手でつかんで引き戻す。

 

「無茶だ、ハリー!」

「ハリー、ダメよ!」

私とハーマイオニーの声は震えていた。

 

ロンが立ち上がろうとしながら、ブラックへ叫んだ。

「ハリーを殺すなら、僕達も殺すことになるぞ!」

 

けど、ロンは脚が痛むせいでフラついていた。

 

「座っていろ。せっかく処置してもらったのに、脚の怪我が余計酷くなるぞ」

何故か、ブラックの口からロンを気づかう言葉が出た。

 

「ロン、君は動かない方がいい」

私はロンを座らせた。

 

「今夜はただ1人を殺す」

歯を見せ、ブラックが不気味に笑う。

 

そうか、奴の狙いはハリーの命だけなんだ。

でも、今ここで下手に挑発すれば、ブラックはすぐさま私達4人全員をまとめて殺すだろう。

生き残るには、事を荒立てず、できるだけ時間を稼ぎ、助けを呼ぶ機会をうかがった方がいい。

 

私がそう考えていた矢先、ハリーがブラックに食ってかかる。

 

「何故だ? 前はそんなことを気にしなかったはずだ? ペティグリューを殺る為、たくさんのマグルを無残に殺したんだろう? どうしたんだ。アズカバンで骨抜きになったのか?」

 

おいおいハリー、刺激してどうするんだよ!?

ヤバいって!!!!!

 

ハーマイオニーがハリーに「黙って」と言ったけど、ハリーは止まらない。

「こいつが僕の父さんと母さんを殺したんだ!」

 

私はブラックに飛びかかろうとするハリーを押さえようとした。

けど、ハリーは私を振り払う。

 

ハリーの手が、さっき暴れ柳にやられた左腕にモロに当たり、私は痛みでその場にうずくまった。

 

私の代わりにハーマイオニーが止めようとしたけど、それも振り切り、ハリーはブラックに飛びかかった。

 

ハリーは、杖を挙げかけたブラックの手首をつかみ、反対の手でブラックを力一杯殴りつけた。

2人は折り重なるように倒れ、ブラックが片手でハリーの首をつかんできた。

 

マズイ!

このままじゃ、ハリーが絞め殺される!!

 

私は気合で立ち上がると、助走をつけてブラックに飛びかかる。

 

ところが、そこへクルックシャンクスが参戦してきて、鋭い爪で私の頬を思いっきり引っ掻いた。

ハーマイオニーが、私からクルックシャンクスを引き剥がしてブラックに蹴りを入れる。

 

しかしそれを物ともせず、ブラックは再びハリーに襲いかかる。

 

ええい、こうなったら最後の手段。

杖がないなら、陰陽術の呪(しゅ)を唱えるしかない。

戦闘系の陰陽術は得意じゃないんだけど、やらなきゃこっちが殺られる。

相手は13人を一瞬で吹き飛ばした凶悪犯だ。

迷っている場合じゃない!!

 

私は指を組んで印を結び、ブラックへ呪を放つ。

「急急如律令 縛!(きゅうきゅうじょりつれい ばく)」

 

ブラックの動きがピタリと止まった。

 

私は全力でブラックをハリーから引き剥がし、遠ざけた。

その隙(すき)にロンがみんなの杖を回収し、それぞれの持ち主へ返す。

 

しかし、私の縛り術は30秒とたたずに解けてしまった。

ブラックは再び動き出す。

 

うわ、やっぱり呪は気休めにしかならなかったか。

まあ、青龍学院時代に少し習っただけだから、あまり上手く使えないんだけど。

 

ハリーは杖をブラックの胸に真っ直ぐ向けた。

「ハリー、私を殺すのか?」

「お前は僕の両親を殺した」

「否定はしない。しかし、君が『全て』を知ったら……」

 

「シリウス・ブラック、今更何を寝ぼけたことを言うんだ?」

私は半分開き直ってヤケクソでつぶやいた。

どうせ殺されるんだったら、言いたいことを言おう。

 

ブラックが鋭い目線で私を見た。

「君はレイだな? アズサに生き写しだ」

 

「気安く母さんの名前を呼ぶな」

私はブラックをにらみつける。

 

「あなたはハリーのご両親の居場所をヴォルデモートに密告した。ハリーのご両親も、うちの父さんも、あなたを『親友』だと思っていた。その信頼をあなたは踏みにじった。それが『全て』だ!!」

私は早口でまくし立て、ブラックに杖を向けた。

 

その時、コツコツと下から靴音が聞こえてきた。

「ここよ!」

ハーマイオニーが鋭く叫んだ。

「シリウス・ブラックよ! 早く!」

 

ドタドタと階段を駆け上がる音が聞こえたかと思うと、部屋のドアが開いた。

 

入ってきたのは、真っ青な顔で杖を構えた男性。

私が嫌というほど良く知っている人物。

「父さん! 何でここに!?」

 

「「父さん!?」」

ハリーとロンが、私と父さんの顔を交互に見比べた。

 

しまった、口が滑った!!!


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