レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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36・ヒッポグリフ、鼠と猫と犬

森番の小屋に着くと、魂が抜けたようなハグリッドがいた。

ヘドウィグが言ったとおりだった。

 

バックビークは、かぼちゃ畑につながれているらしい。

 

「ハグリッド、誰でもいい。何でもいいから、できることはないの? ダンブルドアは……」

ハリーが尋ねた。

 

だけど、ダンブルドア校長の力でも、判決をひっくり返すことはできなかった。

その代わり、校長はバックビークの処刑に立ち会ってくれるのだという。

 

「ハグリッド、元気出して。これあげるから」

私はポケットに入っていたチョコレートを取り出し、テーブルの上に広げた。

 

「みんなで食べましょう。私、お茶をいれるわ」

ハーマイオニーはお茶の支度を始めた。

 

「ハグリッド、私達もあなたと一緒にいるわ」

お茶をいれながらハーマイオニーがすすり泣き、私も静かにうなずく。

けど、ハグリッドは、私達に寮に戻れと言った。

 

その時だった。

 

「ロン! し、信じられないわ、スキャバーズよ!」

ハーマイオニーが叫ぶ。

 

そこには確かに、前脚の指が1本欠けたロンの鼠、スキャバーズがいた。

クルックシャンクスに食べられたんじゃなかったんだ!!

 

ロンがスキャバーズを捕まえた。

スキャバーズは、前よりいっそう痩せこけ、ボロボロになっていた。

しかも、私と目が合うと、ロンの手の中でいきなり激しくジタバタもがきだした。

 

「大人しくしろ!」

ロンはスキャバーズをポケットにねじ込もうと四苦八苦する。

 

その時、ハグリッドが急に立ち上がった。

「連中が来おった」

 

窓の外に、ファッジや魔法省の人、ダンブルドア校長が小屋の方へ来るのが見えた。

 

ハグリッドに急かされ、チョコレートとティーセットを片付けた私達は、しぶしぶ透明マントをかぶって、小屋を離れた。

 

その間もスキャバーズは、ずっとロンのポケットで暴れていた。

 

私達は小屋の方を気にしつつ、校舎を目指した。

 

しばらくの間、小屋の方からは男達の話す声が聞こえていたけど、ふと急に静かになった。

 

そして。

 

シュッ、ドサッ!!

 

それは、死刑執行人が重い斧を振り下ろす音に違いなかった。

 

「…………あの人達、やってしまったんだわ!」

ハーマイオニーが声をつまらせ、私もハリーもロンもその場に立ちすくんだ。

夕焼けが空を血のような不気味な紅に染めていた。

 

ハリーはハグリッドが心配になったみたいで、引き返そうとした。

だけど、ロンに止められた。

私達がハグリッドに会いに行ったことが分かれば、彼の立場が悪くなるからだ。

 

やがて、日はすっかり暮れ、暗くなってきた。

 

「スキャバーズ、じっとしてろ」

ロンのポケットで、スキャバーズはいまだに暴れ続けていた。

 

そこへ不気味に光る2つの黄色い目が忍び寄った。

クルックシャンクスだった。

道理で、スキャバーズが逃げたがるわけだった。

 

ハーマイオニーがクルックシャンクスを追い払おうとした。

けど、クルックシャンクスは近づいてくる。

 

そしてスキャバーズは、とうとうロンの手をすり抜けて駆け出した。

クルックシャンクスがそれを追いかけ、ロンが更にその後を追う。

 

格闘の末、ロンはどうにかスキャバーズを捕まえることに成功した。

 

けど、そこへいきなり巨大な黒い犬がロンを目掛けて飛びかかってきた。

あのホグズミードの野良犬だ。

私、ハーマイオニー、ハリーは、3人がかりでロンに食らいつく犬を引き剥がしにかかる。

けど、無理だった。

 

犬はロンの腕をくわえて引きずっていく。

 

するといきなり頭上から、ビュン! と音がして、何かが飛んで来た。

私は、とっさに地面に伏せた。

 

って、ここ、暴れ柳の真下じゃないか!!

 

暴れ柳の枝がバシッと、思いっきり私の左腕にヒットした。

うぅ、痛い、痛すぎる……。

私は痛む腕をかばいつつ、よろよろ立ち上がる。

骨は折れてなさそうだけど、腕に力が入らない。

 

そうこうしているうちに、黒犬は柳の根元の穴にロンを引きずり込んでいった。

それを追うように、クルックシャンクスがするりと柳の下の穴に入り込む。

 

「助けを呼ばなくちゃ!」

ハーマイオニーが叫んだ。

 

「ダメだ。あいつはロンを食ってしまうほど大きいんだ。そんな時間はない」

ハリーが止めた。

 

待てよ、暴れ柳といえば……私の記憶が確かなら……。

 

「これでどうだ!!」

私はムチのように飛びかかってくる枝をかいくぐって、根元にあるコブを杖で突いた。

 

柳はピタリと動きを止めた。

 

「レイ? 今、あなた何をしたの?」

「どうして、暴れ柳の止め方がわかったんだい?」

ハーマイオニーとハリーは不思議そうに私を見た。

 

「説明は後。とにかくロンを助けなきゃ!」

私はそう言って、暴れ柳の根元の穴に入り込んだ。

ハリーとハーマイオニーも後に続いた。


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