試験最終日の午前中は、闇の魔術に対する防衛術だった。
試験は外で行なわれた。
父さんが課題を説明する。
「これから、障害物レースをやってもらう。障害物のかわし方と全体のタイムで採点するからね」
みんなが不安そうにしていたら、父さんは笑った。
「大丈夫。授業をちゃんと受けていれば、できるよ」
それから私達は、順番を決めるクジを引かされた。
運悪く、私はなんと1番目になってしまった。
私は父さんの方をちらっと見た。
すると父さんはニコッと笑って、口パクで「が・ん・ば・れ」と言った。
もしかして、父さん楽しんでる?
まさか私がトップバッターになるように、クジに細工したんじゃないだろうな?
いや、父さんのことだから、それは無い…………よね?
まあいいや、もうなるようになれ!
「用意、スタート!」
父さんがストップウォッチ片手に合図した。
私は杖を構えてコースに出た。
まず、水魔グリンデローのいるプールを渡る。
プールの3分の1あたりまで来ると、さっそくグリンデローの長い指にグイッと足をつかまれた。
「Relashio!」
私は冷静に杖を向け、足をつかんでいるグリンデローの指を攻撃した。
グリンデローの指があっさり折れ、足が自由になる。
私は一気にスピードを上げ、プールを渡り切った。
次の赤帽鬼が潜む穴だらけのエリアは、姿勢を低くし、鬼が振り回す棍棒を避けて走り抜けた。
おいでおいで妖精も、何とか道に迷わされずに通過。
そして、最後に巨大なトランクの前にたどり着く。
トランクには「中に入って敵を倒すこと」と書かれてあった。
私は恐る恐るフタを開ける。
「ひぃい!!」
私は反射的にフタを閉めた。
何でマムシの大群が入ってんだよっ!!?
待て、落ち着こう。
落ち着け、落ち着くんだ、如月伶。
父さんは「授業をちゃんと受けていればできる」って言った。
今までの授業を思い出そう。
授業で蛇がでてきたのは…………あ!
これ、まね妖怪か?
私は、思い切って再びフタを開けてトランクの中に入った。
そして、マムシの大群に杖を向けて叫ぶ。
「Riddikulus!」
パチン! と音がして、マムシはロープに変わる。
そして、クネクネと「snake (ヘビ)」という単語をつづった。
よっしゃ、成功だ!!
私がトランクから出たら、父さんがにっこり笑ってくれた。
「伶、満点だ。タイムは13分24秒」
早々と試験が終わった私は、みんなが四苦八苦する様子をのんびり眺めることができた。
一番上手くやったのは、ハリーだ。
彼は障害を全部完璧にクリアし、しかも11分58秒というダントツの好タイムを叩き出した。
おかげで私は2位になってしまい、ちょっと悔しかったよ。
ロンはおいでおいで妖精に引っかかり、泥沼にハマってしまった。
ハーマイオニーは、ほぼ完璧だった。
しかし、最後のトランクで泣きながら出てきた。
彼女のまね妖怪は、なんと「貴女は全教科落第です!」と宣言するマクゴナガル先生に変わってしまったらしい。
試験後、ロンはそのことでハーマイオニーをからかいまくったのは言うまでもない。
闇の魔術に対する防衛術の試験を終えた私達は、昼食をとるため校舎へ向かう。
その途中、正面玄関でイギリス魔法大臣のコーネリウス・ファッジに出くわした。
「やあ、ハリー! 試験を受けてきたのかね?」
ハリーが「はい」と答える。
すると、今度はファッジは私を見つけた。
「おや、君は日本のキサラギ大臣のお孫さんじゃないか。去年、日本の魔法学校から、ホグワーツに編入したんだったね……名前は『レイ』だったかね?」
「はい。お久しぶりです、大臣」
私はお辞儀した。
ファッジには、日本のお祖父ちゃんの家で会ったことがある。
で、ファッジは何故ここにいるのかというと、バックビークの処刑に立ち会う為だという。
後ろには、巨大な斧を持った死刑執行人がいた。
ああ、本当に控訴裁判なんて、形だけなんだ。
昼ご飯を食べて、私達は最後の試験に向かった。
私とハーマイオニーはマグル学、ハリーとロンは占い学だ。
マグル学の試験問題は「マグルが夏を涼しく過ごす工夫について述べよ」だった。
[……夏を涼しく過ごすため、日本のマグルは昔から「打ち水」をする。夏の暑い日に地面に水をまいて、気化熱を利用し、温度を下げるのだ。打ち水は、早朝または夕方にすると効果的で……]
早々と答案を書き上げた私は、バックビークの裁判が気になって仕方なかった。
「ハイ、試験終了。Accio!」
バーベッジ先生が、呼び寄せ呪文で解答用紙を集めた。
その瞬間、私とハーマイオニーは荷物をまとめて教室を飛び出し、ハグリッドの小屋へ走った。
ところが、その途中、ハリーの梟のヘドウィグが手紙を持って飛んできた。
【レイ、ハーマイオニー。ハグリッドからよ。本当はハリーに直接渡したかったんだけど、まだ試験中のようだから……】
手紙にはハグリッドの震える字で、裁判に負けたこと、日没にバックビークが処刑されることが書かれてあった。
私の肩に止まったヘドウィグは、羽をパタパタさせて気の毒そうな様子だ。
【手紙を預かった時、ハグリッドは完全に放心状態だったわ。私、見ていられなかったの】
ヘドウィグの言葉を訳して伝えると、ハーマイオニーも気の毒そうな顔になった。
そして、私とハーマイオニーは一言も話さずグリフィンドール寮に戻った。
間もなくロンが戻ってきて、しばらくしてハリーも戻ってきた。
裁判の結果を知ってロンは死んだ目になり、ハリーは「ハグリッドの所へ行こう」と言い出した。
夕食後、私、ハリー、ハーマイオニー、ロンはみんなに見つからないように寮を抜けた。
そして誰もいない小部屋に入り、ハリーの透明マントをかぶって姿を隠した。
話には聞いていたけど、私が実際に透明マントをかぶるのは初めてだった。
透明マントは水みたいな不思議な感触の銀色の布で、とても軽かった。