レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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35・不安

試験最終日の午前中は、闇の魔術に対する防衛術だった。

試験は外で行なわれた。

 

父さんが課題を説明する。

「これから、障害物レースをやってもらう。障害物のかわし方と全体のタイムで採点するからね」

 

みんなが不安そうにしていたら、父さんは笑った。

「大丈夫。授業をちゃんと受けていれば、できるよ」

 

それから私達は、順番を決めるクジを引かされた。

運悪く、私はなんと1番目になってしまった。

 

私は父さんの方をちらっと見た。

すると父さんはニコッと笑って、口パクで「が・ん・ば・れ」と言った。

 

もしかして、父さん楽しんでる?

まさか私がトップバッターになるように、クジに細工したんじゃないだろうな?

いや、父さんのことだから、それは無い…………よね?

 

まあいいや、もうなるようになれ!

 

「用意、スタート!」

父さんがストップウォッチ片手に合図した。

 

私は杖を構えてコースに出た。

 

まず、水魔グリンデローのいるプールを渡る。

プールの3分の1あたりまで来ると、さっそくグリンデローの長い指にグイッと足をつかまれた。

 

「Relashio!」

私は冷静に杖を向け、足をつかんでいるグリンデローの指を攻撃した。

 

グリンデローの指があっさり折れ、足が自由になる。

私は一気にスピードを上げ、プールを渡り切った。

 

次の赤帽鬼が潜む穴だらけのエリアは、姿勢を低くし、鬼が振り回す棍棒を避けて走り抜けた。

おいでおいで妖精も、何とか道に迷わされずに通過。

 

そして、最後に巨大なトランクの前にたどり着く。

トランクには「中に入って敵を倒すこと」と書かれてあった。

 

私は恐る恐るフタを開ける。

 

「ひぃい!!」

私は反射的にフタを閉めた。

何でマムシの大群が入ってんだよっ!!?

 

待て、落ち着こう。

落ち着け、落ち着くんだ、如月伶。

父さんは「授業をちゃんと受けていればできる」って言った。

今までの授業を思い出そう。

 

授業で蛇がでてきたのは…………あ!

これ、まね妖怪か?

 

私は、思い切って再びフタを開けてトランクの中に入った。

そして、マムシの大群に杖を向けて叫ぶ。

「Riddikulus!」

 

パチン! と音がして、マムシはロープに変わる。

そして、クネクネと「snake (ヘビ)」という単語をつづった。

よっしゃ、成功だ!!

 

私がトランクから出たら、父さんがにっこり笑ってくれた。

「伶、満点だ。タイムは13分24秒」

 

早々と試験が終わった私は、みんなが四苦八苦する様子をのんびり眺めることができた。

 

一番上手くやったのは、ハリーだ。

彼は障害を全部完璧にクリアし、しかも11分58秒というダントツの好タイムを叩き出した。

おかげで私は2位になってしまい、ちょっと悔しかったよ。

 

ロンはおいでおいで妖精に引っかかり、泥沼にハマってしまった。

 

ハーマイオニーは、ほぼ完璧だった。

しかし、最後のトランクで泣きながら出てきた。

彼女のまね妖怪は、なんと「貴女は全教科落第です!」と宣言するマクゴナガル先生に変わってしまったらしい。

 

試験後、ロンはそのことでハーマイオニーをからかいまくったのは言うまでもない。

 

闇の魔術に対する防衛術の試験を終えた私達は、昼食をとるため校舎へ向かう。

 

その途中、正面玄関でイギリス魔法大臣のコーネリウス・ファッジに出くわした。

「やあ、ハリー! 試験を受けてきたのかね?」

 

ハリーが「はい」と答える。

 

すると、今度はファッジは私を見つけた。

「おや、君は日本のキサラギ大臣のお孫さんじゃないか。去年、日本の魔法学校から、ホグワーツに編入したんだったね……名前は『レイ』だったかね?」

「はい。お久しぶりです、大臣」

私はお辞儀した。

ファッジには、日本のお祖父ちゃんの家で会ったことがある。

 

で、ファッジは何故ここにいるのかというと、バックビークの処刑に立ち会う為だという。

後ろには、巨大な斧を持った死刑執行人がいた。

 

ああ、本当に控訴裁判なんて、形だけなんだ。

 

昼ご飯を食べて、私達は最後の試験に向かった。

私とハーマイオニーはマグル学、ハリーとロンは占い学だ。

 

マグル学の試験問題は「マグルが夏を涼しく過ごす工夫について述べよ」だった。

 

[……夏を涼しく過ごすため、日本のマグルは昔から「打ち水」をする。夏の暑い日に地面に水をまいて、気化熱を利用し、温度を下げるのだ。打ち水は、早朝または夕方にすると効果的で……]

 

早々と答案を書き上げた私は、バックビークの裁判が気になって仕方なかった。

 

「ハイ、試験終了。Accio!」

バーベッジ先生が、呼び寄せ呪文で解答用紙を集めた。

その瞬間、私とハーマイオニーは荷物をまとめて教室を飛び出し、ハグリッドの小屋へ走った。

 

ところが、その途中、ハリーの梟のヘドウィグが手紙を持って飛んできた。

 

【レイ、ハーマイオニー。ハグリッドからよ。本当はハリーに直接渡したかったんだけど、まだ試験中のようだから……】

 

手紙にはハグリッドの震える字で、裁判に負けたこと、日没にバックビークが処刑されることが書かれてあった。

 

私の肩に止まったヘドウィグは、羽をパタパタさせて気の毒そうな様子だ。

【手紙を預かった時、ハグリッドは完全に放心状態だったわ。私、見ていられなかったの】

 

ヘドウィグの言葉を訳して伝えると、ハーマイオニーも気の毒そうな顔になった。

 

そして、私とハーマイオニーは一言も話さずグリフィンドール寮に戻った。

間もなくロンが戻ってきて、しばらくしてハリーも戻ってきた。

 

裁判の結果を知ってロンは死んだ目になり、ハリーは「ハグリッドの所へ行こう」と言い出した。

 

夕食後、私、ハリー、ハーマイオニー、ロンはみんなに見つからないように寮を抜けた。

そして誰もいない小部屋に入り、ハリーの透明マントをかぶって姿を隠した。

 

話には聞いていたけど、私が実際に透明マントをかぶるのは初めてだった。

透明マントは水みたいな不思議な感触の銀色の布で、とても軽かった。

 


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