レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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33・ハーマイオニーの失敗

 

次に魔法生物飼育学の授業で会った時、ハグリッドはすっかりしょげていて、授業もボロボロだった。

ハグリッドは「ビーキーに残された時間を思いっきり幸せなもんにしてやるんだ」と言いながら、巨大なハンカチで顔を覆って泣いていた。

 

授業の後、マルフォイはハグリッドを馬鹿にして、ヘラヘラとこう言った。

「見ろよ、あの泣き虫! あんな情けないものを見たことがあるか? しかも、あいつが僕達の先生だって!」

 

ハリーとロンはマルフォイにつかみかかろうとした。

 

私は冷たい目でマルフォイを二らんで、ボソッとつぶやく。

「マルフォイ、どの口がそれを言うのかな? ハグリッドが、ああなったのは、全部君のせいだ」

 

「黙れ、キサラギ。そもそもあんな野蛮なヒッポグリフを授業で扱うこと自体が、」

 

パンっ!

 

マルフォイの台詞をさえぎったのは、ハーマイオニーの鋭い平手打ちだった。

 

引っ叩かれたマルフォイは、バランスを崩してよろける。

 

私、ハリー、ロンは固まった。

後ろで、マルフォイの手下のクラッブとゴイルも固まっている。

 

ハーマイオニーが、再びマルフォイを引っ叩いた。

 

ロンが慌ててハーマイオニーを止めようとした。

けど、ハーマイオニーはロンの制止を振り払って、今度は杖を取り出し、マルフォイに突きつける。

 

うわ、さすがにコレはヤバイ!

 

私は杖を取り出し、呪文を唱える。

「Expelliarmus!」

 

ハーマイオニーの杖が宙を舞い、私の手に収まった。

 

顔を真っ赤にさせてハーマイオニーは叫ぶ。

「レイ! 杖を返して!!」

「ハーマイオニー、もう充分だ」

私はハーマイオニーの肩に手を置いた。

 

見ると、マルフォイ達はワナワナ震えながら、地下牢の方へ去っていくところだった。

 

気付けば、次の呪文学まで時間がない。

私達4人は必死で教室へ続く階段を駆け上がった。

 

教室のドアを開けると、授業はもう始まっていた。

「3人とも、遅刻だよ!」

フリットウィック先生が、教卓に積み上げた本の上から叱る。

 

あれ……今、先生は「3人」って、言わなかった?

 

ロンが振り返る。

「ハーマイオニーはどこに行ったんだろう?」

 

私とハリーも辺りを見回したけど、姿は見えなかった。

 

この日の授業は「元気の出る呪文」だった。

元気の出る呪文といえば、授業初日にフレッドとジョージが父さんにかけようとして、返り討ちにあっていたのを思い出すな。

 

それにしても、ハーマイオニーはどうしたんだ?

まあ、いくらなんでも昼食には出てくるかな?

 

ところが授業が終わり、昼食の時間になってもハーマイオニーは現れなかった。

 

心配になった私達は、とりあえず寮に戻ってみた。

 

談話室にハーマイオニーはいた。

数占い学の教科書を枕にして居眠りをしている。

 

ハリーがそっと突ついて起こすと、ハーマイオニーは目をパチクリさせた。

「今度は何の授業だっけ?」

 

私はマグル学、ハリーとロンは占い学だと答える。

すると、ハーマイオニーはいきなり「呪文学に行くのを忘れた」と言って慌てだした。

 

けど、妙だな。

私達は呪文学の教室のすぐ側まで一緒にいたのに、どうして呪文学に行くのを「忘れる」んだ?

 

ロンもそのことが気になったらしく、ハーマイオニーに尋ねていた。

 

「ちょっとミスしたの。それだけよ! 私、今からフリットウィック先生のところへ行って、謝ってこなくちゃ……じゃあ、ハリーとロンは占い学、レイはマグル学で会いましょう!」

そう言ってハーマイオニーは、バタバタと談話室を出て行った。

 

その後、ちゃんとハーマイオニーは、マグル学に出てきた。

 

ただし、相変わらず落ち込んだ様子だった。

いつもならガンガン手を上げて点を稼ぐのに、今日の授業では一言も発言しなかったんだ。

そんなハーマイオニーを見て、晶やアーニー・マクミラン、そしてバーベッジ先生までもが、首をかしげていた。

 

「後で欠席した呪文学の内容を教えてあげるから、元気出して」

マグル学の授業が終わって寮に帰りながら私がそう言ったら、やっとハーマイオニーの顔が少し明るくなった。

 

だけど、角を曲がって寮の入口に着くと、ハーマイオニーは消えていた。

「あれれ? ハーマイオニー?」

キョロキョロとあたりを見回す。

 

すると、何故か私が歩いてきたのと反対の方角からハーマイオニーが現れた。

え、今のどうなってんだ?

 

「レイ、私はここよ! 私、占い学を辞めたわ!」

ハーマイオニーは、妙にスッキリした顔で言う。

 

「え、占い学、辞めた? 大丈夫なの?」

私が声を上げると、ハーマイオニーはとびっきりの笑顔で「ええ」とだけ答えた。

 

もしかすると、ハーマイオニーは、占い学のシビル・トレローニー教授と揉めて、辞めたのかもしれない。

ハリーやロンによれば、ハーマイオニーとトレローニー教授は犬猿の仲だっていうし。

 

放課後、私とハーマイオニーは部屋で「元気の出る呪文」を練習した。

まずは私がお手本を見せる。

ハーマイオニーと向かい合った私は、杖を真上に向け、大きく時計回りに3回、円を描くように動かす。

自分の中にあるエネルギーを、杖先に集めていくイメージだ。

 

そして呪文を唱え、呪文を掛ける相手の頭へふわりと乗せてあげるように杖を降ろす。

この時、杖を勢いよく振り降ろしちゃうと、呪文が効き過ぎて笑いが止まらなくなるんだよね。

 

「ハーマイオニー、気分はどう?」

 

「なんだか、体がじんわり温かくなった気がするわ!レイ、私もやってみていい?」

 

やっとハーマイオニーに、いつもの調子が戻った。

早く呪文を覚えたくてたまらないという顔だ。

 

よっしゃ大成功だ!

 

さすが学年首席。

ハーマイオニーはたった2回の練習で、元気の出る呪文を完璧にマスターしてしまった。

 

私なんて4回目、ハリーは7回、ロンは8回目で、やっとできるようになったのに!


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