レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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32・ムーニー、プロングズ、パッドフット、ワームテイル

私達が暖炉から出てくると、そこには仁王立ちしたスネイプと、縮こまって椅子に座るハリーがいた。

ハリーは助けを求めるように、私と父さんを見た。

 

どうやら、ここはスネイプの部屋らしい。

 

父さんは穏やかに言う。

「セブルス、呼んだかい?」

「いかにも」

 

スネイプは私を見つけた。

「ルーピン、こやつも一緒なのかね? なら好都合」

 

何だよ、好都合って!?

本当に今回、私は何もしてないんだってば!

 

「キサラギ 。今日はホグズミードに行ったかね?」

スネイプが薄笑いを浮かべて私に尋ねた。

 

「ええ。ハニーデュークにチョコレートを買いに行きましたが?」

どうして、そんなことを聞くんだ?

 

「ポッターを見かけなかったかね?」

「いいえ、見てません。ミスター・マルフォイ達は見まかけましたし、ロンにも会いましたが……というか、ハリーには許可証がないから、ホグズミードに行けないはずですよ?」

 

私がそう言うと、スネイプが猫撫で声を出した。

 

「さよう。キサラギの言うとおり。ポッターはホグズミードに行くことを許されていない。頭はおろか、体のどの部分もだ!」

スネイプが勝ち誇ったような顔になる。

 

「なのに今日、ミスター・マルフォイが、ホグズミードで、ポッターの『生首』を目撃したという。何とも奇妙な話ではないと思わぬかね?」

 

「え、ハリーの生首?」

私は思わず尋ね返した。

 

まさかハリーは、透明マントを使って、こっそりホグズミードに行ったのか?

そして、何かの拍子に、うっかりマントが脱げかかって、その瞬間をマルフォイに見られたってこと?

 

「我輩はその話を聞き、すぐさまポッターを尋問した。そして出てきたのがこれだ」

スネイプは机の上の羊皮紙を指差した。

 

それを見て、私は危うく噴き出しそうになって、必死で笑いをかみ殺す。

 

[私、ミスター・ムーニーからスネイプ教授にご挨拶申し上げる。他人事に対する異常なお節介はお控え下さるよう、切にお願い致す次第]

 

[私、ミスター・プロングズもミスター・ムーニーに同意し、更に申し上げる。スネイプ教授はろくでもない、嫌な奴だ]

 

[私、ミスター・パッドフットは、かくも愚かしき者が教授になれたことに、驚きの意を記すものである]

 

[私、ミスター・ワームテイルがスネイプ教授にお別れを申し上げ、その薄汚いドロドロ頭を洗うようご忠告申し上げる]

 

ムーニー、プロングズ、パッドフット、ワームテイル。

この羊皮紙って、ひょっとして「忍びの地図」 なの!?

 

「さて、この羊皮紙には、まさに『闇の魔術』が詰め込まれている。ルーピン、君の専門分野だと拝察するが。ポッターが、どこでこれを入手したと思うかね?」

スネイプが意地悪い目で、父さんを見る。

 

どうする父さん!?

 

父さんは、ちらりとハリーを見てから答えた。

「『闇の魔術』が詰まっている? 本当にそう思うのかい? 単に無理に読もうとする者を侮辱する羊皮紙にしか見えないけど。子供騙しだが、決して危険じゃないだろう? ハリーは悪戯専門店で手に入れたと思うよ」

 

ははーん。

父さんは、羊皮紙を悪戯専門店の商品ってことにして、この場を切り抜ける作戦だね。

 

しかし、そうは問屋が卸さないセブルス・スネイプ。

「そうかね? むしろ、直に製作者から入手した可能性が高いとは思わんのか?」

 

スネイプは絶対に父さんを疑っている。

彼は父さんと同級生だから、「ムーニー」が父さんの学生時代のあだ名だと知ってても、不思議じゃない。

 

「ハリー、この中に知っている人はいるかい?」

父さんが羊皮紙の名前を指して尋ねる。

すると、ハリーは「いいえ」と即答した。

 

「キサラギ。お前はこの羊皮紙について、何か知っているか?」

スネイプが、今度は私に尋ねた。

 

ハリーの目が「助けて!」と言っている。

この話の流れなら「羊皮紙はホグズミードのお土産だった」としておくのが自然かな。

 

「それはゾンゴの商品ですね。ハリーは、ロンにお土産でもらったんですよ」

 

そこへグッドタイミングで、ロンがハァハァいいながら、駆け込んできた。

「それ、僕が、ハリーに、ゲホッ、あげたんです。ゾンゴで、ずいぶん前に、それを買い、ゲホッ、ました!」

ロンが咳きこみながら言った。

 

おおっ、ロンも上手く話を合わせてくれたぞ!!

 

ポンと父さんが手を叩いた。

「ほら! 伶とロンの証言が一致した。セブルス、これは私が引き取ろう。いいね?」

 

父さんは地図をローブのポケットにしまうと、私達3人を連れて、スネイプの部屋を出た。

 

玄関ホールまで来ると、父さんはハリーに言った。

「次はかばってあげられないよ」

ハリーが固まった。

 

「君のご両親は、君を生かすために自らの命を捧げた。それに報いるのに、これではあまりにお粗末だ。たかが魔法のおもちゃ一袋の為に、自分の身を危険にさらすなんて」

 

ハリーは唇をぐっと噛み締めていた。

さすがに、今の忠告はハリーの胸に刺さったらしい。

 

「ハリー、ロン。私は伶と少し話がある。先に寮に戻っていなさい」

 

ハリーとロンが行ってしまうと、父さんは声をひそめて日本語で私に尋ねてきた。

「《伶。君は知っていたね? ハリーが地図を持っていること》」

 

私は重たくうなずいてから言った。

「《地図は元々、フレッドとジョージが、フィルチさんの没収箱から手に入れたらしくて、それを彼らはハリーにあげたんだ。ハリーが最初に地図を使って学校を抜け出したのは、クリスマスの少し前だった。その時、私はすぐに父さんに報告すべきだった。そして、学校を抜け出そうとするハリーを、もっと本気になって止めるべきだったんだ……》」

 

ふぅ、と父さんはため息をつく。

「《別に、僕は伶を責めているわけじゃないよ?》」

 

そうは言われても、私は後悔していた。

マルフォイ達に見つかったり、スネイプに叱られるぐらいなら笑い話で済む。

けど、もし、ハリーがブラックに見つかっていたらと思うと、ぞっとした。

 

「《周りがいくら言っても、結局はハリーが自分の身を守ろうと思うかどうかだからね。もっとも、地図の作者の1人である僕に、そんなことを言う資格はないかもしれないけど》」

父さんは苦笑いを浮かべた。

 

「ああ、レイ! ハグリッドが! バックビークが!」

寮に戻ると、ハーマイオニーが泣きながら飛びついてきた。

そういえば、バックビークの裁判は今日だったんだ。

 

ハリーが私にぐしゃぐしゃの羊皮紙を渡す。

そこには、涙でにじんだハグリッドの字で、裁判の結果が書かれていた。

 

それを読んだ私は思わず叫んでいた。

「《『処刑』って! 有り得ない! 悪いのはハグリッドの注意を聞かずに、バックビークを怒らせたマルフォイの方だっつーの!!》」

 

「レイ。君、今、日本語でしゃべってた?」

ロンに言われて我に返った。

 

「あ、ゴメンゴメン……」

ついさっきまで父さんと日本語で話をしていたから、頭が英語モードに切り替わってなかったらしい。

 

それはともかく、まだ控訴が残っているとはいえ、バックビークの運命は決まったも同然だった。

 

こうして2月が過ぎ去り、私は14歳になった。

けど、今年は私の誕生日は来なかった。

何故なら、私の誕生日が4年に1度しかない2月29日だからなのだ。

そういえばロンの誕生日は、私と1日違いの3月1日らしい。


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