レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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30・レイブンクロー戦

レイブンクロー戦の日、空は青く晴れ渡っていた。

 

今回、補欠の私に出番はないようなので、観客として応援にまわることになった。

前回のように吸魂鬼が入り込んできた時の為に備え、ハリーにはチョコレートを渡しておいたけどね。

 

グリフィンドールの応援席に着くと、父さんが手を振っていた。

「やあ、伶に、ロン。ハリーがどんな活躍をするのか楽しみだね。ところで、ハーマイオニーは?」

 

「ジニーと一緒です」

私はスタンドの上の方を指差す。

ハーマイオニーはジニーと話していた。

 

ロンとハーマイオニーは、相変わらずギクシャクしていて、一緒に試合を観に行きたがらなかったんだ。

 

「ルーピン先生。あの、体は大丈夫ですか?」

ロンが父さんに尋ねる。

「心配いらないよ。絶好調だ」

父さんが笑顔で答え、私とロンは父さんと並んで座った。

 

試合の解説は、名物リー・ジョーダンだ。

「今回の試合の目玉は、何と言ってもグリフィンドールのハリー・ポッター乗るところのファイアボルトでしょう。『賢い箒の選び方』によれば………」

 

「ジョーダン、試合の方がどうなっているか解説してくれませんか?」

リーが箒の話ばかりしていたので、マクゴナガル先生に怒られている。

 

現在、クアッフルを手にしているのはケイティだ。

それとすれ違うように、ハリーとレイブンクローのシーカー、チョウ・チャンが飛んでいた。

チャンは小柄な4年生で、黒髪の美少女だ。

名前の感じからすると、中国系か韓国系の人らしい。

 

そうこうしていると、ケイティが先制点を決め、グリフィンドール席がワーッと歓声をあげた。

 

すると、レイブンクローのゴール付近を飛んでいたハリーが、一気に地面に向けて急降下を始めた。

スニッチを見つけたらしい。

ほとんど落下に近い勢いで、ハリーは地面を目指す。

 

さすが速いな、ファイアボルト!!

 

けど、そのハリーをピッタリとマークしてくるチョウ・チャンの腕も大したものだ。

 

でも、あと少しでスニッチに手が届きそうなところで、ハリーは敵のブラッジャーに邪魔された。

ハリーはスレスレで、ブラッジャーの直撃を避ける。

 

「うわ、危なっ!」

私は思わず声を上げた。

「惜しい。あと少しだったな」

「なんだよ、あのレイブンクローのビーター!」

父さんとロンも、仲良く悔しがっていた。

 

「それにしても、ハリーの飛行センスは天才的だね。さすがジェームズの息子だ」

父さんが空を見て言った。

 

「先生は、ハリーのパパを知ってるんですか?」

ロンが尋ねると、父さんは懐かしそうに答える。

 

「私とジェームズは同級生だった。寮の部屋も一緒で、親しくしていたんだ。ジェームズもクィディッチが上手かったよ。あの頃のグリフィンドールチームは無敵だった。伶の母親の梓も選手でね、ビーターをしていたんだ。素晴らしい選手だった」

 

「じゃあ先生は、レイのパパも知ってるんですね?」

え、ロン、何を尋ねちゃってるの?

 

「レイが言ってました。自分のパパとハリーのパパは仲良しだったって。先生はハリーのパパの友達でしょ? だったら、レイのパパも知ってますよね? どんな人なんですか?」

 

父さんが気まずそうに私を見た。

 

下手に口を開くと墓穴を掘りそうなので、私は黙っておこうっと。

 

さて、父さんはどう返すのかな?

 

「確かに。私は伶の父親をよく知っている……」

よく知っているどころか、本人です。

 

「伶の父親は監督生だった。ハリーのお父さん達は、大変なイタズラっ子でね、それを止めるために監督生に選ばれたんだけど、全然止められなくてね……」

 

父さんが監督生だったのは本当だ。

ちなみに、女子の監督生はハリーのお母さんだったらしい。

 

そんな話をしているうちに、レイブンクローのチェイサーが3回得点を決めてきた。

その間、ハリーはもう1度スニッチを見つけたようだったけど取り損ねた。

 

「ハリー、紳士面してる場合じゃないぞ! 相手を箒から叩き落とせ!やるときゃやるんだ!」

キャプテンのオリバーの雄叫びが観客席まで響いてきた。

 

それを聞いたハリーは、ついに本気になった。

 

ハリーは、レイブンクローの陣地の上空でスニッチを見つけると、一気に高度を上げた。

少し遅れ、チョウ・チャンもハリーを追いかけ上昇する。

 

するとチョウ・チャンが急に上昇をやめて、下を指差した。

チョウ・チャンが指差した方向には、黒いローブの吸魂鬼が3体いた。

うわ、前の試合で、ダンブルドア校長があれだけ激怒したにも関わらず、またしても校内に入り込んで来たのか?

 

だけど、不思議なことに、吸魂鬼が現れたというのに、寒気もしないし、鳥肌も立たなかった。

 

一方、ハリーは懐から杖を取り出し、迷わず叫ぶ。

「Expecto patronum!」

 

3体の吸魂鬼は、ハリーの杖先から出た白銀の物体に吹っ飛ばされ、地面に崩れ落ちる。

 

黒いローブの裾から、靴を履いた足が見えた。

 

え、足?

 

ピーッとホイッスルが鳴る。

ハリーがスニッチを捕まえたようだ。

 

観客席からは、大きな大きな歓声が上がった。

私、ロン、父さんは再びハイタッチをする。

ロンは一目散にハリーのもとへ駆けていった。

 

残された私は、ゆっくりグラウンドへ降りて行きながら、日本語で父さんに尋ねた。

「《父さん、あの吸魂鬼、ちょっと変じゃない? 吸魂鬼に足なんて無いよね?》」

 

日本語で父さんも返す。

「《うん、吸魂鬼に足は無いね。おや、あれは?》」

父さんは倒れた吸魂鬼を指差した。

 

あっ、そういうことだったんだ!

 

あの吸魂鬼は真っ赤な偽物。

道理で、寒気もしないし、鳥肌も立たなかったわけだね。

 

グラウンドに着くと、既にハリーはたくさんの人に囲まれていた。

ロンが「いえーい!」とハリーの手を持ってバンザイしている。

パーシーやシェーマス、ハグリッドもいた。

 

「ハリー、おめでとう。素晴らしい試合だったよ」

私もハリーの肩をポンポン叩いた。

 

「立派な守護霊だったよ」

父さんがハリーにそう言うと、ハリーは得意げに答えた。

「吸魂鬼の影響は全くありませんでした! 僕、平気でした!」

 

やや決まり悪そうに、父さんが言った。

「それはたぶん、実はあいつらは……吸魂鬼じゃなかった」

 

「ハリー、こっちに来て」

私はクスクスと笑いながら、ハリーの手を引き、偽・吸魂鬼がよく見えるところへ連れて行った。

 

「君はマルフォイ君を随分怖がらせたようだよ」

父さんの目線の先には、モゴモゴと動く黒いローブの塊。

 

ローブの中には、マルフォイ、クラッブ、ゴイル、そしてスリザリンキャプテンのマーカス・フリントが入っていた。

つまり、この4人が吸魂鬼の格好をして、ハリーを驚かそうとしたんだ。

で、みっともなく返り討ちにあったってわけだ。

 

マルフォイ達の側には、鬼の形相のミネルバ・マクゴナガル女史が立っていた。

彼女の雷が偽・吸魂鬼一味に落ちたのは言うまでもなく、スリザリンは50点減点された。

 

レイブンクロー戦の祝勝会は最高に盛り上がり、お開きになった時には、とっくに日付が変わっていた。


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