レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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29・箒とチョコレート

年が明け、冬休みも終わりに近づくと、帰省していた生徒達が戻ってきた。

 

キャプテンのオリバーは、ハリーにファイアボルトが贈られたと知って大興奮だった。

でも、マクゴナガル先生が検査の為に箒を預かっていると知ると、「返してもらうよう説得する!」と言い出した。

だけど、オリバーの説得はあっさり失敗し、箒は戻らなかった。

 

新学期が始まった。

父さんは、木曜日からいよいよハリーの吸魂鬼対策訓練を始めるそうだ。

訓練では、大量のチョコレートが必要になるらしい。

父さんから「ホグズミード休暇の時は、チョコレート」を大量に買ってきて欲しいと頼まれた。

 

そして、最初の訓練が行われた夜。

ハリーはぐったり疲れきって、寮に戻ってきた。

 

「守護霊を作り出すには、何か幸せなことを考えなきゃいけないんだ。けど、強力な思い出じゃないと、守護霊は上手くできないんだ」

ハリーはそう語った。

 

訓練は本物の吸魂鬼ではなく、まね妖怪を使って行われたようだ。

 

どうやら、まね妖怪はハリーの前で吸魂鬼になるようで、それを父さんを上手く利用したらしい。

さすがに本物の吸魂鬼は危な過ぎるもんね。

 

でも、いくら正体がまね妖怪とはいえ、ハリーは吸魂鬼を目の前にして、平気でいられなかったようだ。

彼は吸魂鬼の前で、ご両親の最期の声を聞いた……いや、正確には思い出したんだ。

 

「父さんの声が聞こえた。父さんは母さんを逃がそうと、1人でヴォルデモートに立ち向かっていった……そう話したら、ルーピン先生はひどく心を痛めていたように見えたんだ」

 

父さんが、心を痛めたのは間違いないと思う。

きっと父さんなら、そんな話を聞いて、平気でいられないもんな。

 

1月も半ばを過ぎると、優勝を絶対に逃したくないオリバーは、練習を週5回に増やした。

もちろん、補欠の私だって例外じゃない。

授業とほぼ毎日の練習で、私はクタクタだった。

 

だけど、正選手で、しかも吸魂鬼対策があるハリーは、もっとキツそうに見えた。

守護霊の呪文は本当に難しいらしく、なかなか上手くいかないことにハリーは焦っているようだった。

 

だけど、父さんは「ハリーはなかなか筋が良いらしい。このままの調子でいけば、きっと守護霊を出せるようになる」と言っていたので、大丈夫だと思うけどね。

 

けど、ハリーの更に上を行く忙しさだったのが、選択教科を取りに取りまくっているハーマイオニーだ。

いつも大量の教科書でパンパンの鞄を持ち歩いていたし、毎晩日付けが変わる時間を過ぎても、ずっと起きて机に向かっていた。

食事中でさえ本にかじり付いて、何かの公式をブツブツ唱えて暗記していたり、あるいは羊皮紙に書き込みをしていたり。

 

それに、ヒッポグリフの裁判の準備も平行してやっていて、しょっちゅうハグリッドの小屋にアドバイスに行っていたらしい。

 

ハーマイオニーに「少しは休んだら?」と言ったら、「心配しなくていいのよ」って返ってきた。

 

冗談抜きに過労死が心配だ。

 

2月に入り、レイブンクロー戦が近づいてきた。

ファイアボルトの検査はまだ終わっていないようだ。

 

ハリーは何度も何度も、マクゴナガル先生にいつ箒が帰ってくるのかを尋ねて彼女をうんざりさせていた。

 

私も何度か父さんに検査の状況を聞いたけど「ごめん。まだかかるみたいだよ」と、いつも苦笑いで返された。

 

そんな中、ホグズミード休暇のたびに、私はハニーデュークスで、片っ端からチョコを買い漁っていた。

一応、ハリーの訓練の為に、父さんから頼まれて買ってるんだけど、何せチョコが数百種類もあるので、チョコレート大好きな私は選ぶのがとても楽しかった。

 

「レイ、いつもそんなにチョコレートをたくさん買って、全部ひとりで食べるのか?」

なんてロンにツッコまれたけどね。

 

チョコレートと言えば、バレンタイン。

父さんにはハニーデュークスの高級トリュフチョコ詰め合わせをあげた。

ハリー、ロン、晶には蛙チョコにしといたけどね。

 

ただし、ここイギリスだと、日本のようにバレンタインにチョコレートを贈り合う習慣はなくて、カードを贈ったりするんだよね。

 

ハリー達に去年のバレンタインがどうだったか聞いてみたら「大変だったよ。ロックハートがいろいろやらかして……」と遠い目をされた。

ロックハートというのは、父さんの前任の「闇の魔術に対する防衛術」の先生らしい。

なんでも、大広間にハートを降らせ、小人にカードを配達させて大騒動だったんだとか。

 

青龍学院の去年のバレンタインは楽しかったよ。

学院長の思いつきで、全校生徒・全職員が総出で、チョコレートやお菓子を使って「姫路城」を作ったんだ。

学院で事務や雑用をやっている式神や妖(あやかし)にも手伝ってもらって、高さ5mもある立派なものができた。

 

ちなみに、去年、青龍学院で一番たくさんチョコレートをもらったのは、うちの父さんだった。

その数、なんと145個!

独身(一応、子持ちだけど)の英国紳士な父さんは、モテモテだった。

 

バレンタインが終わって数日後のことだった。

 

私は談話室で宿題の山と格闘していた。

今やっているのは、マグル学の「マグルはなぜ電気を必要とするか説明せよ」という作文だ。

マグル学のバーベッジ先生はいい先生だけど、困ったことに長いレポートを書かせるのが大好きなんだ。

 

[……マグルは冷暖房や明かり、料理、掃除、洗濯など、さまざまなことに電気で動く機械を使っている。また「電話」などの通信手段にも電気を使った機械が使われている。だから、電気がなくなると、現代のマグルの生活はできなくなり……]

 

隣では、ハーマイオニーが古代ルーン語の文章とにらめっこしている。

テーブルには、既にハーマイオニーが書き上げたマグル学の作文、数占いのレポート、参考書やらが広がっていた。

 

しばらく宿題をやっていると、寮の入口が急に騒がしくなってきた。

ハリーがファイアボルトを持って帰ってきたのだ。

長い長い検査が終わり、安全が確認できたらしい。

 

よーし、レイブンクロー戦に間に合ったぞ!

 

「言っただろう? ハーマイオニー、レイ。なーんにも変なとこはなかったんだ!」

何故かロンが大威張りしていた。

 

「あら、あった『かも』しれないじゃない」

「私もそう思うよ。それに結局、贈り主が誰だかは謎のままなんでしょ? まあ、少なくとも、箒が安全だってことだけは、わかったようだけど」

ハーマイオニーと私は言い返す。

 

「僕、箒を寝室に持っていくよ」

ハリーがそう言うと、ロンが「僕が持っていく!」と言い、ファイアボルトを大事そうに持って、男子寮に上がっていった。

 

うっ、アぁーーーーーっ!!!

 

その直後、叫び声が聞こえた。

 

私、ハーマイオニー、ハリーはいっせいに男子寮に続く階段を見た。

するとベッドのシーツを引きずったロンが、すさまじい勢いドタドタと、談話室に駆け下りてきた。

 

「スキャバーズが! 見ろ! スキャバーズが!」

ロンがハーマイオニーの目の前でシーツを振り回して叫んだ。

白いシーツには、点々と赤黒いシミがついていた。

 

「血だ! スキャバーズがいなくなった! それで、床に何があったかわかるか?」

ロンが何かをハーマイオニーの宿題の上にバラまいた。

 

長いオレンジ色の毛だった。

 

オレンジ色の毛、シーツに血、スキャバーズがいない。

 

まさか!

 

とうとう、クルックシャンクスが、スキャバーズを食べてしまったんだろうか!?

 

状況が悪過ぎた。

 

ロンは、スキャバーズがクルックシャンクスに食べられたと確信して、ハーマイオニーを責めていた。

今度こそ、2人の仲は修復不可能に思えた。

 

スキャバーズを失って、ロンはしょげていた。

私やハリー、そしてフレッドやジョージ、ジニーがロンを慰めていたけど、効果なしだ。

 

そこでハリーは、とっておきの手段に出た。

クィディッチの練習にロンを呼んだのだ。

練習後に、ロンにファイアボルトを乗せてあげるつもりらしい。

 

「ハリー、私もファイアボルトに乗っていいかな?」

私も調子に乗って尋ねてみた。

「もちろんだよ。レイはずっと僕に箒を貸してくれたんだから。今までありがとう」

ハリーは快くOKを出してくれた。

 

ファイヤボルトに乗ったハリーは、最高に調子が良かった。

これなら、レイブンクロー戦も勝利間違いなしだな。

 

練習後、ロンと私は交代でファイアボルトに乗せてもらった。

 

ファイアボルトの加速力は抜群だった!

それに、ターンでもスピードが全然落ちない。

 

けど、あまりに思い通りに飛ぶので、ちょっとした操作ミスが命取りになりそうだ。

私には、やっぱり慣れ親しんだ空龍が一番だなって思った。


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