あれからハーマイオニーとロンは、口をきかなかった。
最初こそ私とハリーは、2人をとりなそうとしたけど、ハーマイオニーもロンも一歩も譲らない。
ハリーは、2人が出す気まずい空気をファイアボルトを眺めることでごまかしていた。
私はお祖父ちゃんからもらったチョコをつまみながら、叔父さんからもらった本を読んでいた。
やっと昼食の時間になった。
大広間に入ると、晶を発見したので、プレゼントの手袋を渡す。
「《お前、編物上手いもんなぁ。サンキュー!大事に使わせてもらうぜ》」
晶は日本語で、笑顔でお礼を言った。
食事に来たのは職員と生徒を合わせて12人。
満月のせいか、父さんの姿はなかった。
ダンブルドア校長の「メリー・クリスマス!」の挨拶で、宴会が始まる。
七面鳥やローストポテト、チポラータソーセージなど、料理もクリスマスムード満点だ。
しばらく料理を楽しんでいると、急に大広間の扉が開いた。
そして、スーッとスパンコールだらけの緑のドレスを着た痩せた知らない女性が入ってきた。
腕や首には、ジャラジャラとアクセサリーをつけまくっている。
しかも、牛乳瓶の底のような分厚いレンズのメガネをかけていて、まるで巨大なトンボだ。
なんだか、胡散臭さが服を着て歩いてるって感じだな。
横で、ハーマイオニーが顔を思い切りしかめた。
ダンブルドア校長が立ち上がる。
「シビル、これはお珍しい!」
この女性こそ、ハーマイオニーの天敵、占い学教授シビル・トレローニーらしい。
ダンブルドア校長が杖を振り、スネイプとマクゴナガル先生の間に椅子を出し、トレローニー先生の席を準備した。
ところが彼女はテーブルを見渡した途端、アッと声をあげた。
「校長先生、あたくし、とても座れませんわ! あたくしがテーブルに着けば、13人になってしまいます! 13人が食事を共にする時、最初に席を立つ者が最初に死ぬのですわ!」
するとマクゴナガル先生が、ピシャリと言った。
「シビル、その危険を冒しましょう。構わずお座りなさい」
トレローニー先生は、目と口をぎゅーっとつぶって椅子に座る。
席についた彼女は、再び目を開けてテーブルを見渡してから尋ねた。
「あら、ルーピン先生はどうなさいましたの?」
するとダンブルドア校長が、父さんは病気だと教えた。
ああ、彼女は父さんの「持病」を知らないのか。
ま、知ってたら、父さんがいない理由を聞いたりしないよね。
「でも、シビル、貴女はとうにそれをご存知だったはずね?」
マクゴナガル先生が皮肉たっぷりに、トレローニー先生に言う。
どうやらマクゴナガル先生にとっても、彼女は天敵らしい。
「もちろん、存じてましたわ。でも『全てを悟れる者』であることを、ひけらかしたりはしないものですわ。あたくしの見るところ、ルーピン先生はお気の毒に、もう長くありません。あの方自身も先が短いとお気づきのようです。あたくしが水晶玉で占って差し上げると申しましたら、まるで逃げるようになさいましたの」
おいおい、この人、ハリーだけじゃなく、父さんにも死の予言をしようとしたのか。
そりゃ父さんも逃げたくなるよ。
自分の死の予言をわざわざ聞きたがる人なんていないし。
さて、宴会が終わって最初に立ち上がったのは、ハリーとロンだった。
途端にトレローニー先生が、ヒステリックに「どっちが先だったか」を尋ねた。
すると、マクゴナガル先生の毒舌が炸裂した。
「どちらも大して変わりないでしょう。扉の外に斧を持った極悪人が待ち構えていて、玄関ホールに最初に足を踏み入れた者を殺すとでも言うなら別ですが」
これにはみんな大爆笑だった。
仏頂面がデフォルトのスネイプでさえ、口の端が少し上がっているように見える。
もっとも、当のトレローニー先生だけは、すごく不機嫌だった。
ハリーとロンは先に寮に戻っていった。
私とハーマイオニーは、マクゴナガル先生に箒の件を報告する。
話を聞いた先生はさっそく、ハリーの箒を検査の為に没収した。
それからというもの、私とハーマイオニーは、ハリーとロンに口をきいてもらえなくなった。
2人に恨まれるのも無理はない。
けど、ハリーが墜落死するよりは1000倍マシだ。
それに、マクゴナガル先生だって鬼じゃない。
安全が確認ができれば、ちゃんと返すと約束してくれたんだけどさ。
夕食の前、私は父さんの部屋に向う。
一応、私と父さんが親子だって知っているハーマイオニーには、行くことを話してある。
部屋には編んだセーターと、叔父さんからのプレゼントが入った風呂敷を持って行く。
ノックしてから、前にもらっていた合鍵で部屋の扉を開ける。
奥の寝室に入ると、床の上で鼻面にうっすら白い筋状の毛が生えた大きな狼が1匹寝そべっていた。
狼の前には、難しそうな本が広げられている。
狼は私に気がつくと顔を上げた。
そして、尻尾を振ってから体を起こし、器用に前脚で広げてあった本を閉じる。
表紙には[守護霊呪文のメカニズム]と書かれていた。
この狼こそ、父さんのもうひとつの姿だ。
スネイプの薬は、バッチリ効いている。
読書できるぐらいなので、具合は悪くないらしい。
「父さん、メリークリスマス。プレゼントだよ」
狼は風呂敷をじっと見つめた。
私がベッドに腰掛けると、狼はひらりとベッドの上に飛び乗り、隣に座った。
風呂敷きの中身をベッドの上に広げる。
「私からはセーター。叔父さんからはローブだよ。セーターはね、雪の結晶模様にしてみたんだ。模様の仕上げにちょっと苦労したけど、上手くできてると思うんだ」
狼は嬉しそうに、鼻をふんふんと鳴らした。
気に入ってもらえたようで、何よりだ。
「あと叔父さんから伝言。『ボロいローブを着るのはやめろ。それから、お大事に』だってさ」
すると狼は、くぅーんと鳴いて、くるりと丸くなってしまった。
あ、スネた!
機嫌を取ろうと、私は狼に手を延ばして背中を撫でてみた。
フサフサの毛並みが気持ちいい。
すると、狼も気持ち良さそうに目を細める。
私は狼を撫でながら、昼食の席にトレローニー先生が出てきたことを話す。
「あの人、父さんにも死の予言をしたって本当? 先生の見たところ、父さんは重い病気で、残りあとわずかの命なんだってさ」
すると、狼はクツクツ喉を鳴らして笑う。
「ところで、聞いて欲しいことがあるんだ」
すると狼は顔を上げ、耳をピンと立てた。
私はハリーに贈り主不明のファイアボルトがプレゼントされたことを話した。
「まさか、ファイアボルトを贈ったのは、父さんだったりする?」
すると狼は速攻でブンブン首を横に振った。
やっぱり違うんだな。
「箒には、カードもメモも付いてなかった。あまりに怪しいから、マクゴナガル先生に頼んで検査してもらうことにした。ハリーやロンには怒られちゃったけど、万が一の事があったら取り返しがつかないからね」
そうだ、そうだとでも言うように狼はうなずく。
「ちなみにファイアボルトの贈り主だけど、私とハーマイオニー、あとマクゴナガル先生は『シリウス・ブラック』じゃないかと推理してる」
ブラックと聞いて、狼はギュッと目をつぶった。
父さんにもいろいろ思うところがあるのだろう。
「とにかく、明日から箒は分解されて、マクゴナガル先生やフーチ先生達が検査をするらしい。たぶん、父さんも検査を手伝うように言われると思うから、ヨロシク」
そう言ってから、私は時計を見た。
そろそろ大広間に行かないと、夕食を食べ損ねる。
「じゃあ、また」
私は狼に別れを告げ、部屋を出た。