レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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26・ファイアボルト

寮に帰る途中、外を見ると雪がしんしんと降っていた。

その雪の中、クルックシャンクスが歩いていた。

 

あれ、猫って寒さに弱いんじゃないの?

日本のマグルの童謡だと「コタツで丸くなる」のに。

 

すると、禁じられた森の方から、痩せた大きな黒犬が走ってきた。

犬はクルックシャンクスの前で止まる。

そして2匹は並んで歩き始めた。

そういえばあの黒犬、前にホグズミードにいたし、この前のクィディッチの試合でも見た。

近くに住み着いている野良犬なんだろうか?

 

寮に戻った私は、さっそくハリーを見つけて謝った。

「ハリー、ごめん。叩いたりして」

「僕も酷いこと言った。ごめん」

 

ハリーと仲直りしていると、ハーマイオニーが女子寮から駆け下りてきた。

「ああ、レイ! 一体どこに行ってたの!?」

「ルーピン先生のところだけど……どうしたの?」

「大変! ハグリッドが、バックビークが!」

 

話をまとめると、9月にヒッポグリフのバックビークがマルフォイを怪我させた事件で、マルフォイの父親が魔法省に訴え、ハグリッドに出頭命令が出たらしい。

 

翌日から私達は、ハグリッドとバックビークの弁護をするため、資料集めをすることになった。

けど、なかなか使えそうな資料に当たらなかった。

 

父さんへのクリスマスプレゼントのセーターは無事に編み上がった。

そして、ハーマイオニー、ハリー、ロン、晶にはそれぞれ手袋を作った。

 

クリスマスの朝。

目が覚めると、枕元にプレゼントが並んでいた。

父さんからはクィディッチ用の手袋、日本のお祖父ちゃんからは日本のチョコレートの詰め合わせ、悟叔父さんからは魔法薬の参考書が来ていた。

 

そして叔父さんからは、もうひとつ包みが来ていた。

風呂敷に包まれた高そうな紳士用ローブだ。

 

伶へ。

プレゼントは、リーマス義兄さんに必ず渡すように。

貧乏性の義兄さんのことだから、古いローブが捨てられず、継ぎ接ぎして着ているに違いない。

名門ホグワーツの教授なんだから、ボロいローブを着るのはやめろと言っておけ。

それにしても、せっかくのクリスマスなのに義兄さんは発作が出て残念だな。

お大事にと伝えておいてくれ。

如月悟

 

達筆な日本語のカードに思わずクスリとする。

 

「レイ、何か面白いことでも書いてあった?」

ハーマイオニーに尋ねられ、文章を英語に訳して伝える。

すると、ハーマイオニーもクスクス笑っていた。

 

「レイ、プレゼントよ。気に入ってもらえるかしら?」

ハーマイオニーが差し出したのは、レターセットだった。

「ありがとう。大事に使うね」

私は笑顔で受け取った。

 

「じゃあ、ハーマイオニーにも、メリークリスマス!」

ハーマイオニーに手袋を渡すと、目をキラキラさせて喜んでくれた。

「レイ、ありがとう。あなた本当に編物が上手なのね! とっても嬉しいわ!」

そして勢い良く抱きつかれた。

 

うっ、やっぱり欧米人スキンシップ過剰だ!

しかも、ハーマイオニーって、意外と胸があるから、圧迫感が半端ない!

それに比べて、私の胸はぺちゃんこで……少しはその胸を分けて欲しい。

 

「く、苦しい! ギブ! ギブっ!! ギブアップだってば!!!」

「ごめんなさい! 私ったら!」

ハーマイオニーはパッと私を解放し、床に寝そべっていたクルックシャンクスを抱き上げる。

オレンジ色の猫はゴロニャーと鳴いた。

 

「レイ、ハリーとロンの部屋へ行きましょう」

ハーマイオニーが、サラッととんでもないことを言う。

「え、男子寮って入っていいの?」

「大丈夫よ。女子は男子寮に入れるわ。でも男子は女子寮に入れないんだけど」

 

そして私達は、ハリーとロンの部屋に行った。

中に入ると、ハリーとロンは妙に浮かれていた。

「2人して、何笑ってるの?」

ハーマイオニーが尋ねると、ロンが彼女の腕に抱かれたクルックシャンクスを見つけ、慌ててスキャバーズをポケットに押し込む。

ロンは本当にクルックシャンクスが嫌いなんだな。

 

とりあえず私は、2人にプレゼントの手編みの手袋を渡した。

だけど、ハリーもロンも、ちょっと反応が薄い。

ええ~、頑張って作ったのに。

 

その時、ハリーの後ろにあるものに目が留まる。

「ファイアボルトじゃん!」

ダイアゴン横丁で見た国際試合級の超高級箒。

たった10秒で時速240kmまで加速できて、確か「価格はお問い合わせ下さい」ってなってた。

 

仕方ない。

ファイアボルトが相手じゃ、私の手編みの手袋なんて見劣りしまくりだ。

 

「ハリー! 一体誰がこれを?」

ハーマイオニーも大口を開けて箒を見ている。

「誰から? カードは?」

私が尋ねると、ハリーは首を横に振った。

しかも贈り主には、全く心当たりがないという。

 

怪しい。

どうして贈り主は正体を隠してるんだ?

けど、こんな箒をポンと買えるってことは、間違いなく大金持ちだとは思うんだけど……。

 

ロンが推理する。

「僕はルーピンかと思ったんだ。ほら、あの人はハリーを気に入ってるみたいだし」

「でもそんな金があるなら、僕の箒より、自分のローブを買うんじゃないかと思うんだけど」

おいおい、ハリー失礼だなぁ。

 

確かに、正直、父さんにファイアボルトを買うお金はない。

せいぜい私の箒、空龍H4がギリギリラインだ。

けど、新しいローブを買うお金ぐらいはある!

それに娘の私には、ちゃんとクィディッチ用の手袋をくれたんだ!

 

ハーマイオニーは少し考えて口を開く。

「おかしくない? これ相当いい箒なんでしょ?」

 

ロンはファイアボルトに乗りたいと言い出した。

けど、ハーマイオニーがピシャリと止める。

「まだよ。まだ絶対誰もその箒に乗っちゃいけないわ!」

「この箒でハリーが何すればいいって言うんだい。床でも掃くかい?」

 

その時、クルックシャンクスがロンに飛びかかる。

ポケットからスキャバーズが猛烈な勢いで逃げ出そうとした。

ロンはカンカンになり、クルックシャンクスを蹴とばそうとした。

ハーマイオニーはロンを睨みつけ、クルックシャンクスを連れて部屋を出た。

「待って、待って!!」

私はあたふた後を追いかける。

これじゃ、この前の私と逆パターンだ。

 

「ロンってば! クルックシャンクスを蹴とばそうとするなんて酷いわ!!」

女子寮に戻ると、ハーマイオニーに早速愚痴られた。

 

「それにしても、ファイアボルト贈ったのは、一体誰だろう? うちの父さんさんじゃないってことだけは、確かだけど……」

すると、ハーマイオニーが厳しい顔になる。

「呪いがかけられてるかもしれないわ。ハリーに恨みを持つ誰かが贈った可能性もあるかも」

「まさか! ファイアボルトはすごく高いよ? 呪いをかけるんなら、もう少し安い箒にすると思うけど。それにクィディッチ用箒は、試合中の妨害や不正を防ぐ為、超強力な呪い防止加工がしてある。簡単に呪いをかけたり、細工ができるとは思えない」

 

「レイ、強力な闇の魔法使いなら競技用箒に呪いをかけることはできる。私、見たことあるの」

ハーマイオニーによれば1年の時、ハリーがクィディッチの試合中に箒に呪いを掛けられ、振り落とされかかったことがあったらしい。

しかも犯人は、当時の闇の魔術に対する防衛術教授。

さらにそいつの頭の後ろには、ヴォルデモートが寄生していたというオプション付き。

それでいいのかホグワーツ!?

 

「じゃあ、贈り主は『ハリーの命を狙う強力な闇の魔法使い』かつ『正体を知られたくない人物』だな」

条件に当てはまる人物が1人いる。

しかも確か、超名門の純血旧家出身だから、ファイアボルトは余裕で買えるハズだ。

 

「「シリウス・ブラック!」」

私とハーマイオニーは同時に叫ぶ。

 

「もし贈り主がブラックで、箒を暴走させてハリーを殺そうとしてるなら、許せないわ!」

ハーマイオニーが怒りに体を震わせる。

 

「レイ。お昼ご飯の後、マクゴナガル先生に箒の件をお伝えするわよ!」

確かにそれが一番だ。

 

でも、もし贈り主がブラックだとして、何故箒が壊れたのを知ってるんだ?

それにいくら大金持ちだと言っても奴は逃亡者。

銀行に預金があったにしろ、どうやってお金を引き出したんだ?

もしかしたら、ブラックには協力者がいるのかもしれない。

まさか父さん……いや、そんな訳はないな。


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