レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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22・気づかれた秘密

グリフィンドール寮に戻った私は、談話室で宣言した。

「3年生のみんなにお知らせがあります。さっき、スネイプ先生に交渉して、『人狼』のレポートを撤回してもらいました!」

 

すると、そこにいた生徒達がざわつき始めた。

「やったー!!」

ディーンがバンザイする。

近くにいたネビルは、ホッと胸を撫で下ろしている。

 

「レイ、あなたスゴいわね」

「ありがとう!」

ラベンダーとパーバティが笑顔で私の肩を叩いた。

 

「根性あるなあ。あのスネイプに交渉するとか」

シェーマスが言った。

 

その時、ちょうど入院していたハリーが、医務室から戻ってきた。

もちろん彼もレポートの撤回を聞いて大喜びした。

 

「レイ、一体どうやったんだ?」

ロンが尋ねた。

「そりゃあ企業秘密だよ。でも、フレッドとジョージに後でお礼を言わなきゃいけないなぁ」

私はニヤリと笑った。

 

でも1人だけ、レポート撤回を残念がった人がいる。

ハーマイオニーだ。

どうやら、さっきレポートを書き上げたところだったらしい。

 

「レイ、話があるの。ちょっといいかしら」

ハーマイオニーは私を女子寮の部屋に連行した。

頭の中で「ドナドナ」の歌が流れ始める。

ヤバイ、こりゃハーマイオニー、怒ってるよね?

 

「ごめん。君はせっかく書いていたのに、レポートを撤回させたりして」

部屋に着くなり速攻で頭を下げて謝る。

するとハーマイオニーは、ふぅとため息をついた。

「レイ、どうしてそんなことを?」

 

「スネイプは代理でしょ? なのに、本来の授業の進み方を無視して、勝手に教科書の最後の方に載っている『人狼』をやるのは納得いかなかったからだよ」

私は口をとがらせた。

 

「だからといって、レポートの撤回は、やりすぎだと思うわよ?」

ハーマイオニーは少し考えてから口を開く。

「……でも、これではっきりしたわ」

 

何がはっきりしたというんだ?

 

ハーマイオニーは、じっと私の目を見つめて言った。

「あなた、ルーピン先生の娘でしょ?」

 

あちゃ、バレたか。

でも、あっさり認めるのは悔しいから、どうしてそう思うのかと尋ねてみた。

すると、ハーマイオニーは理路整然と説明し始めた。

 

まず、私と父さんが同時にホグワーツに来たこと。

私と父さんの髪の色が同じ鳶色であること。

木曜日にハーマイオニーが父さんに質問をしに行ったら、父さんの部屋に、先日私がホグズミードで買った紅茶の葉とお菓子が置いてあったこと。

そして、私が今日、スネイプのレポートを撤回させたこと。

 

「参ったなぁ。上手く隠してたと思ってたのに。ま、バレたなら仕方ないか」

私はダンブルドア達が、夏に青龍学院へ父さんを引き抜きに来たところから話を始めた。

それは、私がホグワーツに編入することになった経緯を話すことでもあった。

 

また、私が父さんと親子であることを隠していた理由も説明した。

周りの生徒に父親が先生だって知られていると、テストに出る問題を教えろとか、自分の成績を上げるように頼んでくれとか言われて面倒だったからってね。

 

「なるほど。わかったわ。でもね、レイ。私、もうひとつ聞きたいことがあるの」

ハーマイオニーは神妙な顔で、本棚から天文学の授業で使う「月齢表」を取り出す。

そして私の目の前に広げた。

 

月齢表!!?

全身の血の気がスーッと引いた。

ハーマイオニーは、そっちにも気づいたのか!

 

「先生が体調を崩されるのは、決まって満月の頃。ねぇ、レイ。ルーピン先生のご病気って……」

ハーマイオニーは言葉をつまらせた。

 

「ああ、君なら気づくかもしれないって思ったんだ……。そう、父さんは『人狼』だよ。スネイプは、うちの両親と同級生でね、父さんの『持病』を知っているんだ」

 

人狼はヨーロッパでは非常に偏見が強い。

「人狼」というだけで「危険な怪物」と思われる。

満月の夜以外は、全く普通の人間と一緒なのに。

 

「気づいたのは、やっぱりスネイプのレポートで?」

「ええ、それとボガートよ。先生の前で、ボガートは輝く白銀の玉になったわね。あれは何だろうとずーっと考えていたわ。最初はラベンダーの言うように水晶玉かと思ったけど……あれは『満月』よね」

 

私は思い切って尋ねた。

「ねえ、ハーマイオニー。『人狼』は怖い?」

「そ、それは……」

ハーマイオニーは肩を震わせる。

 

「私は怖い。怖いよ、私だって……。ただ、それは満月で変身して『理性を失った状態』に限るけど。言っとくけど、ダンブルドア先生は、ちゃんと対策をしている。スネイプに脱狼薬を作らせてる。父さんは、薬さえ正しく飲めば、満月で変身しても全然危険じゃない。それに人狼は、満月に変身した人狼に咬まれなきゃ感染しない病気で、遺伝はしないから、私は人狼じゃないよ」

 

とにかく私は必死だった。

下手をすれば、ハーマイオニーは父さんの「持病」をみんなに話してしまうかもしれない。

そうすれば、父さんはここに居られなくなる。

 

私は立ち上がって頭を下げる。

「ハーマイオニー、お願い。父さんの『持病』を黙っててくれないかな? 父さんはここで教えるのが、長年の夢だった。私は、君に嫌われてもいいけど、父さんがホグワーツを追い出されるのだけは耐えられないんだ!」

 

しばらく沈黙が流れた。

「わかった。秘密は守るわ。ルーピン先生は素晴らしい先生よ。だから、私も辞めて欲しくないわ」

 

それからハーマイオニーは、私の背中にそっと手を置いた。

「ほら、レイ。顔を上げて。私があなたを嫌う訳ないじゃない!」

私は気が抜け、ベッドに座り込んでしまった。

 

後日、父さんにハーマイオニーが「持病」に気づいたと伝えると「ああ、やっぱり」と苦笑いしていた。

でも、ハーマイオニーが秘密を守ると約束したと聞き、父さんはホッと胸を撫で下ろしていた。

 

次の授業には、ちゃんと父さんは復活した。

ロンなんて「『闇の魔術に対する防衛術』を教えてるのがスネイプなら、僕、病欠するからね」って言ってたけど、取り越し苦労だったね。

そして父さんは、元々の予定通りにヒンキーパンク(おいでおいで妖精)の授業をした。

 

授業が終わった後、父さんはハリーを呼び止めていた。

きっと、吸魂鬼対策について話すつもりなんだろうね。


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