レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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21・交渉

月曜日の放課後、私は父さんの部屋を訪ねた。

 

私は一昨日のハッフルパフ戦について話す。

父さんは、私が試合に出場して、点を入れたことは喜んでくれた。

 

でも、試合中に大きな黒犬を見たことを話すと、父さんの表情が険しくなった。

さらに、ハリーが吸魂鬼に襲われこと、ハリーの箒が壊れてしまったことを話すと、父さんはとても気の毒そうな顔をした。

 

「ハリーは、ホグワーツ急行に吸魂鬼が出た時も倒れた。そして一昨日の試合……ハリーは相当気にしてるようだよ。周りにいた私達は、吸魂鬼の影響をあまり受けてないのに、自分は気絶しちゃったから」

「伶。それは、きっとハリーが、目の前で両親を殺されたからだと思う。1歳の時だから、はっきりとした記憶は残っていないだろう。だが恐らく、彼の心の奥底に恐怖がこびりついている。ハリーが吸魂鬼の影響を受けやすいのは、そのせいだろう」

じゃあ、ハリーはこのままブラックが捕まるまで、吸魂鬼に怯え続けなきゃいけないの?

 

ここで私はふと思いつく。

「父さん、ハリーに吸魂鬼を追い払う呪文を教えたらどう? ほら、ホグワーツ急行でやった!」

あの時の父さんは、最高にカッコよかったな。

 

「『守護霊の呪文』のことだね。だが、大変難しい呪文だ。大人の魔法使いでも、使える人は非常に少ない」

「けど、父さんは使えるでしょ? なら、教えることはできるんじゃないの?」

私がそう言うと、父さんは腕組みをして考え込んだ。

 

ドンドンドンドン!!

その時、けたたましく部屋のドアがノックされた。

「キサラギ! やはりここにいたのかっ!」

怒鳴り込んできたのは、スネイプだ。

しめしめ、そろそろ来ると思ってたんだ。

 

父さんが「セブルス、どうしたんだい?」と尋ねる。

 

「ルーピン! 貴様、娘に一体どういう教育をしている!?」

スネイプはそう言うと、丸めた羊皮紙を突き出した。

それを受け取った父さんは、広げて読み始める。

「ん? これは伶のレポートだね。テーマは『人狼の見分け方と殺し方』か。ああ、君が僕の代わりに授業をした時の……」

 

[狼人間にとって、もっとも弱いポイントは眉間だ。だから狼人間に襲われたら、眉間をねらって失神術をかけるとよい。どうしても殺さなければいけない場合は、純銀製のナイフを、眉間又は心臓に突き刺す。純銀製のナイフを使う理由は、銀の持つ魔力が人狼にとって有害なためで……]

 

レポートを読み終えた父さんは、ニヤリと笑った。

「うん。よく書けている。何か問題でも?」

「問題大有りだ!」

スネイプの鋭いツッコミが入る。

 

「これは日本語で書かれているではないか! しかも翻訳魔法防止加工の羊皮紙に書くとは、一体何のつもりだ!? 読める訳ないだろうが!」

スネイプの眉間に深いシワができていた。

 

私はヘラっとこう返しす。

「すみませ〜ん。父は日本語が読めるので、先生もてっきり日本語が解るかと思ったんですが。それに『日本語でレポートを書いてはならない』なんて規則はありませんよね?」

「ここはイギリスだ!!」

スネイプはカンカンだけど、そこはスルーする。

「あ。一応、英語で書いたのもありますよ?」

私が鞄から羊皮紙2巻を取り出して渡すと、スネイプはひったくるように受け取って広げた。

 

レポートは日本語版も英語版も内容は一緒だ。

スネイプはしばらく文章を読んでいたけど、やがて羊皮紙から目を離し「ふん!」と鼻を鳴らす。

そしてちらっと父さんを見て言った。

「まあ、ルーピンの娘なら、これぐらい書けて当然だ」

これって褒めてるの?

こりゃ、明日は雨じゃなくて飴でも降るかな?

 

そして、スネイプは読み終えたレポートを丸めた。

 

ポンっ!

その瞬間、スネイプの髪が鮮やかなエメラルドグリーンに変化した。

それと同時に、おなじみの黒ローブもエネラルドグリーンのエナメル革のジャケットに変わる。

 

「きっ、キサラギ、お、お前は、今、何をした……」

 

「くっ、セブルス。その髪っ、よく似合っているよっ、鏡を見るといいよっ!!」

父さんは笑いをこらえるのに必死だ。

 

スネイプは部屋に立てかけてあった姿見で、自分に何が起きたかを確認した。

 

先に日本語のレポートを提出しておいたのは、もちろんワザとだ。

羊皮紙に仕掛けがしてある英語版のレポートをスネイプに手渡して、確実に読ませるためにね。

この仕掛けはフレッドとジョージがしてくれたんだ。

 

「レイ・アルメリア・キサラギ・ルーピン!!」

スネイプは地をはうような声で、何故かフルネームで私を怒鳴りつけた。

 

「元に戻せ! 今、すぐにだ!!」

「わかりました。でも、条件があります」

 

ふっふっふ、そう簡単には戻らないんだよ。

 

「人狼のレポートを撤回して下さい」

「断る」

即答かいっ!

まあ、予想通りの台詞だけどね。

 

「じゃあ、その頭とローブは、ずーっとそのままですね」

「何だと!?」

スネイプが呪い殺しそうな目で私を睨む。

ありゃありゃ、怖い怖い。

 

「実はそれ、先生が『レポートを撤回する』って言って下さったら、元に戻る仕掛けなんです」

「断る。何が悲しくて、お前なんぞの言うことを聞かなければならないのだ!」

 

父さんがクスクス笑いながら口を挟む。

「伶、他にセブルスを元に戻す方法はないのかい?」

「残念ながらありません」

私は即答する。

 

「だ、そうだよ」

父さんはおどけて肩をすくめて見せた。

 

「きっ、キサラギ、お前という奴はっ!!」

スネイプは私を睨みつけ、輝くエメラルドグリーンの頭を抱えた。

しかも、ギリギリと歯ぎしりの音が聞こえてきた。

 

カシャ!

 

「今の表情イイよ。セブルス」

ふと見ると、父さんがカメラを構えていた。

ていうか父さん、いつの間にカメラなんて用意してたの!?

 

間もなく、ジジーっと音がしてカメラから写真が吐き出された。

父さんが出てきた写真を取り上げてパタパタと振ると、だんだんエメラルドグリーンのローブを着て、緑の髪を抱えたスネイプの姿が浮かんできた。

「セブルス、よく撮れているよ。せっかくだから、他の先生方に見てもらおうかな」

父さんはへらりと言ってのける。

 

「Accio!」

するとスネイプは素早く杖を振り上げて、父さんから写真を奪った。

「Lacarnum Inflamarae!」

そして、あっという間に燃やしてしまった。

 

父さんは「あ〜もったいない」と残念そうだ。

 

スネイプは大きくため息をつき、再び頭を抱えながら言った。

「ええい! 良いだろう。キサラギの望み通り、レポートは撤回してやる。だがその代わり、グリフィンドール20点減点! 」

 

スネイプが渋々宣言すると、頭がいつもの整髪料付け過ぎの重苦しい黒髪に戻る。

ローブも真っ黒に戻った。

 

そして、スネイプはバタン! とドアを開けて出ていった。

 

スネイプが部屋を出た途端、私と父さんが爆笑したのは言うまでもない。

 

ちなみに、あのカメラは、マグルのインスタントカメラだったらしい。

父さんが授業で使うために、マグル学のバーベッジ先生に借りたんだって。




元ネタは全身緑のレディ・ガガです。

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