レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

20 / 43
20・嵐のハッフルパフ戦

ハッフルパフ戦の朝が来た。

私は雷の音で目が覚めた。

ベッドから出て外を見ると、台風並みの大嵐だ。

 

朝ご飯を食べに行くと、ハリーはすでに席でトーストをかじっているところだった。

「この天気だ。君も出番があるかもしれない。準備しておけ」

キャプテンのオリバーは、私の肩を叩いて言った。

 

補欠の私を含め、選手は真紅のユニフォームに着替え、クイディッチ場へ向かう。

外は滝のような雨で、傘をさしてもびしょ濡れだ。

油断すれば吹っ飛ばされそうなぐらい風が強い。

 

やがてハッフルパフの選手も集まってきた。

ビーターの棍棒を持った晶が私に手を振っている。

噂のハッフルパフのシーカー、セドリック・ディゴリーは背が高く、なかなかハンサムだった。

 

そして試合が始まった。

土砂降りの雨で、視界は最悪だ。

ベンチで毛布をかぶって待機している私には、戦いの様子がかなり見づらい。

 

実況は、グリフィンドール寮生でフレッドとジョージの友達、リー・ジョーダンだ。

「タチバナ、ブラッジャー・・・った!! おっ・・フレ・ド、・ズリー」

けど、声は嵐で途切れ途切れにしか聞こえない。

 

目を凝らして空を見上げれば、ハリーは風にあおられ、バランスを取るのに精一杯らしい。

晶がハリーの後ろに回り込むのがボンヤリ見えた。

晶は近くに飛んできたブラッジャーを、ハリー目掛けてかっ飛ばす。

「ハリー! 後ろっ!!!」

慌てて私は叫んだけど、風の音が酷すぎてかき消される。

 

晶の攻撃に気付けず、ブラッジャーがハリーの箒に命中した。

一瞬、ハリーはバランスを崩しかけた。

けど、どうにか体勢を立て直し、落ちずに済んだようだ。

 

嵐の中でも、アンジェリーナ、ケイティ、アリシアの3人は、何とか点を重ねていたようだ。

スコアボードを見れば、グリフィンドールが40点差で優勢だ。

 

しばらくして、ホイッスルが鳴った。

「タイムアウトを要求した!」

オリバーが大声で集合をかける。

 

「レイ、ケイティと交代だ」

ケイティを見るとガタガタ震えていた。

「れ、レイ。後は頼んだわ」

彼女の唇は寒さで青紫色になっていた。

私はかぶっていた毛布を、彼女に渡した。

 

ハリーはメガネを外し、ユニフォームで拭いていた。

「こいつをかけていたら、僕、全然だめだよ」

そう言って、ハリーはメガネをブラブラさせる。

レンズがびしょ濡れで、全然前が見えないらしい。

 

するとハーマイオニーがやってきて、ハリーにメガネをよこすように言った。

彼女はメガネを受け取り、レンズを杖で軽く叩いて呪文を唱える。

「Impervius!」

 

さっすが、ハーマイオニー!

防水呪文をかけるなんて頭良い!

 

さあ、試合再開だ。

私は愛用の箒、空龍H4に乗って地面を強く蹴った。

 

アリシアからパスをもらう。

雨で滑りそうになりながら、私はクアッフルをキャッチし、ゴールへ飛ぶ。

 

そこへ敵のチェイサーが、クアッフルを奪いにきた。

一旦、一気に地面スレスレに降下してかわし、箒の柄を上に向けて急上昇させる。

そして、私はクアッフルをゴールに投げ込んだ。

敵のキーパーが動いたが間に合わず、クアッフルはしっかりゴールを通過した。

 

「よっしゃー!!!」

私はガッツポーズをして叫んだ。

ホグワーツでの初ゴールだ。

満月直後で、部屋で休んでいる父さんにも見せたかったなあ。

 

それから、雨はますます強さを増し、雷が何度も鳴り響いた。

このまま、ハリーかディゴリーがスニッチを取らなければ、試合は夜までもつれ込むだろう。

 

スタンド近くを飛んでいると、てっぺんの席に黒い毛むくじゃらの犬が座っているのが見えた。

前にホグズミードで見かけた犬のようだ。

 

気づくと、ブラッジャーが後ろから飛んできたので、私は慌てて宙返りして避けた。

また雷が鳴り稲光が観客席を照らすと、犬はやっぱりそこに座っていた。

 

ふと上を見ると、ディゴリーがキラッと光るものを猛スピードで追っていた。

スニッチを見つけたんだ!

オリバーに急かされ、ハリーもスニッチを追う。

 

その時、急激に周りの空気が凍りつくように冷たくなった。

クィディッチ場に吸魂鬼が大量に侵入してきたのだ。

 

ハリーがバランスを崩した。

箒が手から離れ、ハリーは20mぐらいの高さから地面へ真っ逆さまに墜落していく。

ハリーの箒は強烈な風で遠くへ吹っ飛ばされてしまった。

 

もうダメだと、思った瞬間!

 

弾丸のような勢いで、観客席からダンブルドア校長が飛び出し、厳しい顔つきで杖を振った。

ハリーの落下スピードが遅くなった。

続いて、校長は杖を吸魂鬼に向け、杖先から白銀の巨大な鳥のようなものを出す。

吸魂鬼はあっという間に競技場から消え去った。

 

私も含め、グリフィンドールの選手が墜落したハリーに駆け寄った。

ハリーは、両手足をだらんと地面に投げ出し、気を失っていた。

 

「ハリー、ハリー?」

私が頬をペタペタ叩いて名前を呼んでも、反応がない。

でも、見たところ、大きなケガはしていないようだ。

気絶しているのはホグワーツ急行の時と同じで、吸魂鬼のせいに違いない。

だけど、残念ながら、今はチョコレートの持ち合わせがない。

 

その時ハリーの後ろに、セドリック・ディゴリーが着地した。

左手に金色の小さな羽がついた物体を握っている。

スニッチを取ったのだ。

 

振り返ったディゴリーは、地面に横たわるハリーを見て凍りついた。

ハリーが墜落したのに気づいてなかったようだ。

 

「吸魂鬼達には、ホグワーツの敷地内に入ってはならぬと申しつけたはずじゃ。約束を破るとは言語道断。話をつけねばならぬ」

駆けつけたダンブルドア校長が静かに言うと、その場の空気がピリピリと張り詰めた。

校長が激怒しているのはみんなわかっていた。

 

それから校長は魔法で担架を出し、ハリーは医務室へ運ばれていった。

 

その後、クィディッチ場は大騒ぎになった。

ディゴリーは、審判のフーチ先生に試合のやり直しを求めた。

だけど、彼女はハッフルパフの勝利を宣言した。

オリバーも潔く、グリフィンドールの負けを認めた。

 

しばらくして、医務室に運ばれたハリーは意識を取り戻した。

ハリーは、またしても吸魂鬼を見て気絶したことに、ショックを受けているように見えた。

 

それに吹き飛ばされたハリーの箒ニンバス2000は、暴れ柳に衝突したらしい。

箒は木っ端微塵にされ、完全に使い物にならなくなってしまった。

 

その晩、大広間で夕食をとるグリフィンドールチームは、お通夜のように暗かった。

私もあまり食欲がなく、かぼちゃジュースとトーストしか口にできなかった。

 

ちなみに、ハーマイオニーとロンは、ハリーに付き添って、夕食を医務室でとることにしたようだ。

 

1人で寮に戻ろうとすると、セドリック・ディゴリーと晶に呼び止められた。

 

「ミス・キサラギ。ハリー・ポッターの具合は?」

ディゴリーはハリーを心配していた。

「大丈夫です。けど、吸魂鬼で気絶したことと、箒が壊れたことにショックを受けていました」

「そうか。それは大変だね」

晶が尋ねた。

「伶、箒は直らないのか?」

「それがさ、暴れ柳にぶつかっちゃって……」

ああ、とディゴリーも晶も気の毒そうな顔をした。

 

「それにしても、僕らは本当に『勝ち』で良かったんだろうか?」

ディゴリーに続けて、晶も重たく呟く。

「ああ。そもそも吸魂鬼に襲われちゃ、俺だって落ちるに決まってる。あんな勝ち方、俺も後味悪ぃよ」

 

「でも、負けは負け。勝ちは勝ち。2人がそう言ってくれるだけで、充分嬉しいです」

私がそう言うと、2人はやっと少し笑った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。