ダンブルドア校長の計らいにより、私もホグワーツに行くことになった。担任でクィディッチ部顧問でもある高砂(たかさご)先生や、チームのメンバーと別れるのは、少し寂しかったけどね。
高砂先生は「《イギリス料理はマズイから、覚悟しろよ!》」なんて言ってた。
え、私はそんなことないと思うけど。
少なくとも、ロンドンの漏れ鍋の料理は、結構おいしいと思うよ。
私は13歳なので、3年生に編入することが決まった。
どうやら、あのヴォルデモートを倒したことで有名なハリー・ポッターと同級生になるらしい。
あと、ダンブルドアとの打ち合わせで、私が父さんと親子であることは、秘密にして欲しいと頼んだ。
周りに先生の娘だと知られてると、いろいろ面倒だったからね。
学期末になると、大変だったなあ。
テストに出る問題を教えろとか、自分の成績を上げるように父さんに頼んでくれとか。
知るかっての!
当然、片っ端から断ったし、父さんだって、そんな生徒には取り合わなかったけどね。
ダンブルドア校長とスネイプが来て3日後。
父さんは準備の為、一足先にイギリスへ出発した。
そしてそれは、父さんが出発した翌日だった。
朝、私はいつも通り玄関に新聞を取りに行った。
すると、一面トップに目が釘付けになった。
長いボサボサの髪と無精髭の男の写真が、こちらをギラついた目で睨みつけている。
男は必死になって何か喚いているように見えた。
一瞬、男と目が合い、慌ててそらす。
◆シリウス・ブラック アズカバンを脱獄◆
イギリスのアズカバン監獄に収監されていた囚人、シリウス・ブラックが脱獄した。
ブラックは、1981年にマグル12人と魔法使い1人をイギリスのロンドン中心部で爆殺した罪で、終身刑となっていた。
アズカバン監獄は、絶海の孤島にあり吸魂鬼(ディメンター)による厳重な監視体制でよく知られている。
過去に逃走に成功した囚人は、一人もおらず……
記事をそこまで読んで、私は顔を上げた。
シリウス・ブラック。
うちの両親と同級生で、不死鳥の騎士団で一緒に闇の勢力と戦っていた。
いや正確には、奴は闇の陣営のスパイで、ヴォルデモートの手下だったんだ。
さらに悪いことに、ブラックは、父さんの3人いた親友のうちの1人でもあった。
あと2人は、ジェームズ・ポッターとピーター・ペティグリュー。
ジェームズ・ポッターは、ハリーのお父さんだ。
ブラックの裏切りで、彼は妻(つまり、ハリーのお母さん)と共にヴォルデモートに殺された。
当時、ポッター家は、ヴォルデモートに命を狙われていた。
シリウス・ブラックは「忠誠の術」を使い、「秘密の守人」として、ポッター家の居場所という秘密を自分の中に封じ込めた。
しかしその「守人」であるブラックこそが、ヴォルデモートの手下だった。
そうして、ヴォルデモートはポッター家の居場所を知り、ポッター夫妻を殺したんだ。
その時、ヴォルデモートは、赤ちゃんだったハリーも殺そうとした。
けど、ハリーだけは殺すことができず、逆に自分が力を失ってしまった。
ヴォルデモートは今、生死不明な状態で、行方不明になっているらしい。
一方、ピーター・ペティグリューは、ポッター家襲撃事件の翌日、彼はブラックを追いかけ、捕まえようとしたけど、逆に殺された。
12人のマグルと一緒にだ。
そのシリウス・ブラックが脱獄した。
しかも、絶対に脱獄不可能といわれている、あのアズカバンから。
そんな恐ろしい話、信じられないし、信じたくもなかった。
だけど、むしろ父さんが心配になった。
こんな事件が起きて、父さんは今どんな気持ちで、何を考えているんだろうか?
その時、普段はめったに使うことがない電話機のベルが鳴った。
「《はい、如月です》」
日本語で返事をすると、英語で返ってきた。
「ああ、伶かい?僕だよ」
父さんだった。
「そちらは朝だね。おはよう。」
時差があるので、イギリスは夜のハズだ。
「父さん。あのね……」
「シリウス・ブラックのことだね? 伶のことだから、きっと僕を心配していると思っていた」
父さんには、お見通しだった。
「あいつが脱獄したと聞き、やはり僕は教授の話を辞退すべきだと思った」
「何言ってんの! 父さんは関係ないよ。ただ学生時代に仲が良かっただけで、ブラックの脱獄の手引きをしたわけでもないのに」
思わずため息が出る。
「ダンブルドア先生は、わざわざ日本にやって来て、父さんをホグワーツに誘ったんだよ? それを断るなんて……」
「大丈夫。辞退はしない。ダンブルドア先生に説得されたからね」
ああ、よかった。
「もっとも、セブルスは強硬に反対していたけど。ブラックの狙いは、恐らくご主人様を倒したハリーだ。そして『ルーピンはブラックが、ホグワーツに入る手引きをする可能性がある』ってね」
「いや、有り得ないでしょ。父さんが手引きとか」
私はクールにそう言った。
まあ、スネイプと父さん達は学生時代、犬猿の仲だったらしい。
だから、あいつのひねくれた考えも理解できるんだけど。
「もちろんだ。君に誓って、あいつの手引きなどしない。ところで、伶。実は……」
話をまとめると、ホグワーツ職員はブラック対策で、緊急で警備を強化することになったらしい。
だから、新学期が始まるまで、父さんもホグワーツにカンヅメになるとのこと。
しかも、学校が始まるまで、私は母さんの弟の悟(さとる)叔父さんの家に滞在する予定だった。
けど、間が悪いことに、叔父さんは急にアメリカに1ヶ月出張しなければいけなくなったらしい。
というわけで、私は漏れ鍋に泊まることになった。
「ヒースロー空港には、マッド・アイに迎えに行ってもらうから、よく言うことを聞きなさい。じゃあ、僕は寝るよ。おやすみ」
父さんはそう言って電話を切った。