シリウス・ブラック侵入事件以来、うちの寮の入口には、太ったレディの代わりに、カドガン卿の肖像画がかけられることになった。
だけど、彼は最悪の門番だった。
パスワードに難しい言葉を選んだり、やってくる生徒を見るたび決闘を挑んできたりしたんだ。
おかげで、グリフィンドール生全員からブーイングの嵐だよ。
しかし、他に立候補する絵がなかったらしい。
そりゃ誰だって、ズタズタにされたくはないよね。
そして、ハリーには先生方やパーシーのガードがつくようになった。
クィディッチの練習の時も、ハリーを守る為に、飛行術のフーチ先生が監督するようになった。
クィディッチといえば、最初の試合が近づいてきた。
元々うちは、スリザリンと試合する予定だった。
けど、シーカーのマルフォイが「まだ腕の調子が悪い」とか言っているせいで、相手がハッフルパフに変更になった。
有り得ないよね!
ヒッポグリフ事件から、もう2ヶ月は経つんだよ?
治ってないとか、絶対嘘に決まってる。
これにはキャプテンのオリバーが一番腹を立てていた。
「こんな天気じゃプレーしたくないってわけだ。これじゃ自分たちの勝ち目が薄いと読んだんだ」
確かに近頃は天気が悪く、試合当日も悪天候が予想されている。
セコいな、スリザリン。
オリバーは作戦練り直しを迫られた。
彼が言うには「ハッフルパフ戦の鍵は、シーカーのセドリック・ディゴリー」らしい。
授業の合間にやってきては、ハリー相手に攻略法を長々とぶち上げていたよ。
一方、ハッフルパフも大変らしく、マグル学で会った時に晶から愚痴を聞かされた。
「俺達だって、いきなり『グリフィンドールと試合しろ』って言われて、いい迷惑だ。おかげで今、セドリックが、作戦の立て直しに必死だぜ。まったくマルフォイの奴め!」
横で聞いていたハーマイオニーとアーニー・マクミランも、そうだそうだとうなずいていた。
ちなみに、晶は2年生から選手をしていて、ポジションはビーターらしい。
*
試合前日になっても、オリバーはハリーを捕まえ、ディゴリー攻略法をぶち上げていた。
私、ハーマイオニー、ロンは話が長引きそうなので、先に闇の魔術に対する防衛術の授業に行く。
席に着くと、ハーマイオニーが教科書を広げながら言った。
「昨日ルーピン先生に質問しに行ったら、顔色があまり良く無かったわ。大丈夫かしら?」
そっか、満月は今日だっけ。
私は軽い調子で答える。
「きっと大丈夫だよ。すぐ良くなるよ」
それに、もし授業ができないようなら、他の先生に代わりを頼んでいるハズだ。
「それにしても、ハリーは遅いわね」
「まだオリバーの演説が続いてたりして……」
「もう授業が始まっちまうぜ」
ハーマイオニー、私、ロンがそれぞれ心配する。
そうこうするうちに時間が来た。
ドアを開けて入ってきたのは、整髪料付けすぎの重たい黒髪・黒目・黒ローブ。
げげっ、よりによって、代理はスネイプかいっ!?
授業開始から10分後、やっとハリーが駆け込んできた。
そしてハリーはスネイプを見て、この世の終わりみたいな顔をした。
さっそくスネイプは、遅刻したハリーを減点した。
全員そろったところで、スネイプはこう言った。
「我々が今日学ぶのは『人狼』である」
ヒッと息を呑んだ私を見て、スネイプが嫌味な笑い方をする。
「でも、先生。まだ狼人間までやる予定ではありません。予定はヒンキーパンクです」
ハーマイオニーが抗議し、私もそれに続く。
「そうです。先生は『代理』で授業をされるのですから、ヒンキーパンクをやってください」
「ミス・グレンジャー、そしてキサラギ」
スネイプの声が氷点下まで冷え込む。
「この授業は我輩が教えているのであり、君達ではないはずだが。その我輩が諸君に394ページを開くように言っているのだ。全員! 今すぐだ!」
みんな渋々言われた通りにした。
そしてスネイプは「人狼と真の狼の見分け方を知っている者は?」と尋ねた。
ハーマイオニーが手を上げる。
しかしスネイプはそれを無視し、あろうことか私を見て、嬉しそうに猫撫で声を出した。
「ミス・.キサラギ、答えたまえ」
げ、そう来たか、このサディストめ!
ていうか、いつも呼び捨てするくせに、何で敬称の「ミス」とか付けちゃってんの?
すんごいムカつく!!
私はため息混じりにやる気なく淡々と答えた。
「『人狼』は狼人間に咬まれた人が、満月の夜に月光を浴びて変身する『病気』です。人狼は鼻面に白い筋状の毛が生えますが、普通の狼にそんな毛はありません。しかし、鼻面の毛は目立ちにくいので、側で観察しないとわかりません。あと人狼の方が普通の狼よりも後脚が少し長いです」
みんながあっけにとられて私を見ていた。
というか、自分の父親の「持病」だから、答えられて当然なんだけど。
スネイプは、フンと鼻を鳴らして言った。
「諸君、何故今のを全部ノートに書きとらんのだ?」
みんながいっせいにペンを動かし始めた。
スネイプは生徒の間をまわり、今までの授業で、何を学んだかを確認していった。
そしてディーン・トーマスのノートを見てつぶやく。
「実に下手な説明だ。これは間違いだ。河童はむしろ『蒙古』によく見られる」
いやいや、間違ってるのはあなたですよ!
たまらず私はツッコむ。
「お言葉ですが先生。河童の主な生息地は『日本』で間違いありません。河童は日本と中国の一部に生息する妖怪です」
スネイプが固まり、ディーンはこっそり私にガッツポーズをして見せた。
「河童は日本で最もメジャーな妖怪で、日本人で河童を知らない人はいません。また私がいた青龍学院魔法学校には、河童が生息する池があり、日本の魔法呪術省が特別保護区に指定していました」
さっきのお返しとばかりに、私はネチネチと嫌味ったらしく説明してやる。
「むしろ蒙古、つまりモンゴルのような乾燥した場所では、河童は生きていけません。何故なら河童は頭の上の皿から水がなくなると、動けなくなるからです」
スネイプのこめかみがピクピク震えていた。
あ、ちょっと調子に乗り過ぎたかな?
授業が終わって、スネイプは羊皮紙2巻のレポート課題を出した。
大ブーイングが起きたのは言うまでもない。
おまけにレポートの課題は「人狼の見分け方と殺し方」だったんだよ!
ひょっとしたら、賢い人は父さんの「持病」に気づいてしまうかもしれない。
ハーマイオニーなんて気づきそうな気がする。
スネイプは、父さんの病気をバラして、ホグワーツから追い出す気なのか?
*
父さんの具合はあまり良くないらしく、5年生の授業も休んだらしい。
アンジェリーナから聞いた話だと、代講のマクゴナガル先生は、ちゃんと計画どおり失神術と気付け呪文を教えたのだという。
スネイプはマクゴナガル先生の爪の垢を煎じて飲むべきだ!
こうなったら、ギャフンと言わせてやる!
なんてことを考えながら、私は談話室の窓から満月をぼんやり眺めていた。
「レイ、どうしたんだい。月なんか眺めて?」
振り返るとフレッドがいた。
「スネイプにイタズラを仕掛けたいなって思ってたんだ。何か良いイタズラないかなって」
「何ですと!」
そこへジョージも割り込んできた。
「スネイプにイタズラ? 面白そうじゃないか!」
そして双子は見事なユニゾンで言った。
「「我らにお任せあれ。実はとっておきの仕掛けがございます」」
スネイプ先生にダーっと言い返す主人公が書きたかったんです。
ちなみに人狼の特徴は半分ぐらい捏造してます。