レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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19・代打

シリウス・ブラック侵入事件以来、うちの寮の入口には、太ったレディの代わりに、カドガン卿の肖像画がかけられることになった。

だけど、彼は最悪の門番だった。

パスワードに難しい言葉を選んだり、やってくる生徒を見るたび決闘を挑んできたりしたんだ。

おかげで、グリフィンドール生全員からブーイングの嵐だよ。

しかし、他に立候補する絵がなかったらしい。

そりゃ誰だって、ズタズタにされたくはないよね。

 

そして、ハリーには先生方やパーシーのガードがつくようになった。

クィディッチの練習の時も、ハリーを守る為に、飛行術のフーチ先生が監督するようになった。

 

クィディッチといえば、最初の試合が近づいてきた。

元々うちは、スリザリンと試合する予定だった。

けど、シーカーのマルフォイが「まだ腕の調子が悪い」とか言っているせいで、相手がハッフルパフに変更になった。

 

有り得ないよね!

ヒッポグリフ事件から、もう2ヶ月は経つんだよ?

治ってないとか、絶対嘘に決まってる。

 

これにはキャプテンのオリバーが一番腹を立てていた。

「こんな天気じゃプレーしたくないってわけだ。これじゃ自分たちの勝ち目が薄いと読んだんだ」

確かに近頃は天気が悪く、試合当日も悪天候が予想されている。

セコいな、スリザリン。

 

オリバーは作戦練り直しを迫られた。

彼が言うには「ハッフルパフ戦の鍵は、シーカーのセドリック・ディゴリー」らしい。

授業の合間にやってきては、ハリー相手に攻略法を長々とぶち上げていたよ。

 

一方、ハッフルパフも大変らしく、マグル学で会った時に晶から愚痴を聞かされた。

「俺達だって、いきなり『グリフィンドールと試合しろ』って言われて、いい迷惑だ。おかげで今、セドリックが、作戦の立て直しに必死だぜ。まったくマルフォイの奴め!」

横で聞いていたハーマイオニーとアーニー・マクミランも、そうだそうだとうなずいていた。

ちなみに、晶は2年生から選手をしていて、ポジションはビーターらしい。

 

試合前日になっても、オリバーはハリーを捕まえ、ディゴリー攻略法をぶち上げていた。

私、ハーマイオニー、ロンは話が長引きそうなので、先に闇の魔術に対する防衛術の授業に行く。

 

席に着くと、ハーマイオニーが教科書を広げながら言った。

「昨日ルーピン先生に質問しに行ったら、顔色があまり良く無かったわ。大丈夫かしら?」

 

そっか、満月は今日だっけ。

 

私は軽い調子で答える。

「きっと大丈夫だよ。すぐ良くなるよ」

それに、もし授業ができないようなら、他の先生に代わりを頼んでいるハズだ。

 

「それにしても、ハリーは遅いわね」

「まだオリバーの演説が続いてたりして……」

「もう授業が始まっちまうぜ」

ハーマイオニー、私、ロンがそれぞれ心配する。

そうこうするうちに時間が来た。

 

ドアを開けて入ってきたのは、整髪料付けすぎの重たい黒髪・黒目・黒ローブ。

げげっ、よりによって、代理はスネイプかいっ!?

 

授業開始から10分後、やっとハリーが駆け込んできた。

そしてハリーはスネイプを見て、この世の終わりみたいな顔をした。

さっそくスネイプは、遅刻したハリーを減点した。

 

全員そろったところで、スネイプはこう言った。

「我々が今日学ぶのは『人狼』である」

ヒッと息を呑んだ私を見て、スネイプが嫌味な笑い方をする。

 

「でも、先生。まだ狼人間までやる予定ではありません。予定はヒンキーパンクです」

ハーマイオニーが抗議し、私もそれに続く。

「そうです。先生は『代理』で授業をされるのですから、ヒンキーパンクをやってください」

 

「ミス・グレンジャー、そしてキサラギ」

スネイプの声が氷点下まで冷え込む。

「この授業は我輩が教えているのであり、君達ではないはずだが。その我輩が諸君に394ページを開くように言っているのだ。全員! 今すぐだ!」

みんな渋々言われた通りにした。

 

そしてスネイプは「人狼と真の狼の見分け方を知っている者は?」と尋ねた。

ハーマイオニーが手を上げる。

 

しかしスネイプはそれを無視し、あろうことか私を見て、嬉しそうに猫撫で声を出した。

「ミス・.キサラギ、答えたまえ」

 

げ、そう来たか、このサディストめ!

ていうか、いつも呼び捨てするくせに、何で敬称の「ミス」とか付けちゃってんの?

すんごいムカつく!!

 

私はため息混じりにやる気なく淡々と答えた。

「『人狼』は狼人間に咬まれた人が、満月の夜に月光を浴びて変身する『病気』です。人狼は鼻面に白い筋状の毛が生えますが、普通の狼にそんな毛はありません。しかし、鼻面の毛は目立ちにくいので、側で観察しないとわかりません。あと人狼の方が普通の狼よりも後脚が少し長いです」

 

みんながあっけにとられて私を見ていた。

というか、自分の父親の「持病」だから、答えられて当然なんだけど。

 

スネイプは、フンと鼻を鳴らして言った。

「諸君、何故今のを全部ノートに書きとらんのだ?」

みんながいっせいにペンを動かし始めた。

 

スネイプは生徒の間をまわり、今までの授業で、何を学んだかを確認していった。

そしてディーン・トーマスのノートを見てつぶやく。

「実に下手な説明だ。これは間違いだ。河童はむしろ『蒙古』によく見られる」

 

いやいや、間違ってるのはあなたですよ!

たまらず私はツッコむ。

「お言葉ですが先生。河童の主な生息地は『日本』で間違いありません。河童は日本と中国の一部に生息する妖怪です」

 

スネイプが固まり、ディーンはこっそり私にガッツポーズをして見せた。

 

「河童は日本で最もメジャーな妖怪で、日本人で河童を知らない人はいません。また私がいた青龍学院魔法学校には、河童が生息する池があり、日本の魔法呪術省が特別保護区に指定していました」

 

さっきのお返しとばかりに、私はネチネチと嫌味ったらしく説明してやる。

 

「むしろ蒙古、つまりモンゴルのような乾燥した場所では、河童は生きていけません。何故なら河童は頭の上の皿から水がなくなると、動けなくなるからです」

 

スネイプのこめかみがピクピク震えていた。

あ、ちょっと調子に乗り過ぎたかな?

 

授業が終わって、スネイプは羊皮紙2巻のレポート課題を出した。

大ブーイングが起きたのは言うまでもない。

おまけにレポートの課題は「人狼の見分け方と殺し方」だったんだよ!

ひょっとしたら、賢い人は父さんの「持病」に気づいてしまうかもしれない。

ハーマイオニーなんて気づきそうな気がする。

スネイプは、父さんの病気をバラして、ホグワーツから追い出す気なのか?

 

父さんの具合はあまり良くないらしく、5年生の授業も休んだらしい。

アンジェリーナから聞いた話だと、代講のマクゴナガル先生は、ちゃんと計画どおり失神術と気付け呪文を教えたのだという。

スネイプはマクゴナガル先生の爪の垢を煎じて飲むべきだ!

 

こうなったら、ギャフンと言わせてやる!

 

なんてことを考えながら、私は談話室の窓から満月をぼんやり眺めていた。

 

「レイ、どうしたんだい。月なんか眺めて?」

振り返るとフレッドがいた。

 

「スネイプにイタズラを仕掛けたいなって思ってたんだ。何か良いイタズラないかなって」

 

「何ですと!」

そこへジョージも割り込んできた。

「スネイプにイタズラ? 面白そうじゃないか!」

 

そして双子は見事なユニゾンで言った。

「「我らにお任せあれ。実はとっておきの仕掛けがございます」」




スネイプ先生にダーっと言い返す主人公が書きたかったんです。
ちなみに人狼の特徴は半分ぐらい捏造してます。

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