大広間はハロウィンモード全開だった。
カボチャをくり抜いて作った提灯が何百個もあったり、生きたコウモリが飛びまわっていたり。
料理も普段より豪華で、とてもおいしかった。
特にパンプキンパイは絶品で、3個もおかわりしちゃったよ。
宴会の最後には、ゴースト達の余興があった。
グリフィンドールの寮つきゴースト、ほとんど首なしニックが、しくじった打ち首(つまり自分が死んだ場面)を再現していた。
なんでも、処刑に使われた斧の切れ味が最悪で、何度やっても首が切れなかったらしい。
うわあ、逆にそれって残酷だよね。
夕食を終えた私達が寮に戻ってくると、入口は妙に人がいっぱいで混み合っていた。
寮のドアを守っている太ったレディの肖像画が開かないらしい。
「何をもたもたしてるんだ?」
後ろからパーシーが人混みを掻き分け、ドアへ歩いていく。
ドアの前に来ると、パーシーが叫んだ。
「誰か、ダンブルドア先生を呼んで。急いで!」
遅れて来たジニーが「どうしたの?」と尋ねた。
ふと見ると、いつの間にかダンブルドア校長は来ていた。
校長が肖像画へ歩いていくと、生徒達は道を開けて通れるようにする。
私達も何が起きているのか確認しようと、入口に近づいてみた。
次の瞬間、私は一瞬にして凍りついた。
ハーマイオニーは悲鳴をあげて、ハリーの腕をつかんでいる。
腕をつかまれたハリーは固まっている。
ロンも、ヒッと息を呑んでいる。
そこには、肖像画のキャンバスが、ズタズタに切り裂かれて散らばっていた。
切り裂かれた絵の中に太ったレディはいない。
気づけば、寮監のマクゴナガル先生、スネイプ、そして父さんが駆けつけてきたようだ。
校長は、すぐにレディを探すように命じた。
今度はそこにピーブズが現れた。
ピーブズは絵をズタズタにした犯人を知っていた。
なんと、シリウス・ブラックだった。
ブラックは寮に侵入しようとして、太ったレディに拒否された。
その腹いせに絵をズタズタにしたらしい。
13人の人間を一瞬にして木っ端微塵にした奴だ。
きっと、肖像画をズタズタに引き裂くぐらい、何とも思ってないんだろう。
青龍学院もそうだったけど、ホグワーツの敷地内でも「姿現し」や「姿くらまし」は使えないそうだ。
だから、校舎に侵入するには、周りを固める吸魂鬼を突破しなきゃいけない。
それをやってのけたブラックは、一体どんな恐ろしい闇の魔法を使ったんだ?
ハリーは命を狙っているのは、そういう男なんだよね。
その晩はグリフィンドールだけでなく、全校生徒が大広間に集まって寝ることになった。
けど、みんな怖いせいで興奮して寝付けずに、ブラックのことをヒソヒソ話していた。
あれから先生達は、夜通し校内を捜索していたようだった。
けど、結局ブラックを見つけることはできなかったという。
父さんもきっと捜索で大変だったに違いない。
とりあえず、ホグズミードで買ったお茶の葉とお菓子は、ヒキャクに届けてもらった。
*
翌日。
昼休みに教科書を取りに寮に戻った私は、談話室でフレッドとジョージがいるのをみつけた。
2人は額をくっつけ、何かを熱心に覗き込んでいた。
「フレッド、いたか?」
「いや、もう遠くへ逃げてるんじゃないか?」
「だよな。もうホグワーツには隠れてないよな」
双子はヒソヒソ声で話している。
何を見ているのかと思って、そっと私は後ろから覗いてみた。
それは羊皮紙だった。
描かれているのは、ホグワーツ全体の地図。
地図上にはたくさんの点があり、動き回っている。
それぞれの点には名前がついていた。
例えば、グリフィンドール談話室には「フレッド・ウィーズリー」「ジョージ・ウィーズリー」。
そのすぐ後ろに「レイ・キサラギ」の点がある。
なるほど、これが「忍びの地図」か。
小さい頃、父さんによく話を聞かされたっけ。
まさか、この2人が持っているとは思わなかったよ!
ここで、ちょっとしたイタズラを思いついた。
私はこっそり双子の背後にまわると、羊皮紙をツンツン杖で突ついて言った。
「イタズラ完了!」
地図は見事に消えた。
「「うわっ! レイ!? 何すんだ!?」」
双子は同時に振り返った。
「ゴメンゴメン。『我、此処に誓う。我、良からぬ事を企む者なり』」
杖を羊皮紙に当てながら言うと、地図が再び現れた。
2人は口をポカンと開けて私を見た。
「「君、何で『地図』の使い方を知ってるんだ?」」
見事なユニゾンで双子が尋ねる。
「それは私が『ムーニー』の娘だからだよ」
ニヤリと笑って答えたら、双子が「「マジで!?」」と叫んだ。
この地図は、父さん達が学生時代に作ったものだ。
地図の製作者は、あと3人。
プロングズこと、ハリーのお父さんのジェームズ・ポッター。
ワームテールこと、ピーター・ペティグュー。
そしてパッドフッド………。
「ジョージくん聞いたかね!? レイが、かのムーニー大先輩のご息女ですと!!」
「聞いたとも、フレッドくん! 何と喜ばしいことだろう!!」
「「お嬢様、我らと握手を!」」
感極まった2人は私に握手をねだった。
私が手を出すと、2人はガッチリと握ってきて、ブンブン上下に降りまくった。
慌てて「うわっ、ちょっ! ギブ! ギブ!」と私が叫ぶ。
すると「ごめんレイ。つい感動してしまって」とジョージが謝って、2人は手を離した。
フレッドとジョージが地図を見つけたのは1年生の頃。
フィルチの事務所の書類棚に入っていたらしい。
「何せ、その棚には『没収品・特に危険』と書いてあった」
「そこに入っていた代物だ。最高にクールなブツに決まってる。迷わず持ち出したさ!」
2人とも、目をキラキラさせて語った。
それにしても、よく使い方に気づいたなあ。
もっとも、イタズラの天才フレッドとジョージでも、解明には約9ヶ月かかったらしい。
ちなみに、双子は地図でブラックの居場所を探していたらしい。
けど、2人には言えなかった。
ブラックも地図の製作者の1人なんだって。
パッドフッドがそうなんだって。
それに、昨晩あれだけ先生方が探して見つからなかったのだ。
やっぱり、もうブラックは遠くに行ってしまったんだろう。