今日はハロウィン。
そして初めてのホグズミード休暇。
ハーマイオニーもロンも、ホグズミードに行けないハリーを気の毒そうに見ていた。
「僕のことは気にしないで」って、ハリーは強がっていたけど、私達を見送る目は寂しそうだった。
ホグズミードは、本当にいろんな店があった。
ダービッシュ・アンド・バングズ魔法用具店には、東郷飛行具社の「空飛ぶ座布団」があった。
東郷飛行具社といえば、青龍学院時代の友達、東郷史子の実家だ。
フミ、元気にしてるかな。
文具店ではインクと羊皮紙を購入した。
羊皮紙にもいろんな種類があった。
中には「外国語学習に最適!翻訳魔法防止加工の羊皮紙」なんていうのもあった。
何かの役に立つかもと思って買ってみたよ。
郵便局は、鳥語聞きの私にとって、うるさくてかなり疲れる場所だった。
何しろ、200羽以上の梟が、ワイワイガヤガヤしゃべりまくってたからね。
ハーマイオニーとロンは楽しそうだったけど。
郵便局を出ると、痩せこけた黒い巨大な犬がいた。
そして、犬は何故か私の顔をじっと見つめてきた。
「死神犬グリムだ! 大変! 見たら死んじゃう!」
ロンが騒ぎ出すと犬は「ワン!」とひと吠えして、走り去った。
「ロン、あれはタダの野良犬よ」
ハーマイオニーがロンをたしなめる。
「そうだよね。私もそう思う」
私は占いや迷信なんて信じてないので、そう言った。
「じゃあ『叫びの屋敷』に行くわよ」
ハーマイオニーが張り切って地図を広げた。
私とロンは彼女についていく。
しばらく歩き、村外れの丘にやってきた。
そこには荒れ果てた建物がポツンと立っていた。
周りは雑草だらけ、壁はヒビだらけで、窓という窓には板が打ち付けられている。
ここが「叫びの屋敷」なのか。
噂によると「イギリスで最も呪われた場所」と言われている。
それは夜中に怪物の叫び声が聞こえるからだと言われている。
けど、この場所は、本当は心霊スポットなんかじゃない。
何故なら叫び声の正体は、うちの父さんだからだ。
叫びの屋敷は、父さんが学生時代に満月を過ごした場所だ。
父さんが入学する時に、ダンブルドアが用意してくれたそうだ。
狼になった時、他の生徒を襲わずに済むように。
この屋敷で、狼になった父さんは、人を襲いたいという衝動を抑える為、自分で自分を噛んだり引っ掻いたりしてやり過ごしたらしい。
その傷は、今でも父さんの体じゅうに残っている。
それを隠す為、真夏でも父さんは長袖のシャツを着るのだ。
そんなことを考えていると、胸が締め付けられる気がした。
「大丈夫、レイ?震えてるわよ?」
ハーマイオニーの声で我に返る。
「レイ、『叫びの屋敷』が怖かったのかい? それともやっぱりさっきの犬、グリムなんじゃ……」
ロン、犬は関係ないよ。
「レイ、ごめんなさい。付き合わせて。まさか、あなたがこんなに怖がるなんて」
「ハーマイオニー、ロン、怖くないってば! 心配いらない。大丈夫」
きっと事情を知らない君達には、ただ私が強がっているようにしか見えないんだろう。
でも、私は怖いんじゃなくて、いたたまれないんだ。
気をとりなおし、三本の箒へ行く。
名物バタービールを飲むと、少し元気が出てきた。
「あれ、『人食い鬼』じゃないかしら?」
ハーマイオニーが、私の肩越しに店内を見て言った。
「「え、どこどこ?」」
私とロンの声が重なる。
2人でキョロキョロ探すけど、見つからない。
するとハーマイオニーが「もう行ってしまったわ」と笑った。
「いらっしゃい! 新製品の試食はいかがですか~!」
ハニーデュークスの店先では、新作ヌガーの試作品を配っていた。
店内はお菓子であふれていた。
大きな樽に百味ビーンズが詰まっていたり、食べると火が吹ける黒胡椒キャンディがあったり。
ドルーブル風船ガムや爆発ボンボン、ゴキブリ・ゴソゴソ豆板など、日本では見たことがないようなお菓子もあった。
さあ、ハリーへのお土産を選ぶぞ!
「これなんかどう?ナメクジ・ゼリー」
私が言うと、ロンは「なんかイヤだ」と却下した。
そしてロンは、オエっと吐きそうな顔になって、店の奥に行ってしまった。
「え、何で?」
「レイ、きっとロンは『ナメクジの呪い』がトラウマになってるんだわ」
ハーマイオニーによると、ロンは去年マルフォイと喧嘩した時、彼にナメクジを吐く呪いを掛けたそうだ。
けど、その時ロンが使っていた杖が壊れていたため、呪いが逆噴射した。
そして、逆にロンがナメクジを吐きまくるハメになったらしい。
ハニーデュークスの後は、私のリクエストで紅茶専門店に寄った。
茶葉を品定めする私を見て、ふとロンが尋ねる。
「レイ。君、お茶の葉なんか買って、占いでもする気かい?」
「ロン、馬鹿なこと言わないで! レイはトレローニーの占い学なんか取ってないでしょ!!」
お茶の葉占いと聞いて、ハーマイオニーがロンに食ってかかる。
それにしてもハーマイオニーがあれだけ毛嫌いするトレローニーって、一体どんな先生なんだ?
「ハーマイオニー、お茶の葉は父さんに買って来て欲しいって頼まれただけだよ」
私がなだめると、ハーマイオニーは少し落ち着いた。
とりあえず、私はたくさんあるお茶の中から「新製品人気No.1」のセイロンティーを買った。
これで父さんからのミッションはクリアだ。
私達は、夕方までホグズミードを楽しんで、寮に戻った。
さっそくハリーにどっさりのお土産を渡した。
一方、ハリーは父さんのところに行っていたそうだ。
父さんにハリーを呼ぶように、お願いしといて正解だったなあ。
ハリーが父さんと話しているところに、ちょうどスネイプが脱狼薬を持ってきたらしい。
それを見たハリーには、彼が父さんに毒を持ってきたように見えたようだ。
「ルーピンがそれ、飲んだ?マジで?」
ロンも大口を開けて驚いていた。
いやいやいやいや、その薬は飲んでもらわないと、困るんだ!!
万が一、飲み忘れたりしたら、父さんはホグワーツに居られなくなるんだから。
「ロン、心配しないで。大丈夫だからさ」
私は事情をよーく知っているので、軽く言った。
そんな話をしていると、宴会の時間が近づいてきて、私達4人も大広間へ行く。
もっともハリーとロンは、まだスネイプを疑っているようだったけどね。
ていうか、スネイプは日頃の行いが悪過ぎる。
ハリーやロン……いや、グリフィンドール全体に対して、印象が悪い。
だから、2人に疑われるんだよ。
それに脱狼薬って、見た目が結構毒々しいもんなぁ。