レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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15・猫と鼠

「レイって、日本の学校でクィディッチやってたんだよね? 今度練習を見に来ないかい?」

ハリーに誘われ、10月のある土曜日、私はグリフィンドールチームの練習を見学することにした。

 

さすが、クィディッチの本場イギリスの魔法学校だ。

選手のレベルがみんな高い。

 

キーパーのオリバー・ウッドは、ゴールをしっかり固めている。

チェイサーの3人はクルクルよく動くし、ビーターの双子の棍棒さばきと連携プレーがすごい。

そして、シーカーのハリーは、ウッドがあちこちに放り投げるゴルフボールを、ひょいひょいと全部空中でキャッチしていく。

前の学校のシーカーなんて、10回に1回はキャッチ出来ずに落としていたのに。

 

「ミス・キサラギ。どうだ、うちのチームは?」

休憩時間にウッドが私の所へやってきた。

 

「私、青龍学院でチェイサーをしていたんですけど、みんなすごく上手いですね!」

私がそう返すと、ウッドの目がキラリと光った。

「お、君もクィディッチをやっていたのか! じゃ、ちょっと飛んでみてくれ」

そう言って、ウッドは箒を貸してくれた。

 

私はさっそくハリーに箒を借りてまたがり、地面を力強く蹴る。

箒は素晴らしいスピードで、空へ飛び上がる。

空は澄みきっていて、少し冷たい風が気持ちいい。

 

ちょっとターンをやってみると、以前より少しだけスピードが遅い。

前はもっとキュッと曲がれたんだけどなあ。

しばらく箒に乗ってないから、体がなまっているみたいだ。

宙返りは上手くいったけどね。

 

地上に降りると、メンバーが拍手で迎えてくれた。

ハリーは私を笑顔で見ていたし、双子はピィーっと口笛を吹いた。

 

「うん、なかなかやるわね。将来が楽しみだ」

チェイサーのアンジェリーナ・ジョンソンが、楽しそうに私の肩を叩いた。

 

「落ち着いた飛びっぷりね」

同じくチェイサーのアリシア・スピネットも、ニコニコしている。

 

「私達もウカウカしてられないわ。頑張らなきゃ!」

もう1人のチェイサーのケイティ・ベルが闘志を燃やしていた。

 

するとウッドが私を手招きして言った。

「ミス・キサラギ。チェイサーに空きがないから補欠になるが、それで良ければ、チームに入らないか?」

「いいんですか! やった!」

嬉しくて、私はピョンピョン飛び跳ねた。

 

クィディッチの練習は週3回。

青龍では、試験期間中と日曜、お盆と年末年始を除いて毎日練習があった。

だから少しは楽かと思えば、とんでもない!

キャプテンの7年生オリバー・ウッドは、今年が優勝の「最後のチャンス」ということで、みんなをしごきまくった。

大雨の日でも、平気で外で練習させたよ。

もちろん、補欠の私も例外じゃなかった。

 

この日の薬草学は「花咲か豆」の収穫だった。

薬草学はハッフルパフとの合同授業だ。

 

私は晶とアーニー・マクミランと作業をしていた。

マクミランは、ぽっちゃりしたハッフルパフの男の子で、晶の親友だ。

 

木になっているピンクの鞘を採り、中の豆を取り出し、桶に入れていく。

この豆、そっと桶に入れないと衝撃で花がポンポン咲いちゃうんだ。

 

横でハリー、ハーマイオニー、ロンが作業していた。

けど、ハーマイオニーとロンは全然話もしない。

板ばさみのハリーが時々、助けを求めるみたいに、ちらちら私達の方を見ている。

 

そりゃ昨日、あんなことがあったからね……。

 

「なあ、ポッター? ロン・ウィーズリーは、ミス・グレンジャーと何かあったのか? 随分カリカリしているように見えるぜ?」

横から流れてくる険悪な空気に耐えられず、晶がハリーに尋ねる。

 

ハリーはため息混じりに答えた。

「ああ、タチバナにもそう見えるんだね。実は、ハーマイオニーの猫が、ロンの鼠をやたら追いかけ回すんだ」

 

私はハリーに付け加える。

「おかげで、ロンの鼠はストレスで、すっかり痩せ細っちゃって。昨夜は、猫が鼠を襲おうとして、止めるのが大変だったんだよ」

 

「あーなるほど。でも、そもそも猫って鼠を追っかけるもんじゃねえの?」

橘晶くん。

君は今、地雷を踏んだね。

 

「タチバナっ!! 『猫は鼠を追いかけるもの』だと!? 君は他人事だから、そんなことが言えるんだ! スキャバーズは、あの猫のせいで、どんどん痩せていってる!!」

ロンが晶にとんでもない勢いで、怒鳴った。

 

晶は「わ、悪ぃ、悪ぃ!!」と、後ずさりした。

一緒にいたマクミランも目を丸くしている。

 

「ロン! ミスター・タチバナに怒鳴ることないでしょ! 当たり前のことを言っただけじゃない」

ハーマイオニーがロンをなだめるも、逆効果だった。

 

「誰の猫のせいでこうなったと思ってる! スキャバーズは隠れてるよ。僕のベッドの奥で、震えながら」

そう言って、ロンは収穫した豆を桶に入れようとしたけど、上手く入らずに床に落としてしまう。

 

「気をつけて、ウィーズリー。気をつけなさい!」

薬草学担当のスプラウト先生の注意は一歩遅かった。

散らばった豆は、パパッと花を咲かせ始めた。

 

昨晩は、ロンの鞄に隠れているスキャバーズを、クルックシャンクスが嗅ぎつけ、襲おうとしたのだ。

スキャバーズは、間一髪逃げ出して無事だったけど、前に見た時よりもっと酷く痩せていた。

クルックシャンクスはかなり興奮してて、押さえつけるのに苦労したんだ。

だから、ロンはクルックシャンクスに猛烈に腹を立てているというわけだった。


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