レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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14・お茶の時間

放課後父さんの事務所を訪ねた。

合鍵はもらっていたし、場所も聞いていたけど、来るのは初めてだ。

 

中は思ったよりも広くて快適そうだ。

部屋には暖炉もあり、冬はあったかそうだ。

奥には檻があって、赤帽鬼(レッドキャップ)が入っていた。

 

父さんはヤカンを杖で叩いてお湯を沸かすと、紅茶をいれた。

私のは無糖ストレートだけど、父さんのは角砂糖5つに牛乳がたっぷりの超激甘ミルクティーだ。

 

「伶。さっきの授業は、よくやったね。いい戦いぶりだった。でも僕はてっきり、ボガートが人参になるかと思ったんだけど」

「父さん! 人参は怖いんじゃなくて、嫌いなだけ! あんな変に甘くて薬臭い野菜、食べ物じゃない!」

すると、父さんは「冗談だよ」と笑う。

 

「ところで父さん、最初からウケ狙いだよね?あのまね妖怪……」

 

今思い出しても笑えるよ。

緑色のロングドレスを着て、ハゲタカ帽子をかぶり、狐の毛皮の襟巻きをして、真っ赤な巨大ハンドバッグを持ったセブルス・スネイプの姿。

 

「やっぱり、伶には気づかれていたようだね。僕としては、ちょっとした意趣返しだった。ほら、君は今日、ネビルを助けて魔法薬学で減点されただろう?」

 

父さんはいたずらっぽく笑う。

おいおい、それって、公私混同・職権乱用じゃないの?

ま、面白かったからいいけどさ。

 

「そういえば、何故ボガートのスネイプ先生に、ネビルのお祖母さんの格好をさせようと思ったの? 父さんは、ネビルのお祖母さんを知ってるの?」

「うん、まあね。あの方のファッションは、とても個性的だから、一度に会ったら忘れられない」

 

父さんは、ふと真面目な顔になり、ミルクティーをすすった。

 

「ネビルの両親、フランクとアリスは、かつて有能な闇祓いで、不死鳥の騎士団では、主力メンバーとして活躍していた。僕らも、彼らにいろいろ助けられたものだった。ところが、2人はベラトリックス・レストレンジに磔の呪文をかけられ、正気を失ってしまったんだ。今は聖マンゴ病院にいるそうだ」

「待って。ベラトリックス・レストレンジって!?」

 

その名前には、あまりにも聞き覚えが有り過ぎた。

聞き覚えがあるどころではない。

絶対に忘れられない名前だ。

 

「そう。梓を殺した魔女だ」

父さんが重たく呟いた。

 

母さんは私が1歳の時に死んだ。

当時、母さんの弟の悟叔父さんは、まだホグワーツの学生だった。

母さんは、夏休みでロンドンの家に帰ってくる叔父さんを駅へ迎えに行った帰り、叔父さんと一緒にあの女に襲われた。

叔父さんを守る為、母さんは必死で戦った。

結果、叔父さんは助かったけど、母さんは命を落とした。

 

一方、レストレンジは、ヴォルデモートが失脚した後に夫とともに逮捕され、今はアズカバンにいるという。

 

スタタタタっ!

コンコンコン!!

その時、ドアを勢い良くノックする音が聞こえた。

やってきたのは晶だ。

 

入ってくるなり、英語で勢いよく叫ぶ。

「グッジョブ 、リーマスさん! もう持ちきりっすよ! あのボガートの話題で! ロングボトムもスゲーよ!! まさかあのスネイプが女装って!!」

 

「騒々しいなぁ、晶。目と鼻の先にいるんだから、大声出さなくても聞こえるって」

 

「《何だ伶。いたのか》」

晶は私を見て日本語で言った。

「《『いたのか』じゃないし!で、父さんに何の用?》」

 

すると晶は鞄から3冊の本を出し、テーブルに置く。

「リーマスさん、頼まれていた本。親父から借りられました」

 

タイトルは3冊とも日本語だ。

 

[大日本妖怪名鑑 河童編]

[河童と伝説]

[カッパ百科]

 

あれれ、河童の本ばかりだな。

 

「晶、ありがとう。しばらく借りるよ。お父さんによろしくと伝えておいて」

父さんはお礼を言って受け取る。

 

「せっかくだから、ゆっくりしていくといい」

父さんは晶にもお茶を出した。

 

「父さん、授業で河童をやるの?」

「うん。実は剛(つよし)に、青龍学院にいる河童を2頭貸してもらえるように頼んでいるんだ」

ああ、青龍には河童が住む池があるもんね。

 

「《伶、ツヨシって誰だ?》」

晶が尋ねる。

「《私の青龍時代の担任の先生。ちなみに苗字は高砂(たかさご)》」

 

「《タカサゴ・・ツヨシ……ええっ! 高砂剛!? 日本代表ビーターの?》」

私と父さんが揃ってうなずくと、晶は叫んだ。

「《あの高砂剛が担任だったなんてマジうらやましい! 俺も青龍に行っときゃ良かった》」

 

「剛は、授業も大変評判が良くてね。今回、僕はホグワーツで闇の魔術に対する防衛術を教えるにあたって、いろいろアドバイスをもらったよ」

父さんは微笑み、冷めたミルクティーをすすった。

 

「《ふっふっふっ。実は高砂先生、青龍のクィディッチ部の顧問もしてるんだ。指導は厳しかったけど、おかげで7月の全日本大会、準優勝したよ》」

 

「《そう言えば、今年は優勝は安倍学園で、青龍が準優勝だったよな。伶も出てたのか?》」

 

全日本学生クィディッチ大会は、日本魔法界の夏の一大イベントだ。

マグルでいうところの、高校野球の夏の甲子園大会みたいなものだろうな。

 

「《うん。一応、私、決勝でゴールしたんだけどね……その直後に、安倍のシーカーにスニッチを取られたんだ》」

「《ありゃありゃ。そりゃ残念だったな》」

晶が苦笑いした。

 

ネビルのボガートスネイプのおかげで、父さんはますます人気者になった。

 

一方スネイプの機嫌は、しばらく最悪だった。

でも、ダンブルドア校長には逆らえないのか、脱狼薬はちゃんと煎じてくれているようだったけどね。

 

そして、ハグリッドはヒッポグリフの事件で、すっかり自信をなくしたらしい。

魔法生物飼育学は、レタス食い虫の面倒をみるだけの退屈なものになっていた。

 

ホグワーツ編入から1ヶ月たった頃、私はようやく羽ペンと羊皮紙を使いこなせるようになった。

そして、人並みのスピードでレポートが書けるようになってきた。

 

授業を取りに取りまくっているハーマイオニーは、毎晩遅くまで予習復習に追われていた。

でも、勉強大好きな彼女は張り切っていた。


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