レイ・アルメリアの物語   作:長月エイ

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13・まね妖怪

昼食後は、待ちに待った闇の魔術に対する防衛術の授業だ。

 

父さんは教室に入るなり、みんなに教科書をしまうように言った。

そして、杖だけを持ってついてくるように指示した。

 

廊下を歩いていると、ポルターガイストのピーブズがいた。

物置の鍵穴にガムを詰めて遊んでいる。

父さんを見て「バーカ、マヌケ、ルーピン」とからかってきた。

「フィルチさんが箒を取りに入れなくなるじゃないか」

父さんが注意したけど、聞きやしない。

 

ちなみに、フィルチというのは、ホグワーツの用務員をしている老人の名前だ。

フレッドとジョージによれば「根性曲がりのくそジジイ」らしい。

 

ピーブズが、父さんにアッカンベーをかます。

おいおい、父さんに喧嘩を売るとはいい度胸だな。

どうなっても知らないよ?

 

父さんはため息をついて、杖を取り出す。

そしてみんなによく見ておくように言ってから、クールに呪文を唱えた。

「Waddiwasi!」

鍵穴からガムが吹っ飛び、ピーブズの鼻にハマった。

ピーブズはもんどり打って「チクショー覚えてろよ!」とか言いながら、去っていった。

 

「先生、かっこいい」

ディーン・トーマスが父さんを尊敬の目で見ていた。

 

しばらく歩くと職員室に着いた。

他の先生達は授業中らしく、椅子に座ったスネイプしかいなかった。

父さんが職員室のドアを閉める。

 

「ルーピン、開けて置いてくれ。できれば見たくないのでね」

スネイプはそう言って立ち上がり、大股でドアの前まで歩いていった。

そして振り向いてこう告げた。

 

「このクラスにはロングボトムがいる。この子には難しい課題を与えないよう御忠告申し上げる。Miss.グレンジャーが耳元で指図したり、キサラギが横から手を出したりするなら別だが」

 

ネビルの顔が真っ赤になり、ハリーがスネイプを睨みつけている。

私もスネイプを睨みつけ、ハーマイオニーもムッとしていた。

 

すると父さんは言った。

「ネビルには最初の段階で、アシスタントを務めてもらいたいと思います。それに、ネビルはきっと、とても上手くやってくれると思いますよ」

 

するとスネイプは、嫌な笑みを浮かべて出て行った。

どうせネビルに出来っこないとか思ってるんだろうけど、それって教師としてどうかと思うぞ?

 

父さんがみんなを部屋の奥の洋箪笥の前に集めると、箪笥がガタガタ揺れた。

「中にまね妖怪(ボガート)が入っている」と父さんは言った。

 

まね妖怪か。

道理でスネイプが見たくないと言った訳だ。

 

父さんが、みんなにまね妖怪の特徴を尋ねる。

手を挙げたのは、私とハーマイオニーだった。

父さんはハーマイオニーを指名した。

 

「ボガートは形態模写妖怪です。私達が一番怖いと思うのはこれだ、と判断すると、それに姿を変えることができます」

ハーマイオニーの上手な説明に、父さんが感心する。

 

それにしてもスネイプの怖いものって、何?

 

「まね妖怪を退治をする時は、誰かと一緒にいるのが一番だ。向こうが混乱するからね。首のない死体に変身すべきか、人肉を食らうナメクジになるべきか? 私はまね妖怪がまさにその過ちを犯したのを見たことがある。一度に2人を脅そうとして半身ナメクジに変身したんだ。どう見ても恐ろしいとは言えなかった」

 

いや、首なし半身ナメクジは、余計気色悪かったってば!!

 

あれは、3ヶ月ぐらい前の話だったな。

青龍学院の倉庫にまね妖怪が出て、2人の生徒が父さんに助けを求めたんだ。

その時、ちょうど私も居合わせたから、そのまね妖怪を見てるんだけど、充分怖かったよ!

 

私の心の中のツッコミは当然聞こえる訳もなく、父さんの説明は続く。

 

「まね妖怪を退散させる呪文は簡単だが、精神力が必要だ。こいつを本当にやっつけるのは『笑い』だ。初めは杖なしで練習しよう。私に続いて言ってみよう。Riddikulus、馬鹿馬鹿しい!」

 

みんなが「Riddikulus!」と声を揃えた。

 

それから父さんは、予告どおりネビルを指名した。

父さんがネビルに世界で一番怖いものを尋ねると、小さい声で「スネイプ先生」と言った。

 

それを聞いてクラス全体が爆笑し、ネビル自身も少し笑った 。

 

「スネイプ先生か。ふむ、ネビル、君はお祖母さんと暮らしているね?」

 

「え……はい。でも……。僕、まね妖怪が、祖母ちゃんに変身するのも嫌です」

ネビルは不安げに答えると、父さんは今度はネビルのお祖母さんが普段どんな服を着ているのか尋ねた。

 

その後、父さんはボガート撃退作戦を説明し始める。

「ボガートが洋箪笥からウワーッと出てくるね、そして君を見るね。そうすると、スネイプ先生の姿に変身するんだ……」

 

そこから説明された内容にみんな大爆笑だった。

うまくいったら、すっごく面白いことになるよ!

 

それから父さんは、みんなに自分の怖いものと、それをどうやったら面白くできるかを考えるように言った。

 

私は蛇が大の苦手だ。

理由は、5歳の時にマムシに襲われて死にかけたからだ。

薬の材料で使う蛇は死んでるから何とか触れるけど、あんまりいい気持ちはしない。

 

「脚をもぎ取ってと……」

後ろでロンの声が聞こえたけど、何だろう?

 

「みんな、いいかい?」

父さんの掛け声で、いよいよスタートだ。

ネビルが引きつった顔で袖まくりし、杖を構えた。

父さんも杖を洋箪笥の取っ手に向ける。

 

1・2・3!!……バンっと扉が開く。

スネイプが、ギラギラした目つきでネビルに向かっていく。

それを見たネビルは、口を金魚みたいにパクパクさせた。

 

「り、り、Riddikulus!」

ネビルが、どうにか呪文を唱えた次の瞬間!

パチンと音がして、ボガートスネイプがつまずく。

すると、スネイプの姿が作戦どおりとんでもないことになった。

 

緑色の長いレースの縁取りをしたドレス。

頭には虫食いのあるハゲタカの剥製がついた高い帽子。

首には狐の毛皮でできた襟巻き。

手には真っ赤っかな、巨大なハンドバッグ!

 

あのスネイプが女装だ!!

 

職員室が吹っ飛ぶかと思うぐらいの大爆笑が起きる。

こっそり父さんが私にウィンクして見せた。

 

一方、ボガートのスネイプは、途方に暮れて固まっている。

 

「パーバティ、前へ!」

父さんが、パーバティ・パチルを呼ぶ。

まね妖怪はパチンと音を立て、血だらけの包帯を巻いたミイラに変わった。

彼女が呪文を唱えると、ミイラの包帯がほどけ、ミイラはつまずき、頭から落ちる。

 

どんどん順番がまわっていく。

 

「伶、前へ!」

ついに私が呼ばれた。

 

まね妖怪がガラガラヘビに変わる。

 

げ、ちょっと、蛇がデカ過ぎない!?

何で私の背丈ほどもあるの!?

しかも、尻尾を震わせ、ガラガラいわせてくる。

 

「Riddikulus!」

後ずさりしながら叫ぶと、ヘビは巨大なハンドバッグに変わった。

ふぅ、どうにかやっつけたぞ。

 

その後もまね妖怪は、次々と姿を変える。

ロンの前では巨大蜘蛛に変わっていた。

へぇ、ロンは蜘蛛が苦手なんだ。

「Riddikulus!」

勢い良くロンが呪文を唱えると、蜘蛛の脚がなくなり、体がゴロゴロ転がりだした。

 

ロン、脚なし蜘蛛は余計に怖いよ!

脚なし蜘蛛は、ハリーの前で止まる。

 

「こっちだ!」

父さんが、ハリーの前に割り込むように、脚なし蜘蛛の前に出た。

パチンと音をたて、蜘蛛は白く輝く球体に変わる。

 

「Riddikulus!」

父さんは、うんざり顔で呪文を唱え、再びネビルを指名した。

 

って、今のは「満月」だ!!

見えたのは一瞬だったけど、鋭い人なら父さんの「持病」に気づくかも!

 

まね妖怪は再びスネイプになる。

ネビルが呪文を叫ぶと、一瞬、スネイプはネビルのお祖母さんバージョンに変化する。

「ハハハ!」

ネビルが大声で笑い飛ばすと、まね妖怪はついに破裂した。

 

授業後、みんな興奮しまくっていた。

特にまね妖怪と戦った生徒はテンションが高かった。

 

「先生は、どうして水晶玉なんかが怖いのかしら?」

ふと、ラベンダーが考え込んだ。

 

水晶玉か。

父さんの「持病」を知らなきゃ、そう見えるんだ。

なら、それに乗っかろう。

 

「きっと昔、水晶玉占いで、怖いお告げを聞いてトラウマになったんじゃない?」

私がそう言ってのけると、ラベンーダーは納得したみたいだ。

ふう、うまくごまかせたかな?


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