いよいよ、スネイプの魔法薬学の授業を受ける日がやってきた。
魔法薬学の教室は地下にあった。
教室は薄暗くひんやりしていて、いかにもスネイプにはお似合いだ。
まあ、薬品っていうものは直射日光を避けて、暗く涼しい所に保管するのが基本。
だから、教室が地下にあるのは、一応理にかなってるんだけどね。
授業の課題は「縮み薬」だった。
私はハーマイオニー、ネビルと同じテーブルになった。
横で見ていると、ハーマイオニーの調合はとても手際がいい。
材料の切り方、鍋の混ぜ方は、全て教科書どおりで完璧だ。
一方、ネビルの調合はとても危なっかしかった。
スネイプの目が気になるのか、ビクビクしてて作業に集中できてない。
「ネズミの脾臓は1つ、ヒルの汁はほんの少しだ。量を間違えれば、薬は毒となる」
スネイプは、黒板に調合の注意点をいっぱい書いていた。
授業も半ばを過ぎた頃、右腕に大げさな吊り包帯をしたマルフォイが現れた。
そして、わざわざハリーとロンがいるテーブルに着席した。
こいつ一体、何を企んでいるんだか。
「先生、僕、雛菊の根を刻むのを手伝ってもらわないと、こんな腕なので」
マルフォイが言うと、スネイプはその作業をロンに命じてやらせていた。
はぁ、それがマルフォイの狙いだったのか。
まったく嫌な奴だ。
私が萎び無花果(しなびいちじく)の皮をむいていると、隣のネビルが鍋に大量のヒルの汁を入れようとしている。
わわ、ちょっと待て!
「ネビル、ヒルの汁が多いよ!」
私が横から教えていると、スネイプがやってきた。
「キサラギ、私語をするな」
スネイプは不機嫌全開で怒った。
えー、ネビルが失敗しそうなのを止めただけじゃん。
少しムッとしながら、私はイモムシを自分の鍋に入れ、左回りに2回かき混ぜる。
そして、刻んだ雛菊の根も入れた。
よし、材料は全部加えたから、あとは煮込むだけだ。
私の鍋の薬は、少しずつ明るい黄緑色になってきた。
しばらくしてから、またスネイプはやってきた。
奴は私の鍋をチラッと見て、フンっと鼻を鳴らす。
うっわ〜、感じ悪っ!
でも、スネイプは何も言わなかったから、薬はちゃんと出来ているってことだよね?
もし問題があれば、アイツのことだから、絶対に嬉しそうに嫌味を言ってくるだろうから。
それから、スネイプはネビルの鍋を覗き込み、中身を柄杓ですくって見せた。
明るい黄緑色になるはずの薬がレモン色になっていた。
あれは、もしかして鼠の脾臓の入れ過ぎかな?
あの色だと、2つぐらい入れちゃったかな?
「ロングボトム、我輩はハッキリ言ったはずだ。鼠の脾臓は1つでいいと……」
どうやら、私の予想は正しかったらしい。
スネイプが嫌味ったらしくネビルをネチネチ責める。
ネビルは震えていた。
見かねたハーマイオニーが「手伝う」と言いだした。
けど、スネイプは「出しゃばるな」と冷たく言って、他のテーブルを見に行く。
しかし「出しゃばるな」と言われて、素直に引き下がる私とハーマイオニーじゃない。
スネイプが立ち去った瞬間、私はネビルの鍋に皮を剥いた萎び無花果を3つ放り込む。
ハーマイオニーがそれを見て、すかさずネビルに指示を出した。
私もコソコソとアドバイスをしていく。
ネビルはふうふう大汗をかきながら、なんとかハーマイオニーと私の指示をこなしていく。
こうして、どうにかネビルの縮み薬は成功した。
ネビルの使い魔のヒキガエルに試したら、ちゃんとオタマジャクシになったんだ。
グリフィンドール生は歓声をあげ、私とハーマイオニーは顔を見合わせてニヤリとする。
「手伝うなと言ったはずだ、ミス・グレンジャー、そしてキサラギ。グリフィンドール10点減点」
スネイプの目は誤魔化せなかったらしい。
ていうか、私達が手伝ったのはバレバレだったみたいだ。
でも、納得いかない!!
何で私達が怒られるんだよ!!
そしてスネイプは授業を終わらせた。
ムカついた私は、道具を片付けながら呟く。
「《何だよスネイプの奴。薬は完成したんだから、減点することないじゃん。ムカつく! だいたい、生徒が調合に失敗しそうになってたら、普通は止めるでしょうが!》」
「レイ、今、何て言ったの?」
ネビルに言われて、今の呟きが日本語だったことに気づいた。
「あ、ごめん。いや、減点が納得いかないなって、思ったんだ」
ネビルが「ごめん、僕のせいで……」と申し訳なさそうに謝った。
「いいよ、次に同じ失敗をしなければさ」
私が慰めるとネビルは少し笑う。
「ネビル、あなた頑張ってるわ! スネイプなんかに負けちゃダメよ」
ハーマイオニーも一緒になって、ネビルを慰めた。
「それにしても、レイ。どうしてあそこで、萎び無花果を入れるっていう判断ができたの?」
ハーマイオニーが尋ねた。
「ネビルはネズミの脾臓を入れ過ぎていたでしょ? だから、それを中和する材料を入れるべきだと考えたんだ」
「でも、どうして3つなのかしら? まさか勘じゃないわよね?」
「よくぞ聞いてくれました! あれはね、薬の色の濃さで判断するんだ。縮み薬はネズミの脾臓を入れれば入れる程、黄色が濃くなるから」
ハーマイオニーは私の解説に感心し、ネビルはあっけにとられていた。