一方、私は寮の談話室で、チョコレートをかじりながら、マグル学のレポートと格闘していた。
書くのに時間がかかるから、ハリー、ハーマイオニー、ロンには付き合えなかったんだ。
だって羊皮紙と羽根ペンって、本当に書きにくいんだよ!
でも、学年末試験の時は、専用の羽根ペンと羊皮紙を使うらしいから、そうも言ってられない。
青龍学院では、マグルのノートとシャープペンシルを使ってよかったんだけどね。
そこへ、フレッドとジョージが疲れきった顔で、よろよろと談話室に入ってきた。
2人とも何故かお腹を痛そうに押さえている。
「ああぁ、ルーピンには参ったぜ」
「ああぁ、まったく困ったもんだ」
そしてあろうことか、2人とも頭から、私の書きかけのレポートの上に倒れこんできた。
ガッシャン!
テーブルの上のインク瓶が派手に倒れ、みんなの視線が、いっせいにこっちに集まる。
気づけば、私のレポートの上に黒いインクが広がっていた。
「うわああ、あと10cmまで書けてたのに!!」
チョコが無事だったのは、不幸中の幸いだ。
「「あ、レイ、ごめんよ……」」
双子は体をノロノロと起こし、インクだらけの顔で謝った。
「レイ、インクをなんとかする」
ジョージが杖を振った。
羊皮紙一面に広がっていた黒いインクは消えた。
というよりも、羊皮紙自体が完全に真っ白になった。
げ、文章まで消えてる!?
「うわああ、レポートが!!」
私が叫ぶと「ゴメンやり直しだ」と、今度はフレッドが杖を振る。
ようやくレポートは、元の書きかけの状態に戻った。
「で、ルーピン先生がどうしたの?」
私は話を元に戻す。
闇の魔術に対する防衛術の授業で、何か問題でもあったんだろうか?
まさか父さんに限って、ヘマはやらないと思うんだけど。
フレッドが話をしだす。
「我らは、ルーピン教授に元気が足りないと考えた。だから、強力な『元気が出る呪文』を掛けて差し上げたのだ」
「ところが、奴は恩を仇で返したのだ!」
「おかげで、我らの腹筋は崩壊寸前なのだ」
え……腹筋?
「「おのれ、ルーピンめ」」
双子は怒りの表情を見せるけども、インクだらけの顔なので、あまり迫力がない。
「え、話がよくわからないよ?」
私がそう言うと、話を聞いていたジニーが解説する。
「あのねレイ。ルーピン先生は、フレッドとジョージが掛けた呪文を……」
そこまで言って、ジニーはぷぷっと吹き出した。
すると、奥で本を読んでいたパーシーが、クスクス笑いながら続きを教えてくれた。
「先生は見事な『盾の呪文』で、呪文を跳ね返し、2人を返り討ちにしたそうだ」
すると双子は恨みがましい顔で、パーシーを見た。
「「笑うなパース! コッチは授業の間ずっと笑いが止まらなくて、大変だったんだ! いまだに腹筋が痛くてたまらないんだ!」」
「お前達が自分達でまいた種だ。ルーピン先生に減点されなかっただけでも、感謝しろ」
パーシーはピシャリと返す。
アハハハ、父さんに挑戦するなんて、20年早いよ!
元・悪戯仕掛け人を見くびってもらっちゃ困るね。
などと思いつつ、私はチョコを一口かじった。
「それにしても、ルーピンの実力はホンモノだな」
「うん、今年の闇の魔術に対する防衛術は期待できるな。けど、次こそアイツをギャフンと言わせてやろう!」
双子は肩を組んで、男子寮へ上がっていった。
*
金曜日の放課後、寮に向かって歩いていると、マクゴナガル先生に呼び止められた。
「ミス・キサラギ。ミスター・マルフォイがケガをした時、応急処置をしたそうですね?」
「あの……もしかして、何か問題でも?」
マルフォイは、まだ痛がっているという噂だ。
あいつが「私の手当が下手なせいだ」って言ってたら、嫌だな。
「いいえ。貴女の応急処置が非常によくできていたと、マダム・ポンフリーが褒めておられました。ですから、グリフィンドールに10点与えましょう」
先生はそう言って去っていった。
ああ、良かった。
とりあえず、私の手当には問題無しとお墨付きがもらえた。
それに点数もゲットしたし!
*
編入から1週間がたった。
私はようやくホグワーツの生活に馴染んできた。
最初こそ、編入生の私は珍しがられた。
だけど、今では前からココにいたように、みんな普通に接してくれる。
青龍学院と比べて、ホグワーツの授業や先生達はかなり個性的だ。
一番気に入ったのは、吹けば飛ぶような小柄なフリットウィック先生が教える呪文学。
授業が実技メインでとてもわかりやすい。
逆に一番苦手だと思ったのは、ゴーストのビンズ先生の魔法史だ。
眠い、眠い、眠すぎる。
あの授業を録音して眠れない時に聞いたら、きっといい睡眠薬になるに違いない。
もっとも私は日本にいた時から、魔法史だけは苦手で、父さんに残念がられていたけどね。
そういえば、魔法薬学と、父さんの闇の魔術に対する防衛術の授業は、まだ受けてないんだよね。
まわりのみんなに聞けば、魔法薬学担当のスネイプの評判は最悪だ。
スリザリンを贔屓しまくりで、他の寮からガンガン点数を引きまくるんだって。
特にあいつにとってハリーは天敵らしく、いつも目の敵にされるそうだ。
逆に父さんの評判は上々だった。
フレッドとジョージを返り討ちにしたのも、ポイントが高かったみたい。
上級生は口を揃えて「やっとマトモな先生が来た」と言っていた。
なんでも、今までの先生達がかなり酷かったらしい。
しかも、闇の魔術に対する防衛術は呪われているという噂があって、毎年のように先生が変わっているらしい。
でも、父さんならきっと大丈夫。
持病さえバレなきゃ、きっと問題なくやっていけるハズだ。