感想をくださった方、及びお気に入り登録をしてくださった方、評価を付けてくださった方ありがとうございます。
感想などには目を通していますが、返信については苦手ですので、返信はしない予定です。申し訳ありません。
今後も頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
今回はリア視点です。
「それじゃあ予告通り《実技テスト》を始めましょう」
グランドには武器を持った《Ⅶ組》の面々が揃っていた。今までの実技訓練で集まっていた時よりも、みんなが緊張していることがわかる。私もそのうちの1人である。
「前もって言っておくけどこのテストは単純な戦闘力を測るものじゃないわ。『状況に応じた適切な行動』を取れるかを見るためのものよ」
すなわち、短時間で相手を倒すよりも、何かしらの工夫をして倒したほうが評点は高くなるのだ。とはいっても、そんなことを考えながら戦闘をしている余裕はなさそうだ。
「ふふーーそれではこれより、4月の《実技テス》を開始する。リィン、エリオット、ガイウス、マキアス。まずは前に出なさい」
「はい……!」
「い、いきなりかぁ」
「……承知」
「了解した!」
4人はサラ姉さんに言われ前に出る。出たところをサラ姉さんに準備をするように言われている。前衛として優秀なリィンとガイウス。アーツを得意にしているエリオット君。ショットガンとアーツを利用して戦うマキアス。チームのバランスはとてもいい。さらに、このメンバーは特別オリエンテーリングで一緒に探索したメンバーのようだ。ある程度は戦略ができているだろう。彼ら4人はこの実技テストで恵まれた状況で戦えるようだ。
「次のメンバーはラウラ、ユーシス、アリサ、エマよ。準備しておきなさい」
言われた4人は1か所に集まり実技テストの準備を始める。大剣の一撃が期待できるラウラ。騎士剣で前衛をある程度こなせ、アーツにも優れているユーシス。導力弓で遠距離からの攻撃とアーツを利用するアリサ。クラスで一番アーツの優れているエマ。このチームのバランスもよさそうだ。この4人にテオを含めると特別オリエンテーリングのメンバーになる。テオが抜きになった状態で、そう戦略を立てるかが楽しみだ。
「残ったテオ、フィー、リアも準備をしておきなさい」
「それはいいですけど、俺たちは3人ですか?」
「人数的に仕方ないわね。まあ、あなた達なら大丈夫でしょう」
そういって、サラ姉さんは元の立っていた位置へ戻っていく。どうやら何を言っても無駄なようだ。大丈夫といって放置されるのは信頼されているのか、利用されているのかわからないが。
「テオ。諦めて準備をするよ」
フィーはグランドに集まった時から隣にいるので、離れているテオをこちらに呼び寄せる。テオは少し面倒くさそうにこちらに近づいてくる。
「わかったよ。といってもこの3人だと俺とフィーが前衛を務めて、リアが後ろからアーツで決まりだろ?」
「でも、私たちだと決め手に欠けるよね?フィーもテオも火力が足りないと思うし、私も補助系のアーツしか使えないし」
実技訓練で見たテオとフィーの戦い方を思い出しながら告げる。私の短剣もそこまで一撃に期待ができない。
「俺の火力が足りないのは、そういった符を使ってないからだな。もっと威力のある符も持っているから、一撃には期待してくれていい」
「なんでもありだね。テオの符は……」
「これでも不便なんだぜ?符を貼らないと使えないし」
「でも、罠として利用できる」
フィーの言葉に違いないと、テオは笑い返した。どうやらそういった目的で利用したことがありそうだ。事前に仕掛けておいて、そこに敵を誘い込む。そして、符を発動させて、敵にダメージを与える。まして、一枚の落書きがされた紙切れにしか見えないのだから、バカにできない。
「それより、リアが補助系のアーツしか使えないのはなんでだ?特別オリエンテーリングで攻撃系のアーツを使っていただろう?」
「今《ARCUS》につけている組み合わせだと補助系しか使えないんだよね。組み合わせを変えれば使えるんだけど、入学前に使ってたマスタークオーツに変えることになる。そうするとみんなとは不公平かなって思って」
「リアが気にし過ぎ」
フィーの言うとおりだと言う風にテオが大げさに頷く。もちろんそんなことは私もわかっている。不公平だと言ってて大けがをしたら、それこそ本末転倒だ。まあ、今回はつけているマスタークオーツを成長させるためと思って我慢してもらおう。そのことを2人に話すと仕方ないと了承してくれた。
「あとは、《戦術リンク》を誰と誰で繋げるかだけど、どうする?」
「リアとフィーみたいに俺はつなげないから、2人で繋いどいてくれ」
「わかったよ」
「了解」
私とフィーはその場で《戦術リンク》をつなげる。戦況次第では途中で繋いでいるペアを変えることもあるだろう。テオもそのことは理解しているようだった。
これで私たちはすべて話し合っただろう。後、決めなければならないことは思いつかない。
「ふふ、よろしい。ーーそれじゃあ、とっとと呼ぶとしますか」
すべてのチームが話し終わったのを確認して、サラ姉さんは指をパチンと鳴らす。それを反応するように変な人形がリィン達の前に現れる。
「……サラ姉さん。これは?」
「作り物の“動くカカシ”みたいなもんよ。そこそこ強めに設定してあるけど決して勝てない相手じゃないわ」
戦術リンクを活用すればね、とサラ姉さんは付け加える。実技テストの目的を露骨に聞いた気がする。
「ーーそれでは始め!」
リィンたちのペアが人形と戦闘を開始した。
あれから十数分後、私たちの番がようやく終わった。
リィン達は自由行動日に旧校舎の地下で《戦術リンク》を使っての戦闘に慣れていたようだ。そのため、終わった時に少し余裕があった。
ラウラ達は《戦術リンク》が上手いこと使えず、苦戦を強いられていた。終わった時には全員がギリギリのようだった。
私たちは人数が1人少なかったが、思っていたより簡単に勝てた。3人とも他の人に比べ戦闘経験が多く、《戦術リンク》を上手いこと使えたことが簡単に勝てた理由だろう。あと、テオの使っていた符の威力が高すぎた。
「ちょっと、あんたたち3人の実力がよく判らなかったじゃない。どうするのよ」
「あんなカカシ人形を標的にするからでしょう?」
早く片付いたことに文句を言うサラ姉さん。それに面倒くさそうに答えるテオ。というか、そのセリフは他のグループに失礼だろう。ほら、ユーシスとか露骨に機嫌が悪そうだし。
「じゃあ、カカシ人形じゃなかったらいいのね」
そういってサラ姉さんはコートの下から自分の獲物を出す。右手にはブレードを、左手には導力銃を持っている。その見た目がかなり凶悪そうな武器だった。
「さ、サラ姉さん。その手の武器は何?」
「あたしが直々に相手をして、実力を測ろうと思ってね。3人とも武器を構えなさい」
「いや、なんでサラさんが相手なんですか。他にもやり方はあるでしょうに……」
「テオ。うるさい。早く構えなさい」
テオが言っても無駄だった。もう誰にも止められないだろう。正直、戦いたくない。
「やるしかないみたいだ……」
「みたいだね。テオがもっと説得してくれれば……」
「無理言うなよ……」
「役立たず」
「フィーまで!?」
そんな冗談を交えながら私は《ARCUS》を、フィーは双銃剣、テオは符を構えた。そういえば、今日は一度も短剣を抜いていない。ずっと《アーツ》の補助だけで戦っている。まあ、短剣を抜いてもサラ姉さんには勝てないだろう。
「トールズ士官学院・戦術教官、サラ・バレスタインーー参る!」
開始とともにテオとフィー、サラ姉さんが同時に駈け出す。2人がサラ姉さんと戦っている間に私は《ARCUS》につけてある《タウロス》に触れ《ラ・クレスト》のアーツを準備する。これは対象者の周囲にいる味方の物理防御力をあげるアーツだ。これをかけておくだけで不思議と相手の攻撃の威力が軽減される。切られた時にできる傷口も普通に切られるより浅かったりするのだ。皮膚を固くしているのだろうか?よく判らない。サラ姉さん相手には意味をなさないかもしれないがないよりはマシだろう。
「《ラ・クレスト》」
フィーを中心にテオにも防御力上昇のアーツがかかる。今使えるアーツはこれだけなので同じアーツを重ねがけする準備をする。
「しまった!リア!」
テオの声を聞き、集中するためにつぶっていた目を開く。目に映ったのはサラ姉さんがこちらに導力銃を向けている姿だった。
「まずは一人目!!」
サラ姉さんの声が聞こえたときには、サラ姉さんの導力銃の銃弾が私に当たっていた。模擬弾とはいえ当たると痛い。私はその場で動けなくなる。どうやら《アーツ》を使うのに目をつぶっていたのがいけなかったようだ。今度から《アーツ》は目をつぶらずに準備しよう。
フィーとテオがすぐに《戦術リンク》をつなぎなおし、サラ姉さんの相手をする。
だが、フィーとテオの2人でもサラ姉さんにかなわないようだ。フィーの攻撃は的確に捌かれている。テオは《符》を貼らないと攻撃できないのだが、サラ姉さんに1枚も《符》を貼れていない。
「これで2人目!」
見るとテオがやられていた。どうやら残っているのはフィーだけのようだ。だが、テオがいなくなってこちらの手数が減った。すなわちサラ姉さんに余裕ができたということだ。
「これで終りね」
思った通りすぐに決着はついた。さすがにフィー1人では厳しかったようだ。
「フフン、あたしの勝ちね」
そういってサラ姉さんは武器をしまった。あれでも一応手加減をしているんだろう。アーツを使わず短剣で戦闘していたら、もう少しマシな結果にできる自信はあるが勝てはしないだろう。本当にかなう気がしない。後ろで見ていた《Ⅶ組》のメンバーも呆気にとられているようだ。サラ姉さんの強すぎる実力を始めてみたのだから当然か。
「ーーさて《実技テスト》はここまでよ。先日話した通り、ここからはかなり重要な伝達事項があるわ。君たち《Ⅶ組》ならではの特別なカリキュラムに関するね」
少し休憩した後の私たちは最初と同じように集まっていた。どうやら《Ⅶ組》の特別なカリキュラムについてやっと話してくれるようだ。他のみんなも気になっていたようで空気が一変した。
サラ姉さんはひとつ咳払いするとサラ姉さんは説明を始めた。同時に班分けを記したプリントも配っている。
《Ⅶ組》の特別なカリキュラムは《特別実習》と呼ばれる。《Ⅶ組》はA班、B班に分かれて指定実習地に行く。そこで期間中に、用意された課題をこなすそうだ。課題の内容と実習地、メンバー次第で難易度が変わりそうだ。
【4月特別実習】
A班:リィン、アリサ、ラウラ、テオ、エリオット
(実習地:交易地ケルディック)
B班:エマ、マキアス、リア、ユーシス、フィー、ガイウス
(実習地:紡績町パルム)
ケルディックは東にある交易が盛んな場所で、パルムは帝国南部にある紡績で有名な場所である。距離的にA班とB班に差があるがそこは考慮されるのだろう。
問題は班分けの方だ。A班には互いに仲直りしようとして未だにしていないリィンとアリサ。B班には仲が悪化しているマキアスとユーシスがいる。悪意のある班分けだ。
私もB班になっている。正直、このメンバーで行きたくない。行くときの列車で喧嘩が勃発するだろうし、実習期間中ずっと喧嘩を止めなければいけない。私には無理だ。他の3人。特にエマとガイウスが頼りだ。フィーは面倒くさがって何もしないだろうなあ。
「お二人ともよろしくお願いしますね」
「うん。こちらこそよろしく」
「よろしく」
《実技テスト》が終わるとエマが挨拶をしてきた。律儀だと思う。私なら挨拶をせずにそのまま行くところだった。男子のメンバーはすでに教室へと戻っているようだが。
「とにかく努力だけはしてみようか……」
「あはは……そうですね」
私たちの実習は無駄に疲れそうだった。
サラさん戦っちゃいました。
2章の実技テストは……まぁ、何とかなるでしょう。
というか、リアがサボりすぎですかねー?
さて、次回から《特別実習》が始まります!
メインの主人公はリアですけど、今回の特別実習はテオ視点になりそうです。
時間があれば、というかやる気が出たら、リア視点の特別実習も書いてみてもいいかもしれない。
現在、そこのところを悩んでます。