力と心の軌跡   作:楓と狐

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今回は視点を変えましてテオ視点です。
彼はこれで2回目の視点ですね。やはり、リアの視点が多くなる。
それと、これは前の話と同じ日です。
前の話とこの話、2つとも朝から夕方まで書かれているのでご注意を。


4月17日 会長の手伝い

 朝六時。学校が始まるまでまだ時間はかなりある。鍛錬や部活の朝練などの理由がない限りこんな時間には起きていないだろう。そんな時間に俺は制服を着て外に出る。もちろん鞄をもって、これから登校するのである。

 

「あれ?テオ、こんな時間にどうしたの?」

 

 第三学生寮を出たところで、リアに捕まった。そういえば、彼女は早起きして散歩を毎日している。飽きないのだろうか。

 

「学校に用があってな。今から登校する」

 

 あえて、用の内容までは口に出さない。聞かれたらごまかすだけだ。

 

「ふーん。あ、そうそう。特別オリエンテーリングの時は見逃してくれてありがとうね」

「なんのことだか、判らんな。それに助けられたのはこっちだ。ありがとな」

 

 俺が言いたくないことを察したのか、リアは話題をそらしてくれた。といっても、この話題も早く終わらせたいものだった。内容は嘘だらけだからだ。

 見逃したことは礼を言われることではない。問題は俺が助けられた時に、俺がまだ動けたということだ。そのことにリアは気づいているだろう。まわりの奴らが礼を言っているので、俺も言っておかないといけないが。

 

「礼が言いたかっただけだから別にいいよ。それじゃ、また学院で」

 

 そういって、リアは学生寮に入っていった。嘘つきと小声で言われたので、彼女は俺の嘘の部分にも気づいているだろう。けれど、彼女は俺がこの話題があまり好きでないのを知っている。すぐに終わらせてくれた。

 

「っと、早くいかないとな」

 

 俺はすぐに学院に向かって歩き出した。

 この時間はまだ店も開いておらず、開店の準備をし始めているところがあるくらいだ。学生が登校する時間には開店するだろう。

 商店街を抜けると、川の上の橋を渡る。渡った先の右手には住宅が、左手に教会が見えてくる。教会には朝のお祈りをしている人もいるだろう。教会の朝は早そうだ。

 その奥に進むと学院につく。その手前の道を左に行くと第一学生寮が、右手に行くと第二学生寮がある。第一学生寮は「貴族生徒」の住む寮で、メイドや執事もいるらしい。用もないのに近づくと、プライドの高い貴族生徒にちょっかい出されて面倒くさそうだ。対して、第二学生寮は「平民生徒」が住む寮である。俺も《Ⅶ組》に所属していなかったらこの寮に入っていただろう。ちなみに《Ⅶ組》は第三学生寮に住んでいる。学院から少し離れているのが難点だが、住み心地はいい。まあ、第二学生寮の住み心地を知らないが。

 俺がその分岐点に到着した時、第二学生寮より一人の生徒が歩いてきた。トワ会長だった。どうやら、生徒会室に行く前に合流できたようだ。

 

「あ、テオ君。おはよう。もしかして、今日も手伝いに来てくれたの?」

「おはようございます。いつも通りに手伝いに来ました」

 

 入学式の次の日以来、俺は放課後に会長の手伝いをしていた。入学式の次の日に用事で生徒会を訪れたとき、生徒会でトワ会長が忙しそうにしていたのだ。それを見た俺は少しでも会長を楽にできればと、それ以来ずっと手伝っている。最初のころは会長も申し訳なさそうにしていたが、最近ではいるのが当たり前になってきたようだ。そして5日前に、朝にも生徒会の仕事をかたずけていることが判明。俺はその次の日から朝も手伝っている。会長も特に何も言わず認めてくれた。放課後の手伝いと同様、いずれは当たり前になるのが目に見えていたのだろう。

 

「そういえば、テオ君は何部に入部するつもりかな?」

「特に入ろうと思っていませんね。今の生活が面白いし」

 

 朝と放課後に生徒会の手伝い。おそらく今度の自由行動日も生徒会の手伝いに費やすだろう。生徒会の仕事が楽しいっていうのは少し違う。トワ会長と話しているのが思ったより楽しいのだ。時折入ってくる先輩たちも個性が豊かで面白く、すぐに仲良くなれた。生徒会室の居心地が思ったよりいいのだ。

 

「あはは。テオ君、あっという間に生徒会に馴染んじゃったからなあ」

「最初はこんなに馴染めるとは思いませんでしたけどね」

 

 ここまで馴染めたのはトワ会長と、先輩たちのおかげだろう。あの空間ならば誰でもすぐに馴染めそうだ。

 

「あら、会長とテオじゃない?……もしかして、邪魔しちゃったかしら」

「ふぇ?」

「おはようございます。サラさん。生徒会の仕事の邪魔はしていますね」

 

 俺たちの向かっていた方よりサラさんがやってきた。どうやら、俺よりも早く寮を出ていたようだ。

 というか会って早々、そういった冗談はやめてほしい。トワ会長はそういった冗談を真に受けてしまう。相手を考えていってほしい。まあ、サラさんのことだ、考えたうえでわざと言っているんだろうが。

 

「あら、ノリが悪いじゃない。まあいいわ。実は会長に1つ頼みたいことがあるのよ」

「頼みたいことですか?」

 

 どうせ禄でないことだろう。サラさんの頼み事は毎度のことそうだ。少し会長が可哀想だ。

 

「実は《Ⅶ組》の子達が忙しそうな生徒会を見て、手伝いたいって言ってきたのよ。『特科クラス』の名に相応しい生徒として自らを高めようって。みんな張り切っているから、生徒会の仕事を《Ⅶ組》の子に分けてくれない?できれば、あなた達が去年経験した形でお願いね」

 

 って、俺たちに仕事を押し付ける気か!安心していた俺がバカだった。まさか、被害がこっちにも及ぶなんて。というか、生徒会の手伝いをするなんて話は一切あがってない。サラさんの嘘だ。しかも、話を合わせるようにアイコンタクトをおくっているし。ここで断ったら、あとが怖い……。

 

「それはいいですけど、今でもテオ君が手伝ってくれていますよ?」

「それはテオ個人で、でしょ?《Ⅶ組》で手伝いをしたいらしいのよ」

 

 くっ。トワ会長のアシストを受けて逃れる手を思いついたが、一瞬でつぶされた。さすがサラさん。逃げ道を的確につぶしてくる。

 

「まあ、そういう事でよろしく。今日の放課後にリィンを生徒手帳取りに行かせるから」

 

 そういって、サラさんを校舎へ歩いて行った。こんな朝早くから仕事があるのだろうか。いつもはもう少し遅くまで寝ていた気がするのだが。

 それにしても、リィンはいきなり巻き込まれて可哀想だ。多分、今回の標的は《Ⅶ組》ではなく、リィンだ。手伝いで《Ⅶ組》が巻き込まれる可能性はあるが、それ以外はリィン1人で片付けられる仕事だろう。すなわち、試されているのはリィン1人だ。そう信じたい。

 

「それより会長たちが経験した形ってどういうことですか?」

「口止めされているから詳しくは言えないけど、《Ⅶ組》のお試しみたいなことだよ。だから、《Ⅶ組》に頼むのは生徒会に来た『依頼』をしてもらうことになるかなあ」

 

 さすがサラさん。先に口止めをしていたか。だとすると、他の先輩も口止めされているだろう。これは、話してくれる時を待つしかなさそうだ。

 それにしても、任されるのは生徒会に来た『依頼』。何となくだが、サラさんのやりたいことは判ってきた。といっても、確信はできないから、なんとも言えないが。

 

「それにしても、テオ君たちも1年なのに感心しちゃうな。さすが新生《Ⅶ組》だねっ」

「俺は今まで通りの生徒会の手伝い方なんで、それはリィン達に言ってください。それよりも生徒会室に行きましょう。仕事が片付きませんよ」

「そ、そうだった。行こう、テオ君」

「はい」

 

 

 

 放課後になると俺は生徒会室にいた。いつも通り、トワ会長の手伝いをしに来たのだ。

 

「失礼します」

「あ、テオ君。今日も手伝いにきてくれたのかな?」

「はい」

「それじゃあ、今日はその書類からまとめてくれないかなぁ」

「了解です」

 

 俺がいつも使っている机に書類が置かれている。書類には課外活動申請書と書かれている。学外でバイトなどをする時に提出する書類だ。申請書の受理はされているのだが、その整理が済んでいない。先生から整理の仕事がまわってきたのだろう。

 

「自由行動日の前日にこの仕事かよ……」

「あはは……少し遅いよねぇ?」

「少しじゃないですよ、かなり遅いです」

 

 自由行動日にバイトをする人もいる。その課外活動申請書もこの書類の中にあるだろう。学院側は誰が課外活動をしているのか把握できていないと言っているようなものだ。

 文句を言っていても仕方ないので、仕事を始める。この程度の仕事ならすぐに終わるだろう。

 

「そういえば、テオ君。今日の帝国史の授業で寝ていたんだよね?」

 

 気が付くと会長はこちらに笑顔を向けていた。笑顔を向けてくれるのは嬉しいのだが、出しているオーラが怖い。

 確かに俺は帝国史の授業を寝ていた。トマス教官の授業は眠くなるのだ。寝てしまうのは仕方がないと思う。だが、誰から情報が漏れたのだろう。

 《Ⅶ組》のメンバーは会長に出会うタイミングがなかったはずだ。だとすると会長は俺にカマをかけたのだろうか。これに引っかかってはいけない。

 

「いやいや、寝てないですよ。誰がそんなことを言っていたんですか?」

 

 表情は変えないで嘘を言う。授業中に寝ていたなんて会長にばれたら大変なことになりかねない。《Ⅶ組》のメンバーには口止めをしておこう。

 

「その整理の仕事ね、トマス教官からもらったんだ」

 

 会長の言葉で誰が密告したのか理解した。帝国史を教えているトマス教官から伝わったのだ。教官の中でタチの悪い冗談を言うのはサラさんぐらいだろう。すなわち、会長には寝ていたことがバレバレなのだ。

 

「テオ君。まだ嘘をつくのかな?」

「すみません。反省しています」

 

 俺は作業の手を止め、謝罪していた。生徒会室に入り浸るようになってから、五回目くらいの謝罪だった。さすがに自分でもびっくりするぐらい謝っている。

 

「もう。次からはちゃんと授業を受けてね」

「はい」

 

 それにしても、教官から会長に伝わると思わなかった。これからは授業も寝れない。授業をさぼっても同じように伝わるだろう。正直、手の打ちようがない。まあ、寝るほうがいけないのだが。

 作業に戻ろうとしたとき、扉をノックした音が聞こえた。どうやら、誰か来たようだ。今朝のサラさんとの会話を考えるとリィンだろう。

 

「はいはーい。鍵は掛かってないからそのままどーぞ」

 

 来訪者の対応は会長がしている。質問などには会長のほうが的確に答えられるからだ。それに、俺も入学してから一か月も経っていないため、質問にも答えられないことが多い。

 

「失礼します。ーーって、テオもいたのか」

「いたら悪いのか……」

 

 入ってきたのは予想通りリィンだった。どうやら、俺がいることは聞かされていないらしい。

 

「いや、そういうわけじゃないんだ。テオもサラ教官に頼まれたのか?」

「いや、俺は自主的な手伝い。それより会長に用があるんだろ?」

「あ、ああ。……って、会長!?」

 

 俺はそれ以上リィンとしゃべらず、目の前の仕事に集中する。リィンが今後どんなリアクションを取るか気になる。だが、それ以上にリィンの巻き添えをくらいたくない。サラさんが考えることは碌なことがないからな。

 それにしても、《Ⅶ組》の課外活動申請書は一枚もない。誰もバイトなどはしないということだろうか。まあ、あのメンバーでする人は少なそうでもある。

 

「これはテオ君のだから、今渡しておくね」

 

 不意に声をかけられ振り向くと、こちらに生徒手帳を差し出している会長がいた。

 

「そういえば昨日届いていましたね。すっかり忘れていました。ありがとうございます」

 

 受け取った生徒手帳をその場で開いた。中の生徒情報に自分の名前が記載されていることを確認するためだ。残りの部分は今晩にでも確認すればいいだろう。

 

「うーん、でもリィン君たちも一年なのに感心しちゃうな」

 

 会長は本当に感心していた。今朝のサラさんから頼まれた、依頼を《Ⅶ組》に回す件だろう。実際はサラさんが勝手に決めたことなのだが、会長は知らない。知らないとはなんと恐ろしいことか。

 これ以上聞いていては俺も巻き込まれてしまうだろう。俺は再び仕事に取り掛かった。リィンが助けを求めるような目をこちらに向けているようだが無視だ。

 ……まあ、《Ⅶ組》に頼む依頼を簡単なものにする努力くらいはしてやろう。

 




ということで、今後あまり描かれることのないだろう生徒会室の手伝い描写。
そして、サラさんがトラブルメーカー。
ちなみに、サラさんが朝早くに学校にいたのは、放課後に仕事から早く解放されるためです。
もっと正確に言うと、前の話にあったリアの旅の話を聞くためです。
……先輩も描きたかった。1章では出で来ないだろうと思います……。

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