力と心の軌跡   作:楓と狐

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遅くなって、申し訳ありません。

今回はリア視点です。


間章Ⅰ
6月1日 旅立ちの日


 人はずっと健康でいられるわけではない。時には風邪を引き、時には未知の病におかされる。もちろん突然、死が訪れることもある。そう考えると今の私の状況はまだよかったのかもしれない。

 そんなことをサラ姉さんに言うと、「ずっと健康な方がいいでしょう?馬鹿なこと考えてないで風邪を早く治しなさい」と言われた。ずっと健康でいるためには一体どうしろというのか。教えて欲しい。

 今思えば、この風邪が特別実習の間に引かなくてよかった。軽度の風邪だが、メンバーの足を引っ張るのは確実。さすがに今以上の迷惑をみんなにかけたくないものだ。

 そんなわけで私は寮に一人取り残された。現在は寝すぎで逆に眠れず、することがなくて困っている。前に授業が面倒くさくサボりたいとも思っていたが、これでは授業をサボってもすることがなく暇になるだけだ。1か月前の私にぜひとも教えてあげたい。

 今頃、《Ⅶ組》のみんなは何をしているのだろうか?今は丁度お昼の時間で、午前の特別実習の報告会も終わっているだろう。マキアスとユーシスの仲が険悪なものから変わった今、みんなで楽しくご飯を食べているかもしれない。そう思うと、少し寂しい。私は寮で一人食べることになる。やっぱり風邪なんて引きたくなかった。

 

「そういえば、お腹すいてきた。ご飯食べないと」

 

 私はベットから体を起こし、寝間着のまま廊下へとでる。どうせ寮には私だけしかいないのだ。男子に見られることもない。まあ、見られても特に構わない。同じ寮に住んでいるのだ。いつか見られるだろう。

 

「あれ?エマ?どうしたの?」

 

 階段を降りようとしたときに階下からやって来るエマに気付いた。昼休みだから戻っては来れるのだが、わざわざ用もなしに戻ってくるとは考えにくい。なんのために戻ってきたのだろうか。

 

「リアさんのお昼を用意しにきたんです。もう起きても大丈夫なんですか?」

「うん。もう大丈夫だよ。わざわざ戻ってきてくれてありがとう」

「では、下で一緒に食べましょうか。もう、準備はできていますので」

 

 そういってエマは階段を降りていき、私はその後をついていく。エマの手料理を食べられるならば風邪を引いてよかったかも知れない。1度は友達の作った料理を食べてみたかった。それにエマが作るんだ、さぞかし美味しいだろう。

 食堂に入ると、すでに机に料理が並べられているのが見え、おいしそうなにおいが私の食欲を煽る。においのもとはポタージュだろうか。病人にはお粥がセオリーだと思うのだが、エマの家では違ったのだろうか。

 

「すみません。千万五穀が用意できなくて、お粥が作れませんでした」

「大丈夫だよ。体調もほぼ完治してるから」

 

 どうやら素材が足りなくて仕方なくポタージュにしたようだ。まあ、お粥なんて味気ないものよりはポタージュの方がいい。それに初めてのエマの手料理がお粥だともったいない気もする。千万五穀がなくてよかった。

 

「いただきます」

 

 料理のおかれた席に座り、ポタージュを一口飲む。なにこれ。美味しい。前回のお菓子作りスキルに続き、料理スキルでも敗北だ。私はエマに様々な面で勝てる気がしない。唯一勝てるとしたら接近戦だろうか。アーツではもちろん負ける。女子として、自分が情けなくなる。今度エマに料理を教えてもらおう。

 

「美味しいよ。将来、エマはいいお嫁さんになるね」

「あはは、ありがとうございます……そ、それよりも、今日の報告会で報告されたことをまとめた紙です。読んでおいてくださいね」

 

 私に褒められたのが恥ずかしかったのか、途端に話を変えるエマ。エマに手渡された紙を見ると、A班とB班の内容を個別にまとめられていた。私はB班だったので、A班の報告を読んでおけばいいだろう。

 内容としては課題の達成経過や独自での活動報告だ。採集の課題や魔獣討伐の課題、私たちがした課題と似たようなものだった。途中でリィンが大怪我を負ったことやアルバレア家からの呼び出しなど書かれている。テオが呼び出されている理由について触れられていないのは本人が話したくないからだろうか。

 A班に起こった重大な事件はマキアスが領邦軍につれていかれたことだ。その解決までの経緯は詳しく書かれていた。地下水道からの潜入や、ユーシスとの合流、そして、……。

 

「……え?」

 

 私は見間違いかと思いもう一度読み直すが、同じ文字列がそこには並んでいた。私はすぐにエマに確認せずにはいられなかった。

 

「エマ、これって……」

「ああ、フィーちゃんのことですね。今は辞めているそうですし大丈夫だという話になっています。それにフィーちゃんですから」

 

 信じられない。なぜそんなにも簡単に認められるのか。なぜこのような集団に足を突っ込んだ人物と仲良くできるのか。私にはわからない。

 

「リアさんも仲良くしてあげてくださいね」

「う、うん」

 

 あり得ないと叫びたい。どうかしてるとエマに言いたい。私にはそんなことできない。でも、《Ⅶ組》のみんなは認めている。私も、認めなくてはいけないのか。このような頼まれたら人殺しでも焼き討ちでもする集団を。

 その後エマが帰るまで、爆発してしまいそうな感情をなんとか押し殺した。エマが作ってくれたポタージュも味がわからなかったし、報告書の続きも読む気が起こらなかった。それほどまでにこの集団が私は憎い。このままでは私はフィーに襲いかかるかもしれない。

 フィーに対する感情をまるっきり変えてしまう言葉。報告書に書かれていた文字は次の通りだった。

 

「フィー・クラウゼルは猟兵団に所属していた経歴がある」

 

□ □ □

 

 猟兵団はお金さえもらえれば何でもする集団である。仕事自体は殺しや焼き討ち、護衛など様々ある。なかには仕事を選ぶ猟兵団もあるようだ。

 私は幸せを壊した猟兵団が憎い。だから、私の幸せを壊した猟兵団には復讐をしたいし、そのほかの猟兵団にもあまりいい感情を抱いていない。もし、フィーが幸せを壊した猟兵団の一員なら私は彼女を襲うだろう。違う猟兵団だとしても仲良くはしたくない。しかし、《Ⅶ組》のみんなが彼女をみとめたということは、ここで私が彼女を嫌うわけにはいかないだろう。

 

「だから、休学させてほしいと?」

「はい。このままではフィーと争うことになります」

 

 私は学院長室にきていた。時間的には昼の授業が始まったところで、《Ⅶ組》やサラ姉さんに出会うことのない時間だ。この時間を狙って、風邪でだるい体に鞭打ってきた。

 

「休学したとして、どうするつもりかね?学生寮で顔をあわせるじゃろう?」

「旅に出ると思います」

「その風邪でもかのう?」

「はい」

 

 もうまわりのことなんか気にしていられない。休学が認められなくても、私は旅に出るだろう。もちろん退学でもかまわない。とにかくフィーから離れなければ。

 

「ふむ。……その理由で休学は無理じゃろう」

 

 やはり、無理だったようだ。さすがは名門校。このような理由で休学を認めるわけにはいかないのだ。もう無断で旅に出るしかなさそうだ。

 

「それにしても、これは困ったのう。参加希望者が少ないようじゃ」

 

 今までの雰囲気とは一変。どこかわざとらしい声を出し、一枚の紙を見て、わざとらしく困った表情を浮かべている学院長。いきなりすぎて話している内容がなんのことだかわからず、話についてもいけない。

 

「そう言えば、《Ⅶ組》は実習にいっておって、聞いおらんかったな。どうじゃ、リア君。参加してみる気はあるかの?」

 

 そう言って学院長は見ていた紙をこちらへ渡してきた。私はそれを受けとり、内容に目を通す。そこには「職業体験に参加しませんか?」と書かれていて、どうやら帝国の全学校からの希望者が、数ある職業の中から選んで職業体験をするというものらしい。実施期間は6月3日から6月8日だった。場所は帝都ヘイムダルの駅前に集合となっている。期間中は泊まり込みの場所も用意されているらしい。

 学院長の言いたいことがやっと理解できた。これは学院から離れることに正当性がもらえるのだ。無断で旅に出るよりは問題にならない。

 それに、私としては目的もなく放浪するよりは、目的もあったほうがいい。この期間が過ぎた後は、またその時に考えればいいだろう。今はとにかくここを離れたい。数日の空白はサボればいいだろう。

 

「私でよければ参加します」

「おお。それは助かる。手続きのほうはワシのほうで何とかしておこう」

「ありがとうございます」

 

 これで、休学せずに、《Ⅶ組》と会わない理由ができた。時間稼ぎのようなものだが、少しでも時間ができるのはありがたい。《Ⅶ組》のみんなには申し訳ないが、今はこの方がいいだろう。

 

「ついで代表者をやってみんかの?」

 

 代表者。各学校の中から希望者の中から一名を選ぶのだ。その者は先に現地入りし、担当者から説明を聞くことなっている。その説明を各学校の希望者に伝えるのは代表者の役目になっている。また、各職業の人数整理も代表者に任される。紙にはそう書いてあるのだが。

 

「私でいいんですか?」

「誰もやりたがっとらんのじゃ。頼めんかの?」

 

 私は了承した。早くから現地入りする許可がもらえたのだ。これほどラッキーなことはない。それに代表者の仕事も大した量ではない。これぐらいなら問題なくこなせるだろう。

 

「今日から現地入りするといい。我が校の情報はすべてここにまとめてある」

 

 学院長から渡されたファイルには名簿と希望する職業などがまとめられていた。これをもとに全員の体験する職業が決まるのだ。なくすのは許されない。そういえば、私の分もここに足しておかないといけない。あとで希望する職を決めておかないと。

 

「あと、この期間が過ぎたら、すぐに中間テストになる。注意しておきなさい」

 

 どうやら、この職業体験に参加したメンバーも、同じ時期に同じテストをするらしい。すなわち、周りの学生より不利になるわけだ。どうりで参加者が少ないわけだ。

 私はどうしようか。そもそも受けることができない気がしてきた。

 まあ、何とかなるでしょ。……たぶん。




少し予定を変更して、一斉投稿から連日投稿に変更しています。
まあ、そんなに長い日数は続きません。もって、3日か4日です。
そのあとの更新は……何も変わらない、低スピード更新だと思います。

さて、今回より3章!
とは行かず、間章Ⅰに突入です。
Ⅰの理由は、Ⅱがあると思われるからです。
きっとある。……きっとね。

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