テオ視点です。いつもより長めになっているかと思います。
公爵家についた俺たちを待っていたのは、軟禁だった。アルバレア公爵はもとより俺としか話すつもりがなく、ユーシスはすぐに軟禁状態となった。俺の方は昔の仕事関連で依頼をされ、断ったがためにユーシスと同様に軟禁された。依頼を受けるまで解放しないということだろうか。
そして、軟禁されている俺たちに1つの知らせが入った。マキアス・レーグニッツの逮捕である。革新派の知事の息子を手の内にして、革新派への牽制とするためだろう。ユーシスが軟禁されていたのも、この逮捕をスムーズに行うためだろう。
「結局、俺と話すつもりなど父には最初からなかったわけだ」
ユーシスはやはりといった諦めの表情になっていた。どうやらこうなることはある程度予想していたらしい。口調もどこか皮肉めいている。そんなユーシスに俺には何もいうことができなかった。他人の家庭環境に俺が何かを言えるわけがないのだ。俺みたいな特殊な家庭ではなおさらだ。
「それで、このままじっとしている気か?」
「フン」
ユーシスは椅子から立ち上がると部屋を出て、歩き始めた。どうやらこのままじっとしているような気はないらしい。そんなユーシスの態度に思わず、笑みがこぼえる。どうやらすることは俺が何も言わずとも決まっているようだ。
「だったら、俺も動くとするか」
俺も椅子から立ち上がり、ユーシスの後を追いかける。長い廊下を2人並んで素早く歩く。向かっている先は正面玄関や裏口ではない。
「ユーシス。どこに向かってるんだ?」
「地下水道だ。そこから行けば、領邦軍の詰所にも地下からいける」
「へえ、マキアスを助けるのか。てっきり逃げてリィン達と合流するのかと思ってた」
「フン、父のやり方に納得がいかないだけだ」
それでも助けに行こうとしている。このユーシスとマキアスの関係はやっぱり変わったのではないだろうか。戦術リンクも今となっては容易くつなぎそうだ。
「とりあえず、戦術リンクを俺と結ぼう。魔獣の気配がする」
「ああ」
地下水道へと降りるとユーシスは迷わずに歩き出した。どうやら地図は頭の中に入っているようだ。俺は周囲の警戒だけに集中しよう。
「……結局、お前は父と何を話したんだ?」
歩き始めてすぐにユーシスが俺に質問してきた。自分とは話してもらえず、クラスメイトがずっと話していたのだ、気になるのは当たり前のことだろう。
「……」
「やはり、話せんか」
車の中でのやり取りと同じで、俺の答えが返ってこないことから教えてもらえないと判断したようだ。俺も話すつもりはないから別によかった。
ちらりとユーシスのほうを確認する。その表情は悔しさがにじみ出ていた。それもそうか。話せると思ってきたら待っていたのは軟禁。クラスメイトの後にも話す機会はなかったのだから。
「俺は小さい頃から父親の仕事である家業を手伝っていた」
「?」
なぜだろうか。そんなユーシスを見ると、自然と口が動き出した。このまま黙っているのはユーシスに申し訳なく感じたのだ。ユーシスのほうはいきなりで訳が分からないようだ。
「その仕事はいわゆる何でも屋みたいなものだ。他人から依頼を受け、それをこなす」
「
「当たらずと雖も遠からず」
未だ何を言おうとしているのかわからないだろうが、ユーシスは話を聞いてくれている。
「その仕事の依頼者にアルバレア家が含まれている。実際に何度か依頼を受け持ったことがある」
「なんだと?ならば、今日呼ばれたのは新たに依頼をしようとしたのか?」
俺は頷いてそれを認めた。しかし、ユーシスにはまだいくつか気になる点があるようだ。
「依頼された内容を教えてもらおうか」
「今日の詳しい依頼内容は判らない。依頼をされる前に断った」
「なぜだ?仕事で何度か請け負っていたのだろう?」
「ああ。でも、その仕事も3年前に辞めた。今はただの学生だ」
その時にサラさんと出会い、学院に連れてこられたのだが、今はその話をしなくていいだろう。それよりも話さないといけないことは他にある。
「しかし、何故俺はそのことを知らされてない?兄上には知らされているのだろう?」
「ルーファスさんからも何度か請け負ている。ユーシスに知らされていないのは仕事の内容上の問題だろう」
「どういうことだ?」
「さっきは何でも屋と言ったが、正確には違う。
そこで一拍、意図的に空白の時間をつくる。ユーシスもこれからいう事の重大性を理解してほしいからだ。
「人殺しや盗聴、偽装工作と言った裏の仕事の何でも屋だ。まあ猟兵に近いものだ」
「信じられん……それは本当なのか?」
「ああ」
俺とユーシスはその場にとまり、互いに視線をそらさない。ユーシスは本当かどうかを確かめるような、けれど、どこかで信じたくないようにこちらを見ている。一方の俺はどんな風にみられているのだろうか。できればこんな過去を背負っているのを後悔しているように見られればいいなと思う。もちろんそんなものはただの期待でしかないだろうが。
「お前は……いや、辞めたと言ったな。ならば、いまさらいうことは何もないだろう。先を急ぐぞ」
そう言ってユーシスは歩いていった。てっきりいろいろ言われると思ってた俺は、ユーシスの対応に反応できずその場で立ち尽くしていた。つまり、置いてけぼりにされているわけで。
「何をしている。置いていくぞ」
「ちょ、ちょっと待った。かける言葉もなしなのか?」
俺を放って先に進みそうなユーシスを追いかけながら、ユーシスの対応についての疑問を投げかける。ユーシスに嫌われてはいないのだろうが、今の状況が全くわからない。
「フン。2年前に辞めたのだろう?ならば、オレから言うこともないだろう」
「いや、だとしても、隣に猟兵が歩いてるものだぞ?」
「知らん。たとえお前が過去にそう言ったことをしていたとしても、今はしていないのだろう?ならば関係ない」
バッサリと切り捨てられた。こんな切り捨て方をするなら、今まで悩んでいた俺が馬鹿にしか思えない。いや、きっと馬鹿なのだろう。でも、馬鹿は馬鹿なりに考えることがある。
先ほどのユーシスのリアクションからわかることがある。俺の過去を受け入れられるのはそんなに多くないだろうことだ。ユーシスだからバッサリ切り捨てられたと思う。けれど、他のメンバーなら引きずる奴も出てくる可能性はある。だから、黙っておきたい。今の俺には立ち向かうことは無理だから、逃げの選択をする。
「このことは誰にも言わないでくれ。時が来たら自分で言う」
「……いいだろう」
「ユーシス、ありがとな」
「……」
ユーシスは言葉で返すこともせず、歩くスピードを速めた。俺もそれに合わせてスピードを速める。こんなところでゆくっりしている暇はない。早くマキアスを助けるために動くべきだ。
□ □ □ □ □
あの後、俺たちはすぐにリィン、エマ、フィーと合流した。どうやら三人の方もマキアスを助けるために地下水道を通ってきたようだった。俺たちはそのままユーシスの先導で領邦軍詰所の地下までやってきた。そして、地下水道の領邦軍詰所入り口前でフィーが爆薬を使い、開かない扉を突破。同時にフィーが猟兵であることがわかった。その時にユーシスがこちらを見て何か言いたそうだが、首を振って断っておいた。フィーが明かしても、俺は明かすつもりはない。そのあと、マキアスを救出し、領邦軍に見つかったので相手を気絶さして逃亡したのだが。
「なんでこうなった」
「文句を言う前に走れ!」
後ろから二匹の大型の犬型の獣が追ってきていた。大きいくせに早く、もう少しすれば追いつかれそうだ。
「『爆炎符』!」
走りながらばらまいておいた符を起動させ、追跡の妨害をする。しかし、あまり効いている様子はなくそのまま追いかけてくる。先ほどから何度か試しているが大した時間稼ぎにもならない。
通路から少し広い空間へと出たとき、とうとう追跡してきた獣に追いつかれた。一匹は俺たちを飛び越え、もう一匹はそのまま後ろから追いついてきた。獣に挟み撃ちにされ、さらに退路まで塞がれた。
「ありゃま、これは撃破するしか方法はなさそうか?」
「ああ……せいぜい躾けてやる」
全員が武器を出しながら、戦闘態勢に入る。戦術リンクはリィンとフィー、マキアスとユーシス、俺とエマで、魔獣討伐の時と変わらないつなぎ方だ。あの時と違うのはユーシスとマキアスの戦術リンクが切れる様子もないことだ。最高の状態で戦闘に挑めそうだ。
「特別実習の総仕上げだ……。士官学院《Ⅶ組》A班、全力で目標を撃破する!」
合図とともに俺とフィーがかけだした。ただし、狙うのはそれぞれ別の敵。フィーが青い方の獣を、俺が赤い方を狙う。俺は符を貼り、地面に数枚の符をばらまき、戦線を離脱、フィーはそのままつかず離れずの距離を保っているようだ。
「解析します!『ディフェクター』……下位四属性アーツが効きにくいです!使うなら上位三属性にしてください!」
「これならどうだ!『ブレイクショット』」
「そこだ!」
エマが調べ終わったところで、マキアスが俺の狙っていた敵を徹甲弾を使って攻撃した。さらにのけぞったところでユーシスが追撃をした。なんだかんだで相性がいいのではないだろうか。
敵はすぐそばにいたユーシスを狙ったようだが、もちろん俺が妨害する。
「『氷槍符』!」
地面にばらまいた符より氷の槍が飛び出し、行動を阻害する。片足を串刺しにするつもりだったが、刺さったのは1、2本。思っていたより瞬発力もありそうだ。
「時間が惜しい。このままいかせてもらおう」
ユーシスはそう言い、自身の前に魔方陣を描く。それがユーシスの持つ騎士剣に何かの力を与えたと思うと、ユーシスはかけだし、敵に突きを放つ。それが敵に当たる前にとまると、敵は半透明な半球に囲まれた。どうやら先ほどの魔方陣の効果の1つが働いたようだ。
「終わりだ!『クリスタルセイバー』!」
まだ淡い光を放つ剣で3度敵を斬る。今のでかなりのダメージが通ったようだ。だが、まだ倒れない。遠吠えを上げ、まだ敵意を向けてくる。
「!テオさん後ろに気を付けて!」
顔だけ振り向くと、フィーとリィン、エマが相手をしていた敵が俺の後ろに立っていた。片足を振り上げ俺に向かって振り下ろそうとしていた。俺はとっさに前に走り出すが、爪が背中をかすり、体勢を崩す。
「くっ!」
俺はなんとか体勢を持ちなおそうとする。だが、それで終わりではなかった。先ほどまで俺が相手をしていた敵が、こちらに突進を仕掛けてきた。体制を崩していた俺はそれを回避することもできず、吹っ飛ばされる。
「テオさん!……『セレネスブレス』!」
エマがこちらに駆け寄りすぐさま回復を始める。他の4人で、ユーシスがダメージを与えたほうをすぐに倒し、残り一体と相手をする。これで先ほどのような連携が来ることもなくなった。後はいかに早く倒せるかだ。
「エマ、助かった」
回復が終わると俺はすぐに戦闘へと戻ろうとしたが、前衛のコンビネーションがよく、俺の入る余地はなさそうだった。それに、この状態ならアーツで対応したほうが早く戦闘が終わりそうだ。
「「ARCUS起動」」
俺とエマは2人で同時にアーツの準備を始めた。先ほどのエマの忠告通り、発動するのは上位属性の幻属性のアーツ「シルバーソーン」だ。
「いきます!『シルバーソーン』!」
先にエマのアーツが放たれる。空から敵のまわりに6本の剣が落ちてきて、魔方陣を結ぶ。そしてその中心から光があがり、敵にダメージを与える。
「続けていくぜ!『シルバーソーン』!」
エマと同様のアーツを今度は俺が放つ。しかし、エマよりは効いた様子がない。詠唱時間はエマより長く、威力もエマより低い。自分のアーツの才能のなさに嫌になる。まあ、これでも、クラスの中位ぐらいにはいるのだが。
「終わりだ」
「これで終わらせる」
最後はユーシスとマキアスの連携で終わりを迎えた。
そのあと、ユーシスの兄のルーファスさんや駆けつけたサラさんのおかげで一通りの問題は解決し、翌日に俺たちはトリスタへと戻ることとなった。
今回で特別実習は終わりです。なんか駆け足気味の特別実習となってしまいました。まあ、書くことが少なく、変わった点も少ないのが原因ですね。
ですが、本編でテオの過去が明かされましたね。あくまで軽く、ユーシスにだけですが。彼はいつ話してくれるのでしょうか。私にも謎です。
そして最後になりましたが、もう一度謝罪を。
次の話の投稿は少し時間がかかるかもしれないです。また、連続投稿になるかもしれません。まあ、気分で投稿してしまうかもしれませんが。
今後もお楽しみいただければ、嬉しいです。