いきおいトリップ!   作:神山

37 / 37
三十五話目

長い、とてつもなく長い夢を見た。

 

『ほら!可愛い男の子だ、キャサリン。お前は将来どんな大人になるんだろうな……』

 

『ジェームス……ジェームス……』

 

『キャサリン!』

 

それはとても暖かくもあり、辛い記憶でもあった。でも、それを忘れてしまうことは、絶対にないだろう。

 

『誕生日おめでとう!プレゼントは何だと思う?』

 

『彼女の友情に期待しすぎるな』

 

運命のあの日、安全なはずのVault101からの脱出、友人の死。俺はいきなり一人で生きていくことを余儀なくされた。

 

『早く逃げて!』

 

『やはり外からの人間を入れるべきじゃなかった!早く出て行け!』

 

それからの本当に、本当に辛い毎日。人を人とも思わない残虐なレイダーやタロン社、奴隷商人を相手に戦う日々は、確実に俺を摩耗させていった。食事も清潔な物は無く、水は基本的に汚染された物。前の生活からは考えられないことの連続で、精神的にも参り始めていたが、それでも新たな友人達の助けがあった。

 

『お前は……俺を殴らないのか?』

 

『お前、あの時の赤ん坊か?』

 

『人類社会の再建のために働いてみる気はない?ねぇ、いいでしょ?ちょっとだけ!』

 

それからは怒涛の展開だ。父を捜して各地を回り、ラジオ局をB.O.S.と共に助けたり、D.C.の端っこにあるリベットシティまでへろへろになりながら行ったり、グールズシティたるアンダーワールドでグール達と飲み明かしたり。まぁいろいろありすぎた。その途中に女性関係も色々あったが、父曰く『お前は俺の息子だな』とのこと。

 

そんな辛くも楽しい毎日は、父と再会し、全ての人に綺麗な水を与えるための浄化プロジェクトを稼働させようと奮起していた時に終わりを迎える。エンクレイブの浄化プロジェクト襲撃だ。

 

彼らは父に暗号コードを言うように迫ったが、父は閉鎖したコントロールチャンバーの中で彼らごと機械をオーバーロードさせ、放射能の海に沈んだ。誇り高い自己犠牲の精神。悪用するのが目に見えている彼らに渡すくらいならば、自身と共にでも使わせるのを防いだ。

 

『――――生きろ、息子よ』

 

父に泣きながら別れを告げ、あの場所をなんとか脱出できた俺と研究チームは、B.O.S.の助けを借り、要塞へと逃げ込むことに成功した。そこから、父の願いを叶えるための新たな旅が始まる。

 

父の教えに従い、旅の途中で連れ添った一匹の犬と共に人々を助けていく中で、思想を同じくする同志とも巡り会えた。彼の強く、誇り高い精神と肉体と共に戦場を駆け抜けた。それが人間でなかったことは、少々の違いでしかない。

 

『友よ、お前と共に行ける事を誇りに思う』

 

『ワンワン!』

 

彼等と共に過ごした日々と偉業の数々は筆舌に尽くしがたい。その中でも奴隷解放は上位に入る働きだっただろう。パラダイスフォールズが元々気に入らなかった俺と、奴隷商人に憤る彼ことフォークスは奴隷商人とそのつながりのある連中を皆殺しにした。そこから彼等奴隷が十分に生きられるようにユニオンテンプルにいる連中と共に手配した後、パラダイスフォールズは奴隷の奴隷による奴隷のための町になった。エンクレイブから奪ったタレットMark.Ⅱや化学兵器を防衛に設置したのはやり過ぎだったかもしれないが。

 

他にも久々に赴いたアンダーワールドでライリーが倒れていたり、宇宙人の侵略を防いだり、仮想現実から何故か持ってこれた武器に驚いたり、とあるレイダーの女にストーキングされたり……記憶が次々と頭の中に流れていく。そして―――――

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後もうちょっと詳しく」

 

ふと急に目が覚める。しばらく呆然と天井を見上げたが、何の意味もなくすぐに切り替えた。窓の外を見れば小鳥が飛び交い、市場はすでに開いており、活気が出始めている。すでに時間は朝を通り越しているのは明白だろう。久々に寝過ごした。

 

「だが、あれは一体……」

 

先程の夢の数々。あれはまさしくゲーム内の俺がやった行動とほぼ同じだ。細部で違いはあれど、あそこまで生々しいものは夢とは言い難い。まさしく記憶の追走と言えるだろう。まさかこの身体()の記憶とでも言うのだろうか。だが、他人の記憶が入ってきているにも関わらず、俺には何の弊害もない。むしろ自然にそれを受け止めている。急な流入による頭痛はあるが、すでにあったことだと心から認識できている。

 

「……コウヤ、どうかしたかい?」

 

「あぁ、すまん。起こしたか」

 

考えていると、後ろから布の擦れる音と共に声がかかる。ここで改めて周りを見れば、散乱した衣服とべたべたした身体。独特の匂いのする部屋にベットで死んだように寝転がる三人の女性とくれば、わかるだろう。前にもこんなことあったなぁなんて記憶の同一化が顕著に出ながらも、俺は寝ぼけ眼でこちらを見るクレアにキスをする。

 

「んっ……あれ、もう朝?」

 

「いや、昼近い。最後のころには朝日が出てたの覚えてないか?」

 

「えーっと、最後ら辺は記憶が曖昧だね。よがり狂ってたのは覚えてるけど。あー、恥ずかし」

 

そんなことを言いながらベットに腰かけた俺に絡んでくる辺り、まだ余裕がありそうだ。だが今現在腰が抜けているらしい彼女は未だ死んだように寝ているライリーとキャスを突きながら甘えてくる。

 

さて、何故この状態になっているのかと言えばだ。あれから俺はボロボロになったヘルファイアーアーマーをそのままにみんなの元に帰還した。と同時に上がる歓声と称賛の声。中にはこちらを化け物のように見てくる者もいたが、当たり前の反応だとわかっているので特に相手はしなかった。というか、そうなって出ていくしかないとも考えていたのでこの待遇は予想外でもあった。

 

そしてギルドに帰り、またもや高額の報酬を受け取った後にライリー達と合流。もみくちゃにされたが、俺がVaultの救世主だということがバレた。ってか自分で言っていたことを忘れていた。なんでも俺の冒険譚はモイラが本にしていたらしく、ウェイストランド人なら誰もが知っている話とのこと。通りであいつ俺の話をメモっていたわけだ。これで彼女の場合本当に金目的じゃないんだから笑えてくる。

 

興奮冷めやらぬライリー達と共に宿に戻ると、慌ただしい宿内で俺がいつもいる席に座りこむクレアとその横で声をかけているキャスがいた。ライリー達にリリィを任せ、パワーアーマーからレギュレーターロングコートに着替える。そして二人の肩を抱き、間に顔を入れるようにしてただいまを告げると、二人から熱烈な抱擁を受けた。クレアはその後も小さく震える手で俺の頬をなでてくる。後から聞いた話では、二人とも共通の友人をミュータントに殺されたことがあるらしい。俺が前線に出た事を聞いたクレアとキャスは気が気じゃなかったとか。

 

『ただいま』

 

『おかえり、コウヤ』

 

それからはもうどんちゃん騒ぎだ。俺が一掃したことを何故かレオンが伝えると、宿内は宴会になった。そしてまた明かされる俺の正体にキャスと話を知っていたクレアが呆然とするのを笑い、他の集まった冒険者や従業員と共に騒ぎまくった。しばらくして時間が夜遅くなると酔いつぶれる面々が目立ち、ぶっ倒れているライリーレンジャーは元より他のメンツも大体が机に突っ伏した。だがまだ起きていた酔いの回ったクレア、キャス、ライリーに終始絡まれていた俺は、共通財産認定を受けると共に寝室へと拉致られた。

 

と、まぁここまでくれば後はわかるだろう。クレアのかつての宣言通り、襲われました。だがこの肉体のスペックはそこでも発揮され、三人朝まで相手にしても精力的にはまだまだイケた。実質はライリーとキャスが飲み過ぎのせいで真っ青になり、途中退場したためクレアとの一対一だったけど。だがやっぱり戦闘で疲れていたし、クレアが限界だったのもあって朝方に終了したが。

 

「っていうか、本当に絶倫だったんだね。三人がかりでよがり狂わされるとか、もうあんた無しじゃあこの先やっていけない身体にされちまったよ」

 

「俺もさ。でも……」

 

「わかってる。あんたがこの先も旅を続けるってことはね。それにVaultの救世主だってわかった今ならあんたにここらの常識が無いのも納得したし、この世界を見てきたいんだろう?それに、あんたの力を貸してほしい人もいるはずだからね。なら、私は待ってるさ。そんでたまに帰ってきて、抱きしめてくれればいい」

 

「すま……いや、ありがとうな。クレア」

 

「ふふっ、わかってるじゃないか。でも、あんまり待たせるんじゃないよ?」

 

「もちろん。愛してるよ」

 

ぎゅっとクレアを抱きしめて、キスをする。なんというか、彼女といると落ち着くのだ。知らない世界に自分からとはいえ放り出された身としては、こうして帰りを待ってくれる人がいるのはとてもうれしいことだ。存外俺は寂しがり屋だったのかもしれない。だが彼女はそれごと包み込んでくれて、尚且つ俺のわがままにも付き合ってくれる。出会ってまだそんなに経っていないが、俺は彼女に惚れていたようだ。こんないい女は他にいないと断言できる……体の相性もお互い抜群だったし。

 

いやはや……スリードックじゃないが、人の人生ってのはわからないものだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少しして。俺はクレア達の介抱を済ませた後、教授の助手に教授が呼んでいると伝言を受けた。まだ少し頭痛がするが、クレアのおかげで少し緩和されつつある。なので俺はそれを承諾し、裏路地ショートカットを使って学院へと向かった。ちなみにリリィは起きてはいたものの、ライリーレンジャーと一緒に酒ではなくコーラの海に沈んだため動けないとのこと。げふぅと満足げにげっぷしてたからほっといてもいいだろう。もちろん放射能除去のためのRADアウェイも接種させている。

 

「えー、急遽参加になったために裏路地から来ましたが、途中カツアゲかましてくるヤング達いたんで、壁の中に埋めてきました。みんなは裏路地の近道する時には十分注意するように」

 

((((うわぁ……))))

 

そして着いた俺を待っていたのは教授と教材を持たされているガリバーだった。なんでも今から講義らしく、俺を呼べと生徒からの要望が多かったのだとか。今回は学院側から臨時報酬も出るらしい。そして昨日のことから目が輝いている生徒達相手に講義している現在。結構な大広間で後ろの方では立って聞いている者もいるという大盛況ぶりだ。しかも大人の冒険者達までいるんだから笑えてくる。ここの卒業生なんだとか。

 

今回の内容は昨日戦ったスーパーミュータントの撃退方法を聞きたいとのこと。正直そんな話せることはないし、普通の人間や亜人では倒せないことも前置きで伝えておく。弓矢や剣は余程でないとまずもって効き目が薄いし、魔法は俺がよく知らないから何とも言い難い。なので教授がサンプルとして持って帰ったスーパーミュータントの肉片や、頭だけ吹き飛んだ個体を持ってきて詳しく解説することに。

 

「あとから手袋着けて触ってもらっていいから、よく聞いていてくれ。まずもって彼らの強靭な肉体に傷をつけることは難しく、並大抵の攻撃では通らないことは皆が知っているとおりだ――――俺?俺は除外してくれ――――で、まず初めに諸君らが運悪く出会ってしまって考えることは逃げる、もしくは隠れることだ。想像しにくいなら君たちの考える……そうだな、ドラゴンとかの最強種に対して檜の棒と布の服装備で突っ込むようなものだと思ってほしい。それでも俺はこの溢れんばかりの才能で勝てるなんて考えている馬鹿な奴は、いくら成績が良くても死ぬだけだ。連中はしゃべるが、何のためらいも容赦もなく君たちをずたずたに引き裂くだろう。運が良ければな?」

 

ここに集まっている生徒達に身振り手振りでspeechスキルも使いながら話していく。時折質問に答えて、スーパーミュータントが使う主な武器も実物付きで紹介しておく。こうやってずたずたにされますよーと言ったら青ざめていたが、そのおかげもあって逃げ方や隠れ方への質問が多かった。俺がミニガンを昨日使っていたせいもあるだろうが。sneak・Gun系スキルで効率よく教えられたのであとは実戦経験で掴んでほしい。

 

そんなこんなで講義をこなすと、生徒や冒険者から先生と呼ばれた。正直、まんざらでもなかったのでしばらく質問に答えていたら夕方になってしまったよ。

 

でも将来的に、クレアと暮らしながら学院で先生をやるっていうのも悪くないかもなぁ、なんて。




クレアさんは自分一人でコウヤを相手できないとわかっているのでキャスやライリーも入れましたが、それでもダメだったことに内心驚いています。でも、私の中でも正妻『は』クレアさん確定。

モンハン4村クエ一通りクリア。集会所に手を付けてないのでちょくちょくやりたいです。なかなかどうして、操虫昆面白い。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。