いきおいトリップ!   作:神山

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出来るだけ早めに投稿。

リハビリ中。

至らない点があれば感想にて。


三十四話目

最前線から少し離れた開けた場所にて、ライリー・レンジャーは一様に口をぽっかりと開けて戦闘の様子を眺めていた。それぞれがこぞって双眼鏡を手にし、固まっている様子は酷く滑稽であるが、同じウェイストランド人ならば誰もがこの状態になるであろう。それほどまでに、衝撃だった。

 

――――Vault101の救世主が帰ってきた。

 

物語の伝説が、英雄が、今自分達の目の前で自分達と民衆を守るために戦っている。圧倒的な戦力を前にしても一切怯まず、それどころかこちらに手を振ってくる余裕さえ垣間見れた。つい先日までは感じることもなかった覇気と共に前へと進んでいく背中は、あの幼い頃の物語を追体験しているような錯覚に陥らせた。

 

「まさか……本当に」

 

「いやいや、確かに凄いし聞いた通りだけどよ!グールや吸血鬼でもないのに生きているわけないだろ!何歳だってんだ!」

 

「だが、あいつは自分でそう言ったんだぞ。それにあの強さは本物だ」

 

双眼鏡の先にいるコウヤは、両手でそれぞれミニガンを振り回しながら全体を牽制しながらも一体ずつ確実にミュータントを仕留めていく。時折相手の動きを止めるように出てくる木の根は腰につけているリリィの魔法だろうか。一人ではどうしても出てくる綻びを見事に抑えている。そう長くはないが、コウヤにはそれで十分だった。

 

「凄い、スーパーミュータントとミレルークの群れをあんないとも簡単に……!」

 

レオンはその様子をきらきらした目で食いつくように見ていた。ライリーはそれに苦笑するが、自分もそう変わらないことに気づき、また苦笑した。自分達もミュータントを相手取れるが、ここまでの規模と強力な武器は普通に逃げるしかない。改めて彼の規格外さに驚かされる。

 

ここにいないキャスも、おそらく同じような顔をするんだろうなと思いながら。

 

「ミニガンってあんな使い方でしたっけ?」

 

「いや、少なくとも俺には……というか、普通は出来ない」

 

開幕から派手にぶっ飛ばしたコウヤの攻撃は見事に双方のミュータントに打撃と混乱を与えることに成功した。これにより冒険者達もうろたえたが、ギルドマスターや上位ランカーの一喝でなんとか抑えることが出来た。

 

しかし、直撃したミュータントはそうはいかない。混乱している中に完全整備されているミニガンの正確な一斉掃射だ。これによりミュータント前線部隊は一気に壊滅した。そうしてコウヤはまずスーパーミュータントから片づけることに決めたのか、砂埃に紛れていつの間にやら腰にくくっていた地雷をミレルーク側に向けて死体に隠すようにばら撒き、後方の防衛を完璧にしていた。それでも突貫してくるものはいずれも地雷で吹き飛んだため、ミレルーク側は攻めあぐねている状況だ。

 

それから少しして砂埃も晴れてきた頃、ようやく片方のミニガンの弾薬が尽きる。これ幸いと突っ込んでくるミュータントだが、それは悪手であった。

 

「グアァァァァッ!!熱ィー!!」

 

「ヤメロ!ニンゲン!」

 

なんと得意の接近戦に持ち込もうとしたミュータントに対して、撃ち過ぎて焼けた銃身を勢いよく顔面に打ち付けたのだ。特に目に入るようにして入れ込んだため、スーパーミュータントは顔を仰け反らせてわめき、その隙にスレッジハンマーで殴ろうとした個体は腕をクロスさせるようにして振り向かずに放たれたミニガンによって蜂の巣にされた。

 

しかしそれにより片方のミニガンはおしゃかになり、もう一つも完全に弾切れだ。両手に持っている以上リロードは出来ないので、コウヤは素早くPip-Boy3000を操作すると、ミニガンを納めて右手にパワーフィスト、左手にブラックホークを装備する。そしてリリィを上空に離脱させてミレルークの足止めを任せると、単身スーパーミュータントの群れに飛び込んだ。

 

「ドォララララララァッ!!」

 

コウヤは叫び、思いっきり勢いの乗った拳を次々にスーパーミュータントに叩きつけていく。近距離は格闘で、遠距離はマグナムで、相手に息を吐かせることなく攻め立てていくその姿はまさに英雄と言わんばかりである。すでに十体いたスーパーミュータントはマスターを除いて三体のみだ。しかも奪った近接武器のスーパースレッジやネールボードを後ろに思いっきり投げ捨てることでミレルークも数体潰している。一見ごり押ししているように見えて、その実的確な動きを見せているのだから見事と言うほかない。

 

しかし、いくらパワーアーマーを着ているからと言っても一般的な肉体には不可能な芸当を成し遂げてるコウヤにライリー達は疑問符を浮かべていた。

 

というのも、スーパーミュータントという個体は戦前のスーパーソルジャー計画によって作り出された人間の上位個体とも呼べるものだからだ。そこらの銃弾や刃物など通さない強靭な肉体に圧倒的な体力、二メートル以上の体格差も相まって、普通の人間が体術で勝てるなどありえないように作られている。実際、歴戦のウェイストランド人でさえ体術では絶対にかなわない。

 

だが、よく思い出してほしい。コウヤがこの世界に来る時に欲した能力は善と中立のPerks全部だ。その中には自身の肉体を改造し、人外に作り替えるPerkも存在する。そのおかげで今のコウヤはアダマンチウムの骨格を持ち、他にも主要器官以外をサイボーグに変えている。そのくせ対ロボット武器であるパルス系の効果は変わらないのだ。これだけの肉体を持ち、スキルが全てMAXであるのだから、スーパーミュータントを殴り倒せるのも不思議ではない。

 

そして彼らは忘れているようだが、英雄譚にはこんな一文も記載されている。かのグールも笑いながら頷き、奴隷商人やタロン社の人間をも避けさせるに至ったことだ。

 

『彼を同じ人間だと考えてはいけない』

 

そんなことはすっかり忘れてしまっているライリー達だが、まぁコウヤだから仕方がないと今までの事も思い出して、次第に考えることをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

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スーパーミュータントをちぎっては投げを繰り返し、反撃の銃弾でパワーアーマーをボロボロにしながらも、さっきからミサイルを飛ばしてきていたマスターと対峙する。仲間ごと吹き飛ばさんとしてきたのでお望み通り普通のスーパーミュータントを盾にして防いで来たが、もうイライラがマックスである。

 

ちなみにミニガンを持っていた個体はブラックホークで速攻で撃ち殺しました。マスターだったとはいえ、流石にブラックホークの集中砲火を顔面にV.A.T.S.でくらわせれば爆発四散!スッキリしたところでミサイル持ちと対峙したわけだが、こいつだけB.O.S.のパワーアーマー着けてんだよ。

 

もちろん幅が足りないから全面と背面を切って紐で結んでいるだけなんだけど、普通に殴ったらこっちの腕がイカれちまいかねない。ブラックホークも試しに数発撃ってみても、へこみはしたけど貫通はしなかったからな。これ以上は弾の無駄だ。

 

「まぁ、ミサイルごと吹き飛ばせばいいんだけど」

 

こちらの攻撃が効かないことが分かったからか、マスターが笑いながらミサイルを撃って来ようとした瞬間にV.A.T.S.発動。ミサイルランチャーの中のミサイルに標準を着け、発射。すると、まぁわかりきったことなんだが爆発して、その真横にいたマスターごと吹き飛んだ。ミサイルランチャーは肩に担ぐものだから必然的に頭から吹き飛んでくれたのは幸運だったな。奴の体力が減っていたとはいえ、これでゲームみたいに耐えられたらどうしようかと思った。

 

「これであとはミレルークか……」

 

後ろを見れば、宙に浮いているリリィがほぼ惰性で足止めしていた。ミレルークも空中にいては反撃出来ないと悟ったのか退却を始めていたが、それを逃がすリリィじゃないわけで。転がしたりつついたりして惹きつけてくれていた。とくれば、後は俺の仕事なわけで。

 

「さってと、一気にいきますか」

 

CNDの減ったブラックホークとパワーフィストを二個一修理し、ミレルークに向けて一気に駆け出す。その際にパワーフィストからダーツガンに切り替えておくのも忘れない。流石に奴らに向けての殴りは難しいし、伸びきった腕を鋏でやられたらお終いだ。だから見た目玩具のダーツガンで足を動けなくしつつ毒で体力を減らし、安全に止めを刺す。それを見て逃げ出す個体もいたが、今回俺は一匹も逃がすつもりはない。

 

ミレルークは蟹が変異しただけあって硬い甲殻持つ。故にそこを殴ったり撃っても効果が少ない。唯一の弱点部位は甲殻や鋏に守られた小さな顔だ。初めて見たときは口に見えたものだが、V.A.T.S.でズームしたり死体を観察するとよくわかる。だからここを慎重に狙わないといけないんだが、普通は群れで行動するために焦って狙いが定まらなかったり適当に撃ってリロード中にダメージを負わされたりする。この世界の場合だと普通に焦って死ぬ奴も多いんじゃないだろうか。

 

「はいドーン」

 

「ギキッ」

 

「……鬼畜」

 

まぁだからと言って俺は特に焦る必要もないし、弱点も分かっている。逃げる奴らをダーツガンで転ばせたり、無視って毒で殺しつつ、蹴ってひっくり返してから確実にブラックホークで顔を撃ち抜いていく。しかしハンターとヌカ・ラークは流石に硬かった。足は破壊出来たから何とかなったけど、あいつらだけこっちに特攻してきやがったからだ。

 

距離はあったし、ゲームみたいに足が駄目になっても走ってくることもなかったので普通に倒したけど、少し驚いた。だがこれですべてのミュータントを片づける事が出来た。センサーを見ても周りに敵性反応は無い。

 

俺は余った地雷を撤去し、念のためV.A.T.S.を発動して確認するも、変わらず反応は無し。その際にこっちを双眼鏡で見ているライリー達が選択できたので、そちらに全て終わった意味を込めながらボロボロのヘルムを外して手を振る。

 

「おーい、終わったぞー」

 

「私頑張った。コーラ10本分の働き」

 

「……安いな、お前」

 

なにはともあれ、ミュータント軍団は確かに脅威だったし普通に恐怖もあったんだが、改めて『Valt101のアイツ』って凄いんだなと実感した一日だった。




武器の詳しい情報は本文中に載せたほうがいいでしょうか?
それとも本文中にさらっと流してあとがきに詳しく書くべき?

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