いきおいトリップ!   作:神山

34 / 37
三十二話目

「……これ」

 

 

「わかった。おっさん、これとこれを彼女のサイズでよろしく」

 

 

「あいよ!すぐに調整済ませるからちょいと待ってな!」

 

 

ギルド通りの武具屋兼魔術師の店主のおっさんが奥に消えたのを見送り、近くにあった椅子に腰かける。リリィは俺の頭の上でぐでっと寝転がっていて、丁度いい重さが頭にある。最近の彼女の定位置はここだ。丁度いいサイズで楽が出来るし落ち着くとかなんとか。

 

 

あれから結局、リリィが選んだのは俺と行動を共にすることだった。クレアとの生活も悪くないとは言っていたものの、俺の方がいいそうだ。懐いてくれたのは素直にうれしかった。それで俺が引き取ることになったので、奴隷階級を平民階級まで戻す手続きも役所で行ってきた。いくらか金がかかったが、アイザックと教授の手助けもあって何とか無事に処理出来た。代わりと言ってはなんだけど、教授には研究材料を、アイザックには酒を5本ずつセットで渡してお礼とした。本当にお世話になりました。

 

 

「……コウヤ、のど渇いた」

 

 

「ヌカ・コーラでいいか?」

 

 

「ん」

 

 

ぺしぺしと頭を叩かれて催促されるがままにヌカ・コーラとストローを出して渡してやると、嬉々として飲み始めた。一度ためしに飲ませたらよっぽどハマったのかいつも飲みたがるので、今では一日多くて二本までにさせている。それでも彼女の体の大きさからすれば十分すぎるほどなんだけど……目の前で魔法によって宙に浮いたヌカ・コーラがあるのはなんだか変な感じだな。

 

 

閑話休題。

 

 

それで、それらの作業を行いながら過ごしていくと一週間の休暇なんてすぐに過ぎていくもので。俺はミニ・ニュークについての調書を提出し、キャス達の武器も返して今では学院の臨時講師という名目で週二回の講義をしている毎日だ。ギルドの依頼も時々こなして金も余分に稼いでいる。ちなみに武器の報酬は俺をメガトンまで案内することと、今のメガトンについてとかを教えてもらうことにした。もちろんそれだけだと全然元が取れないのでその間の食事とか護衛とか全部含めてだ。それでも十分お釣りがくるんだから、俺ってば優しい。

 

 

「けふっ……ん、とりあえず保留」

 

 

「もう三分の一も飲んだのか……いつかお前の体の血が全部ヌカ・コーラに変わるんじゃないかと心配だよ」

 

 

「私はコーラで出来ている。もう手遅れ」

 

 

「おい」

 

 

こんなコントみたいなことをしつつ待っているのはリリィの装備品だ。彼女は魔法を主軸にして戦うことが出来るため、その威力を高める杖と集中力を高める付呪のされた衣服を買ったんだ。属性は風と土で、これは遺伝的なものらしい。鳥が飛ぶことを知っているように、この魔法は妖精族(フェアリー)特有の遺伝で、彼らはどう使えばいいのか小さいころから誰からも教わることなく知っているそうだ。もちろん各自で保有する魔力量は違うし、知っているからと言って必ず成功するわけじゃないんだけど。

 

 

そうそう、魔法についても勉強した。この世界の魔法にはオーソドックスに属性で分かれていて、大まかに分けて五つある。火・土・風・水・雷。ここからさらに派生して、水が氷になったりしたりするんだけどそこは割愛。長すぎる。

 

 

そして魔法自体にも分野があって、攻撃系の破壊呪文・魔力で防御を上げたり出来る補助呪文・回復系の神聖呪文などいくつかに分かれている。大体の人はその知識量から、どうしてもその分野に特化してしまうのだという。ある程度そつなくこなせる人も器用貧乏になりかねないし、こういうのはパーティでも組んでいけば戦闘も何とかなるというのが大きい。神聖呪文なんかはそれ専用の癒やし手と呼ばれる人達がいるらしい。会ったことないけど。

 

 

そういうわけで今後旅をすることは確定なので装備を整えに来たというわけだ。魔術品ということでどれも高かったけど、こういうのに金があるのに出し惜しみをしてピンチになったら元も子もないので好きなのを選ばせた。薄緑の生地に金の装飾のなされたフード付きのローブのような物で防寒にそれと対になっている物も買った。杖は上向きに捻じれた五本の木が絡まり、頂点で広がってそこにエメラルドのような宝石のある特注品。リリィの属性の魔法の威力を高めてくれるとか。他にも数点の替えの服や彼女用のバックとかも用意した。心なしか、Pip-Boy3000が少し軽くなった気がする……。

 

 

「待たせたな、これで調整は終了だ。この子の大きさに合わせたから、動きにくかったりしたら後々教えてくれ」

 

 

「わかった。じゃあこれ、代金な」

 

 

「おぅ!毎度あり!」

 

 

荷物をPip-Boy3000に入れて店を出る。これで彼女の使うものは大体そろえただろう。後は趣向品とかになってくるのでこれは今後そろえていけばいい。

 

 

そうしてホクホク顔のリリィと外に出ていくと、なにやら周りが騒がしい。行きかう人々があっちへ行ったりこっちへ来たり。いつもの騒がしさとはまた違う感じがする。切羽詰まっているような、そんな感じだ。

 

 

まぁ、だからと言ってどうすることもないのでリリィと共に首を傾げながら進んでいく。行く先はギルドだ。講義もないし、これから暇になるからな。依頼の一つは受けて暇つぶしと金の補充をしておこうと思う。で、到着したギルドではいつもより多くの職員が走り回っていた。

 

 

「あ!コウヤさんにリリィちゃん!良い所に!」

 

 

「おぉ、フェリカちゃん。何だか騒がしいけど何かあったのか?」

 

 

「そ、それが大変なんです!」

 

 

あたふたと駆け回っていたフェリカちゃんは俺を見て即行でこっちに来て事情を説明してくれた。慌てすぎていろいろ聞き取りずらかったが、そこはspeakスキルで何とかなった。

 

 

で、要約するとスーパーミュータントの群れとミレルークの群れが争いながらこっちに向かってきているのが確認されたらしい。近くの川に新しく住み着いたミレルークと移動していたスーパーミュータントが偶然鉢合わせしたのが原因とみられているとか。数も互いに10はいて、今の戦力ではかなり厳しい状況だそうだ。

 

 

「ミレルークは普通の群れ。スーパーミュータントに関しては近接系の武器を主体とした編成ですが、長い筒状の遺物を持った個体と黒い箱を背負った個体が確認されています。コウヤさん、何かわかりますか?」

 

 

「あー、ミサイルランチャーにミニガン持ちか……こりゃマスターもいるな。この情報は全員知っているのか?」

 

 

「一応通知は出していますが、威力や詳しいことまでは……って!名前知ってるってことはご存じなんですか!?」

 

 

「あぁ、もちろん」

 

 

俺が返事をすると、どたばたしていた職員が一斉に俺を見た。ちょっとビクついた俺は悪くない。というか、銃器の情報なさすぎだろ……まぁ、ミュータントの情報もそんなに無かったから今まで大っぴらに確認されてない物なのかもしれないな。ライリーたちは持ってたけど。

 

 

「両方広範囲の殲滅が可能な銃だ。普通に剣や槍で突っ込んでいけば、まずみんな木端微塵か蜂の巣になるだろうさ。逆に離れていても普通に同じ結果さ。殺るなら気づかれずに一発で仕留めないと被害が増えるぞ」

 

 

「そ、そんな……」

 

 

俺の答えに聞いていた職員共々顔を俯かせるフェリカちゃん。だが、俺が言ったのは普通に近接武器で突っ込んでいったときの話であって、同じく銃を持っているやつには必ずしもそうであるわけではない。というか、俺が行かないこと前提で話しているみたいなので行く旨を伝えると、フェリカちゃんは驚いた顔になった。

 

 

「何そんな驚いた顔をしてるんだ?俺はそんな薄情なやつじゃないぞ」

 

 

「い、いえ!そんなつもりじゃないですよ!でも、いくらデスクローを倒せるコウヤさんでも、群れとなると一人応援が駆け付けたくらいじゃ……」

 

 

どうやらこの子は俺が負けると思っているらしい。確かにこの世界の住人からしてみれば、ミュータントの群れに当たるなんてのは死と同義だ。肝心の魔法と剣が効き辛いのなら勝ち目は薄い。単体でそれなのに群れなんて……という感じだろう。だが、俺やウェイストランドの人間(昔)からすればどうということもない。今はどうなのか知らないし、ウェイストランドの人間でも厳しい部分は大きいが、こうまで悲観的にはならないだろう。俺だけなのかもしれないが。

 

 

なので俺は一度頭を小突き、言った。

 

 

「俺にとってスーパーミュータントやミレルークがいくら群れようとどうということはない。まぁ確かに危険度は跳ね上がるし死ぬかもしれないけど、やってやれない敵じゃないのは確かだ。で?報酬は幾らもらえるんだ?」

 

 

「緊急招集のため、参加金に少しと倒した数によって変わりますけど……本当に行くんですか?」

 

 

「あぁ、どちらにせよ行かないとここが危ない。まだ滞在時間は短いけど、結構気に入ってるんだよここ」

 

 

俺はそう言ってリリィと共にギルドを後にする。装備はエンクレイブファイヤーアーマーをフル装備し、ブラックホークを足元に着ける。そして両手にミニガンを出し、弾薬を背負った。なんというか、もの凄いことになった。

 

 

「……私に何か手伝えることは?」

 

 

「リリィは魔法で相手の動きを止めていてくれ。足を固定するなり腕を動かなくさせるなりでいい。俺の後ろでとにかくそれをしてくれ。後は俺が撃ち殺す」

 

 

「了解」

 

 

じゃらじゃらと音を立てながら人の集まっている門まで進んでいく。俺の装備のせいか、俺を見る人見る人が道を開けてくれるので心底助かる。俺はそのまま順調に都市の外に向かっていった。




これにてにじふぁん掲載分は終了。今後は次話を書きつつ、他作品も移動するつもりです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。