いきおいトリップ!   作:神山

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閑話1

コウヤがリリィと真剣に話している頃、ライリーはキャスの商談の護衛として働いていた。今日は最後の積荷を下す日だ。日用品から武器まで様々な物を扱うこのキャシディ・キャラバンは、行商人の中でも確実に物資を運んでくれると有名だ。盗賊や魔物、果てはミュータントまで蔓延るこの大地では行商という職業はかなり重要視され、報酬も高い。しかし同時に最も危険な部類の仕事に入る。死亡率も高いしその土地に定住も出来ない。

 

 

そんな中でキャシディ・キャラバンは積荷を高確率で安全に運搬するとして、商人ギルドの中でも一目置かれている存在となっている。しかも価格をふっかけることもないとくれば、そのキャラバンが有名になってもおかしくない。

 

 

「では、今回の積荷はこれで全部です。サインを」

 

 

「いやぁ、毎度お世話になります。長旅、ご苦労様でした。これが報酬です。ご確認のほどを」

 

 

最後の積荷の確認を終えて、いつものようにサインを受け取り外へ出る。これでもうバラモンの袋の中身はキャスの私物とキャンプ用品程度の物しか残っていない。これで最初の商品の護衛は終了だ。バラモンは厩に預けるので、次の積荷を商業ギルドから受け取るまで、ライリー・レンジャーの仕事はキャスの護衛のみとなる。

 

 

「途中どうなるかと思ったけど、無事に終わってよかったわ。宿で片道分の料金は支払うから、もう少し待って頂戴……って、ライリー?聞いてるの?」

 

 

「えっ、あぁ、ごめんなさい。なんだったかしら?」

 

 

「もう、片道分の料金を宿で支払うって言ったのよ。どうしたのライリー?仕事中に上の空になるなんて珍しいじゃない」

 

 

キャスの護衛とバラモンを厩に連れて行くので二手に分かれたライリー達は、宿へと帰路についていた。そしていつものようにライリーに対して護衛料金についての話をしようとキャスが話を振るが、彼女にしては珍しく、上の空だったらしい。

 

 

普段の彼女であれば例えどんな時でも周りに目と耳を向けているのだ。そんな彼女が上の空というのは心底珍しい。後ろにいたレオンも普段と違う姉の様子に少し心配そうな表情を見せる。

 

 

「いえ、ちょっとね……ねぇ、キャス?『Vault101の救世主』の話、覚えてる?」

 

 

「当たり前でしょ?ウェイストランド人なら誰でも知ってる英雄譚じゃない。他にもVaultの英雄の話はあるけど、ここらだと一番話されてる話よ。一緒にあなたのおばあちゃんから寝る前に聞かせてもらってたでしょう?ねぇ、レオン?」

 

 

「はい。僕もその話好きですよ。当時の話はよく聞きに行ってましたもん。それに、僕達のご先祖も話に出てくるじゃないですか」

 

 

「あぁ、あなたはあの人の所によく行ってたものね。あのグールの爺様もいつになったらくたばるのかしらね?」

 

 

「本人は『ダチを待ってるんだよ』って言ってましたけどね」

 

 

二人が楽しそうに故郷の話をする中、ライリーは黙々と思考を続けていた。確かに幼馴染でもあるキャスの言う通り、この話は生粋のウェイストランド人なら誰もが一度は聞いたことのある英雄譚だ。まさしく救世主と呼ぶにふさわしいほどの働きをした男の生き様を、とある雑貨店店主が本にしたものがきっかけとなっている。ある程度はしっかりと調べられているらしいその本は、多少誇張はあれど大まかには彼の偉業をつづっている。当時からの生き証人であり、救世主の友人であったグールがそう言うんだから間違いはない。

 

 

――『Vaultの救世主』

 

 

この世界が荒廃した原因となったグレートウォーから約200年を過ぎた頃、救世主は平和なVault101で暮らしていた。母親は救世主を出産して死んでいるので、医者であり科学者である父によって育てられた。彼はすくすくと順調に育ち、16の時に持前の能力の高さを発揮してVaultの最高責任者である監督官の娘の補佐としての仕事に着いた。それから3年の月日が経って、彼の父親がVault101を脱走した。父親は彼の出産と同時に投げだしたとあるプロジェクトの完成のため、渇きに苦しむウェイストランドの人々のために出て行ったのだが、それを知る由もない救世主はかつてのVaultの仲間達に殺されそうになりながらも逃げるようにしてVault101を脱出した。皮肉にも安全なVaultを出たここから彼の偉業が始まる。

 

 

まず近くのメガトンに向かった彼は街の住人の頼みを解決しながら数日過ごし、誰にも解除出来なかったメガトンの中心地にある不発弾を解除することに成功し、メガトンへの居住権を与えられた。作者である雑貨店店主が出会ったのもこのあたりであると書かれている。その時はVaultの警備員の格好をしていたらしく、ひどく目立っていたそうだ。それから仲良くなった店主と救世主は一つの本を作り上げる。未だ根強い人気があり、一定の周期で新刊の出ている『ウェイストランド・サバイバルガイド』が最初に出来たのも彼の協力があったからこそだとか。ここで作者の一言を抜粋しよう。

 

 

『彼の膝の内側にスマイリーを縫い付けたのはこのあたしよ?』

 

 

この一文は多数の学者達の間で一時期議論されたが、かのグールの『マジだ』の一言で片付いた。にわかには信じがたいが、この店主自体頭が少し変だったらしい。

 

 

そんなことがありつつも救世主はメガトンを拠点にして活動を始める。アレフの住人を助けて吸血鬼を味方につけたり、ビッグタウンの住人のためにスーパーミュータントの巣くう建物に突入し、囚われた住人を救出後ミュータントを単身で全て駆逐。さらにそのまま奴隷商人の町であるパラダイスフォールズの奴隷商人を一掃し、奴隷の解放をした……等々挙げればきりがないほどの偉業を成し遂げている。

 

 

民間放送であるギャラクシー・ニュースラジオでは彼の偉業が毎回流れており、メガトンの住人は自分の事のように喜んで聞いていたらしい。当時の荒廃した時代において彼の行動は、まさしく英雄であり救世主といえたのだ。ちなみに今現在パラダイスフォールズは、元奴隷の子孫たちによって大きな街になっている。商人がよく訪れる街で、ライリー自身も何度か訪れたが活気のある良い街になっている。新たな街の起源が起源だからか、奴隷の販売は即刻死刑となり、出入りする商人は毎回厳重にチェックされている。街の中心には彼のと忠犬の銅像が建てられている。

 

 

そしてその中でも彼のもっとも大きな偉業は、これに尽きるであろう。『浄化プロジェクト』の完成だ。彼の父が命を賭して守ったこのプロジェクトは、放射能で汚染された水を完全に浄化し、人体に害がないものにする機械の開発だった。一時はエンクレイブに奪われ、利用されかけた物をB.O.S.とともに奪還し、起動させた。その時コントロールチャンバーの中は高濃度の放射能で汚染されていたそうだが、彼は迷わず中に入った。共に戦場を潜り抜けた仲間の制止を振り切り、笑顔で。父の教えを受け継いだ、自己犠牲をいとわない他者を想う心。かつて父がそうしたように、人類の明日のためにその身を捧げた。

 

 

結果から言えば彼は生き延び、その後の偉業も綴られている。作者が戻ってきた彼にキスの雨を降らせたとかアッチも英雄級で4人でかかっても敵わなかっただったとか子供に聞かせる内容じゃないのもやけに詳しく書いているのだが、そこは大体割愛されている。大抵英雄譚で児童書にもなっている方を買っていくので、詳細の書かれた分厚い方は15を過ぎてから読むのを許可される。

 

 

閑話休題。

 

 

その治療の際、かの英雄を死なせてなるものかと、ウェイストランド中から選りすぐりの医者が集まった。更に要塞に搬入されたというのをラジオ経由で知った一般人までもが詰めかけ、要塞はこれまでにないほど人で溢れかえったそうだ。投資者でもあったからか、医療物資の提供もカンタベリー・コモンズの商人が無償で届けに来たという。しかもその治療期間だけではあったが、当時のライリーレンジャーを始めとする傭兵達まで無償で護衛に駆け付けた。その全てが彼に何らかのことで助けられた者達や、純粋にその姿に憧れた者達だった。

 

 

「懐かしいわねぇ……あの本まだ取って家に置いてあったかしら。英雄色を好むってあるけど、あそこまで出来る男はそうそういないでしょうね」

 

 

「よりにもよって感想はそこですか!もっとこう……カッコいい所いっぱいあったでしょうに!」

 

 

しみじみ、といった具合に言うキャスにレオンがツッコむ。その様子に苦笑しながらライリーは口を開いた。

 

 

「あはは……で、話は戻るけどその救世主の名前ってキャス知ってる?」

 

 

「いや、文面上では常に旅人だったり救世主だったりで名前は書いてなかったはずよ?あの爺様やパラダイスフォールズの人なら知ってると思うけど……それがどうかした?」

 

 

「いえ、そうよね。何も書いてなかったわよね。ごめんなさい、気にしないで」

 

 

「……そう」

 

 

それ以降口を噤んでしまったライリーに、キャスは長い付き合いからこれ以上聞いても無意味だと判断し、レオンに絡みながらそそくさと歩き出した。本当に悩んでいるのなら自分に相談するはずだし、気長に待とう、と。

 

 

(あの名前、実力、そして腕にあるPip-Boy3000……人間としてありえないと思うけど、まさかって考えてしまうわね。彼を一度メガトンに連れていった方がいいかしら?)

 

 

ライリーの脳裏に浮かぶのは、カウンターにあるラジオの横でいつも佇んでいるグールの姿。ひねくれた性格をしているが、彼女自身何度も世話になったとても心の優しいおじいさん。しゃがれた声が何だかとても懐かしく感じる。

 

 

そうしてしばらく考えて、考えのまとまったライリーは一人頷き、前を見る。しかしそこには誰もおらず、慌ててライリーは遠く離れたキャス達に向けて走り出した。




一応ヌカずけで調べたものと作者の独自解釈、いろいろ自分の妄想を含んだものになっています。これ違うくない?とかあったらどうぞ教えてください。

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