いきおいトリップ!   作:神山

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二十八話目

全員でウィスキーで乾杯して飲み明かした次の日。俺は教授の約束通りに研究室に来ている。来た時に教授が門の前に来ていたから、許可証はすぐに手に入った。これで好きな時に中に入って行けるわけだ。勿論休日や指定時間外に入る事は禁止されているがね。その場合は俺は勿論の事教授にまで罰則が飛ぶからうっかりなんてことがないようにしないといけない。

 

 

ちなみにキャス達は昨日話していた様に仕事と俺との契約のための準備をするようで、二日酔いで頭を痛めながら宿を出て行った。意外なことにキャスは酒は好きだけどクレア程の酒豪ではないらしく、俺は勿論の事、クレアがほろ酔い気分な時には既にべろんべろんだった。ライリー達はその時点で酔いつぶれていたからアルスが頑張って部屋まで運んでいた。朝方になんで俺とクレアは大丈夫なのかと愚痴愚痴言っていたが。

 

 

「――と、まぁざっとこんな感じでしょうか。これらの変異や人体への影響は未だに不明な点が多々あり、現状では全て解明できたわけではないんですけどね。それにまだまだ見たことのない亜種もいるはずです。魔物と同様に彼らも進化していきますから」

 

 

ふぅ、と言い終えた後に一息ついて教授達へ目を向ける。現在教授への話は勿論、それにつられてぞろぞろやってきた学生や他の教員が俺の話を聞いている所だ。教授が熱心に俺の話を聞いてたから興味持って来たんだろう。正直言ってこんな講義のようにするつもりはなかったんだが、気づいたらこんなに……まぁとやかく言って来るやつらがいないだけマシなんだけど。

 

 

「ふぅむ……君の話はやはり実に面白いな。私達が今まで研究してきたことも踏まえてくれているからわかりやすいし、体験談もある。なにより穴がない。しかし、事例が少ないために少しばかりどうかと思うものはあるがね」

 

 

「ははっ、そこは勘弁してください。聞くのと実際に見て体験するのでは違いますから。物的証拠というのもそんなにありませんからね」

 

 

「私達化学者が出張っていくわけにもいかないしね」

 

 

「なぶり殺されて身体を食われるのがオチですよ」

 

 

「「あっはっはっはっは!!」」

 

 

笑いながらPip-Boy3000を操作してデスクローの腕、ミレルークの新鮮な肉を取り出す。この一言と今までの話で周りの学生や教師は大半が顔を青ざめさせているのはこの際無視だ。いちいちかまってはいられんのさ。このあと銃の試射をしないといけないからな。教授からは第二演習場の使用許可をもらったし、そういうのを話しているのに興味本位で勝手に来たこいつらが悪い。

 

 

「一応これらも置いておきます。こいつのおかげで時間が止まっていますから、鮮度は高いですよ?」

 

 

「おぉ!昨日の時点でデスクローの腕をバラしていたから助かるよ。それにミレルークの一部とはいえ新鮮なサンプルが手に入るのは願ってもないことだ。こいつらは群れで移動するか巣を作っているかだから討伐する時は一斉に駆除されてしまうんだ。いいサンプルは中々手に入らないのでね。助かるよ。後ほどこれらの提供サンプルについての追加報酬は誓約書通りギルドの方に支払わせてもらおう。少なくてすまないが、後で取りに行くといい」

 

 

「こちらからすれば肉の塊を高値で買い取ってもらうような物なのでいいですよ。正直使い道に困っていたので」

 

 

「はははっ、君にとってはその程度だろうが、我々科学者には宝の山さ。諸君!今日の彼の話はここまでだ!また聞きたいという者は後で私の研究室で手続きをするように!受講申し込み期限は再来週までとする!めったに聞ける話じゃないぞ。少しばかり生々しいがね」

 

 

ミレルークの新鮮な肉とデスクローの腕を助手に運ばせて解散を告げた教授は、メモした用紙を俺があげたクリップボードに挟んで片づけた後、ついてくるように言ってきた。何時の間にやら俺の話は完全に講義になっていたのはもう諦める事にする。まぁ、研究室か人のいない所で話せばいいのにこんな人だらけの所で話してしまった俺のミスだからさ。

 

 

それから外に出てよく見れば太陽は真上から少し傾いているから、朝に来たから思ったより長く話し込んでしまったようだ。教授と駄弁りながら進んでいくと、食事エリアに着く。ここは教授曰く『馬鹿共のための場所』という意味合いが大きい場所らしい。見れば立ち並ぶオープンカフェに出店、レストランのような所もあるし大衆食堂もあるというごちゃごちゃ具合。外に比べて数は数店舗だ。これは好きな物食えるっちゃ食えるんだろうが、学生にここまでの物が必要なんだろうか。外に出ればいいだけの話じゃない?

 

 

「この学院は貴族の子女達を多く預かっているからね。中にもこういう店を作っていたほうが防犯面でも安全だし、その子らの好きそうな物ばっかりだからああいう子達に多いつまらないちっぽけな誇りによるもめごとが一般市民に飛び火するのも防げる。従業員への手だしは罰則付きで禁止されているし、それでもたまに奮発してきた平民の出の子にちょっかいかけることもあるけど、おおむね良い感じに閉じ込められているよ。それでも問題を起こすのが彼らなんだけどね」

 

 

「ははは……苦労してるんですね」

 

 

「まったくさ」

 

 

苦笑して肩をすくめる教授に同情しつつ、教授お勧めというレストランに入る。内装は綺麗で流石貴族用だと思った。味もやっぱり美味かったけど、やっぱりどこまでいっても一般市民な俺にはちょっと合わなかったかな。クレアやシエナさんの飯の方が肌に合ってる。すんなり胃袋に入っていくというかなんというか……特に何も言わなかったけど教授はそこらへんを察していたらしく、次は外で食べようかと言ってきた。なんだか申し訳ない……。

 

 

「さて、ついたよ。ここが第二演習場だ。流石に貸し切り、とはいかなかったし授業と同時だが、私もいるから大丈夫だろう。的はどうする?」

 

 

「自前のがあるから大丈夫です。じゃあ、始めましょうか」

 

 

少し小さい陸上競技場の様な中に入れば離れた所で三人一組で分かれて授業をやってるのを見つけた。教授曰く冒険者育成クラスだそうだ。邪魔するのは気が引けたものの、教授がせっかくしてくれた事なので時間を無駄にすることはできない。俺はPip-Boy3000からノームの人形(破損)を出して出張った壁の上に置く。とりあえずカノンとライリーの改造銃以外にはちょうどいい高さだし、壁は壊れても魔法で自動回復するらしいので問題はないそうだ。魔法すげー。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、まぁこんなもんか」

 

 

順番にテストしていって最後のカノンのスナイパーライフルを撃ち終えた俺は、壊れたノーム人形を片づけて教授にもらったゴミ袋に入れていく。とりあえずの動作確認テストは滞りなく終了することができた。ライリーのプラズマライフル以外とはいえ結構な発砲音がするからちらちら、というかそこそこの頻度で見られてた。ミニガンの時なんか凄かったなぁ。全員何事かって振り向いてきたからな。ちなみにスナイパーライフルはカノン仕様のためにしっくりこなかったが、遠くに人形を置いて撃ったり、観客席から撃ったりと色々やってみた。

 

 

「お見事。ここまで正確な射撃技術を持っているとは思わなかったよ。これなら数々の化け物共をその遺物で狩ってきた事も頷ける」

 

 

「ありがとうございます。まぁあと一丁残ってますが、そいつは流石にここじゃあ使えないので、近い内に外で魔物相手に使うことにしますよ」

 

 

「ふむ、なら明後日から一週間の内に行くと良い。今日と明日の話の情報整理と生徒達の履修登録をしないといけないから、多分君の話を聞く時間が無いのだよ。今日と明日は君の話を授業に当てるつもりではあるけども、いつまでもそうしてはいられないからね」

 

 

スナイパーライフルを片付けて装備を消音器付き10mmピストルに切り替えながら、教授の話を聞いて成る程と思う。今日は結構な密度で話したし、明日もするならかなりの量になるだろう。ってか教授、俺の話を本当の授業に割り当ててたのかよ……講義になるのは例の履修登録が終わってからだと思ってたのに。

 

 

俺は教授に了解の意を伝えて、物珍しそうに見てくる生徒達の視線をスルーしながら宿に向かう。何にせよ、明日が終われば早くも一週間の休みだ。その間に出来る事は済ませておく事にしよう。アイザックへの報告書と修理。そしてキャスとの契約の話もしないとな。あとは出来れば図書館での魔法の勉強。外に行くついでに依頼を受けるのも良いかもしれない。

 

 

「こんなところかな……よっ、と」

 

 

「いだだだだだばふぁっ!?」

 

 

とりあえず通りに出た途端に今着ている何も入れてない傭兵服にスリをしようとした少年の腕をひねりあげて地面に投げ捨てて、宿に向かう。流石に人通りの多い所で殺すつもりはないからね~。


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