いきおいトリップ!   作:神山

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十七話目

ギルドマスターについていき、いかにも職員用の通路を突き進んでいった一番奥の部屋。俺はそこにデスクローの死体と共に通されて、長テーブルを挟んだ高そうなソファーに腰掛けていた。デスクローの死体はその長テーブルに仰向けで置かれており、向かいの席にギルドマスターが座るのだろう。

 

 

「さて、部屋に入ったわけだが……紅茶とコーヒー、どっちにする?」

 

 

「コーヒーで」

 

 

「お前はコーヒー派か……おーい!コーヒーと紅茶持ってきてくれ!」

 

 

ギルドマスターが扉を開けて声を張り上げると、はーい!、という元気の良い返事がわりと近くから聞こえてきた。ってか部屋に両方用意できるのがあるのに……どんだけ面倒くさがりだこの人。

 

 

「少ししたら来るだろうから、先に話を進めておくか。じゃあ改めて自己紹介だ。俺はこのフェルナンド魔法学院都市支部のギルドマスター、アイザック・ザクレブだ。ランクはSⅢ、ちなみにコイツは一度だけ他のギルドマスターと共になんとか二体倒した事がある。お前は?」

 

 

SⅢて……やっぱりギルドマスターともなるとランクの格が違うな。しかし、それでもデスクロー二体か。同時に出たんだろうけど、デスクローどんだけさ。

 

 

「俺はコウヤ・キサラギ。ギルドランクCⅠのしがない旅人さ。この都市には魔法を知るために来た。何か良いところがあれば教えてくれ」

 

 

礼儀としてヘルメットを脱いで横に置き、自己紹介。仕様なのかどうかわからないが、外した時に銀色オールバックの髪がペチャンコになったりしないのは有難い。色の調整が大変だったのはいい思い出だ。

 

 

「魔法をねぇ。ま、後で幾つか教えてやるよ。それにしても……思ってたより若いのな。いくつだこのくそイケメン?」

 

 

「19だ。アイザック、お前は喧嘩売ってるのか?」

 

 

「まさか、俺はただ「失礼します。お持ちしまし……」おぉ、来たか」

 

 

追求しようとしたら丁度の所で職員の男性が入ってきてアイザックに二つを渡し、デスクローを見て顔をひきつらせながら去っていった。ちっ、逃がしたか。

 

 

「そんじゃ、自己紹介も終わった所だし本題にいきますか」

 

 

アイザックは俺の前にコーヒーを置いてソファーに座り、紅茶を一口飲んでから口を開いた。俺も一口……あ、美味いな。

 

 

「俺は立場上幾つか質問せにゃならん。化け物、特にコイツの討伐者へはギルドマスターがこれをしないと駄目なんだとよ。この上なく面倒くさいがな」

 

 

「何でだ?他にも強いのはいるだろうに」

 

 

「討伐数が絶対的に少ないんだよ。それに、生態も良くわかってない。加えて死体はどうしても広域殲滅魔法とか威力の高すぎる魔法使うからぐちゃぐちゃになるんだよ。だから解剖も出来ない。まぁ倒せるの俺達ギルドマスター位だからな」

 

 

コイツ強すぎだからなー、と呟いたアイザック。さらっと自慢を入れてくる辺りがイラッとくる。

 

 

「で、そんな中お前はこんな綺麗な死体持ってきたからな。尚更質問しないといけなくなった。コイツは学院のレベル高い研究室に回されるから、そこで初めて色々解剖される予定だ。学者共ひっくり返るぞこりゃ」

 

 

ケタケタ笑うアイザックに、俺としては少しばかり不安になる。その学者共や他の連中がこぞって寄ってきたりしたら面倒な事になりかねない。そうしたのは自分な訳だが……嫌なものは嫌なんだ。イラッときて引き金をパンッとしかねん。

 

 

「まぁ安心しろ。ここで質問に答えてくれれば後はギルドがなんとかする。詳細を聞くことがあるかもしれんが、それらはしっかりとギルドを通してからする。ギルドとしてもコイツを倒せる貴重な人材を取られるわけにゃいかんからな」

 

 

「そいつは助かった」

 

 

思わずふぅ、と息を吐いてしまう。ここにきて初めてアイザックが頼もしく思えた。まぁデスクローの難易度がそこまでスゴいならギルドが守ってくれるのもあながち間違いではないはずだ。中立の立場とはいえ、依頼をこなせる戦力は欲しいはずだしな。

 

 

「大船に乗った気持ちでいればいい。で、あっと……まず一つ目は本当に討伐したのかの確認だが、これは向こうで確認したから飛ばそう。次に、武器は何を使った?」

 

 

いつの間にか紙とペンを持ったアイザックが確認について紙と記入してから俺に向き直る。ここで下手に隠したら絶対面倒な事になるので素直にブラックホークをホルスターから引き抜いた。

 

 

「これだ。従来の物よりも威力が高い。これでドタマをぶち抜いた」

 

 

「ほぉ、遺物か?珍しいもん使ってるな。まぁいいか、強い遺物っと」

 

 

カキカキと紙に書き込んでいくアイザックに、そんな報告でいいのかと思ってしまう。別に俺が何か言われる訳じゃないんだが、元の世界でキチッと書いていた自分からすれば、なんだかなーという感じがしないでもない。他の人に怒られてもしらんぞ。

 

 

「で、次は――」

 

 

それからしばらく細かな質問から大雑把なものまで、小一時間色んな質問に答えていった。腕のPip-Boy3000については事前に考えていた形見作戦でなんとかなった。深く聞いてこなかった事については、こういう性格のやつで良かったと思う。

 

 

「――よし、これで終りだ。それと、ギルドの規約でコイツを倒して情報提供したお前は2ランクアップで今日からCⅢだ。良かったな~?」

 

 

「上がることは嬉しいが……良いのかそれって?」

 

 

「良いも何も、そうやって決まってるんだよ。Bランク以下のやつが化け物に分類されるものを倒してキチンと情報提供してくれれば、2ランクアップになる。流石にBランク以上のやつはランクアップ出来ないが、お前はCランクだ。Bランクからは化け物の依頼もちょくちょく入ってくるからな。適材適所ってやつさ。と言っても、お前はまだギリギリCランクだからもう一回デスクローでも狩ってくればまた2ランクアップが出来るがな?」

 

 

二回2ランクアップとかせこい気もするが……まぁ確かに、化け物と呼ばれる奴等を倒せる実力があるのにその依頼を受注出来ないというのは、ギルドとしても依頼が捌けないからこういう引き上げは必要なんだろう。特にレオナルド曰く、化け物についてはギルド総出で相手しないといけない位らしいから、余計にそうせざるを得ないんだろうな。

 

 

「まぁ楽に行くか地道に行くかはお前次第だ。ギルドとしては、早いとこランクアップして欲しいがな。俺個人としては、どっちでも構わん。あ、そういえばお前、パーティ組んでたりするのか?」

 

 

「パーティ?」

 

 

「なんだ、知らねぇのか?まぁ確かに最初の説明じゃ言わねぇからな」

 

 

心底どうでもよさげな顔をしながら紙とペンを机の残り少ないスペースに置き、ドッカリとソファーに凭れたアイザックは片手をヒラヒラさせながら説明を開始する。

 

 

「パーティってのは、依頼をこなすために一緒になって行動するギルド員、もしくはその猟団を指す。つまりは皆でワイワイ協力プレイってことさ。それは一時的なものでもいいし、誰かを団長にして気に入った奴等と永続的に組む猟団を立ち上げるのもいい。後者はギルドの仲介の後に申請してメンバー登録を一々しなきゃならんが、利点は多い」

 

 

それから更に聞いていけば、猟団では金さえ払えばその団員とだけ通信の取れる特殊な魔法具が買えるとか。そして人数が多いために名前が知られれば一定期間の商隊の護衛等の依頼が名指しで来たりするために、団員全員が依頼と金に困ることはほとんど無くなる。

 

 

更に個人とは別に猟団自体にもランクがあり、立ち上げた時点から団員のこなした依頼分だけ自動的にコツコツ貯まり、間隔は広いもののランクアップする。そしてそのランクがA以上になればその猟団用の拠点がギルドから支給されるらしい。そこまでいくのはかなり限られたやつららしいけど、現在拠点持ちの猟団は10団体位だそうだ。それすらも最近は人員不足に頭を抱えている様だが……まぁ俺には関係ない。

 

 

「猟団ねぇ……立ち上げてみるのも、また一興か」

 

 

「まっ、そんときゃ俺が推薦してやるよ。俺の名前出せば連絡がくるからな」

 

 

カラカラと笑いながら紅茶を一気に飲み干し、空になったカップを机に置いたアイザックは紙とペンを持って立ち上がり、執務用――ぱっと見校長先生の机――と思われる木製の机の引き出しの中に入れソファーに足を組んで座り直す。しかし、どうしてそこまでしてくれるのか不思議でならないんだが……。

 

 

「ん?あぁ、ここまでするのは個人的にお前が気に入ったんだよ。話してると中々どうして、面白いじゃないかお前」

 

 

「……顔に出てたか?」

 

 

「ぃんや、俺様位になると雰囲気でわかるのさぁ!まぁ、その中でもお前はかなり読みづらいけどな。どんだけ場数踏んでんだよコウヤ」

 

 

「黙秘権を行使します」

 

 

「つれないねぇ」

 

 

くくっ、と二人で笑いあい、俺は冷めてしまったコーヒーを飲み干した。




デスクローや他の化け物が何故そんなに倒されていないのに関しては、この魔法使い側が対抗策が練られていないことと銃の扱いが下手、銃などの事をよく知らなかった、なによりも魔法があるのでそれに必要性を感じなかったというのが大きいです。他にも色々ありますが、それはまた本編にて。


主人公がアイザックと仲良くなれたのはスピーチスキルもそこそこ影響しています(笑)

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