いきおいトリップ!   作:神山

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十話目

裏口から脱出してトコトコ進む。食料も手に入れたし、値段確認だけと思っていた洗濯機と乾燥機が買えたので今日一日は行幸と言えるだろう。しかも金残ってるし……あ!

 

 

「パワーアーマーの磨き油買い忘れた……」

 

 

ミスったー!このままじゃ汚れたままのやつを着続けるはめになる。どうせならこちらも綺麗にしたいんだが……Pip-Boy3000のマップを見れば今進んでるのは公爵家方面だし、なんだかんだで昼食は少し遅めだったから日も傾いてきたからなぁ。雑貨店には戻れないし、武器屋は遠い。

 

 

「しゃあない、明日にするか……」

 

 

はぁ、とため息をついてそのまま路地裏を進んでいく。表通りよりも薄暗くて鼠とかもチョロチョロ走っていたりするが、Pip-Boy3000のライトをつけてるので問題ない。だがそれで見つかったのか、目の前に立ちふさがるヤンキーっぽい奴ら。

 

 

「よぉ、兄ちゃん。俺達ちょいと金がたりねぇんだわ」

 

 

「運が悪かったな?有り金全部置いてったら無事で済むかもよ?」

 

 

顔にやたらとピアスを付けてこちらに下卑た笑いを向けてくる。普通の人ならビビるかもだが、生憎と力の差が歴然とし過ぎているためなんてことはない。というかウザイだけ。

 

 

「さっさと失せな、雑魚共が。頭に風穴開けられたいか?」

 

 

「て、てめぇ……!おい!こいつを叩きのめしちまえ!」

 

 

そんな事を考えていると、この身体のお陰か、はたまたスピーチスキルか、自然と口が相手を貶してました。いやぁ……あの便利スキルがここで牙を向くとは。敵が増えて全員襲いかかってきましたよ!

 

 

「死ねやぁぁぁ!」

 

 

索敵サーチで見て、合計で10人。こんな細い路地裏で、しかも俺一人になんて数を出すかね?まぁ、素手で勝てますがっと、目の前に来る拳に合わせて

 

 

「ふんっ!」

 

 

「ぎゃあぁぁぁ!!う、腕がぁぁぁ!!」

 

 

その拳を殴る!すると力負けしたヤンキーの手の中の骨がぐちゃりと粉砕され、更には腕が勢いよく吹っ飛んであらぬ方向にネジ曲がる。こちとらスーパーミュータントと素手で戦える身体をしとんじゃい!中坊ヤンキーに負けるか!逆に負けたら怖いわ!

 

 

「ふっ!」

 

 

「がぁぁぁ!」

 

 

「のぉぉぉ!」

 

 

「ぐふぇっ」

 

 

動体センサーで位置を割り出し、避けては殴り、拳ごと殴り……スーパーフルボッコタイムを繰り広げることしばし。最初の粉砕した奴を除いて全員の身体の一部に全治半年程度の怪我を負わせ、いいストレス発散になったと思いながらその場を去る。やり過ぎ?いやいや、身体と技術がウェイストランド流だから殺さなかっただけマシさ。というか身体が殺す流れに動いてたから気づいてよかった。これは力加減も兼ねて今後鍛練の必要有りだな。

 

 

「ふぅ、やっと着いたぞ」

 

 

考え方が身体のせいか、いい感じにウェイストランドに染まってきたなぁと考えながら移動して、公爵家に到着。手ぶらじゃ怪しまれるのでPip-Boy3000からヤオグアイ用の果物セットを取り出しておく。そしてまずは門番の兄ちゃんに近づいた。一応客人ということでそういう態度を取られるが、道を教えてくれたいい人だ。

 

 

「あぁ、コウヤ様お帰りなさいませ……って、大丈夫ですか!?」

 

 

「ん?」

 

 

何やら慌てる門番の兄ちゃんが俺の手を見ているのにつられて見てみると、なんと右手から血が滴ってるじゃないの……あのヤンキーのやつか?

 

 

「あぁ、これはちょっと路地裏で絡まれてね。返り討ちにしたんだ。心配ないよ?」

 

 

手を一度ブンッと振って血を落とし、爽やかでいて世間話をするようににこやかに答える。ハッハッハ、なんてことはないさ!

 

 

「そ、そうですか。で、では門を開けますので少しお待ちを」

 

 

何故だか顔を青ざめさせて去っていき、門を開ける門番の兄ちゃん。はて?そんな怖いこと言っただろうか?それとも風邪か?まぁ開いたし通るか。

 

 

「おいおい、血が滴る程の返り討ちってなんだよ……」

 

 

「盗賊六人を瞬時に片付けた人だからな……その絡んだ奴等に同情するぜ」

 

 

俺が過ぎ去ってからそんな会話がされたらしいが、遠ざかった俺には聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「あ、コウヤさん。お帰りなさい」

 

 

「お帰りなさいコウヤさん」

 

 

「ガウッ」

 

 

門を過ぎて玄関まで進めば、声をかけてくれるサテラとサーシャさん。そしてその二人に撫でられまくって気持ちよさげにしているヤオグアイ。完璧にペットになってやがる……!

 

 

「只今戻りました……サテラ、レオナルドは?」

 

 

「レオナルドは今部屋で休んでいます。あの後医者が来たのですが、貧血と過労とだけ言われました。やっぱりコウヤさんの見立てに狂いは無かったですね!」

 

 

「まぁ前の状態を見ないとそれしかわからないよなぁ」

 

 

怪我や内出血はスティムパックで完全に治ってるし、意識もしっかりとある。動けないのは多少疑問が出るだろうが、特別外傷を負ってるわけじゃないので過労や貧血に収めるしかない。ま、何にせよ今はしっかりと食って血を作るのみだ。

 

 

「話は終わりました?さて、コウヤさんも帰ってきた事ですし、そろそろ食事の準備をさせましょうか。サテラ、行きますよ。コウヤさんもいろいろと準備があるでしょうが、早めに来てくださいね?」

 

 

「はい」

 

 

「わかりました」

 

 

サーシャさんがそう言ってサテラと共に一度ヤオグアイを一撫でしてから中に入っていく。それを見送って、俺はPip-Boy3000からヤオグアイに飯を出す。今度は謎の肉だ。まぁ奇妙な肉と一緒で人肉なんだけど。

 

 

「言ってたやつは買ってきたからさ。明日、お前を送り届けるからな?男としてきっちり奥さんと話つけてこいよ?」

 

 

「ウゥゥゥ……ガウッ!」

 

 

「よし!お前なら出来る!じゃ、明日の夜出発な!」

 

 

「ガウッ!」

 

 

元気な返事を聞いて満足してから公爵家に入る。そして自分に用意された部屋に戻って偽装の為に果物を置き、パワーアーマー等がちゃんとあるのを確認して食事の部屋に向かった。ヤオグアイの移動を夜にしたのは人目を出来るだけ避けるためである。まぁ昼の間に買い忘れた磨き油を買いたいってのもあるんだけどさ。

 

 

「今日の買い物はちゃんと欲しいものが買えたかね?」

 

 

「はい、お陰様で。食料も無事調達出来ましたし、ヤオグアイ用の果物も手に入れました。まぁ買い忘れも有りましたが、明日昼に買いに行くつもりです」

 

 

レオナルドが動けないのでサーシャさんとライルさんとで食事を開始し、今日の事について報告。飯がヤバイくらい美味いです。

 

 

「そうか。それでは……」

 

 

「はい。明日の夜にヤオグアイを連れてここを出ます。お世話になりました」

 

 

食事を一旦止めて深々と頭を下げる。いやはや、恩人という形にはなったが見ず知らずの他人をこうしてもてなしてくれたのは凄く嬉しかった。感謝感謝です。

 

 

「頭を上げてくれ。感謝するのはこちらなのだからな。それにザックの足も治したそうじゃないか。街のゴロツキ共も魔法を使うから憲兵達が手を焼いていた者達だったようだし、君が来てからこちらは感謝しかしておらんのだ」

 

 

流石公爵家、仕事が早い!ゴロツキ共は俺が言った門番さん経由だろうが、ザックさんの事がきっちり耳に入ってるみたいだ。というか奴等は魔法使えたのか……なんか口をモゴモゴしてるうちに殴り飛ばしたからわかんなかったな。ハハハ、カルマが上がりまくりだ。

 

 

「そうよ。この国の貴族をやってるこちらとしては、もう少しもてなせればよかったんだけどね」

 

 

「あぁ、全くだ。馬車か何かを渡せればよかったんだが……この間壊れたのが最後でな。出来るのには5日ほどかかるようでどうにもならなかった。すまないな」

 

 

「いえ、こちらとしては温かいベッドで寝れて、風呂に入れて、美味い飯が食えただけで十分過ぎるほどですよ」

 

 

これホント。これに加えて馬車もらったりしたら、過剰謝礼だ。こういうことはきっちり分けないとな。俺はもらえるものはもらうタチだが、金までもらってるからこれ以上はだめだ。それに馬車なんて使い方わかんないし。

 

 

「そうか……ならば明日の夜まで精一杯もてなそう」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

再度お礼を言って食事を再開。その際にやっぱりサーシャさんにヤオグアイについて聞かれたので答える。俺が知っていることだけになるが、ギルドでも情報が無かったんだからまぁ驚かれました。

 

 

「――と、まぁこんな感じですね。あと、あのヤオグアイは特別性格が温和だっただけですので、他のヤオグアイには近づかないように。即行で食い殺されます」

 

 

「へぇ~……コウヤさんって博識なのね!」

 

 

「いや、博識というレベルを越えているのだが……国の学者共ですら知らないはずだぞ」

 

 

やべっ、調子にのってミスったか?ライルさんが仕事の顔になってる……。

 

 

「もうっ、そんなことはいいじゃないですかあなた」

 

 

「……まぁ、そうだな。すまない」

 

 

「いえ」

 

 

冷や汗をかきつつその後少しの間話し込み、昨日の様に風呂に入ってから今後はああいうヘマはしないようにしないとなぁと思いながら寝た。




スーパーミュータントと素手で渡り合えるならあれくらい出来ると思い、ヤンキーの腕を軽く粉々にしました。

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