ハイスクールD×D/Re:Zext Night   作:有栖川アリシア

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第八十二話 十六夜の化け物

 

 

数時間後――某所

 

パチパチパチ…パチパチパチ

一面の火の海の中、白い髪の男は立っていた。周囲で揺らぐ火炎をモノともせず、ただそこに立っている。周囲には、血がこげた匂いが充満していた。

「ど、どうして…なんで、なんでなんだ…なんで、お前がいるんだ!?」

苦々しく吐き捨てるのは、典型的な中年男性――十六夜家現当主 十六夜幻十郎だった。

「貴様……どうあってもこの私を討つ気か?

「『――愚問だな、私はお前を殺して、螺旋から解放する』」

「ふざけるな!!貴様に何がわか――」

ズバァァンッ!!

士郎の手に握られているのは投影した干将・莫耶だった。躊躇わず切り裂かれる幻十郎の腕

 

「ヌアァァァァァアア!!」

悲痛な叫び声をあげる幻十郎

「貴様、この私が何者か分かっているのか!?この私の後ろには――」

バンッ!!

ためらわずに、士郎の拳が彼に突き刺さる

 

「い、一体目的は何だ、貴様!?」

苦し紛れに言う幻十郎

「『目的、復讐だ――それ以外何もない』」

「ふ、復讐だと…」

恐怖に歪む彼の顔――しかし、一転して彼の顔は余裕を含んだ表情になった。

「復讐とは全く、何も生まれんよ、小僧」

「『なに・・・?』」

「以外な形だったが、ますます君を生かしておくわには、行かなくなったな――丹羽士郎くん」

「『貴様、なぜそれを』」

「それと、コレはどうでもいい話だ――君を奪って、実験を再開しようかね…」

背筋が凍るような含み笑いをする幻十郎

「『言ってる意味が、分かっているのか?』」

「無論、私は、いつも正常だが?」

その瞬間、幻十郎の髪が士郎と同じ白色に変色し、吹き飛ばされた腕が再生される。

「『――貴様ァァァ!!』」

《士郎|しろか》は、躊躇いもなく召喚した二振りの長大な片刃刀を彼に対して振るうと

 

キンッ!!

鋼と鋼がぶつかり合う音が響きわたる。見れば、黒と赤のリボルバー式の銃身に長大な剣が彼の手に装備されていた。

「そういうことだ――成功例は、君だけではないのだよ」

「『…なに!?』」

距離をとる二人

「『どういうことだ?』」

「おやおや、知らないようだね――まぁ、いいか、知る必要もないことだからな!!」

ダッ!!

近くのがれきの山を吹き飛ばして思いっきり迫ってくる幻十郎

「座興は終わりだ!!娘の場所を教えてもらおうか!?穢れた血の少年!!」

「『くっ!!』」

士郎は、彼の剣を二刀で受ける士郎――そんな中、幻十郎からありとあらゆる情報が流れてくる。それが、士郎の一線を越して、心を細く鋭くした。

 

「フフフ、見ものだろ、現実とうつつの区別がつかなくなり彼女が苦しむ姿は」

笑いながら言う幻十郎に

「『貴様、己の血縁者を苦しめて、思うことはないのか!?』」

「さぁな、"モルモット"に用はない」

 

ギンッ!!

士郎の二刀と幻十郎の片刃刀がぶつかりあった。

「(硬い――!!)」

まず最初、彼とぶつかり合ってそれを感じた。普通の人間なら今の士郎の初撃で気を失うだろう、しかし、目の前にいる幻十郎はそうではなかった。士郎は悪魔であるかと考えるが、彼から一切それを感じられない。となると答えはただ一つ"バケモノ"ということになるだろう。その証拠に彼の腕が再生されていた。その驚異的な再生能力に士郎は驚く。

「『――化物が!!』」

「君もそうだろう!!」

ギィィィンッ!!

そして、二撃目がぶつかり合う。

ガシュンッ!!ガコンッ!!

幻十郎のリボルバーから弾丸が彼の片刃刀に装填されるとジェットエンジンのような爆音と共に 赤い光芒が現れ、剣による強力な突きを繰り出してくる。

「『ッ!!』」

士郎は、それを手首から肩、腰を柔らかく動かすことによって 相手の攻撃を武器で受け流す。そして、

投影…開始(トレース・オン)!!」

そういうと、干将・莫耶が消え、手元に無毀なる湖光(アロンダイト)が現れた。それで士郎は、炎をまとわせた剣による5連続突き、斬り下ろし、斬り上げ、最後に全力の上段斬りを繰り出すコンビネーション技を繰り出す。

キキキキキッン!!

目のもとまらぬ剣戟で幻十郎の顔が歪むが

「――負けんよ!!」

ガシュンッ!!ガシュンッ!!

更に彼のリボルバーに装填されていた薬莢が二回刃に装填されると

「ハァッ!!」

ズバァァンッ!!

相手が技を出してから反応してたら間に合わないほど素早い居合が繰り出されその衝撃波が士郎を襲う。しかし

「ッ!!」

士郎はそれを間一髪のところで防いだ。

 

「貴様――その力…汚れた血がぁぁぁ!!」

 

その言葉を聞いた途端、抑えきれない何かが遂に限界を越した

 

ズオォォォォォオオオオォォン!!

士郎の周りに純粋な黒い魔力がうずまき始めた。そして、士郎は自分の顔に手を当てて

 

「『観念しろ――もう、この世に"正義の味方"は、いない』」

「何を言ってる、貴様、血迷ったか?」

しかし、幻十郎は見た、指の間から覗いた瞳は、紅く光り輝いており――その内には、あらゆる者の憎悪・嫉妬・憤怒の感情を内包している。そして、顔から全身にかけて、赤いラインが入っていることが分かった。その姿に、あの余裕飄々な表情の幻十郎の表情が一変して、

「ひっ!?」

哀れな悲鳴を上げて後ずさりし始める。逃げたい、この場から生き延びたいという感情が支配するが――もう既に本能では分かっていた目の前の少年に"どう運命が回っても遭遇してはいけないヤツ"だと。次第にその圧倒的なまでのなにかに圧倒され、動くことはおろか、目を逸らすこともできなくなる。そして、士郎は容赦なく剣戟を幻十郎にお見舞いする。士郎の剣に深紅色の魔力をまとわせて7連撃繰り出す。そこから、刹那にして単発重斬が幻十郎に襲いかかり

 

シュパァァンッ!!

一瞬にして、両手両足が根元から切断される。

 

カランッ!!

腕が切断され、彼の剣が地面に落ちる苦悶が顔に浮かんでいる幻十郎

「『こんなものか、十六夜幻十郎』」

呆れたような声で言う士郎に

「き、貴様ぁぁぁあ!!」

精一杯の声をあげようとするが

「――黙れ」

ドチュッ!!ズシャァァンッ!!

 

どこからか飛んできた剣に腹部が貫かれる。痛感で彼が瞳をつぶり、目を開けた瞬間には

 

ゴゥンゴゥンゴゥンゴゥン…

 

彼の目の前に、乖離剣エアが今か今かと解放の刻を刻一刻と静かに鳴動しながら待っていた。

 

乖離剣エアに装填されているのは常闇のような漆黒色の魔力と血のような深紅色の魔力が混ざったもの、その魔力が乖離剣に溜まっていくと同時に乖離剣の金色のところが黒色になり、黒と赤で構成された乖離剣に変化していく

まさに、絶望にふさわしい色だった。――それが物凄い勢いで装填されていく――幻十郎は動こうとするが遺伝子レベルで何かが刻み込まれたモノにより、動けなくなる。そして、そこから溢れんばかりの恐怖や絶望が彼を支配し始め、動けなくなってくる。そして、士郎の瞳が赤くそれも先ほどより更に深紅に光り出し

 

「『――魂の一辺まで残さず殺す』」

その言葉とともに、爆発が巻き起こり――文字通り彼は"魂の一片"も残さずそこから消滅していった。

 

 

 

血の匂いがする夜風が身体に当たる。視線を周囲に向ければ、火の海だった。

「十六夜幻十郎…」

彼のいた場所に、向けて言葉を言う。

「間違いか、間違いではないかは、神の決めることだ――しかし、大多数はこう言うだろう、貴様の行いは間違っていたとな……」

ゆっくりとそこから背中を向ける士郎、耳元には、消防車のサイレンの音が無数に聞こえたのであった。

 

それから、士郎はその場を去った。

 

 

 

 

スタッ・・・

金沢市街地の比較的人気のないところで士郎は降り立ち、そこから歩いてひとみさんとサツキのいる家まで戻る。

そして、家の前まで到着し――重厚な門を開け、中に入ると。

「おかえり、士郎」

「おかえり、そして、お疲れ様」

出迎えてくれたのは、ここを出た時と変わらず、サツキとひとみさんだった。何も言わず、少し複雑そうな顔をする士郎

「――まぁ、そう複雑な顔をするな、夜も更けたしな、中に入って今日は寝なさい」

「はい」

 

 

 

ひとみさんに言われ士郎は中に入る。どこか我慢しているみたいに終始無言のサツキ。それから、風呂に入り与えられた6畳ほどの趣ある和室に戻る。部屋にはランタン等の灯りは無く、月明かりが差し込むだけの薄暗い室内だった。

「(・・・サツキ)」

部屋の中に入るが、そこにサツキの姿はなかった。士郎は中に入ってとりあえず、座ると

スーッ・・・

引き戸が引かれ、誰かが部屋に入ってくることがわかった。振り向くと、黒い髪が見えたと同時に

ぽすっ

その華奢な体が士郎の胸の中に飛び込んできた。士郎は後方にあった布団に尻餅つくと

「――サツキ」

彼女の服装はYシャツ一枚という格好だった。しかも下着はつけてないという格好を認識したとたん、直に触れ合う肌と肌に士郎の心拍数が高鳴る。太ももだけでも刺激するには十分なものだった。

そんな中、彼女の顔があると思われるあたりが湿っていた。彼女は頬から涙を流していた。士郎は何も言わず頭を撫でてやると、疲れていたので、寝っ転がると

 

「士郎――」

上目遣いでサツキがこちらを見てくる。その威力は半端ないもので、世の男性全てを虜にするような切なそうな顔だった。そして、サツキの顔が士郎の顔と同じくらいまで迫り、彼女の手が士郎の後ろまで回され

ふわっ・・・

甘い香りとともに、士郎の唇は塞がれていた。サツキは、指を絡めさせ、唇で士郎の口を塞ぎ、舌で唾液を交わす。濡れた水音は、夜の色濃く静寂に塗り潰された和室の中に大きく反響して士郎の思考を鈍らせる。

「おかえり」

絡まる舌が離れ、サツキが発する言葉に心の底から安堵する士郎。

心の奥底から湧き出るような熱い気持ち、母性にも似た愛おしい感情が彼の身体を染める

「もう、離さないんだから――」

甘く心地よいソプラノで囁くサツキ。愛らしく微笑む顔を見る度に彼が愛おしくて、切なくて。自分の隣から士郎がいなくなるなんて有り得ない、いや、あってはならなかった。だからこそ、彼女もまた士郎に士郎もまたサツキに尽くしたのであった。

 

そして、月明かりに照らされた彼女の艶やかな姿を見ながら甘い嬌声とともに二人で深い宵闇の宴へと沈んでいった。

 


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