ゲーム内のものは提督との絡みが大半で他の艦娘との接し方がいまいち見えてきません。
しかし、やはりどれも見事な経歴を持つ艦ですから基本的に頼りになるリーダーとしての資質が高い人物だろうというつもりで作っています。
金剛、榛名、利根、赤城、蒼龍、飛龍は大淀たち遠征班の救援に向かうため速度を目一杯に上げる。凪いだ海のおかげで当初の予定より少し早く着けそうだった。
先頭を行く金剛は救援へはやる気持ちと、空も海も青一色の中で水上を走る心地よさ、二つの感情が入り乱れていた。
とはいえ、これ以上速度は上がらないため焦っても気疲れするだけ。今は爽快さを享受すると気持ちを切り替える。難点は日差しがきついことか。突然の出撃だったので、日焼け止めを塗り忘れたことはちょっと後悔。
「まさかタンカーの護衛中に襲われるなんて」
金剛のすぐ後ろ榛名が独り言のようにつぶやく。金剛はその言葉を逃さない。
「確かにちょっとおどろきデース。こちらの制海域内で、しかも輸送船を狙ってくるとはネー」
全員に聞こえるよう大きい声で話す。
こういう状況で不安をつぶやくのは榛名の悪い癖だ。疑問や不可解なことは共有してしまうに限る。榛名の不安はみんな同じく思う不安なのだから。
「お、ちょうど先行した索敵機が戻ってきたようじゃ」
利根の瑞雲が着艦し、搭乗していた妖精から説明を受ける。
妖精は艦娘としか会話ができない。人間には妖精の言葉は聞き取れないのだそうだ。
「ふ~む、利根より報告。どうも敵さんは追い掛け回すのが目的のようじゃ。一定以上近寄らず、散発的な砲撃をするのみということらしい。旗艦金剛へ、判断求むぞ」
「了解デース。もう少し接触まで時間はありますから、みんなの意見を聞きたいネー」
今回の編成は金剛に負けず劣らずの歴戦のメンバーだ。金剛が一人考えて判断する必要はない。
「榛名は問答無用で攻撃してしまっていいと思います。戦力的には勝っているようですからある程度の追撃も視野に入れて攻勢に出るべきかと」
金剛姉妹の中では大人しい性格の榛名だが、意外に口を開けば好戦的な一面が見える。
「そうですネ……」
金剛は榛名の意見と全く同じだった。提督からの命令は追い払えでも、多少無理して殲滅したほうが後々の憂いもない。
しかし、あえて今一度考え直す。
姉妹艦だけに比叡も霧島も含め、根っこの部分はどこか似ている。榛名を好戦的と評したが、自分のことでもあるという自覚があったのだ。
提督は金剛型を単独で編成するのを好まない。表向きは速度統一のためと言うが、本音はその金剛型の性格を考慮したうえのことで、鏡を見るような気分で冷静になれ、ということらしい。
「赤城さん、空母の意見はどうですカ?」
「そうですね。基本的には追撃案に賛成ですが、追撃は私達の艦載機に任せてもらえれば。追撃優先でタンカーから離れるのはよくないかなと思います」
「飛龍から意見具申。今回、空母は偵察機を誰も載せていません。護衛以上の任務は非常時への対応が遅れるという懸念があります」
今回は別任務中の鶴姉妹や鷹姉妹が彩雲を利用中で鎮守府には残っていなかった。そのため索敵機を積んだ利根が編成されている。
「わかりまシタ。では追撃は空母艦載機の方々に任せることにしマス。榛名、利根、私たちは敵が撤退する場合、援護砲撃をシマス」
「はい、お姉さま」
「了解じゃ」
「あと利根、瑞雲は私の合図でいつでも飛べるようにしておいてくださいネ」
「うむ、あいわかった」
金剛の電探が味方の救難信号を捕まえた。ここは制海域とはいえ敵の影響で羅針盤が狂う可能性があったが、その心配はとりあえずしなくていいようだ。まだ目視はできないがお互い近づいている以上、戦闘開始まで15分はかからないだろう。
「みなさん、いいデスカー。目視出来次第、空母艦載機は順次発艦してくださいネー」
「了解」
5つの声が重なると、隊列がより一列かつ等間隔に揃う。
金剛はまだ見ぬ敵を前に呼吸が粗くなるのを自覚する。
幾度となく経験してきても緊張が起きないように防ぐことはできない。ただ、慣れただけ。付き合い方さえ覚えれば緊張は悪いものでもない。自分の足りないところを教えてくれるから。
「目標のタンカー、視認」
先に見つけたのは榛名だった。二時の方角。
「艦載機の発艦頼みマース」
「了解」
後方から空を切る矢の音が聞こえると、頭上を越え敵に向かって飛んでいく。
「榛名、味方の損害状況を報告、利根は敵の状況を報告するネ」
針路を敵に向けながら指示を出す。
「榛名より報告。睦月小破、如月小破、大淀中破。健在は夕雲、巻雲、長波」
この距離なら通信は使えるが戦闘中の仲間達の集中を切らせたくない。それにこの程度なら目視で十分。
「利根より報告じゃ。敵は5隻、出撃時の情報とは軽巡クラスが足りないな」
これだけ視界のいい日だ。隠れているという選択肢はとりあえず外そう。なら逃げたか撃沈されたかだ。
「榛名、私についてくるネ! タンカーと敵との間に割り込むヨ! 赤城さんは大淀さんから報告聞いて、周囲の警戒もネ」
それだけ言うと返事も聞かず金剛は全速力で向かう。
敵近くに到着した艦載機が爆撃と雷撃を開始する。敵とタンカーの間に水柱がいくつも出来上がる。
タンカーをこれ以上攻撃させないための目くらましも兼ねた攻撃だ。
しかし、逆に言えばその水柱近くに向かっていくのは恐怖を伴う。敵も見えないがこちらも見えないのだ。気付いたときには目の前に敵がいた、そんなこともありうる。
「榛名、ちょっと無茶するけどついてきてネー」
「榛名は大丈夫です」
大丈夫どころか、イキイキした声をしている。
「OK、じゃあタンカーの後ろについたら榛名は10時の方向へ主砲発射、赤城さん達の作る水柱ごと吹き飛ばすヨ!」
「はい!」
現状を考え今回は空母勢の意見を採用した。
しかし、戦艦には戦艦の意地がある。正面からの高火力での一撃。砲撃戦の主役は譲れない。
敵が反転した時の追撃の打ち合わせをしたが、そもそもそんな隙を与えなければいい。
タンカーを追い越し、素早く後ろにつける。目の前には水柱が壁のように出来上がっていた。
2人は深く腰を落とし構える。何も見えない、だが迷わず主砲を水平に傾けた。
「ファイアーーーーーー!!!」
金剛の主砲からの一撃は水壁に大きな丸い穴をくりぬく。穴の先には敵重巡リ級が半身を失っているのが見えた。
「タンカーの後ろをキープしながら回避運動するヨ。もちろん敵が見えたら即ファイアーネ」
「了解で、えっ、お姉さま後ろ!」
榛名の呼び掛けに金剛は振り返る。
「シット、それはバッドだヨ」
後方のタンカーが舵を切りだし、横へ逸れようとする。
「脇から見えちゃいますって」
空母が作ってくれている水の壁はタンカーを隠すのに幅がギリギリしかない。砲撃を受け直進するのが怖いのは理解できるが、今は少しでも距離を離さないといけない。
周囲の睦月や夕雲も慌てて針路を戻すように説得している。
「榛名! 開いたところは私がカバーしまマース!」
すぐ目の前がどんな状況になっているかもわからないところへ顔を出す。
深海棲艦と比喩ではなく鼻先の距離で対峙することになるかもしれない。
だが、――
「迷ってる暇はないですねネー!」
躊躇したほうが危険だ。何が出てきても先手を打つ構えでいればいい。
開いた空間に顔を覗かせる。
(っ……まさか、こんな)
水壁の向こうから同時に顔を覗かせてきたのは、――戦艦ル級!
金剛の鼓動が大きく跳ねたかと思うと、周囲のすべてがスローになる。
水しぶきが水の玉になって宙に浮いているところまではっきりと見えた。
一体、こんな大物どこから現れた。
もともと追いかけて来ていたのか。それがこの水柱のせいで接近に気付かなかったのか。
今わかるのは、最悪に最悪をかけたくらいのバッドケースだということだ。
だが、明らかにル級も驚きの顔を隠せていない。
早く、速く、主砲をやつに向けないといけない。でも、スローな世界で身体が思うように動かせなかった。
ル級も焦っている。こちらに砲を向けようともがいている。
深海棲艦の必死な表情は初めてだった。撃沈されても何も思わない連中だと思ってた。
しかし、相手は、必死だった。その瞳に映るものに恐怖していた。
――そう、相手が恐怖するのは金剛型一番艦金剛。
次の瞬間、スローから解き放たれ、世界が熱を帯びる。
「ファイアーーーーーーーーーー」
「ルアアアーーーーーーーーーー」
両者が雄たけびを上げながらゼロ距離からの砲撃。
互いに一発だけを撃ち、……沈黙した。
「さすがに今回は死んだかと思ったデース」
タービンから燃料タンクまで半分が吹っ飛び大破した金剛は後から来た陽炎たちに曳航してもらっていた。
下半身は浮くことができず、仰向けのまま上半身を陽炎と不知火に引っ張ってもらう。
タンカー、大淀達タンカーの護衛、金剛達救援部隊、陽炎達救助部隊と、気づけば大所帯になって鎮守府へ向かっている。
「陽炎たちが来てくれて助かりましタ」
「まあ、もともとは大淀さんたちのもしもの曳航役として提督が送ってくれたんですけどね」
あっけらかんと陽炎がそう言うと、不知火が咳払いをする。
「ル級が出た時点で全員無傷は難しいでしょう。不知火は今回の金剛さんの働きを驚愕に値するものだと思います」
大破:金剛 中破:大淀 小破:睦月、如月
結局、金剛とタンカー護衛部隊以外の損傷はなかった。
敵は殲滅し追撃の必要もなかったと赤城からの報告を受けている。
「一つよかったことと言えば、午前中の演習から大破したのが妹じゃなくて自分になったくらいには進歩したことですかネー」
「それのどこが進歩ですか!」
榛名は金剛のそばを離れようとせず、いつまでもぷりぷりと怒っている。
「まあ帰ったら加賀さんと秘書艦交代だからネ。反省しながらしばらくは提督に甘えてくるヨ」
「何を言ってるんですか、しばらくドックから出られるわけないでしょう?」
「いやー、さすがにこの傷だとバケツを使うんじゃないかナ?」
「残念ですが、秘書艦になる前に、比叡姉さまと霧島が金剛姉さまの秘書艦になってドックに押し込むと思います。完治するまでじっくり二人からの小言を聞いてきてください」
「ノー……」
気の重くなる話だ。普段から姉として慕ってくれているが、別に崇拝されているわけではない。
「くすくす、姉妹仲がいいのはいいことですよ」
そう言いながら近づいてきたのは大淀だった。
中破しているが航行に問題はなさそうだ。念のため黒潮と初風が近くに控え用心している。
「こんな姉に説教する妹を三人も持つ苦しみは姉妹仲じゃ説明しきれないデース」
大淀には姉妹がいない。最近の鎮守府では珍しくもないが、少数派なのは相変わらずだ。
「それでわざわざ近くに来たということは相談ごとデスカ?」
お互い負傷の身体、雑談程度なら鎮守府に戻ってからでいい。
「ええ、今回の敵の動きについてです」
「安全なはずの制海権ですからネ。何か妙なことでもありましたカ?」
「私たちに取った敵の行動、私たちは『追われていた』、のではなく『追い立てられていた』が近いんです」
「……日本語難しいデスネ」
「言ってる私も自身が無いので深く聞かないでください。ただ、奴らは何かから逃げていたのでないかと思うんです。その先に私たちがいただけなのかな、と」
「被害が少なかったのはそのせいデスカ。しかし、根拠に乏しくて報告書には書きづらいデス」
「実はタンカーと合流した直後にリンガ泊から連絡がありまして、西から深海棲艦が移動してきていると。そのときは深く考えなかったのですが」
「確かに流れが一致しますネ……。では、報告書の作成お願いしマス」
「えっ、金剛さんが作るんじゃないんですか?」
「榛名が言うには私はこれからドックに軟禁されるらしいので」
「ええー、私報告書をチェックするのは慣れてるけど作るのはやったことなくて」
「何事も経験デース」
内勤ばかりで最近艦娘としての仕事を始めた大淀には丁度いい機会だ。何度も大淀に報告書の不備で突っ返されたことだし。
しかし、リンガの西。つまり、インド洋で何か起きたのだろうか。日本の動ける範囲の超えた先になるので大した情報は得られないかもしれない。
最近来たイタリア人もタイミング的に気になる。
「お姉さま、私嫌な予感がします」
榛名の言葉にやはり姉妹だなあ、そう思った。
2話で金剛が英語できないんじゃ疑惑をやりましたが、
本当に英語ができないのは作者です……
もっと会話に英単語が差し込むはずが全くないですね……
戦闘時は聞き間違いなど起きないよう金剛は英単語を使わないようにしている、ということにしておいてください。