艦娘のラブソング   作:メルクリ

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戦闘シーン初めて書きました。
アドバイス頂けると嬉しいです。


※「陽炎抜錨します」3巻を参考にしている箇所があり、ネタばれの可能性があります。

※本作品はこの話からタイトルを変更しております。
 旧タイトルはキャノンスリンガーガールです。


嵐の前

「ファイアーー! 比叡、鳥海、時間差でたたみかけるデース」

 

 金剛と那智の砲撃が相手進行方向を狙うように放たれた。比叡と鳥海は相手の足の止まったところを狙い撃ちするため構える。

 

 金剛姉妹が二手に分かれそれぞれ重巡2、駆逐2を率いての艦隊演習中である。

 状況は同航戦。

 互いの隊列は平行に進んでいく、このままいけば互いに消耗が増えていくだろう。

 

 金剛は乱戦を避けたかった。自信が無いわけではないし、乱戦の可能性を否定しているわけでもない。ただ、あくまで訓練である以上、勝ち方にもこだわりたかったからだ。

 実戦では訓練でできたことの7割も発揮できない。それは仕方が無い。ならば訓練で大事なことはその7割をどれだけ大きく出来るかだ、金剛はそう考えていた。

 

「こちら夾叉です」

 

「こっちは榛名の鼻っ柱に命中! 陣形乱れたヨー」

 

 那智と金剛の報告に比叡と鳥海はすかさず砲弾を撃ち込む。狙いは隊列の二番目にいるはずの霧島。二人がかりで一斉正射を行う。

 

「てーーーーー」「撃ちます!」

 

 比叡と鳥海のタイミングはほぼ完ぺきだった。渋滞を起こした相手の隊列に砲弾の放物線が吸い込まれていく。

 大きな水柱が上がると比叡が興奮で手を叩く。

 

「やった、命中!」「行動不能1艦を確認」

 

「グッド。次、朝潮と荒潮は魚雷の準備。目標は相手駆逐艦ネ」 

 

「了解」「わかりました~」

 

 駆逐艦が魚雷の発射を行う、するとすぐにアラームが鳴った。

 

「敵魚雷がこちらに向かっています」

 

「数は?」

 

「5本!」

 

「全員回避行動。その後状態を整えたら即反撃してネー。大丈夫、魚雷がそう簡単に当たる距離じゃないネ、落ち着いて」

 

 艦娘の魚雷には多少の誘導が効く、とはいえ回避に専念すればまず問題はない。相手は陣形が乱れているが、こちらは体勢に問題が無いのだから焦らずクリアしていけばいい。

 

 全員が回避行動を取る。しかし、直後に金剛は後方から爆音を聞いた。

 

「損害報告」

 

「比叡、問題ありません」「那智、同じく」「鳥海、同じく」「荒潮、同じく」「朝潮、小破です」

 

「問題のない艦から砲撃、朝潮は詳細を報告するネ」

 

「砲塔を一つ損傷により使用不能。航行に問題はありません」

 

「鳥海より報告、先ほどのこちらの魚雷で敵艦を2隻大破。残りは3隻です」

 

 金剛の周囲に水柱がたて続けに二つ。精度は低く、脅威は感じない。

 戦力に差ができた以上、もはや中途半端な攻撃はこちらの損害の可能性を上げるだけ。

 力押しでねじ伏せる!

 

「OKネー。私と比叡で砲撃を行うから、他全員でその隙に距離をつめて魚雷を全弾発射、発射後はすぐに反転、隊列まで戻るヨ」

 

 了解、と威勢のいい声が乱れることなく聞こえてくる。

 

 非常に高い集中力で訓練ができている。相手の砲弾や波で音が聞き取りづらいこともあるだろうに、聞き返しもない。今回のイメージを反復できれば深海棲艦なんかに遅れは取らない。

 金剛ははっきりした手ごたえと昂揚感があった。

 

「比叡、行くヨー」「はい、お姉さま」

 

 戦艦の砲撃が轟音とともに乱れ飛ぶ。すぐさま重巡と駆逐艦が敵へと近づいていく。

 砲弾は確実性よりも仲間の目くらましを優先して手前を狙う。水柱を影に少しでも敵からの狙いを外させる。

 

「鳥海です。4隻とも魚雷全弾発射完了、隊列に戻ります」

 

「了解ネー、比叡、援護しながら少し後退――」

 

 金剛が比叡を視界に入れた瞬間、敵の砲弾が比叡を直撃した。

 

「ひええええええええええええええ」

 

「比叡ーーーーー」

 

 

 

 

 

 結果:金剛隊 【大破1、小破1】  榛名隊 【大破5 小破1】 

 

 比叡を大破させたのは霧島の苦し紛れの一撃だった。そう、最初に大破させたのは摩耶であって霧島ではなかった。勿論、相手が隊列を工夫するなど当たり前のことであるし、鳥海の報告も行動不能1艦と霧島とは断定していない。

 ただし、金剛はどこかで相手の戦艦はもう1隻しかいないと決め付けていた節があったことを反省していた。

 仮に、戦艦2隻が残っている、もしくはその可能性を強く考慮したからといって結果は同じだろう。残念ながら被弾するときは被弾するものだ。

 しかし、長射程の戦艦を相手にするなら後退の指示はもう少し早くても良かったはずだ。逸る気持ちに知らずに急かされていたことが悔しくてしょうがなかった。

 勝敗を付けるなら金剛達の勝ちであろう。しかし、金剛は比叡の大破は自分の責任だと痛感することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 この訓練の一部始終をイタリアから来た五人とビスマルクと、提督がモニター越しに見学していた。

 提督が後ろからマルコー達を見ている。しかも何も話そうとしないので居心地が悪い。

 

「やはり陸上とは違うね」

 

 ヒルシャーの言葉にビスマルクがうなずいた。

 

「ええ、急激な速度の変化ができないことと身を隠す障害物がないことは水上戦の特徴になります。速力を落とさずに回避と攻撃を両立せねばなりません。実際の艦船でしたら分業制ですが、艦娘は一人でそれをこなす必要があるので高い集中力と判断力を求められます」

 

「しかし、ずいぶんアナログな戦いだな」

 

 食い入るように見ていたマルコーがつぶやく。

 

「大口径、高火力での大味なやり取りだ。……にらむな提督、後ろを見なくてもわかるぞ。別に悪い意味で言ってるんじゃない。ただ、ちょっと不安になっただけだ」

 

「私たちがここで行っている訓練はあなた方を戦場へと送り届けるための道の確保でもあります。私たちの錬度では命を預けられないということでしょうか」

 

「ビスマルクさん、マルコーが言いたいのはそうじゃないんだ。僕らの連携の問題でね。君たちほど息のあったコンビネーションには程遠いのさ。上陸後にこのレベルの敵と遭遇したらと考えると不安にもなるのさ」

 

 義体は向こう水な突撃を得意としている。いや、不安定な精神ではそれくらいしかできないのだ。

 陣形を整えて、連携で攻撃、ヒットアンドアウェイ、さまざまな細かな指示が飛び交う戦場。

 アンジェリカは平然と見ているが、内心どう思っているのか。おそらくあれと同じことをやれと言われれば、喜んでやるだろう。しかし、絶対にまねはできない。比較的安定しているトリエラでさえ、一度火がつけば周囲の敵をせん滅するまで手に負えなくなるのだから。

 

「言い忘れていたが上陸後の攻撃部隊にはウチからも一人出すことになる」

 

 提督が口をはさんだ。

 

「……聞いてないぞ」

 

「言い忘れていたからな」

 

「しかし、君たちの装備では海上からの支援射撃が限度では?」

 

「陸から一人借りてきた。揚陸艦のあきつ丸だ。明日には合流できる」

 

「揚陸艦の艦娘?」

 

「ああ、海上ではそれほどでもないが上陸後は非常に頼りになるだろう。接岸してきた敵強襲揚陸艦を撃破した実績もある。あと陸の対深海棲艦装備もいくらか融通してもらえることになった。公社の装備と比べて使いやすい方を使うといい」

 

 まったくの寝耳に水、しかし、僥倖だ。

 

「……いいのかい? 俺たちに装備を見せて。しかも借りものなのだろう?」

 

 バラせば技術の盗用も可能だ。

 

「臆病ものに武器を持たせても肝心な時使わないからな」

 

 陸のスタンスは本州の引きこもりである。海洋を捨て、接岸してきた敵のみを迎え撃つ。彼らからすれば自分たちの実力をもっとも発揮できる作戦を選んだつもりなのだろうが、それは一つのミスが手遅れになりかねない上に、海との権力争いが根底にある。

 現時点では提督に深海棲艦対策の権限の多くが集中しているため、合理的な内容の書面さえ用意できれば大抵の無理は通った。

 

「ふん、そういうことはできるだけ早く言え。だが、……助かる」

 

 マルコーの感謝に提督は少し驚く。

 誰も気づかなかったが、その時アンジェリカはマルコーと提督の顔を見回していた。その瞳は相変わらず何の変化もなく、何を意図しているのかはよくわからない。

 

「トリエラ、そのあきつ丸という方と合流したら情報の共有をしてくれ」

 

「ヒルシャーさんがやったほうがいいのでは?」

 

「僕は日本語ができないからね。頼んだよ」

 

「そうでした」

 

 トリエラは面倒そうに返事をする。

 

「クラエスは装備の使い比べをしてレビューをたのむ」

 

「はい」

 

「なら、後は解散にしよう。このまま訓練を見ていてもいいし、鎮守府の案内をしてもらってもいい。それで提督さ……あれ、いない?」

 

「提督ならいましがた出て行かれました。急ぎの件ですか?」

 

「いや、大したことじゃない」

 

 挨拶もなし……。緊急事態か?

 まあ今の俺らに出来ることはないし、邪魔にならないようだけ気をつければいいさ。

 

 

 

 

 

 加賀に呼び出された提督は執務室へと急ぐ。中では加賀が電話対応に追われていた。

 

「タンカー護衛中の大淀から通信」

 

「内容は?」

 

「敵からの攻撃を受け執拗に追撃されているとのことです。敵編成は――」

 

「いい。金剛、榛名、利根、赤城、蒼龍、飛龍に出撃させろ。旗艦は金剛、敵編成も伝えておけ」

 

「わかりました」

 

 演習とはいえ比叡と霧島は大破している。今回は休ませつつ、高速重量級編成を組む。仮にここで敵編成がヲ級だらけだったり潜水艦がいるなら加賀が警告をする。

 

「大淀には目的地を一旦鎮守府に設定するように言え」

 

「はい」

 

 まあ、そんなことはとっくにやっているだろうが念のため。

 

「こちらの損害は?」

 

「睦月、如月が小破。他は健在」

 

「曳航と哨戒の駆逐艦を出す」

 

「待機中は陽炎、不知火、黒潮、初風です」

 

「全員出せ、対潜水艦装備を忘れるな」

 

「金剛から今出撃したとの連絡が」

 

 早いな、命令から一分か。

 

「代わってくれ、……忙しくて済まないな、金剛」

 

『気にすることないネー、ちょうど身体もあったまってきたところだヨ』

 

「現場での判断は旗艦のお前に任せるが今回は無理をせず追い払ってくれ」

 

『了解デース。あ、そうだ、この任務が終わったら秘書艦に戻してもらうからネー。出撃5回で交代、加賀さん忘れてないよネ』

 

「決めるのは提督ですから。……提督が替えたくないと言っても泣かないでくださいね」

 

『ハハハ、相変わらず手ごわいですネー……そろそろ隊列を組み直しますネー、通信終了』

 

「ふう……」

 

 ここまでやれば後は祈ることしかできない。

 

「そうだ、敵編成聞いておくか」

 

「重巡3隻、軽巡2隻、駆逐1隻です」

 

「ん、わかった」

 

 提督は椅子に座ると窓から青空を眺めた。


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