艦娘のラブソング   作:メルクリ

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艦隊これくしょんとガンスリンガーガールのクロスオーバーになります。
作品の雰囲気はガンスリに次第に侵食されていく形になりますので鬱展開を事前にご理解ください。



※まだこのサイトに来てから日が浅いので何かありましたら細大関係なくご指摘ください


義体と艦娘
プロローグ「社会福祉公社」


――艦娘とはいかなるものか?

 

 少女の形をしている。

 深海棲艦と戦う兵器である。

 過去の艦船の名前を受け継ぐ。

 

 どれもが正しいが、これだけでは本質はまるで見えてこない。

 

 

 彼女達と出会い、笑い、泣き、飲み明かし、それでも生まれてくるのは彼女達への得体の知れぬ恐怖。

 艦娘の人並みはずれた力を恐れているのではない。彼女達が善き人間、いや、艦娘であることはよく理解している。力は使う側の問題であり、どれだけの力を有しているかを問題にしたがるのは後ろめたい人間の弱さに他ならない。

 

 怖いのは彼女達の行き着く先だ。

 表面的に人と同じようなものでも、やはり質が違う別モノだと理解している。なら今は同じ場所と時間で過ごそうと、いつかは違えるときが来るのだろうか。

 深海棲艦と戦い、人類を護るという目的はお互い変わらずいられるかもしれない。だが、目的が同じでもいつまでも隣にいられるとは限らないのだ。

 

 

 俺は彼女達が大好きだ。

 提督として誇りに思える部下であり、戦友であり、家族である。

 

 しかし、名は提督といえどもこれは艦娘を指揮するために特別に与えられた称号である。実質的な権力は持ち合わせていない。戦うための称号であり、艦娘に関する重要事項情報を閲覧する権限はない。

 所詮、俺も上層部の駒の一つである。

 

 彼女達が何者であるか、俺は知らない。

 彼女たちに聞いてもも自分たちの事をよくわかっていない。

 

 情だけが募る一方でいつまでこうしていられるのか、たまらなく不安になる。

 たとえ、俺が鎮守府を去っても彼女達が幸せならそれでいい。そうはならないよう努力はするつもりだが。

 俺がここを去れば、誰も彼女達を守ってくれないのが現実だろう。

 

 

 そして、いつからか俺は艦娘について独自に調べ始めた。

 軍部OB、政治家、ジャーナリストさまざまな伝を使い細かな情報を集める。一つ一つは些細なことやくだらない事だったりする。しかし、組み合わせていくと別の形が見えてくることもある。まあ、それでも多くはただの勘違いであるが。

 まるでピースが足りなかったり、余計なものが混じっていたりするパズルを解いているようだった。

 

 

 最近になって、おぼろげで推測の域を出ないが一つにつながりそうな糸を見つけ、手繰り寄せることにした。慎重に慎重を重ねて、しかし糸が途切れないように。

 

 そして、俺は一つの機関に辿り着く。

 

 

 そこは日本を越え、イタリアにある組織。表向きは社会福祉のための組織である「社会福祉公社」だった。

 

 イタリア政府による社会福祉のための組織と名前どおりであるが、実態は福祉を隠れ蓑にした対テロ組織だという。いや、事実かどうかはまだわからない。この手の噂をいちいち真に受けていられないだろう。

 二つ確かなのはこの組織の主目的が福祉ではないこと、「少女」を用いた何らかの実験をしているということだった。

 

 俺は駐日イタリア大使に接見を申し出た。ドイツ大使にビスマルク他2名の日本への移籍に感謝を述べたことがあったので、今回はイタリア政府にイタリアの艦娘への支援要請を願う、書類上はそういうことになっている。

 

 

 イタリア大使館に入る際、外務省から通訳の申し出があったが、大使は日本語が堪能ということで断った。大使側の通訳一人で事足りるだろう、と。日本側の出席は俺だけでいい。

 イタリア大使は気さくな人物で、日本の官僚のイメージとはかけ離れている。小太りな体型であるが質の良さそうなスーツを着ており、時計からカフスまで品の良いアイテムで揃えられ調和がとれている。

 

「支援の件、前向きなお返事ありがとうございます。しかし、地中海はいいのですか?」

 

「むしろ戦力をもて余し気味ですから」

 

 俺が調べた限りそれは考えられない。イタリアはいくつかの島を占領され、一進一退を繰り返しているはずだ。

 

 対深海棲艦の戦場は艦娘の独壇場であるが、その重要性は国により異なる。

 欧州のドイツであれば深海棲艦による海上封鎖は打撃とはなりにくい。陸路での輸送とパイプラインで何ら事足りるからだ。四方を海に囲まれ多くの資源を輸入するわが国とは艦娘への依存度が天と地ほどに違う。そのお国事情がビスマルクたちの移籍へと繋がった。

 イタリアはまた少し異なる。地理的には東西南が海に面し、北にはアルプス山脈。海上輸送は彼らにとってそれなりに重要だ。しかし、彼らが守るのは海岸線から沖合い数十キロ程度と、シチリアなどの観光地となる一部の島だけだ。

 深海棲艦をのさばらせた方が都合の良い部分もある、と考えるしかなかった。

 

 

「大使、正直に聞いてもいいでしょうか、なぜイタリアは深海棲艦との戦いに消極的なのですか?」

 

「それは語弊がありますね。深海棲艦には国境がないからですよ。地中海は多くの国が面する過敏な地域で、活動範囲には限界があります。あなた方のように太平洋の真ん中まで活動できる国のほうが珍しいのです。活動範囲も保有艦娘数の面でもね」

 

「周辺国が密になり連携を取るのも大事ではないでしょうか?」

 

「おっしゃりたいことはわかりますが、現実は保有戦力を他国にあてがうことを政治はヨシとはしません。我が国と貴国のように異なる海域を有しているなら話しは別ですがね。共通の利益と利害の一致は別物です。それに深海棲艦はまだまだ謎の生物。まあ発見当初こそがむしゃらに追い回しましたが、こうも終わりが見えませんとね。時間も経ち色々秤にかけますと、その存在をただ否定するのでなく、肯定も必要ではないかと思うのです」

 

「深海棲艦との共存ですか? 失礼を承知で聞きますが、宗教家との軋轢をこちらでも配慮したほうがいいでしょうか」

 

 イタリアといえば三大宗教の一つの総本山があり、どうしてもその影がちらついた。

 

「配慮は、ありがたいですね。ですが、いたずらに戦力を削られるよりも、防衛ラインの死守によってバランスを取ったほうがいざというとき困らないだろう、これはそういう話です」

 

「バランスですか……」

 

「ええ、周辺国との関係も同じくバランスです。もし、イタリアが近海の深海棲艦を駆逐した場合、逃げ出し寄り付かなくなった深海棲艦のしわ寄せが周辺国沿岸へ行かないとは言い切れないでしょう?」

 

「それは……」

 

 俺の言葉がつまるのを見てイタリア大使は満足そうに微笑んだ。

 

「まあ、その結果、貴国は支援を受けられるのですから悪い話ではないのでは?」

 

「むしろそれだとイタリア側のメリットが……」

 

「ドイツと同じですよ」

 

「は?」

 

「日本には恩を売っといたほうがいい。おそらく、世界中のどの国よりもね。おっとそれ以上は聞かないでください。理由はお教えできません。いじわるではなく、むしろ貴方を守るためだと、分かりますよね?」

 

 大使はわざとらしく大げさな身振り手振りを交える

 

 これで迂闊に話しかけられなくなってしまった。艦娘についての肝心な話はこれから切り出そうと思ってたのに。

 

「提督、貴方は人格者だ。艦娘からの信頼も厚い。深海棲艦との戦いでは人類の先頭を進む先駆者でもある。貴方の海域攻略の報告が各国で軍の教材として読まれているほどです」

 

 俺の顔写真や個人情報は機密のため公表はされないが、戦果や深海棲艦に関するレポートの多くは公表されていた。

 

「つまり日本政府とのパイプも勿論ですが、私達は貴方個人との付き合いも大事にしたい、そう思っているのです」

 

「私は一軍人です」

 

「ええ、今はね。しかし、日本政府や軍が貴方をいつまでも今のままにしとくとも思えません。そのときは私達がお役に立てると思いませんか?」

 

 これは、亡命の誘いだろうか。話にはよく聞くがまさか自分の身に起きるとは思ってもいなかった。

 艦娘からの人望が厚いと言われた。正直に言えば、そこのところに自信はないのだが、外部から見ればそう見えるのかもしれない。つまり、俺を一人引き入れれば多数の艦娘を引き入れることができると踏んでいるのか。

 

「過大評価ですよ」

 

「いえいえ、いや、今は、まだ、そうかもしれません。でしたら、――重要度の高い人物に私達がしてあげましょう」

 

「は?」

 

「貴方のここに来た本当の目的も合わせて教えて差し上げますよ。なあ、マルコー」

 

 大使の後ろにいたダークスーツの通訳が一歩前に出る。サングラスを外すと、手を差し出し握手を求めてきた。

 

「マルコーだ。これからよろしく」

 

 ガタイのよさから通訳兼ボディガードだろうとは思っていた。しかし、サングラスを外して現れたその目は薄暗く淀んでおり、多くの何かを憎んでいることを隠しもしない。威圧的なのに油断の欠片もない、職業軍人の自分とは違う本物の戦いのプロだった。

 

「あ、ああ、よろしく。……これから、とはどういうことでしょうか?」

 

 マルコーがふっと笑う。

 こいつ間抜けだな、そう思ったに違いない。

 

「彼は君の鎮守府でしばらく預かってもらいます。これが私たちの行う支援です。日本政府には打診済みで内々の調整は済んでまずから、今回の事はこちらの報告が先だっただけですな」

 

「彼を鎮守府に?」

 

 この男が艦娘の代わり? レスラーなみのガタイだが12㎝単装砲が持てるとは思えない。

 

「不満そうですね。やはり男一人の夢のハーレムに他の男を入れるのは許し難いですか?」

 

「そういうわけでは」

 本当はそういうわけなのだが。

 

「いやあ気持ちはわかります。いえ、男ならわかって当然です。でも大丈夫、彼はコブつきですから。それに宿舎は敷地内に別建てさせてもらうつもりです」

 

「コブ?」

 

 俺、さっきから聞き返してばかりだな。完全に相手のペースに飲み込まれてる。

 

「アンジェリカ、出てこい」

 

 マルコーが部屋の隅に向かってそう言った。するとカーテンの裏から一人の少女が現れる。そのまま俺の視線から逃げるようにマルコーの後ろに隠れてしまった。

 黒い髪の華奢な少女、陽炎型と同じくらいの背格好だろうか、雰囲気は初風と潮を足して2で割った印象。

 俺が目でアンジェリカを追いかけていたのはやましい意味ではなく、その手に持っていた自動小銃が原因だ。

 

「……あの娘は?」

 

「マルコーのフラテッロ。ああ、フラテッロは兄妹、という意味です」

 

 少女を使った実験をしているという噂は、事実か。

 

「君にわかるように言えば、艦娘の3代前のプロトタイプといったところか」

 

 

 その言葉を聴いた瞬間、全身が総毛立つほど嫌な予感がする。

 

 彼らを鎮守府に入れることは、その存在を艦娘たちに知られることは危険だ。

 心の中の何かが激しく警鐘を鳴らし続けている。

 

「こいつは深海棲艦と接触前の対人用で義体と呼ばれている。主にテロリスト相手に使われていた」

 

「対人、ですって」

 

 少女の形をした対人兵器? 対人、違う。殺人用だろ。

 こいつら頭がイカれてる。

 ……いや、艦娘を戦わせてる俺も同類か。

 

「なんならためしに俺に攻撃してみるといい。俺は一切なにもしない。だが、次の瞬間にお前は死んでるだろう。良くて腕と脚の骨が折れて、全治3カ月だな」

 

 ごくりと大きく唾を飲み込む。

 小動物のようにこちらを見上げるアンジェリカ。ただその手の銃口の先は俺から外れることはない。

 艦娘の力を間近で見てきたからこそ、見た目でこの少女を測れないことは理解できている。

 

「お前は公社について知りたくて来たんだろう? 親切にも教えてやったんだ、何か言ったらどうだ?」

 

 マルコーのまったく心のこもってない言葉に睨み返すことしかできなかった。

 

「……私の本当の目的は確かに社会福祉公社についてです。しかし、この二人を鎮守府に招くわけにはいきません」

 

「さっきも言ったろう、これは日本政府の決定でもある」

 

「馬鹿な」

 

「事情が少し変わるんですよ。対深海棲艦の戦いが次のステップに移るのです」

 

「つまりだな、これまでが深海棲艦を撃退して制海権の確保、これからは敵の上陸を許し基地になってる島を奪還する攻勢に入るんだよ。そうなると陸地で戦える艦娘が必要だろう?」

 

 いつかは敵の基地を攻撃することもあるのだろうとは考えていた。しかし、その手段までは思考を閉ざしていた。

 

「それともちろんフラテッロ1組では戦力不足ですので後日人員を増加します。彼らとも仲良くしてあげてくださいね」

 

 1組目で心がもげそうになるのにさらに増えるらしい。

 

 さっきからやられてばかりだ。彼らの話が本当なら鎮守府に来ることを止めるのは難しい。だが、鎮守府内でのイニシアチヴを取られるのだけは避けたかった。

 

「事情はわかりました。しかし、一つ疑問が残ります」

 

「何だ?」

 

「艦娘の3代前の対人用ということですが深海棲艦とまともに戦えるのですか? 私を殺せても何の証明にはなりませんよ」

 

 マルコーが不快そうな表情を浮かべた。それが初めてみた変化だった。

 

「気にするな、どうせ消耗品だ」

 

「は?」

 

 返ってきた答えに耳を疑う。

 

「能力不足以前の欠陥があってな。艦娘と違ってそれほど長持ちするもんじゃない。だから突っ込ませてデータとって次に生かすのさ」

 

 不愉快極まりない言葉。

 こんなやつと一緒に仕事しろ? 無理だ。こいつがどこかで罪悪感を持っていたとしても、どんな地獄を目にしてきたとしても、今の言葉を俺に聞かせたことは許せない。

 

「あんた兄貴だろ、それでいいのか」

 

「ごっこだ。勘違いするな」

 

 マルコーはイラつきながら詰め寄った俺を押し返す。

 異様なのは何も変わることなくほほ笑むアンジェリカだった。

 

「まあまあ提督さん、その辺で」

 

 大使の一言で二人が同時に顔を向ける。

 

「提督さん、一つだけ理解してください。私たちも辛いのです。でも、あなたの艦娘たちの強さと健全さはこのアンジェリカたち義体の少女から得られたものなのです。無駄じゃないんです、それ以上を言うのも願うのもやめませんか?」

 

 心にもない嘘をつくなコノヤロウ、言うのは止めたが軽蔑の視線を送るのはやめなかった。

 

 

 

 

 

 それから俺は一言も発することなくイタリア大使館を後にした。

 艦娘の正体はもう知りたいとおもわなくなっていた。義体の存在を知ればあとは胸糞悪くなるだけだと馬鹿でもわかる。

 

 鎮守府に帰ると明るく振舞った。自分でも少し無理をしているなと思ったがこれからのことを考えると頭が痛くて仕方なかったのだ。

 執務室に戻ると秘書艦の加賀が留守の間の報告をしてくれる。

 

「以上になります。それと風呂場で潜る潜水艦への苦情がたくさん来ています」

 

「今度潜ったら俺が直接風呂場に乗り込んで怒るって言っとけ」

 

「最低ですね」

 

「しかし、効果的だ」

 

「いえ、より心に傷を負った犠牲者が増えるだけです」

 

「やましい気持ちはない」

 

「提督の視線はいやらしいのでダメです。そんな話を言ったら、きっと潮や羽黒はお風呂に入るのを嫌がるようになりますよ」

 

「それはよくないな。なら、俺が力づくで一緒に入ってやればいい、責任は取るさ」

 

「……潜水艦の件は次に潜ったらオリョクル50周と伝えておきます」

 

「……うん、じゃあ、それで」

 

 優秀な秘書艦は頼りになるね。

 

「ところで今日は何かありましたか、様子がおかしいように見受けられます」

 

 本当に、優秀だこと。

 

「う~ん、どの辺がおかしい?」

 

「私にセクハラをしないあたりですかね」

 

「そこ!?」

 

「他になにか?」

 

「いや、元気ないなあとか、無理して笑ってるんじゃないかなあ、とか?」

 

「無理して笑ってらっしゃったんですか、それは気づきませんでした。興味ありませんから」

 

「……俺ってやっぱり人望ないよなあ」

 

「つまりイタリアの艦娘派遣要請は断られたのですね」

 

 頭の回転が本当に早い。事実ではないが確かに俺の話をつなぎ合わせればそういう結論に至るだろう。

 

「半分正解。そもそも頭から半分不正解なんだけどね」

 

 艦娘じゃないのが来るから半分正解。

 艦娘の支援要請は建前だったから半分不正解。

 

「そうですか」

 

 本当に興味が無いのか、煙に巻いたことを気遣ったのかわからないが、加賀は素っ気なくそれだけ言って会話は終わった。

 




少し暗めの長編になるかもしれませんが、もし琴線に触れるところがありましたらお付き合いくださるとうれしいです。
ただ暗いだけの作品も苦手なので最後の加賀さんとの会話のようなものをはさみながらいくつもりです

※あと実はもう一作取り入れ、3作品のクロスオーバーの予定です。
 出番はしばらくないですし、その時になって気が変わることもあるので予防線として今は伏せさせていただきます。
 ただ、このプロローグの段階で伏線は張ってしまったのでそこまで続けば出す可能性は高いと思います。

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