やっと本編に戻れます!
俺、比企谷 八幡は司波の言った壬生先輩の剣技が変わっただのなんだのという話を参考にエリカを始めとしたそっち方面に詳しい人に聞きまわりある真実に気が付いた。
壬生先輩の剣技が変わった正確な時期は高校入学から数日たってから、当時の剣道部顧問によるとある日突然苦虫をつぶしたような表情で鬼気迫る勢いで剣を振るっていたらしい
入学したてで2科生という事もあり何らかのやるせない事情でもあったのだろうと静観していたらいつの間にかそうなっていたけど、まあ、剣道の腕自体は上がっているしいいかと放置していたそうだ
さらに、当時から部に所属はしてないもののその剣の腕は有名だったという渡辺委員長にそれとなく聞いてみたら壬生先輩が変わったという日から2日ほど前に手合せを申し込まれたが
魔法なしでの私では練習相手にならないからもっと自分の実力に合った人とやったほうがいいと断ったそうだ
そして以前壬生先輩が言っていた、入学当初に2科生という事で私の剣を否定されたという証言
これらをもとに考えると
これって壬生先輩の被害妄想なんじゃねーの?という結論に至った
いや、ありえないと思うかもしれないがこれ以外に壬生先輩の周りで何か起こったとかなかったし壬生先輩の2科生だからって自分を否定したってのがたぶん委員長の事だろ?
これだけ聞くと壬生先輩の一人相撲なのだが忘れてはいけない事がある。それは壬生先輩と渡辺委員長が女子という事だ
ここで一つ中学時代の話をしてやろう。
その日俺は珍しい事に女子2人と朝から話をした。内容は特に中身がないようなもので俺自身何を言ったか今では覚えてないくらいの極普通の会話だった
その日の放課後、俺は忘れ物をしていつもは帰ってる時間に教室に戻ってきた。そうしたら中からあの2人の声が聞こえ
「つ~か比企谷、絶対カヨッチに気があるじゃん」
「ちょっとやめてよ~そういうの」
「だって朝だってカヨッチの事しきりにかわいいとか言ってたし」
「‥‥ほんとにやめてよ・・・」
その次の日なぜか俺はただ一人黒板の前に立たされ、その周りを同級生がぐるぐると囲み「しゃーざーい、しゃーざーい」と手拍子とともにシュプレヒコールを上げたあの地獄が発生した。
言っとくが俺がカヨッチにむかって可愛いなどと言葉を言ったことなんてないからな?
だから、そんな涙目で睨むなよカヨッチ‥‥あれは本当にきつかった。後にも先にも学校で泣いたのはあれだけっだた。
何が言いたいかというとだな、女子が2人で話をしてると過去に起きた出来事が良くも悪くも改変され、あたかもそれが本当にあった事のようになる。
だからあれだろ、これも壬生先輩と委員長の間で話が美化やら劣化やらしたんだろどうせ
そうとわかれば話は早い‥‥こじれてしまった人間関係を引きずっているならそんなもん捨てて新しい関係を作ってしまえばいい
そして今、俺は桐原先輩と対峙している。
その理由は、壬生先輩と関わる人間でちょうどいい人を探してるからだ。条件としては同じ学校で同級生か下級生、先輩と話があう・・・というか強い奴か剣が武道でもやってればいいだろう。
以上から条件にヒットする俺の知ってる奴らが、司波、エリカ、レオ、森、そして桐原先輩
風紀委員に所属してるメンバーは無論のこと除外されるので司波がアウト
エリカは特に問題はなが、俺があいつの事を苦手にしてるからできるだけ話したくないので後回し、レオは知り合いだがぶっちゃけよく知らんので保留
森は問題外なのでアウト。理由、そんなの必要か?
そんで今、桐原先輩だ。この人も以前もめ事を起こしてるけど壬生先輩の方が気にしてないので大丈夫
ちょっかいを出してきたんなら、壬生先輩の事をよく思っていないのではとも思えるがそもそも嫌いなら関わりすらしないだろう。好きの反対は嫌いではなく無関心である
何より部活の時間帯に壬生先輩の話を持ち出しただけでついて来た時点で問題はない
どうせあれだろ、小学生がやる好きな子にちょっかい出すガキ大将かなんかなんだろ
「おい、どういうことか詳しく話せ」
どうやらビンゴのようで先ほどの一言で明らかに雰囲気が変わった。どういう意味かは分からんがこの人が壬生先輩に好意を持っているのは明らかだ
「謹慎中なので知らないと思いますが、剣術部のごたごたの後に司波が魔法による奇襲を幾度か受けましてね。調べて見た所その主犯は剣道部にいるらしいんです」
「で、そいつと壬生先輩は学校外でなにやら怪しげな連中と行動を共にしているんです」
「おい、ちょっと待て!なんか割とヤバい事を平然といってねーか?」
「まあ、やばい感じのやつらとつるんでるんで常識的にやばいでしょうね」
「そっちもだけど、司波が魔法使われたってッ」
多くの場合、桐原と言う人間は誤解されがちだが彼は割と模範的な生徒であり、剣という凶器を普段から使っている事で武力をもつ者としての意識をしっかりと持っている。それゆえ、魔法そのものに関する取り扱いもしっかりしている
軍人の息子なのでそれ相応な事がない限り校則違反などは侵さないし、そんな事を平然とやる人間に対し怒りを覚える事も多い
特に人の評価基準が強さである彼にとり正面からかなわないからと言い後ろから攻撃するような奴らは万死に値する
どこぞの自分のちんけなプライドを守るために入学早々に問題を起こした奴とは違うのだ
「…まあ、なんやかんやで実質的な被害はないんで、それにどれもこれも殺傷性Bランクの魔法よりは危険じゃないんで」
「グッ・・痛いところを・・・」
と言っても今回の事でいうなら彼もそんな奴らとたいして変わらないのが現状だ。
いくらその理由が、自分の気に入った剣技がいつの間にか歪にゆがんでしまったという強さの信奉者的に一大事であろうとも結果は同じである
「話を戻しますが、どうやらそいつらと壬生先輩の付き合いは1年のころかららしいです」
「1年‥‥」
彼女の剣技が急激に変わってしまったのも彼女が1年の頃からである。ここまでの流れからそれらには関連性があるというのは明白だ
頭の中ではそいつらと壬生の関連性やら、壬生の剣を汚染した奴らなのではという疑問が渦巻く桐原であったが、そんな時目の前の男は桐原に分からない程度に口元を釣り上げる
その顔はまさに餌に食いついた得物を見るような顔だ
そして、おもむろに彼は語り始める
「しかし、困った事になりましてねー」
「あん?」
「いやですね?実はこの事実は今のとこを俺しか知らないですが、どうやらそいつら近いうちに一校に何かを仕掛けるつもりみたいなんですよ」
「なっ!?」
「多かれ少なかれ被害が出てしまう可能性があるので、学校側に報告しないといけないと思うんですが‥‥そうすると、関わっていた一校の生徒にも罰があるのは当然ですよね?停学・・・いいやもしかすると退学になる可能性も少なくはないですよね?」
その言葉に反応するように桐原は八幡の胸倉を勢いよくつかむ
「てめぇ‥‥」
「別におかしな話じゃないでしょ?学園の風紀を乱そうとしてる奴らにはそれなりの罰則があるのは普通だし、風紀委員がそんな連中を取り締まるのに何か問題でも?」
確かに言っている事は極々普通であり真っ当な意見だ。自分もそうだったように過ちにペナルティーが付くのは当り前だし、桐原も頭の中ではもちろん分かっている。
‥‥その相手は自分が羨望し尊敬し憧れた惚れた女だ。抑えられない感情が出てしまっても仕方がないだろう。
しかし、現状から桐原自身にできる事なんてあるだろうか?
あるかも知れないが、それはあくまで一高校生ができる範囲であり多少腕が立っても大人数相手にヒーローのように学校全体を守るなんて事できるはずがない
なら事前に学校側に報告すればいい、そうすれば少なくとも万全の状態で事に当たれるだろう。
でも、そうすると壬生はどうなる
唯でさえ強さに固執した今の彼女がもし退学になんてなったら‥‥?今度こそ彼女の剣は死んでしまうかもしれない。あんなにきれいな『強さ』が死んでしまう‥‥そんなこと認められるわけがない
だが、自分にできる事なんてごくわずか、故に桐原は八幡の言葉にこたえる事ができない
胸倉をつかむ手は先ほどよりも力強く、その表情は自分の無力さとやるせなさから酷く歪んでいる。
でも、何も言うことができな
しばらくの間沈黙をつきとおしてる桐原に向かい、八幡はまるであざ笑うかのように言い放つ
「しっかし壬生先輩も馬鹿ですよね。せっかく剣道で強いのにそんな奴らと関わった挙句退学なんて、いやまだ退学と決まったわけではないですけどね」
「‥‥ろ‥‥」
「まあ、それもこれも自分でまいた種なんで同情の余地があるわけじゃないけど人生を棒に振ってまで何がしたいやら‥‥理解できないなー」
「や‥‥ろ‥‥」
「剣道もなんか随分と無様に変わったそうじゃないですか、まあ、俺は剣道とか知りませんけどーそれとも元から大したことなかったんですかね」
「やめろ‥‥」
「剣術小町だのとちやほやされても所詮はその程度って―――」
「やめろって言ってんだろ!この野郎がぁぁぁ――ッ!!」
咆哮と共に右拳で力いっぱい殴りつけると、八幡は机や椅子を倒しながら吹っ飛ぶ
倒れている八幡に馬乗りになり今度は両の手で胸倉をつかみ顔の目前に引っ張り上げる
「てめーに壬生の何が分かるって言うんだ!あいつはな、あいつの剣技はそんな安いもんじゃねーンだよッ何も知らねーくせに好き勝手言ってんじゃねー!!」
八幡は殴られる寸前に魔法による防御と衝撃の軽減を行っていたので実際にダメージは少ないが、痛い物は痛いので顔を顰め目の前で鼻息を荒くする鬼のような桐原に内心ビクつきながら平然を装い言う
「ッハ‥‥それじゃあそういう先輩はなんなんですか?壬生先輩が変わるまで異変に気が付かず、終いには一方的に喧嘩を売って、今度は何もせずただ見てるだけですか?」
「知ろうが知るまいが、何も行動できないんじゃ変わらねーンすよ。守ることも救うこともできずに何もせず吠えてるだけなら犬にでもできる」
「‥‥‥‥上等だ、ならやってやらー」
「学校の事なんざ知るか!誰も守れなくても誰かに被害が出ようとも知らん!すべてを捨ててでも惚れた女一人のためになんだってやってやるよ!」
今度は桐原にも分かるくらいに口元を引き上げる八幡
「その言葉に二言はないですね?」
それに肩で息をしながら目を見開き答える桐原
「ああ!桐原 武明の17年間の人生にかけて嘘偽りはねー!あいつの事は俺に全部任せろ!」
~~~~~~回想終了~~~~~~~~~
資料室に連なる廊下の中、桐原と壬生はお互いに構えたまま対峙している
「随分なものいいね」
「事実だろ?それともお前は今自分がやろうとしてることが、どういうことか分かってねーのか?」
「ッ・・・」
「壬生、俺は全力でお前を止める。別に悪い事してるからとか一校生だからとかって理由じゃねー‥‥俺は今のお前が気に入らねーだから止める。例え今あるお前の思いをぶっ壊してもだ」
そういうと桐原は自分の持っている竹刀とは別の刀を壬生の足元に投げ渡す
それに壬生は一瞬目をやり嫌疑な顔つきで桐原に問いかける
「どういうつもり‥‥‥?」
「いったろ?お前を止めるって‥‥俺達は剣士だ。なら剣士を止めるには剣を用いる。本気でかかってこいよ壬生‥‥魔法は使わねー、純粋な剣技のみでお前をブッ飛ばす」