どうやら俺は須川君に憑依したようだ   作:葬炎

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〜第四問〜 後半

「須川」

 

「ん? どうしたの島田さん」

 

 

早く放送室に行って情報を流すために走っていると、横に島田さんが並んできた。はて、雄二から追加で指令でもきたのだろうか?

 

 

「なンか面白そうなことやるみてェじゃねェか。俺にも一枚噛ませろ」

 

「なんだ、そのことか」

 

 

納得いった。どうやら島田さんは偽情報を流すことを手伝いたいそうだ。ニヤニヤしている島田さんを見て『ああ、明久って(いじられキャラとして)好かれてるんだなあ』と俺はほっこりした気持ちになった。そういうキャラって大切だよね。一度社会人を経験した者からすると切にそう思う。

俺は雄二に言われた偽情報の内容を思い出しつつ、島田さんに了承の意を伝える。

 

 

「いいよ。と言っても情報の内容は決まってるし、特にいじるとこもないけど」

 

「あン? もう決まってンのか。まァいい」

 

 

と、ゴチャゴチャ話している間に放送室の前についた。まぁ話しながら走ってればすぐ着くか。

俺は放送室の中に入り、放送の準備をする。えーと、たしかこのスイッチ押すと放送開始だったよな?

 

 

「ちっ、つまンねえな」

 

「んー、じゃあ明久の代わりに島田さんが犠牲になる?」

 

「はン! 誰がンなことするか」

 

 

音量、場所、OK。よし、放送するか。

 

 

「......あァ、イイこと思いついた。須川ァ、ちょっと手伝え」

 

「ん?」

 

 

島田さんの満面の笑み。どうやらなにか思いついたようだ。

まぁ、とりあえず言うことを聞いてみましょうかねえ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「......もうそろそろか」

 

 

俺はFクラス教室で放送が始まるのを待っていた。

くくく、あの放送が流れた後の明久の反応が楽しみでしょうがない。あいつは本当にいい反応してくれるから、いじるこちらとしてはとてもありがたい。

 

 

ーー ピンポンパンポーン ーー

 

《連絡致します》

 

 

お、始まるか。

 

 

《船越先生、船越先生》

 

 

さて、明久はどうやってこの苦境をくぐり抜けるかなーー

 

 

《坂本雄二君が校舎裏で待っています》

 

 

ーーはぁ?

 

 

《生徒と教師の垣根を越えた、男と女の大事な話があるそうです》

 

 

......す、

 

 

「須川ぁぁぁぁぁ! あのやろぉぉぉぉぉ!」

 

 

俺はどこへもなく走り出す。なにがなんでも言い訳を考えつくまで帰るわけにはいかない。特にアイツに見つかった瞬間、俺の人生がーー

 

 

「..........雄二、今の放送は、なに?」

 

「うぉぉぉ!? 反応早すぎるだろお!」

 

 

翔子が出入り口に現れた!

それを見た瞬間、俺は体を反転させて窓に向かって走り出す。このくらいの高さならーー

 

 

「はぁっ!」

 

ダン!

 

「待って雄二、ただ事情聞くだけだから。聞いた後寝ている間に書類をつくらせてもらうだけだから」

 

タッ

 

 

俺は自由を求めて駆け抜ける。

ちくしょおおお! どうやって切り抜けりゃいいんだああああ!

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「.....雄二、大丈夫かな?」

 

「大丈夫だろ。あンの馬鹿なら船越教論に対する言い訳ぐらい」

 

「いや、俺が気にしてるのは船越先生じゃなくてーーまぁいっか」

 

 

まぁ、言っても島田さんじゃわからないだろうから言わなくていいか。

 

 

「? まァいい、言われたこたァやったンだ。Fクラスに戻るぞ」

 

「そうだな。......冥福を祈る」

 

 

胸の前で十字を切った後、Fクラスに向かって歩く。雄二はいつになったら帰ってこれるかなー。

おっさんはああいう重い想いはあまり好きじゃないかな〜。ほどよく距離があってほどよく近い、双方が心地よい距離感がいい。あまり近すぎると問題が起きたときに大変なことになるしな。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「お、帰ってきたのじゃ」

 

「ああ、秀吉。戦場は今どんな感じだ?」

 

 

Fクラスに入ると秀吉が出迎えてくれた。教室にいるってことは点数の補充が終わったのかな?

 

 

「今から明久たちの援護に行くときじゃぞい。お主らも来るか?」

 

「そうだな。ついていこう」

 

「あァ。偽情報を流しても負けたンなら意味ねェからな」

 

 

点数補充が終わった部隊に俺と島田さんが合流する。あっ、

 

 

「そういや、雄二は?」

 

「そういや見とらんのお。儂が部屋に来たときにはもういなかったのじゃ。まさか、敵方の仕業!?」

 

「ああ、大丈夫。だいたい予想ついてる」

 

 

やはり襲撃されたようだ。しかしあの情報は島田さんの考えたものだから俺のせいじゃない。

と、雄二がいないなら俺が代わりに司令塔すればいいか。まぁ、雄二の考えてることはだいたいわかるし。

 

 

「よし、じゃあ行くぞ!」

 

「行くぞい!」

 

『『『『『おおーーーー!』』』』』

 

 

気合十分、明久のいるであろう場所に向かう。

さて、イレギュラーなことが起こってなけりゃいいがーー

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「明久!」

 

「あ、来てくれたんだね須川君!」

 

 

戦場の近くについた。明久たちの部隊は今にも壊滅しそうで、すぐに援護しなければならない。しかし明久のいる場所まではまだ時間がかかる。

 

 

「くっ、明久! まだもっていろ!」

 

「ええ!? くそっ、ならーーーーああっ! 霧島さんと根元さんがイチャイチャしてる!

 

『『『『『なにぃ!?』』』』』

 

「はぁ?」

 

 

明久が意味のわからないことを言う。なにを言ってるやらーー

 

 

『..........ねえ、恭子』

 

『なんです? 翔子さん』

 

『..........またいっしょに《彼氏の縛り付け方百選》について議論したい』

 

『ええ、いいですよ。あと《黒魔術大全》もいっしょにしてしまいましょう』

 

 

ーーいた。しかも危ない話ししている。そして翔子さんの足元に見える白い布の塊はーー

いや、雄二がそんな簡単に捕まるはずがない。あれはきっとただの抱き枕かなんかだ。

 

 

『..........あと、雄二捕まえてくれてありがとう』

 

『いえいえ、目の前を通りかかったのでつい手が出てしまっただけですよ。気にしないでください』

 

 

どうやら雄二は人生終了のようだ。俺にはどうしようもない。

さて、切り替えていこう。雄二が死んだ今Fクラスを仕切るのは俺だろう。島田さんでもいいが、本人がやる気ないし、他のやつらは全体的に頭が足りない。

 

 

「よし、切り抜けたああああ!」

 

「......ん?」

 

 

どうやら俺が二人の会話に気をとられている間に明久がこっちに向かって走ってくる。明久の通ったであろう道には割れた窓に、消化器をぶちまけたような白い粉がもくもくとーー本気でやりやがったな明久。後で島田さんに殺されないか....? あ、いや島田さん以外を生贄にしてる可能性もあるか。俺だった場合はーーまぁ、ふふふふふふふふ。

 

 

「よし、止めだ!」

 

ブン! ガシャン! ブシャアアァァァ

 

「あーあ......」

 

「中々派手にやったなァ」

 

「うーむ、退学になったりとかは大丈夫なのかのぅ?」

 

 

明久はなにか投げてスプリンクラーを発動させた。いいのかな....?

と、今はそのことを気にしてる場合じゃないな。明久の手助けに行かねば。

 

 

「近藤君、GO!」

 

『了解!』

 

 

俺の指示に従い特攻していく近藤君。さて、これでいいかな。

 

 

『くっ、ここは退くぞ! 全員遅れるな!』

 

「深追いは駄目だ!俺たちも明久たちを回収したら退くぞ」

 

 

予想通りDクラスが撤退してこちらも退く。とりあえずここまでは雄二の計画通りかな。

俺たちは荒廃とした戦場をあとにしてFクラス教室へ戻る。さて、次はーー

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「明久、お疲れ様」

 

「お疲れなのじゃ」

 

「ありがと。須川君、秀吉」

 

 

Fクラスについた俺はまず明久を褒める。前線を維持できたのは明久のおかげだからな。

よし、点数の減った者は補充テストに行ったか。俺は......まだ、だな。もっと後に本気の点数補充をしよう。

 

 

「それより、放送聞いた?」

 

「聞いた、というか流したの俺だしな」

 

「あ、そうだったね。って、雄二を生贄にしたのは須川君?」

 

「いや、島田さんだ。俺は言われた通りに流しただけ。ちなみに雄二に指示されたのは『明久を生贄にしろ』だ」

 

「雄二ぃぃぃぃ!」

 

 

明久の叫び声がFクラス中に響き渡る。

まぁ、生贄にされるとこだったんだからしょうがないだろう。

 

 

「まぁまぁ、落ち着け。雄二はその罰にとある人に捕獲されてどこぞへ連れて行かれたから」

 

「ん? ああ、そういや雄二がいないね。僕の伝説の右の拳がうなるとこだったんだけど、しょうがない。今回だけは見逃してやろう」

 

「よし、じゃあ詰めに行くぞ!」

 

 

明久と話している間に補充テストは終わったようだ。ぞろぞろと皆が立ち上がりこちらに集まる。

 

 

「よし、いいか皆!これからDクラス首級の首を獲りに行く! 雄二の代行は俺が先生に許可をもらってきた! 遠慮なくやるがいい!」

 

『『『『『おおーーーー!』』』』』

 

 

さて、出陣だ。

先生への許可は放送室から教室に帰る間ににちょろっともらってきた。『雄二は止むを得ない事情で早退したので代わりに私が代表をします』と。あの放送を流した時点で雄二が今日、少なくとも試召戦争中は復帰できないことがわかってたからね。

俺は代表代行の腕章を腕につけ、皆といっしょに走り出す。さぁ、行くか!

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「下校している人にうまく溶け込んで! 取り囲んで多対一の状況で作るんだ!」

 

『よし! じゃあお前はそっちから回り込め! 俺は下がって応援してよう!』

 

『わかった! ならお前はその後ろにいる敵の大群に突っ込んでくれ! この場は俺に任せろ!』

 

『てめっ! 楽なほう取りやがったなあああ!』

 

 

なんとも頭の痛くなる会話が戦場から聞こえてくる。

これで大丈夫だろうか......

 

 

『Dクラス塚本、打ち取ったりぃぃぃ!』

 

 

やけにハイテンションな声があがる。おお、塚本君を打ち取ったか。

塚本君はDクラス前線の隊長で、なかなか手を焼かされた人である。

 

 

「よし、これならーー」

 

『援護にきたぞ! 大丈夫だ! 皆、取り囲まれないように周囲を注意しろ!』

 

 

くっ、どうやらDクラス代表の平賀君が出張ってきたようだ。予想より少し早い......!

まだもうちょっと人数を削っておきたかったとこだが、しょうがない。一気に畳み掛けるしかないだろう。

 

 

『本隊半分は今Fクラス代表の代行をしているらしいヤツを打ち取りに行け! 他のメンバーは取り囲まれてるやつを助けるんだ!』

 

『『『おおー!』』』

 

 

っ!!

平賀君の号令のもと、Dクラスが動き始める。Fクラスはあっという間に取り囲まれ、壊滅するのも時間の問題だろう。これは早くしないとまずいか....!

 

 

『見つけた!』

 

『こいつが代表代行だ! 取り囲め!』

 

 

見つかったか。まぁ、俺にはFクラス本隊が周りにいる。まだ時間が持つだろう。

さて、早く決めないとヤバイことにーー

 

 

『ふっ、残念だったねFクラスの君ーー』

 

『いや、作戦は成功ーー』

 

 

かすかに聞こえてきたその声。どうやら大丈夫、かな。

俺は体を脱力させて、戦後対談について考える。よし、これでいいか。

 

 

 

『Dクラス代表、平賀君。打ち取りました!』

 

 

戦場に響き渡る姫路君の声。さて、後はおじさんの仕事だぞっと。

 

俺は膝から崩れ落ちているDクラスの生徒を尻目に平賀君のもとへ歩き出す。さて、雄二はいつ帰ってこれるかなーー


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