食戟のジャン   作:どるき

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久々にネタを思いついたからの更新です。
じゃぱんは久々に思い出しながら書いたのでキャラが崩れていそうです。


第十三話「やきたて25裏勝負」

 とあるテレビ番組制作会社の会議室。ここではある料理番組の企画が行われていた。

 

「それで、今回の対戦相手はどうしましょうか?」

「そうだな……お、こいつは確か……」

「ああ、彼ですか。先日の第一回中華料理人選手権でも目立っていた彼ですね。まさか応募してくるとは思っていませんでしたが」

「いいじゃないか。よし、こいつにしよう。テーマも中華、これでいいだろう」

 

 企画会議が終わると早速スタッフは彼のもとに参加以来の手紙を送った。

 彼とは当然ながら秋山醤、参加理由は「なんとなく気に食わないから」だった。

 

――――

 

 試合当日、会場に訪れたのはジャンの友人と黒髪の女性だった。

 この女性の正体はジャンであり、事前にジャンは番組にある条件を提示していた。

 

「一つだけ条件がある。当日は女装して『秋山ゆかり』として出場させてもらう。あと勝負はその場で発表して準備期間なしの一発勝負。それがダメなら他を当たりな」

「いったいどうして?」

「どうしたじゃねえぜ。応募した時と状況が違ってな、今番組に出たのがバレると面倒なんだよ」

「でもそれだと困りますよ。こっちはあの『秋山ジャン』だからでキミに依頼したんですよ。匿名のお嬢さんじゃネームバリューが……」

「その辺はテメーがなんとかしろよ。例えば遠月学園から来たとか言えばいいだろ」

「遠月学園……って、あの?」

「そうだよ」

「さすがに経歴詐称はマズいですって」

「マズかねえさ。一応俺もあそこの生徒だしな」

 

 ジャンの無理強いの結果、やっとこさで女装での出場を認めさせた。

 相方として選んだのは美作昴。選んだ理由は実力もさることながらこういうときに役立ちそうだと思ったからだった。

 小此木との出場も考えたが流石に小此木も一緒ではバレそうだと思い彼を選んだ。

 

「おう秋山。相手は誰が来るだろうな」

「東でも冠でも構わねえぜ」

 

 二人がこれから挑む番組は「やきたて25」というパネルクイズ番組をパクったものだった。

 毎回ベーカリーグループのパンタジアチームと公募で選ばれたゲストチームが戦って勝敗でパネルを奪い合うという趣旨である。

 番組の裏にはいろいろ内政じみた都合があるがジャンにも美作にも関係のないことである。

 

「それではお待たせした! 今回のテーマの発表だ。なお今回は挑戦者側の要望でこの場で作って審査させてもらう。くれぐれもヘマはするなよ」

 

 司会進行兼審査員の黒柳亮のコールとともにジャン・美作の遠月学園チーム、東・冠・河内のパンタジアチームが入場してテーマが発表された。

 課題は『中華』当然ながらジャンの素性を知っている番組側がジャンを有利にしようと考えたテーマである。ジャンからすれば余計なお世話だが。

 

「中華かあ……でも中華なんて作ったことないぞ?」

「ワイが何とかしてやるで」

「いえ、ここは僕に任せてください。こう見えて昔中国で修業したことがありますからね。一通りはできますよ」

 

 初めての中華に困惑するパンタジアチームだったが一人だけ中華の経験があると意気込む冠が自信満々に二人を先導した。

 だが彼の態度をみてジャンはかみつく。もとよりこの番組に応募した理由の一つがこの冠とリーダー的存在の東が気に食わなかったからだ。

 まして中国で修業しただなどととてもそうは見えない優男が言い放つのだからカンに触っても仕方がない。

 

「おい! 本当に中国で修業なんかしたのか? とてもそうは見えないぜ」

「キミは今回の相手の秋山さん。初めまして、冠です」

「挨拶はいいぜ。それよりちょっと習った程度でお……私に勝とうなんて百年早いぜ」

「お? いまコイツ『俺』って言いかけなかったか?」

「僕っ娘とかいうやつじゃろ」

 

 ジャンはつい俺と言いかける。そこに河内だけは不穏に思うがほかの二人は気にしない。

 

「こう見えても僕は中国でも有数の実力者、桃明輝さんのもとで一年修業させてもらいましたので。中華が得意のようですがしょせんは学生のキミには早々負けませんよ」

「そうか。せいぜいババアに恥をかかせるなよ」

 

 ババアの元でか、だが一年程度で知ったつもりになるなよ。

 ジャンはそう思いながら挨拶を済ませてブースに戻った。これがジャンにとっての挨拶である。

 

「それじゃあ秋山。中華でパンって課題だが何で行く?」

「そうだな。点心じゃあ簡単すぎて詰まらねえし、なによりありきたりすぎると判断されかねねえ。今回は総菜パンで行くぜ」

「なるほど。中華の(ピン)に料理を合わせて総菜パン仕立てにするわけか」

「そういうことだ。とりあえず俺は具の支度をするから、テメーはパンの準備をしてくれ。老麺なら用意してあるからこれを使え」

「任せろ」

 

 ブースに戻ったジャンはさっそく調理を開始した。

 ジャンは伊勢えびを裁いて一口大の切り身にする。さらに殻は煮立てて出汁を取りトマトと赤唐辛子をベースにしたタレのベースとする。

 見るからにわかりやすい伊勢えびのエビチリである。

 

「彼らはエビチリを使ったパンみたいですね」

「だったらワイらは北京ダックにしようや」

「バカですね河内さん。前準備もなしに北京ダックなんて作れませんよ。本職の中華の名人ならまだしも、僕だって経験があるとはいえ名人って程じゃないですから。事前準備さえあれば何とか出来たんですが、これは向こうの作戦勝ちですね。こうなれば僕も切り札をつかいますよ。向こうで大絶賛を受けた改良型黄金饅頭で」

 

 遅れてパンタジアチームを調理を開始して半日が経過しついに試食の時間となった。

 ジャンが作ったのは白いパン、冠が作ったのは黄金色のパンである。

 

「ホウ……秋山のパンは中華風の白パン、一方の冠は揚げパンか。ならさっぱりしていそうな秋山のほうを先に試食させてもらうぞ」

「いいですよ。お先にどうぞ、秋山さん」

「悪く思うなよ。揚げパンが冷めてもしらねえぜ」

「お気遣いなく」

 

 最初に試食することになったのはジャンのパンだった。

 一口かじると淡白な白いパン生地の内側から赤いソースがあふれ出してくる。濃厚な伊勢えびの風味が舌と鼻をガツンとたたく。

 

「えっびー!」

 

 あまりの美味しさに黒柳はパンをくわえたままえびぞりした。その姿勢のままでもぐもぐと口を動かしてパンを捕食していく。すべてを飲み込んで口元に付着したソースをなめとると、黒柳は吠えた。

 

「マヨ! マヨー!」

 

 あまりの声に空を飛ぶ鳥を打ち落とすとしばらくのあいだ黒柳はどこぞのCMで見た踊りを踊ってから正気に戻った。

 

「隠し味はマヨネーズか。甘くピリッと辛い濃厚なソース、これだけだと単に美味いエビチリにすぎんがマヨネーズがパン本体との調和を図ったということか。それにパンそのものも中華の技法、老麺のおかげでふっくらとしていて伊勢えびの身の触感ともベストマッチだ。やるな貴様」

「これくらいは当然だぜ」

「おい冠……大丈夫やろうな?」

「まあ見ていてくださいよ」

 

 黒柳の呼吸が落ち着いたところで今度は冠の試食に入った。脂ぎった黄金色の揚げパンを口に入れて噛むと、中からはあふれんばかりの牛肉汁が注がれる。後出しで時間が立ていたはずなのに熱いスープに黒柳の口の中はやけどしてしまう。それでもかまわずに一つを食べきると、黒柳は狂ったように笑い出した。

 

「カラカラカラカラ」

「黒やん、ついに壊れたか」

「狙い通りです」

「狙い通りやと?」

「僕の作ったのは笑う黄金饅頭をベースに改良して肉汁のジューシーさを強化したあふれ出す肉汁の黄金饅頭です。黒柳さんも中華一番くらいは読んだことがあるでしょうから当然ながら元ネタがあの料理なのも気づいているはず。だから笑うのは当然の結果ですよ」

「せやろか」

 

 黒柳は一時間ほど笑い続け、むせてゲホゲホとせき込んだところで正気に戻った。

 そして水を一杯飲むと、まじめな顔で審査発表の段に移った。

 小一時間またされたことでジャンはついあくびをしていた。

 

「待たせたな。それでは結果の発表だ。勝者は……」

「ちょっと待った! この勝負は無効です」

 

 黒柳がこれから審査を発表しようとしたところで二人の少女が邪魔に入った。

 

「キミは確か……遠月学園の……」

「薙切えりなです。この二人は勝手に学園代表としてテレビ出演しようとしていたので中断させてもらいます」

「こまるな」

 

 えりなの登場にプロデューサーは顔をしかめた。

 彼からすればもう取り終わったところなのにという気持ちでいっぱいである。

 

「一度学園が番組に挑戦するということが決まってしまった以上、不本意ながら後日再勝負させていただきます。ですがこの二人は勝手に行動を起こしました。そこのけじめはとらせてもらいます。いやだというならこちらにも考えがありますよ」

「チッ! 仕方がない」

 

 えりなの睨みにプロデューサーも折れた。今後遠月との関係を悪化させれば面倒になりかねないという判断である。

 

「ところでけじめとは、この二人をどうするつもりだ?」

「学園の無様を世間には好評できません。ですので収録した映像は破棄していただいて、改めてこの二人は所定の手順にのっとって……」

「無様か……だったらこの勝負については不問としてやるといい。まあ映像を公表したくないというのならそこは仕方がないがな」

「不問ですって?」

「当然だろう、勝ったのはそこの秋山たちだ。勝っているのに辞退するというのはさすが遠月学園は厳しいな」

「なんですって。美作昴もパンは専門ではないし勝てるわけが。それに秋山さんは学園の生徒ですら……」

「秋山……あ!」

「どうしたの緋沙子」

「もしかして秋山って彼のことじゃ。ちょっと失礼」

「ま、まてよ」

「えい!」

 

 緋沙子はジャンに近づいてかつらを脱がした。丸坊主の頭がそこに現れて多少のメイクもあるがこうなると顔見知りの二人には眼前の秋山ゆかりがジャンであることに気付くのも不思議じゃない。

 

「秋山君。これはどういうことでしょうか?」

「キリコのやつだけじゃなくアンタもにらんでいるからこう女装してまで参加したんだぜ」

「霧子先輩がどういっているのかは知りませんが、私としては余計にアウトよ」

「なあ……ワイら負けたけど今回はノーゲームの結果オーライでええんやろうか」

「そうですね。それにしても秋山さんの正体があの秋山ジャンだってのは驚きましたよ。言われてみれば桃明輝さんにどことなく似ていますね」

「関係あるんか? たしかに男とは思えんほどのべっぴんさんやったが」

「秋山ジャンは桃明輝さんと中華の覇王、秋山階一郎の孫なんですよ」

「へえ」

 

 ジャンと美作はえりなと緋沙子、そして黒服たちに拘束されてお説教を受けることになった。

 結果として勝利していたのでほとんどが愚痴だったのだがえりなとしては勝手に学園の代表を名乗ったのが問題だった。

 

「勝因を解説しよう。確かに冠のあふれ出す肉汁の黄金饅頭は肉らしくて美味い。だがこれはパンとしての美味さ以上に肉料理としての美味さだ。ぶっちゃけ揚げパン部分がほとんど付け合わせ状態だな。それに対して先ほども言った通り秋山のエビチリパンはパンとの調和が素晴らしかった。まあ純粋な味比べであっても僅差でエビチリパンの勝ちだが、パンとしての評価をするとそれ以上に差が出ているというわけだ。まあ揚げパンが付け合わせ程度というのもこのレベルだからこその話であってカスパンなどではないわけだがな」

 

 あきれてパンタジアチームは帰宅し、ジャンたちも連れ去れらた。誰もいなくなった会場で黒柳は一人で解説をしていた。




東がほとんどしゃべらないのは口調がちょっと思い出せずに書いたせいです。
申し訳ない。

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