魔法少女?違う、アタシは決闘者だ!   作:fukayu

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更新遅れました。
今回は梓の魔法について少しわかります。


07

 海馬健康ランド。

 昨今、突如として見滝原市と風見野市の中間に建設された大規模なテーマパークで、空想上の龍の頭部を模したドームを中心に遊園地や水族館、温泉やプールまで幅広い施設がそろっている。

 その施設の一つである様々な木々で埋め尽くされたジャングルのような温泉に梓とマミは日頃の疲れを洗い流すように使っていた。

 

「よっしゃ!一番風呂だ!」

 

 マミは普段の縦ロールを解いてタオルで纏めているのに対し、梓はその茶色の獣耳のような髪型を弄る間も無く浴槽へとダイブする。

 

「ふぃー。いい湯だぜ~」

 

(他の子と二人きりで温泉だなんて―――一体何を話せばいいのかしら!?)

 

 普段は正義の魔法少女として街の平和を守るために孤独な戦いを強いられているマミにとって同年代の少女とこのような施設に来ることなどまず無いことである。

 特に今一緒にいる少女は放っておけばすぐにカードの方へと興味が言ってしまうので下手をすれば一緒に来たのにマミの存在自体を忘れかねない。

 そんなことは絶対に嫌だ。一緒に来たのに途中から単独行動なんて惨すぎる。

 

(こ、こういう時は―――そうよ、この前読んだ雑誌にかいてあったわ!)

 

 以前偶然目に入った『友人との途切れない話題作り』という雑誌の事を思い出す。あくまで偶々読んだだけで決して購読しているわけではない。

 

「ゆ、悠城さん?」

 

「ん、なんだ?」

 

「あなたは…………ってなにしてるの!?」

 

「いや、デッキ編集………」

 

「何故お風呂に入りながら!?」

 

 少し目を離しただけでこれだ。

 マミが必死に話題を作ろうとしていた少女は浴槽に肩まで浸かりながら器用に両手だけを出して無数のカードを吟味していた。

 

「いえ、そういう事じゃなくて…………そもそも紙なんだからお風呂に浸けてしまったらふやふやになってしまうわよ?」

 

「はぁ、全くおまえは何を言っているんだ?」

 

 必死に注意するマミを余所に少女は心底呆れたように肩をすくめる。

 

「キャードが水に浸けたくらいで駄目になる訳無いだろ…………常識で考えろよ………」

 

「え、ええーー」

 

 常識で考えたら何の防水加工もされているように見えないそれは絶対に水気のある場所で使用してはいけないものだと思うのだが、やはりどういうわけかマミと彼女の常識は違うらしい。

 

「と、とりあえず。今はそのカードは仕舞いましょう?お風呂から上がったらまた、ね?」

 

「ちぇ、しょうがねえなぁ」

 

 マミの忠告に少女は渋々従うと手に持っていたカードを無造作にその茶色の髪の中へと潜り込ませる。

 

(そこ!?え、仕舞う場所そこなの?確かにカードの裏面は茶色で区別が―――ってやっぱり丸分かりよ!)

 

 梓の突拍子のない行動に混乱するマミを無視して、当の少女はどこまでもマイペースに言葉を発する。

 

「で、なんだよ?」

 

 何事もなかったように温泉の心地よさに身を任せながら目を瞑る梓にマミもやっと落ち着きを取り戻す。

 

「(確か雑誌だと………)悠城さんは好きな人とかいるのかしら?」

 

「好きな人?カードじゃなくてか?」

 

「そう。恋人とか片思いの相手とかそういう相手はいないのかしら?」

 

「う~ん、考えたことないけど………ま、第一条件としてはデュエルができることだな」

 

「うんうん。(いい感じね)」

 

 雑誌に載っていた女友達同士でする会話を想定して話を振ってみたが、思いの外反応は悪くないことに満足する。

 ここで「お前には関係ないだろ」等の言葉を吐かれたらどうしようかと思っていたマミとしては上々のスタートと言えるだろう。

 

「後は、そうだな。アタシを熱くさせてくれるデュエルが出来るといい」

 

「なるほど」

 

 どうしてもこの少女の話の中心が『デュエル』から微動だにしないということはマミも梓と会ってからの短い時間の中で理解していた。

 ならば、その絶対に動かない不動の軸を中心に話を広げてやればいい。相手の趣味の話題を振るというのは会話を途切れさせないための高等テクニックの一つだ。

 

「悠城さんにとって熱くなるようなデュエルってどういうものなの?」

 

「ああ、体感でわかるんだよ。絶体絶命の状況、ライフが100を切った時でも『まだ』って言えるような折れないハートで戦っているとき、必ずアタシのいや、デュエリストのデッキは応えてくれる。だからアタシ達はデッキのカードを信じて己が道を進む。その互いの道が交差した瞬間が最高に燃えるんだ!」

 

 そういう彼女の目は爛々と燃えていてどこまでも輝いて見えた。そう、眩し過ぎるほどに…………

 

「後は、そうだな………ここに来る前の話だけど、毎日アタシにプレゼントを渡してくる奴がいたな。しかも、それがアタシの欲しい物ばっかでさ。なんか意気投合しちまってたまにそいつの部屋まで起こしに行ってやったな」

 

「えッ!?」

 

 突然放たれた予想外の一言に今度は別の意味で目が眩む。

 マミとしても同年代の他の少女とこういった話題で話し合うことなど殆ど無いのでここまでレベルの高い話にはついていけない。

 

(朝起こしに行く仲なんて恋人レベルじゃないの!?いいえ、待ちなさい私。まだ相手が男性とは決まってはいないわ。もしかしたら、女の子いえ、結城さんならカードにだっておはようの挨拶を言いに行っても不思議じゃない!)

 

 混乱しすぎて例え梓が相手でも失礼なことを考えているが、これはしょうがない事である。

 キュウべえと契約し、魔法少女となってからずっと魔女と戦い続けていたマミにとって恋愛事にかまけている時間など無かったのだから。

 

「ね、ねえ。結城さんの話している『そいつ』って女の子の事よね?」

 

「いや、普通に男だぞ?確か名前は―――――」

 

(もう駄目。手に負えない!私にはそんな話ハードルが高すぎる!)

 

「名前は-―--あれ?あいつの名前なんだっけ?」

 

「は?」

 

 マミが現実逃避しかけていたところで梓はいきなり訳のわからないことを言い出す。

 

「名前、覚えていないの?」

 

「待て、今ここまで出てるんだ。赤い帽子をいつもかけていたことは覚えているんだ!話しかけてもいつもカード名しか答えない癖にギャグのセンスは一流で---ああ、クソ!何で名前が出てこないんだよ!」

 

 そのままマミが呆れる中、梓はのぼせるまでその人物の名前を思い出せず、最後はその人物とのタッグデュエルをしたときの事で思い出そうとデッキを握った所で湯船に沈んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女(デュエリスト)悠城梓の魔法はカードの実体化である。

 これは本来使用したカードの効果が現実のものになるという類の魔法なのだが、優木梓の強すぎるデュエルへの思いはある意味では奇跡を起こした。

 

『では、作戦を説明する』

 

 ボードを使って説明する切り込み隊長の周囲を意志を持ったモンスターたちが真剣な表情で取り囲んでいた。

 

 早い話がこれである。

 梓の魔法はモンスターの実体化だけではなく、その中身―――カードに宿る精霊までもこの世界に呼び出していた。

 モンスターそれぞれが意思を持ち個別に行動する。しかし、そんな状況を当の梓は全く知らない。彼女にとってデュエルが出来ればそれでいいのだ。なので現在実体化しているモンスターたちも先の魔女討伐において召喚されたままこの世界に残ってしまっていたものたちだった。

 

 現在この場にいるのは切り込み隊長(通称:隊長)を中心とした戦士族の部隊である。

 彼らは人通りの少ない路地裏にできたスペースにひっそりと拠点を構えていた。

 

『まずは私が現状を説明します。皆さんも知ってのとおり、我々が今置かれている立場は非常に危うい。主と離ればなれになってしまった以上、まずは主との合流を最優先にしたいのですが、我々が人目につくと現地の方々に多大なご迷惑がかかると予想されます。ですから――――』

 

 隊長に代わり、名前とは裏腹に常に状況に翻弄されるエルフの剣士が前に出て話し始める。

 長々と話してはいるが、彼らの置かれている状況はこうだ。

 

 「実体化したまま持ち主である悠城梓とはぐれてしまった。」

 

 一般的なデュエルディスクが映し出すソリッドビジョンと梓の魔法は根本的に違う。

 たまに現実のダメージを発生させるソリッドビジョンと違い、梓のそれは紛れもなく魔法(オカルト)なのだ。

 通常のデュエルはデュエルが終わればセットされていたカードの効果が消えるが、梓のは魔法なので彼女の魔力が消えるかモンスターが破壊されるまで実体化した精霊たちはカードの姿に戻ることができない。

 

『おそらく、他にも方法があるとは思うのだがな………』

 

『やめておけ、主にそれを期待するのは酷というものだ』

 

『基本デュエルのことしか頭にないからな』

 

 口々に自分達を召喚した少女について述べるが、決して彼らは彼女を嫌っているわけではない。

 いつも一生懸命でご飯を食べる時も寝るときも常に自分たちを肌身離さず持っていてくれるあの少女を嫌いになれるものなどこの中にはいない。

 

『ま、それ以外アホだけどな』

 

『あれはアホの娘というのだ。愛でるべき存在だ』

 

 彼らは戦士であると同時に紳士である。

 そんな彼らにとって今の主人は愛するべき存在であり、そして仲間だった。

 

『まあ、なんだかんだ言って居心地は悪くないしな。他の奴等と違って俺たちを大切にしてくれるし………この前スクッラップの所のゴリラを屑カード呼ばわりして捨てようとしていた年上に食って掛かって行って、小一時間ゴリラの有用性を説いていたときなんて俺涙出てきたぜ--』

 

『あれ程、カード(俺達)に対して友好的に接してくれる人間も今時いないしな。今時ゴブリンを全部隊投入してる奴いねえよ』

 

 きっと、今回は魔女や結界なんていう予想外の事態が多すぎて彼女なりに混乱していたのだろう。

 デュエル終了後のデッキの確認を怠るというミスをする等らしくない。

 今頃は自分のデッキのカードが足りないことに気づいて大慌てだろう。

 

『………下手したら、我々が目立つより危険かもしれないですね』

 

 戦士族は他の種族よりは人間に近い姿をして入るが、それでも剣や鎧を身に纏ったれっきとした不審人物だ。この平和な社会ではとてもじゃないが大手を振って歩くことは出来ない。

 しかし、あの少女が自分のデッキから自分達が消えていることに気付けば間違いなく自分達が一般人に目撃されるより大事になってしまう。

 

(私達を探すために他のモンスターを人目も気にせずに使用して捜索、挙句の果てに情報を聞きだす為に全く無関係の人間に闇のゲームを仕掛ける可能性も!)

 

 そのことを想像したエルフの剣士は卒倒しそうになり、他の面々も同じ考えにいたったのか重苦しい表情をしていた。

 

『隊長ッ!ゴブリン偵察部隊が戻りました!』

 

『うむ。どうやら主の居場所がわかったようだ。各々思う気持ちがあるだろうが今は一刻も早い帰還を果たそう』

 

 隊長の号令と共に一団は良くも悪くも、どこまでも純粋で一直線な主人の下へと向かうのであった。

 決して人目に付かないようにひっそりと、せめて自分たちだけは騒ぎを起こさぬように………




 帽子の男--いったい何者なんだ……?

 タッグフォース新作が出ると聞き、今から楽しみです。
 まさかまたあのカードゲーム(ギャルげー)をプレイできる日が来るとは……
 今回はコナミ君がバリアン世界やアストラル世界の住人だったり、名も無きファラオの時代の人物だったりするんでしょうか?とりあえず、『ラー』は原作効果でお願いします……でも、タッグでライフ1にして回すのだけはやめてねマリクさん。

 デュエル回はもう少し待ってね!

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