「これが今のアタシの全財産………」
今アタシの手に握られているのは500円玉が1枚、100円玉が7枚と10円玉が9枚、この一週間必死に貯めたお金だ。まさかお金を稼ぐことがこんなにも難しいことだなんて思わなかったぜ。500円玉が出てきたときは思わずデュエルの神様に感謝しちまったくらいだ。
「自動販売機の下を漁る行為はお金を稼ぐとは言わないよ、悠城梓」
「っち、キュゥべえか」
目の前に白いあいつが現れる。ここ数日姿を現さなかったから諦めたものと思っていたが、まだ近くにいたらしい。
「一体何のようだ?あたしは今忙しいんだよ」
主にパックを選ぶのに…………
アタシは今、この街にあるカードショップにいた。
「やれやれ、それくらいあれば一食くらいは食べられるだろうに……」
「三度の飯よりドローパン!今のアタシに食事なんかに費やすかねなんかない!」
「食事なんか、か。杏子が聴いたら怒りそうな言葉だね。大体、人間にとって食事とは生きるために必要な活動だろう?」
杏子なんて新しい奴の名前が出てきたが、今はパックを選ぶほうが重要だ。所持金は少ない、慎重に選ばねえと……
「デュエリストにとってカードは命だ。そのカードをこんな店で買えるようになるとはいい時代になったものだぜ。」
「今まではどうやって集めてたんだい?」
「うーん、基本的にカードは拾うかアンティルールで相手から奪うか、後はカード自身が決闘者を選んだり―――――中にはデュエル中にカードを創り出す奴もいたな」
「わけがわからないよ。というか、最後のはなんだい?ゲーム中にカードを創るなんて反則じゃないか!」
何、デュエルではよくあることさ。それに創り出すくらいなら安いもんさ。カードを書き換えられた時なんか知ってる効果と全然違ってビックリしたぜ。
それに比べて今は少しアタシの知ってる効果と違うカードもあるが、こんな簡単にカードが手に入るんだ。本当にありがたい。
「ま、デッキ無くしてこの方法も知らなかったときは冗談抜きで焦ったけどな。アタシ昔から一定時間カードを触らなかったり、デュエル出来ないと禁断症状が出るんだよ。医者の話では重度の決闘者にはよくある病気らしいんだけど」
「そんな病気はないよ!それになんでそんなに嬉しそうなんだい?」
「いや、いつの間にかアタシもそのレベルにまで達していたんだなって」
決闘者なら誰だって嬉しくなるだろう?カードといつだって一緒にいられる口実が出来るなんて。
「っと、これだ!」
「どうやら選び終わったようだね」
「ああ、後はアタシの引きの強さに賭けるだけさ」
全財産分――8パックを買い終えたアタシは意気揚々と帰路に着くのであった。
「風見野市……この風も久しぶりね」
でも、この風少し泣いているわ……
「っし、これでデッキは完成だ」
「ご機嫌だね」
もう、いきなり現れる
それよりもデッキだ。買い集めたカードで実践的なデッキを作ってみたが、やっぱ試したくなるよなこれ……デッキを作った時はちゃんと回るか確認したくなる。これは決闘者の本能だと思うんだよな、アタシ。
「といっても、デュエルする相手はいないし……」
「魔法少女なんだから……魔女と戦えばいいんじゃないかな?」
「うるせえ!アタシは決闘者だ!魔法少女なんて変なものになったつもりはねえ!」
「ええー………僕と契約したじゃないか」
確かにそんなことをした記憶もあるが、契約は破棄するものだろ?もしくは踏み倒す。それよりもデュエルだ!
「もうこの際誰でもいい!お前アタシの願い叶えたんだからちゃんとデュエルの相手も用意しろよな」
「君の願いが特殊なんだよ。僕はもう君にカードを手に入れる方法と軍資金。そして、ディスクも渡した。何に使うのかわからないなりに僕も頑張ったんだ。なら、君も他にやることがあるだろう?」
他にやること?デュエル以外にやること……
「そうか、特訓か!早速素振りだ」
「もう、好きにしなよ……」
「キュゥべえ!」
「待ってたよマミ。もう僕の力じゃどうにもならないみたいだ。先輩魔法少女である君に後は託すよ……」
数日ぶりに会ったキュゥべえはひどく衰弱したようにグッタリしていた。あのキュゥべえをこんなにするなんて、話には聞いていたけど相当特殊な子のようね。
「その子は今どこに?」
「あそこの公園に居る……多分すぐにわかると思うよ」
キュゥべえが指さした場所に向かうと一人の少女がいた。
「ドロー、ドロー、ドロー!」
獣を模したような茶髪に、針金でも仕込んでいるかのように風も吹いていないのにたなびくマント、左腕に付けた不思議な盾のようなものからひたすらにカードを引く少女がそこにはいた。
キュゥべえがわかりやすいとは言っていたけど、まさかここまでだなんて……というか、あれ変身状態じゃない!どうやら本当に問題児のようね。最初だし、ここは少し強めにガツンと言ってあげないと。
「あなたが新しい魔法少女ね?」
「ドロー、ドロー、ドロー!」
聞こえてないのかしら?
「ね、ねえあなた―――」
「ドロー、ドロー、ドロー!」
「き、聞いているの?」
一心不乱にカードを引き続ける彼女に少し心配になる。
「あなた、大丈夫?」
「ドロー、ドロー、ドロー!魂のドロォォォォォォ」
「きゃあああ!」
駆け寄った私を吹き飛ばさんばかりの勢いで引き抜かれたカードを見て血走った目で少女は笑う。
「よし。ドロー素振り1万回終わり!―――って、あんたなんでそんなところに倒れているんだ?」
「あ、あなたが突き飛ばしたんじゃない」
「そんなのあんたが近づいたからだろ?普通、ドローしようとしている相手の近くには寄らないだろ……」
ふ、普通ってなんなのよ……よ、予想以上に強敵だわ。ああ、佐倉さんが恋しい。
「ま、誰でもいいや。アタシこれからもう一セットやらなきゃいけないからもう近づくなよ」
「え?」
「ドロー、ドロー、ドロー!」
そう言ったきり彼女は引き終わったカードをまたあの盾に戻してカードを引き出してしまった。
い、いけないこのまま彼女のペースに飲まれては……
「わ、私キュゥべえに頼まれてあなたのサポートをすることになった巴マミっていうのだけれど―――」
「ドロー、キュゥべえに?ドロー、どうしてまた?ドロー、アタシは今忙しいってあいつに言っといて!ドロー!」
「そういう訳にいかないわ。私もあなたと同じ魔法少女なのよだから―――」
「アタシは魔法少女じゃない!ドロー、決闘者だ!ドロー!」
「え、えええ!?」
自分が魔法少女であることを否定する魔法少女なんて初めて見たわ。というか、決闘者って一体何なの?
「やっぱり苦戦しているね」
「キュゥべえ……」
あなたがこうなる理由が早くもわかった気がするわ。お話をすることがこうも難しいなんて…………
「はぁ、梓。魔女の結界が出現した」
「ドロー、それがどうした?ドロー!」
「このままじゃまた杏子に取られてしまうよ」
「ドロー、またそいつか。勝手に戦ってくれるならそいつに任せればいいじゃないか。ドロー!」
魔女が出現したというのにこうも無反応だなんて。確かにこの街にいる佐倉さんならある程度の魔女なら何とかしてしまうでしょうけど……
「キュゥべえ、私が行くわ。万が一のことがあったりいけないし―――」
「そうかマミ、助かるよ。杏子にはまだ知らせていないから少しの間一人になるけど――――」
「ええ、それでいいわ。一般人に何かあってはことだもの」
彼女の説得はとりあえず魔女を倒したあとにしましょう。
「ちょっと待て」
「え?」
「今、一般人に被害が出るとかどうとか言わなかったか?」
「ええ、魔女は人間を餌にするから戦う力の無い一般人では犠牲になってしまうのよ」
「なんだって!?」
私の言葉に驚いた彼女はカードを引くのもやめて考えるように顎に手を添える。もしかしてキュゥべえから魔女について詳しく聞いてなかったのかしら?
「魔女は自分の結界に何の罪もない人を閉じ込めて殺すのよ。私たち魔法少女の使命はその魔女から人々を守ることなのよ」
「魔女……生贄、結界、フィールド魔法―――地縛神、いや、ドーマか?よし、決めたアタシも行くぜ!」
彼女は意を決したようにカードを集めだす。聞き慣れない言葉もあったけどわかってくれたのよね?実は話を聞いてなかっただけでちゃんと正義感がある子なのかしら。
「じゃあ、行きましょう。魔女の結界へ」