魔法少女?違う、アタシは決闘者だ!   作:fukayu

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 指先が震える。

 動悸が激しくなり、喉がひどく乾く。

 これがいつもの発作だと数えるまでに何度喉を掻き切ろうとしたことか…………

 

「僕と契約して魔法少女になってよ!」

 

 目の前に突然現れたその白いぬいぐるみの存在をアタシは最初幻覚かなにかかと思った。

 しかし、いつまでたっても消えないそれにアタシは次第にそれをある存在と重ねる。

 

(………死の間際になると見えるって聞いたことがあるが、まさかこんなものだとはな………)

 

 アタシのそんな妄想を知ってか知らずか目の前のそいつはアタシのすぐ目の前まで近づく。

 

「君に願いはあるかい?僕と契約して魔女と戦ってくれるなら君の願いをなんでも一つだけ叶えてあげるよ」

 

 何でも一つだけ?そいつの言葉に飛びかけていた意識が覚醒する。

 もし、なんでもひとつだけ願いが叶うだとしたら―――――

 

「アタシに―――、アタシにデュエルをさせろォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!」

 

 右手にカードの剣を、左手にディスクの盾を―――ただ、魂が震えるデュエルのために。

 それがアタシの―――悠城梓(ゆうきあずさ)のたった一つの願いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたしのターン、ドロー!」

 

 アタシの左手にはデュエルディスクと自らの魂であるデッキが、そして右手には全てを懸けて引いたカードたちが握られている。

 今、手札は6枚。震える指先でカードをディスクにセットする。

 

「あたしは幻獣王ガゼルを召喚!」

 

 目の前にいくつもの淡い光が溢れ、カギ爪を持ったライオンのような生物が現れる。ここまでは普通だ。ソリッドビジョンと呼ばれる技術によりカードを実体化させられるというのは周知の事実だ。

 アタシは恐る恐るガゼルに近づき、そのまま一気にその首元に抱きつく。

 

「うおおおおおお!スゲーーーー!ホントに実体化してる!」

 

 モンスターに抱きつけたという事実にアタシは興奮し危うくガゼルを絞め殺しそうになる。

 さっきは実体化させられるのは当たり前だといったが、それはあくまで3D映像のようにそこにあるように見えるだけで実際には現実にモンスターが現れるなんてことはない。

 

「気に入ってもらえたようで何よりだよ」

 

 白い生物――キュゥべえの言葉など全く耳に入らないほどアタシは興奮し、次なるカードを試そうと躍起になっていた。

 

「次はやっぱりバフォメットと融合か?……しまった!融合もバフォメットもない!」

 

 今のデッキは所詮急造品で全くもってコンボと呼べる代物が使えるような状態ではなかった。

 

「全く、僕は今まで色んな少女たちの願いを聞いてきたけど君のような願いは聞いたことがないよ悠城梓(ゆうきあずさ)。そんな紙束を望むなんて余程望みが無かったんだね」

 

「………ッ、あ!?」

 

 その言葉は聞き捨てならねえな。アタシの願いが―――アタシのデッキが下らないだって?返答次第じゃガゼルでこいつに攻撃しなくちゃならねえな。

 

「だってそうだろ?5枚で150円、それを40枚集めただけの紙束に一体どれほどの価値があると言うんだい?」

 

「……幻獣王ガゼルでキュゥべえを攻撃」

 

 その言葉を聞き終わった瞬間アタシは迷わず攻撃宣言をした。ガゼルの攻撃力は1500。さして高くはない数値だが、このあからさまに下級モンスターですと言わんばかりのナマモノを破壊するなど造作もなかった。

 その圧倒的なスピードでガゼルはキュゥべえの身体を引き裂き、その中身をブチまける。

 

「アタシのカードを馬鹿にする奴は誰であろうと許さねえ」

 

「そうか、気をつけておくよ」

 

「!?お前、一体どうやって?」

 

 物陰からキュゥべえがもう一匹現れる。

 一体いつの間に墓地から蘇ったのかと先程の死体を見るが、そこにはまだ生々しい残骸が残っていた。

 

(下級モンスターならではの『増殖』?それともこいつ、破壊された時にトークンを召喚する効果でも持っていたのか)

 

 これだから効果を確認できない状況ってのはめんどくさい。これがトークンだとして一体だけだとは思えない。『ダンディライオン』のように二体以上トークンを召喚できる効果なら厄介だ。………いっそ魔法カードで一掃してやろうか?

 

「やれやれ、ストックにも限りがあるから無闇に減らさないで欲しいな」

 

「さっきの言葉、訂正するなら許してやる」

 

「わかったよ。僕達がこれ以上争ってもお互いのためにならないしね」

 

 よし、許す。

 なんか結構上から目線なのは気に入らないがこんな奴相手に時間を無駄にする気にはなれない。

 

「よし、それじゃあデュエルだ!」

 

「……デュエル?」

 

「どうしたよ?お前も決闘者(デュエリスト)なんだろ?決闘者(デュエリスト)同士がであったら取り敢えずデュエルだろうが」

 

 コイツはどうしてこんな当たり前のことに初耳だ、みたいな顔をするんだ?いや、表情読めないから実際にそういう顔しているのかはわからねえけど。

 

「悠城梓、残念だけど僕は決闘者(デュエリスト)という存在ではないよ」

 

「え、そうなのか?てっきり精霊だから自分のカードを使ってデュエル出来るものだと………」

 

 カードの精霊ってのはみんなデュエル出来るものじゃなかったのか?折角久しぶりにデュエルできると思ったのに,何だか御預けを食らった気分だぜ。

 

「君の言う精霊というのが何の事だかよくわからないけど………僕の知る限り、君のようにカードを肌身離さず持っている人間はこの世界には存在しないよ」

 

「は?」

 

 決闘者(デュエリスト)がいない?一体、何を言っているんだコイツは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、お前が言うにはこうだな?この世界にはアタシの他に決闘者(デュエリスト)はいなくて、このカードもただの子供が遊ぶ玩具に過ぎないと……」

 

「そうだね。だから最初に行ったじゃないか珍しい願いだと。君より幼い年齢だとそう珍しくもないけどね」

 

 アタシは一旦落ち着くためにデュエルディスクを閉じ、信じられない言葉を口にするキュゥべえを射殺さんばかりの瞳で見つめる。

 冗談に決まってる。アタシ以外に決闘者(デュエリスト)がいない?じゃあ、どうやってデュエルすればいいんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、彼女には困ったものだね」

 

 あれから一週間、一向に魔女退治をしようとしない梓にキュゥべえは本来吐くはずのないため息を吐きそうになる。

 キュゥべえの目的としては彼女を魔法少女にした時点で半分近くは達成できている。本当ならやる気の見せない梓など放っておいて他の魔法少女たちに時間を費やす方がずっと効果的だ。

 感情の存在しないキュゥべえにとって同情や心配というものは有り得ない。それでもまだ彼女に対して気になる理由はちゃんとある。

 

(あの時、確かに悠城梓の願いはエントロピーを凌駕した。本当にあのカードが子供向けの玩具ならあれほどのエネルギーを産めるとは思えない。………これは暫く様子見かな)

 

 梓を観察していればより効率的なエネルギーの回収方法が見つかるかも知れない。

 だが、その為にはまずは彼女がある程度自分の力で生き残れるようにしないといけない。

 

「さて、それじゃあ彼女を呼ぼうか。こういうのは適任だしね」


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